世界は再編成された超合衆国を中心に嘗てない平和を謳歌している。
この一年は人類史、戦争もテロも無かった「奇跡の明日」として後年評価されることとなる。ちなみに、この年のゼロの筋肉も歴代最鍛筋肉として後年評価されることとなる。
しかし、人は筋肉を鍛えるだけでは飽き足らない。いずれ鍛え上げた肉体でいたずらに暴力を振るう輩が現れるのは必然だったのかもしれない。
TRAINING01 C.C.の契約
唐突だが、これは少し過去の話。ルルーシュが月下に乗ったまま爆散して粉微塵になって死んだとされたが、ジェレミアにより飛び散った肉片は掻き集められ、ある場所に保管してもらっていた。
これは私のほんのささやかな希望によるものだ。スザクにも、ロロにも、ユフィにも妹のナナリーにさえも伝えて居ない。普通なら細切れになった肉片を集めるなど狂気の沙汰だが、あの男はやってくれた。まったく、あの肉ダルマには過ぎた男じゃないか?
とは言えジェレミアもある事情から追われる身となり、その管理はシャーリーが引き継いだ。聞けばジェレミアはシャーリーの父の死の真相の生き証人であり、それを伝えたことから二人はは少し仲良くなったらしい。人の出会いとはわからん物だな。
そして私はシャーリーから連絡を受け、指定された場に行くと知った顔がいた。シャーリーではない。シャーリーは既に移動済みだからだ。
「…久しぶりだな」
そいつは無言で昔と変わらず筋トレに勤しみ汗を流して居た。まったく、相変わらずな奴だな。
「…おいおい、久しぶりだというのに無視とは随分なご挨拶だな。私に笑顔をくれるのだろう?」
黙々と、両手に重り代わりの水の入った樽を握り…樽には持ち手がないので馬鹿げた握力で保持している…水がこぼれないようにゆっくりスクワットしている筋肉隆々の男は何故か私の声に反応を示さない。
「…ルルーシュ?」
不思議に思い、私が肩に触れると
「うああああ!!」
狂ったように手足を振り回し、私は36回程死んだ。
「…ようやく落ち着いたか?ルルーシュ」
「ああああ……」
全身筋肉のクセに怯える姿は滑稽だ。まるで赤ん坊である。
「私はC.C.だ。大丈夫、私はお前の味方だ。ルルーシュ。何も怖くないぞ、お前に痛いこともしないし、危険なことは何もないんだ」
そう言って抱きしめてやると、ルルーシュは何も言わず、頭を撫で…
…てくれると思ったら私の頭を握りつぶしやがった。ふざけるなバカタレ。前言撤回、こんな可愛くない赤ん坊がいてたまるか。
結局、幾度となく顔面が吹き飛ぶなどの死亡を繰り返しつつ…回数に関しては100を超えてから数えるのをやめた…なるほど、シャーリーが移動済みなのも頷ける。こんな奴の世話など幾つ命があっても足りない。不死の私が言うのだから間違いない。…とはいえなんとかルルーシュは私は無害だと分かってくれたらしい。ぎこちないが頭を撫でてくれるようにもなった。いやまて、寧ろどうやってシャーリーは生き残ったんだ…?
『え?ルルーシュ?うーん、別に暴れたりとかはしなかったですよ?いつも筋トレして、お腹が空いたらご飯食べて、疲れたら寝て…』
気になって電話してみれば…この野郎、私に恨みでもあんのかルルーシュ…!
それにしても食べる時と寝る時以外ひたすら筋トレするのはやめてほしい。暑苦しいったらありゃしない。というか実際こいつが部屋にいると暑い。排熱量が凄いのだ。
しかし…あいつは私に約束してくれた。だから…
「ルルーシュ、私はお前を取り戻そう」
ルルーシュはシャルルからV.V.のコードを継承していたのだ。しかし、継承したあの場所が良くなかったのか、死に方がまずかったのか、どう言うわけだかルルーシュはルルーシュでありながらルルーシュではなかった。中身がないとでも言おうか、言葉も意味のない言葉と…
「パワーーー!!!」
パワーしか言わない。せめて一単語なら「C.C.」を覚えて欲しかった。教えれば簡単な動作は覚えるし、教えなくても筋トレとストレッチと睡眠と食事だけは一丁前にとりやがる。
因みにご飯は出された物を食いはするが、高タンパク低カロリーでない食事を出すとあからさまに顔を顰める。張り倒すぞ
それでも味は美味いと思ってくれるらしく、定期的…つまりチートデイ(?)的な日は笑顔でモリモリと食ってくれる。…作り甲斐があるってものだな。
「美味いか?ルルーシュ」
「あうあう」
両手に飯を鷲掴み、口から汁を垂らしながら力強く頷いている様を見るとやはり憎めなく思ってしまう。
「ほらルルーシュ、汁が垂れてるぞ」
こんな風に世話をして過ごすのも悪くはない…が、やはり私はもう一度あいつと話がしたい。
「私に笑顔をくれるという契約、叶えてもらうぞルルーシュ。」
だから…私はルルーシュを取り戻す。なんだかんだで再び自由の身になったらしいジェレミアがアーニャとモニカとみかん農家をやっているらしく…ゴットバルト農園のみかんモナカはなかなか美味かった…そちらのツテでトラックといくつかの日用品を用意してもらった。
日用品についてはシャーリーにも協力してもらっている。ロロは今シャーリーのところで暮らしているらしい。あいつはもう筋トレなどの激しい運動はラクシャータストップがかかり、今ではヒョロヒョロなもやしのような優男になってしまった。さらにどういうメカニズムかは不明だが、ルルーシュの事も「兄さん」と呼ぶようになっている。だが、そのおかげかあのルルーシュの弟のロロとは誰にも気付かれず、基本的には普通に過ごせているらしい。
ユフィもあの後結局プロレスラーになったとか。見事なヒールっぷりで逞しくなった妹にコーネリアは泣いて居たと聞く。嬉し涙か否かは確認する気にならない。今は確かエキシビジョンマッチとしてゼロとユフィでのプロレスが現在3日目に突入している事だろう。プロレスの1試合が何故三日目に突入などという意味不明なことになっているかはわからないが、盛り上がってるなら仕方のない話だろう。というか、あのスザクに張り合えてる時点でユフィはおかしいと思う。一瞬ラジオをつけて試合の様子を聞いてみると、現在ユフィはグラスゴーに乗ってゼロを踏み潰しているらしい。うん、殺す気か?
そんな風にラジオを聴きながら私はトラックを走らせた。因みにルルーシュはトラックと並走するようにランニングをしている。底なしの体力バカだ。これでオツムが空なのだからタチが悪い。おい、お前いつの間にその牛を狩ってきたんだ?仕方ない…これは今日の晩御飯にしよう。
しかし、ルルーシュの異常は何も中身だけではない。ルルーシュがCの世界に干渉したからなのか、爆散という死に方が悪かったのかはわからないが、どうやらルルーシュには共に爆散した月下の残骸とでもいうべきか、私では起きた事のない異常を有して居た。コードの力による復活とは本来Cの世界記録した肉体をアップロードして修復するのだが、ルルーシュの場合は何をどうしてそうなったのか、左腕が異常な形になっていた。
道とも道でないとも言えない恐らく道を走り、一晩明かして早朝また走り出すと、突如トラックが壊れた。ジェレミアめ…!もっとマシな車を寄越さんかあのポンコツめ…!仕方ない…
「おい!ルルーシュ、新しい筋トレだ、このトラックを引っ張ってくれ!」
「パワーーーー!!!!」
「そうだ、お前のその無駄についた筋肉をたまには活かせ」
ルルーシュは素直に引っ張ってくれ…るのはいいが、なんで普通にトラックが走るより速度出てるんだ…?
ようやく街に着き、私は車の修理屋を探した。たまたま近くのベンチに座って読書をしている褐色肌に黒髪の女性に声を掛ける。
「済まない、この辺に車を直せるような店はあるだろうか。旅の途中で車が壊れてしまって困ってるんだ。」
「それは大変だったな。だったらこの道をまっすぐ行って三つ目の交差点を右に曲がると良い。自称物直しの天才が営むリサイクルショップがある。」
女性に礼を良い、言われた通りに進むと派手な髪の男が営む店に着いた。
「ふむ、かなり状態は悪いが直せんことはない」
「本当か!?これを直せるのか、助かるよ!」
しかし男は当然だと言うように鼻で笑った。
「質問…商売で大事なものはなんだ…?それは、お金だ。」
そう言って提示された金額を確認すると、払えなくはないが払ってしまうと今後が不安になる金額だった。
「済まない、待ち合わせ的にこれは厳しい…。これくらいでなんとかならないだろうか」
「足りないなぁ…この程度の金では。…ところでどこまで行く気だ?」
地図を見せ目的地を伝えると男は呆れたように首を振る。
「何もわかっていないようだな、これだから旅行客は…そこまで行くのにあの車で通れるような道はない。…ここに、こう鉄道が通っているからそれを使うんだな」
「そうなのか…」
「今ならアレをタダで引き取ってやらんこともないが?もし売れ残ったならさっき提示した金額で売ってやろう。」
仕方ないので男の提案に乗り、鞄に詰めるだけ積み込み、ルルーシュに運ばせた。そこからはシャルルの残した遺跡の資料を頼りに使える門をしらみ潰しに当たっていく旅だった。
「…ここのはダメか」
「パワーー!!」
「オイコラこら壊すなルルーシュ!」
羽交締めにしようとするが、ルルーシュは分厚すぎて私では腕の長さが足りない。結果ルルーシュが更地にするまで私は暴れ馬に乗っているかの如く揺られるしかなかった。
地図の印を確認し、次の目的地を確認する。
「次は…ジルクスタンか。そういえば最近ラジオで聞いた国の気がするが…なんだったか?まぁいい。行くぞルルーシュ」
「あああ…」
荷物を運ぶルルーシュに肩車をさせる。うむ、これは移動も楽ちんだな。この辺は田舎だから人の目もないしな。
道中で国境越えを頼んだところ、力仕事を手伝うならと言われルルーシュを貸し出した。普通なら1日かかる仕事を1時間で終えたらしい。体力馬鹿め…。そうして車の荷台に乗せてもらうことで国境を越える。
こうしてなんとか国境を越えたまではよかったのだが、ジルクスタンにある門は少し場所が特殊だった。よりにもよって監獄の中とはな…。
どうやって入ろうか考えているうちに夕食の時間をとっくに過ぎてしまい、もうすぐ深夜になろうとしていた。もう遅いが食事をすることにしよう。まぁ、ルルーシュの顔を見られるのは都合が悪いので私の手作りなのだが。
「ほーら、できたぞルルーシュ。お、今日もソフレを敷いてくれたんだな、偉いぞルルーシュ。」
「ああ!あうあう」
「そうだな、冷めないうちに早く食べ…」
突然の爆風により扉が吹っ飛び、私とルルーシュの目前にあった食事は吹き飛んでいった。
「ああああああ!!!!」(※私)
「ああああああ!!!!」(※ルルーシュ)
目の前の吹き飛んだ食事に呆然となるルルーシュを流し見る。
「おいルルーシュ、落ちた物は食べるなよ。」
まぁ、あいつに限って腹を壊すなんてないとは思うが…。兎に角、折角作った食事を台無しにされことに腹が立ってきたので注意しようとドアの方に向かうと、突然誰かに馬乗りにされた上銃とナイフを突き付けられた。
「あれ!?あんたC.C.!?」
「カレン!?随分なご挨拶だな…!折角の飯が吹っ飛んだぞ!」
「いや、今飯は良くない…?」
襲撃してきたのはカレンだった。良い訳がないだろふざけるな。私が丹精込めて作ったご飯を吹っ飛ばしやがって…!更にロイドと、そのロイドを担いできた咲世子も合流してきた。…なんだこの組み合わせは?
外から物音がしてまだ誰か来るのかと立ち上がると眉間に衝撃が走り、私は後ろに倒れた。
「旅行客か?不運だったな。」
どうやら私は撃たれてしまったらしい。倒れた私を見て、流す血を見て、あいつは叫び声を上げた。
「ああ…!あああ!!ああああああああ!!!!!」
「ルルーシュ様!?」「え!?」「ルルーシュ!?」
ルルーシュは三人には目もくれず…というか運良く照明弾の明かりに照らされていなかったのか、逆光で見えなかったのか…ともかく、ルルーシュは怒りに身を任せ外へと出ていった。溢れんばかりの筋肉で視界に入る兵隊を全て薙ぎ倒していったようだ。私が生き返るのにかかった数秒のうちに既に惨状が出来上がっている。
「まさか…暴走!」
「パワーーー!!!!!」
「まさか悪逆皇帝ルルーシュが生きて居たとはな!だが、我々はアンタみたいな対肉ダルマ弾を用意しているのだよ!」
ルルーシュへと一斉に弾丸が放たれた。
「ミートギアス 〜腹筋のルルーシュ〜」は映画「コードギアス 〜復活のルルーシュ〜」に該当するエピソードです。
テレビ版準拠だけど書いちゃうんだなぁこれが!!
…という訳で、もうしばらくだけ脳筋世界にもう一度お付き合い下さい。
そうそう、TURN FINALの後書きって縦読みで「8おちわほつ」→それぞれ1つ後にズラすことで「9かつをまて」(9月を待て)になるんですけど…気がつきました?
TURN FINALの後書きの縦読みに気が付きましたか?
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「また読者を騙したな!?」
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「二度同じ手が通用するとでも?」