ユーフェミアは珍しくデスクワークでない仕事を任された。それがこの落成式。因みにコーネリアが「私は芸術より武術の方が好きだ」とのことで役目がユーフェミアに回ってきたものだったりする。ユーフェミアが館内の絵を見て回っていると、大きく迫力のある絵が目に飛び込んできた。
「この絵、私気に入りましたわ」
「そちらはニコライ公爵のご子息がお描きになったものですね。」
それは鍛え抜いた肉体を光沢ある褐色に輝かせ、ラットスプレッドフロントのポーズで見せつける皇帝シャルルの絵であった。タイトルは…『オールハイルマッスル』
そんな訳で本編始まります。オールハイルマッスル!
今日はクロヴィスの作った数少ない比較的実害のない政策、芸術週間だった。芸術週間では普段芸術に触れる機会のない人にも芸術に触れる機会を作るため、さまざまな取り組みがなされる。芸術とは娯楽・文化であり、芸術とは豊かな心より産まれ出るとのありがたいクロヴィスのお言葉により、学校の授業は一部が芸術関連に切り替わり、町では芸術にちなんだイベントなどで賑わい、街中美術コンテストなどが催される。
そして俺にとっての芸術とは即ち筋肉だ。
見てくれこの八つに割れた逞しい腹筋を。そして爆発寸前かの様に盛り上がりシャーリーの脚より太い上腕二頭筋。ニーナよりも膨らんだ胸筋、会長のウエストより太い大腿筋。この日のために仕上げた俺の体はまさにベストコンディション。さあ、張り切って写生してくれたまえ。そんな訳で俺はお決まりのダブルバイセップスを披露し、芸術週間の催しである学園写生会の被写体となっている訳だ。
「すげぇなルルーシュの奴。ポーズ決めてから微動だにしないでやんの」「スザク君を絡ませたい…」「ちょっと、こんなところでカミングアウトしないで…」「僕がルルーシュに絡む?」
授業が終わると電話が鳴っている事に気がつく。相手は扇のようだ。
「もしもし?私だ」
『ゼロか。今四聖剣の方々が来ている。』
おお、四聖剣!日本解放戦線より託された彼らがようやく合流できたのか。ありがたい。…ん?待てよ?四聖剣だけか?
「藤堂はどうした」
『それがブリタニアに捕まってしまったらしい。四聖剣の方達からは助けるのに協力してほしいと言われてるんだが』
「もちろん引き受ける。集結方法はB13。ナイトメアはばらして18方向から。ディートハルトに仕切らせろ。合流予定のメンバーにも伝えてくれ」
藤堂ほどの男をみすみす失うわけにはいかない。必ず助け出さなければ。電話を終えると生徒に変装したC.C.がやってきた。黒髪のかつらをかぶり、牛乳瓶の底の如き眼鏡をかけているが…それちゃんと前見てるんだろうな?
「中華連邦との交渉はうまく行ったよ。日本解放までは独力で動く事になるが独立後は同盟を結び、国を纏めるまでの間ブリタニアへの牽制は手伝ってくれるらしい。」
「見返りは?」
タダでやってくれるほど向こうも甘くはないだろう。そんなことは考えなくてもわかる。
「サクラダイトを寄越せとのことだ。まぁ、当然だな」
逆にそれ以外日本から取れるものなど無いだろう。自国の兵は消費せずサクラダイトの供給優先権が貰えるのなら中華連邦としては安いものだ。
スザクを探して学園内を歩いていると汚れた体操着を持って水道に向かうところを見つけた。
「ここにいたのかスザク…って、何してるんだ?」
「今日は体育の補習があってね、でも明日も授業で体育があるだろ?それまでに洗っておきたいんだ。」
「水臭い奴だな。うちの洗濯機で洗っていけばいいだろ?ちょうど話したいこともあるしな」
「それじゃあお言葉に甘えようかな」
俺はスザクを連れナナリーの元を訪れる。計画通りに事が進めばいずれ俺はナナリーの傍にはいられなくなる。いざという時ナナリーを守ってくれる人間が必要だ。スザクに生きろと願った以上、生きる目的がないとな。
「それでね、カエルが鳴くんです。クローククロークって」
「クローク…日本ではカエルの鳴き声はケロケロなんだ」
「ケロケロ?」
「そう、ケロケロ」
楽しげに話す2人を見れば仮に俺がいなくなっても大丈夫だろうとさえ思う。
「冬には氷が張って、お兄様が私を抱えたままスケートしようとしたら氷が割れて落っこちたんですよ」
「えっ?大丈夫だったのかい?ナナリー」
…。俺の心配はしてくれないんだな…?
「落ちる瞬間お兄様が私を上に放り投げて、その後は立ち泳ぎしたままキャッチして私を抱き抱えてくれてたので濡れませんでしたよ」
そんなこともあったな。
「スザク、大切な話があるんだ」
「なんだい?もしかして課題を丸写しさせてくれる気になったのかい?」
「いや、それはダメだ。」
「なんだ…」
普段真面目なくせに課題は楽をしようとするのがスザクのおかしなところだ。
「スザクくーん!ロイドさんが急用だって!」
突然俺たちの話を遮って女の人が駆けてきた。服装の感じ軍人か。
「お前の上司か」
「そんなとこかな」
「あら?お友達?やだ、逞しくて素敵ね」
そう言って胸に腕に腹筋尻と遠慮なく触られる。まぁ、悪い気はしないな。
「いけないいけない。ごめんね?スザクくん借りていいかしら」
「ええ、スザクのことよろしくお願いします。」
「お兄様ったらスザクさんの保護者みたい、ふふっ」
「やめてくれよナナリー」
そう言ってスザクは女の人を抱えて走っていった。まぁ、その方が早いだろうからな。
「よかった。スザクさん、必要とされてるんですね。
「みたいだな。」
俺としてはスザクがクビになる方が都合がいいが、そういうわけにもいかないだろう。
「なぁ、ナナリー。スザクのことどう思う?」
「好きですわ」
「…俺と比べたら?」
「もちろんお兄様ですよ?ふふっ」
よし、勝った。
もしもスザクが説得に応じないのならナナリーの為にギアスを使ってでも…。
集合地点までの道中、ニュースをつけてみるとユーフェミアの顔が映った。おや?前会った時に比べて少し引き締まったか?
『今回の美術館の建設でイレヴンの業者が排除されたと言われていますが』
そんなことをユーフェミアに聞いてどうする。わからないに決まっているだろう。
『えっと、その、目下調査中ですので、今回は回答は控えさせてください』
ふむ、ユーフェミアにしてはまともな回答だな。
『Hi-TVです!副総督、最近お痩せになられましたよね!?もしかして恋あ…』
『ご、ご想像にお任せします!』
なんとも生産性のない質問だ…
『インターセイトのタフガイです。近々騎士をお決めになるとの噂ですが…』
騎士…か、そうだな、スザクにはナナリーの騎士になってもらうとするか。ナナリーに真似事をさせるのもいいかもしれないな。どうせ名誉ブリタニア人のスザクが誰かの騎士になることもないのだから。
「いいから押し込んでとっとと蓋閉めちゃえよ!出撃まで時間がないんだって!」
玉城の奴…
たまにはいいこと言うじゃないか。
それでダメなら軽く蹴っ飛ばせなんとかなると言うものだ。カレンにそうアドバイスしようと立ち上がると
「もっと丁寧に扱いなさいよ!あんたたちの100倍デリケートに産んだんだから!」
…すみませんでした。俺は心の中で謝りつつ、ようやく会えた技術者に挨拶をしに行った。
「お会いできて光栄だよラクシャータ。」
「アンタがゼロ?噂通りの凄い筋肉ね、今度データ取らせてちょうだい。」
俺が手を差し出すと、ラクシャータは俺をどついた。まぁ、びくともしないが
「先行試作型機の月下をボロボロにしたのは許してないからね…!」
「…あ、はい。」
「私があれを産むのにどれだけ苦労したかわかってんの?」
「はい、すみません」
港での戦いで月下は大破してしまい、お陰で今回の作戦では俺は無頼で出る事になっている。正直ラクシャータの言葉に返す言葉がない。
「あとこれ、キョウト土産よ」
「パイロットスーツか、ありがたい」
受け取ろうと手を伸ばすとひょいと取り上げられる。
「ゼロ、アンタの分は無いわよ」
なん…だと…?
藤堂奪還作戦はまず捉えられているチョウフの壁を破壊、四聖剣で制圧し、その間に俺とカレンで藤堂を救出しに行く。ブリタニアのことだ我々が現れてから素早くことを進めなければ処刑されてしまう可能性がある。それは避けなばならない。
事前に関係者にギアスを掛け藤堂の位置は把握済みだ。
「カレン、このポイントだ。威力は調整しろよ」
『わかってるわよ。』
輻射波動で壁を破壊すると無事藤堂と合流ができた。
『ゼロ!やはり来てくれたか』
「藤堂、君の力が必要だ。再び手を貸して欲しい。」
『無論だ。片瀬少将の無念を晴らすためにも日本は解放せねば』
俺の無頼に乗せ、合流ポイントに向かう。C.C.へ藤堂確保の連絡を入れれば藤堂の月下が運ばれてくる。
『皆、世話を掛けたな』
『これくらい安いものです』
『これより我々はゼロの指揮下に入る。日本解放の希望は絶えさせん!』
『『『『承知』』』』
これで戦力は十分。
「まずはここの残存戦力を殲滅する!」
次々と残るサザーランドを蹴散らしていく。邪魔なサザーランドだな。スラッシュハーケンを一方を前方に、また一方を後方に打ち込み巻き取る事で回転を得、更に俺は四肢とスラッシュハーケンを一気に叩きつけることで跳び上がる。これが無頼による回転蹴りだ!
『こいつ!なんで無頼でこんな動きが!うぎゃぁー!!』
スザクのナイトメアほどでは無いが中々の威力だ。悪くない。
『ゼロ!アンタもうちょっと丁寧に戦えないの!?』
あ、はい、すみません
視界にチラリと映った空をナックルで弾く。これは…スザクのスラッシュハーケン!?
『どうしてあの機体がこんなところに…』
『ゼロ!この機体に対する対策は持っているか?』
『ナリタの借りを返す機会ですな。』
まずい、スザクを殺すわけには…かと言って手加減して勝てる相手ではない!こうなれば賭けよう、スザクの筋肉に…!
「対策ならある。気合いだ!日本解放の強い意志さえあればやつを打ち倒せる!」
『流石はゼロだ!』
「全機一旦距離を取れ!」
まずはスザクから距離を取る。お前には言ってなかったが、お前には昔から動きのパターンがあるんだよ…!
「カレン!まずはお前が仕掛けろ!奴の最初の攻撃は正面から、フェイントをかけることは絶対にない!」
カレンとスザクの攻撃はお互いに空振り。
「かわされた場合次の攻撃を防ぐためすぐに移動する。移動データを読み込め!………S57!!」
『へぇ、本当に来たよ。』
スザクに攻撃を仕掛けるのはヒョロ眼鏡の朝比奈。筋肉はないがナイトメアの操縦技術は十分だ。スザクは銃撃を仕掛けるがそれを朝比奈は銃そのものを弾く。
「良い判断だ朝比奈。これで奴の行動は制限された。」
『まぁね』
スザクのことだ、こちらの武装が近距離メインである以上、ここは一旦距離をとり体制を立て直すはず。
「相手は後方へと距離を取る!次の座標は………X23!」
『流石だなゼロ!』
『尽く読まれている!?』
藤堂の構えは…三段突きか。しかし三段突きは三段目を除き空を突いた。そして最後の一突はコクピットブロックを貫通し、そのまま装甲を剥ぎ取る。スザクの姿が丸見えだな。
『えぇ…!?スザク!?』
そうか、カレンは知らなかったんだよな。しかし先に伝えるわけにもいかなかったからな…というか、脱出しないのか?それとも、そもそもないのか!?非人道的過ぎるな…何考えてるんだブリタニアは。
『ゼロ!私は彼と知り合いだ。説得をさせて欲しい!』
「…良いだろう。奴が味方になれば戦力として頼もしいからな。」
俺はカレンに近づいて行く。
『ゼロ!どうすれば!?ゼロ!』
カレンは動揺しているな。そりゃそうだ、まさか今まで何度も激突した相手が実はクラスメイトなどと知ったら誰だってそうなる。つまりもうカレンは戦えない。
「カレン、紅蓮を降りて私と代われ」
『え?』
「聞こえなかったか?私と代われ。藤堂が説得に失敗した場合、枢木 スザクは私自らが直々に手を下す。他の者はその間に脱出地点への障害を取り除いておけ」
ここでスザクを屈服させ、ナナリーの騎士に任じてやる。
藤堂はコクピットハッチを閉じた。やはり説得は失敗のようだな。
「全軍行動開始!」
俺は紅蓮を駆り、スザクに突っ込む。
「枢木スザァク!!」
『まさか、ゼロか!?』
スザクのブレードによる斬撃を仰け反って回避し、そのまま輻射波動を地面に放って遠心力と推進力を得た右手の裏拳による殴打だ。スザクはバックステップで避けるが、勢いを殺さず回転し、左手のグレネードで追撃する。スザクはシールドを使って防いだか、だが、現在紅蓮の右手は接地している。このまま輻射波動を進行方向と逆にぶっ放し、未だ滞空しているスザクにドロップキックを叩き込む。反応はできたようだがシールドで受けるのは間違いだ。何故ならまだ輻射波動は打てるからな。空中でスザクに対してマウントポジションを取り、右腕を掲げる。輻射波動のエネルギーを推進剤とし、このままスザクを地面に叩き付けてやる。
「ブッ潰れろ!!」
『これは…!?』
スザクはスラッシュハーケンを物凄い速さで地面に突き刺す勢いと左腕と左脚を犠牲に衝撃を和らげたようだが、次の攻撃で終わりにしてやる。右手と右足で器用に地面を蹴り、そのままスザクは回転蹴りを繰り出してくる。半ば中身が見えたコクピットでよくやる。というか今のスラッシュハーケン…何か隠し玉があったらしいな。
「そんな苦し紛れの攻撃が俺に効く…なっ!?」
スザクは何かを投げつけていた。ぶつかったそれを確認すれば砕けた脚のようだ。回転蹴りと思わせてこれが狙いか、いや違う、しまっ…
スザクから意識を逸らしてしまった俺は回転蹴りをモロに喰らう。
『ゼロ!大丈夫ですか!?ゼロ!』
「心配無用だ。しかし…時間切れだな」
上空を見ればブリタニアの援軍。スザク諸共爆撃されれば流石に耐えられないだろう。
「目的は達成した…ルート3を使い、ただちに撤収する!」
今度こそスザクに勝てると思ったが、次の機会までお預けだな。
この世界のシャルルは日焼けし、オイルでテカテカさせつつ上裸のラットスプレッドフロントポーズでオールハイルブリタニアって言ってるんだと思います。
スザクはアッシュフォード学園内でいじめを受けていません。優しい世界ですね。
●唐突な次回予告●
藤堂「見合って見合って!はっけよい…のこった!」
ゼロ「どすこいどすこいどすこいどすこい!」
STAGE18「ムキムキスザクに命じる」