ミートギアス 〜筋肉のルルーシュ〜   作:ベルゼバビデブ

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珍しく長くなりました。


REQESTRAINING04

 最近世間を…少しだけ騒がしくしているのは突発的な小規模のテロ。声明ではマッドドッグと名乗ってるらしい。個人かも団体かも分からないけれど…まぁ超合衆国が対応に当たっているし多分大丈夫だろう。

 

 思うところがあるとすれば、マッドドッグは『何者にもなれない者』への訴えと僅かながらの支持を得ている事だろうか。確かに世間は平和になった。だけど、それで全ての問題が解決する訳じゃない。最近ではブリタニアと日本もかなり関係が改善されはしたけど、お互い一部の人の敵対意識とでも言おうか、人の心は簡単には変わらないと言うことだろう。私は今の黒の騎士団と超合衆国の体制になってからはハーフであることを公言し、中立的な橋渡しや同じハーフの人達からの相談などを受けている。戦うくらいしか役に立てないと思ってたけど、ハーフなことが役に立つなんて…人生何があるか分からないものだと思う。

 規定の時間になったので仕事場のデスクにて通信を受け取る。私が思っていたよりも世の中にはハーフの人は多く、みんな苦しんでいたらしい。私のようにハーフであることを公言し、生きている人がいる事は皆んなの心の支えになるらしかった。

「はい、こちら紅月 カレンです、何かお悩み事ですか?」

『え、えぇ…こちらでお悩み相談に乗っていただけると聞いたフスキ…』フスキ…

「私でお力になれることがあればなんでも言ってください」

 …ん?なんか今変な語尾が聞こえたような…いや、気のせいだろう。どうやら相手は大人の男の人みたいだけど。

『実は娘が先日結婚したフスキ』フスキ

「それは…おめでとうございます?」

『…実は相手が日本人なのフスキ』フスキ

 なるほど、これから生まれてくるかも知れない孫の心配か…。初めてのケースだ。にしてもやっぱなんか変な語尾が聞こえる気がする。いや、絶対気のせいだ。

「ハーフとして生まれてくるお孫さんのご心配ですか?」

『え、えぇ…娘の相手が日本人なのは別に良いのフスキ。娘が選んだ相手なのですから私の口出すことでは無いフスキ』フスキ…

 ダメだ、やっぱ変な語尾で全然頭に入ってこない。

『やはりハーフだと差別とかされるものフスキ?』フスキ?

「そうですね…昔はそういう時期もありました。ですが、今はもう違います。各国が手を取り合い始めてお互いを理解しようと歩み寄っていますから。それに、家族の方がハーフでも気にされず接することが一番大事ですよ」

 私の時は時代のせいもあってその辺が複雑だった。不在の父、メイドになった母、そして継母…別にそのせいだと言うつもりはないが、私はあの家から逃げ出すようにゲットーに行ったのはそれも原因だろう。

『そうですね…初孫だからと心配しすぎたのかも知れないフスキ。もし生まれてきてくれたなら両手を上げて祝福したいと思うフスキ』フスキ

「はい、そうしてあげてください。」

 相手も納得してくれたらしい。最後は満足そうな声が聞けたので安心だ。一つの相談が終わり、すぐに次の相談が入る。悩んでいる人は多いようだ。

「はい、こちら…」

『紅月カレンさん…ですね?』

 どうやら相手は声を機械で変えているらしい。まぁ、悩みを話すのだからそれは別に珍しいことではない…けど、なんだろう、この違和感は…?

『ハーフでありながら…成功した日々を過ごしているようだね』

「…何か、ご相談ですか?悩みでも?」

『相談…あぁ、そうだね。相談だ。人手が足りなくて困ってるのが…悩みかな。俺の仲間になってくれないか?』

 …仲間になってくれ?当然だけどそんな悩み相談は初めてだ。そもそも私はもう黒の騎士団に所属していているし、突然仲間になってくれと言われても困る。

『あんたもハーフなら分かるだろ?ブリタニアと日本の間に生まれ、ブリタニア人になれず、日本人にもなりきれない、何者にもなれない、その苦しみが。』

 それは…全くわからない話ではない。でも…

『それに、あんたはナイトメアのパイロットとしてトップクラスの技術を持ってる…平和な世の中じゃぁつまらなくないか?』

 …こいつ、まさかマッドドッグ!?

『あんたが仲間になってくれれば俺はあんたに思う存分暴れられる機会を…』

「ふざけるな!黙って聞いていれば…私は暴れるために戦ってたわけじゃない、日本を取り戻すために戦ってたんだ!紅月 カレンを安く見るな!」

 そこで通信は途絶えてしまった。…しまった、相手が本物なら逆探知とかしてもらうべきだったかも…。

 

 その日は報告だけ行い、帰路に着く。しばらくすると、見覚えのあるオレンジ髪が跳ねているのが見える…シャーリーだ。

「あ!こんばんはカレン、お仕事の帰り?」

「えぇ、シャーリーと…シャーリーのお母さんですね、こんばんは」

「えぇ、こんばんは」

 今私が住んでいる場所はそれなりにシャーリー達の家からも近い。その為、たまにこうして出会ったりもする。お母さんもたまにシャーリーと出会うらしい。お互い明るい性格だからか結構気が合うんだとか。まぁ、日本人とかそういう事を気にしないシャーリーの性格によるところも大きいんだとは思うけど。

「二人でお出かけ?相変わらず仲が良いのね」

「うん、今日はお父さんのお墓参り。この前ジルクスタンでの騒ぎとか、最近また小さなテロが増えてるでしょ?だから行ける時に行こうと思って」

 墓参り…そう言えば兄さんの墓参り、随分と出来てないな…

「そういえばカレンのお父さんってどうしてるの?」

 …シャーリー、あなたって偶に突然とんでもないところに踏み込んでくるわよね…。私の態度にシャーリーのお母さんは何かを察してくれたらしく、シャーリーを嗜めていた。

「…私の父親…ね、もう随分と会ってないし、話なんて最後にいつしたかなんて覚えてないわ。お母さんに何言ったかは知らないけど、家に帰ったら急に母さんから私はブリタニア人になれる、シュタットフェルトの娘として生きろと言われたわ。気付いたら私はカレン シュタットフェルトになってた」

 あの家の中で正直私は苦しんでいた。でも誰も助けてくれる人なんて居なかった。だから私は強くなろうとしたのだ。それでも…まぁ、ナナリーを守ろうとしたルルーシュなんかには敵わなかったわけだけど…あいつの言葉を借りるなら自分のためか他人のためかの違いだったのかな。

「…ごめんカレン、変なこと聞いちゃって」

 シャーリーに悪気がないのがわかっているので、これ以上何かを言うつもりはない。それに、良くも悪くも父のことを考える良い機会だったのかも知れない。結局許せないままなのは…私がまだまだ子供だってことなのかもね。

 帰り際、シャーリーが見つめてきたので少しだけ見つめ返してから私は口を開いた。

「何?」

「あ、うん、ごめんね?お節介かも知れないんだけど…」

「ううん、構わない。言ってみて?」

 

「私はね?許せないことなんてないとは思ってる。でも、許したくないならそれでも良いと思う。でも、生きているのなら、一度話してみたら?判断はそれからでも遅くないと思うんだ、私」

 

 ううん…実際に父を失っているシャーリーから言われると言葉の重みが違う…。

「じゃあね、カレン」

「ええ、またね」

 そうしてお互いに手を振り合い別れて私は再び帰路に着いた。と言っても私はもうシュタットフェルトの家には帰っていない。東京に小さいけれど、お母さんと二人で暮らせる家がある。私の帰る場所はもうそこなのだ。母さんの罪状はゼロの亡命の際何故か軽くなり、もう仮釈放も受け、今ではカフェで働いている。多分、イレブンに対して温情をかける事でそれ以上の反乱を起こさせないことが目的だったのだろう。骨折も無事に治り、今ではウザいくらい明るい性格がウケているとか。まぁ、たまに客と店員としてならあの口調も気にならないのかな…。

「お母さん、ただいま!」

「あら、おかえり、カレン」

 靴を脱ごうと玄関見ると見慣れない男物の靴があることに気が付く。一体誰だろう?星刻さんとかなら私に連絡が来るから違うと思うし…。そう思いながらリビングに向かう。

「やぁ、おかえりカレン。…久しぶりだね、随分と大きく…立派な女性になった物だ。嬉しいよ、また会うことが出来て」

 そう返してきた男は…シュタットフェルト伯爵…つまり、私の父だった。

「今更…なんのつもり?」

「…そう言われても仕方のない事をしたと思っている…。だが、私は…」

 この人は…自分と本妻の間に子供が生まれなかったからと私を引き取った男だ。それに、お母さんの望みがあったとはいえ、妾とその娘と継母の3人を同じ屋敷に入れて…自分はろくに帰っても来ない、そんな男だ。それに、そもそも私を引き取ったのだって本来は兄さんのついでだ。私なんかより、叔父さん達の方が家督を継ぐべきだと思っている。

 

 …しかし、さっきシャーリーに言われた言葉もある。これは…何かのきっかけだろう。違法プロテインで私はお母さんと仲直りできた。新しい一歩を踏み出すきっかけになったと思う。だから、一度だけ向き合ってみようと思った。

「私は、何?言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ。貴方父親でしょ?」

「…!父と言ってくれるのか、そうか…。まずは仕事を言い訳にずっと放ってしまっていたこと、許して欲しい。」

 …それは、まぁ、今となっては私もレジスタンスとして、黒の騎士団として過ごすためのきっかけになったとも言えるし、それが日本の解放に繋がったとするならば…許せなくも、無いのかも、知れない?ふと、お母さんを見るとお母さんは微笑んでいた。…お母さんは許してるらしい。まぁ、母のことだ『りょ!許す!』くらいのノリで許してそうだ。

「まぁ、放ったらかしにされたのは文句も言いたいけど、許すわ。貴方の仕事が忙しかったのは知ってるし。で、それだけ?」

 放ったらかしていたと言っても、お金だけはちゃんと融通してくれている。今もお母さんと私の稼ぎの他にこの人からの仕送り…まぁ、手は付けてないけど…を貰っているのだから忘れているというわけでは無いのだろう。

「あ、あぁいや…今日は相談があって来たんだ。」

「相談?」

「実はまた仕事でしばらくこっちに…あー…日本にいることになったんだ。それで…また一緒に暮らせないか、と思ってな…」

 お母さんを見ると、お母さんはまた微笑んでいた。

「カレン、貴方の判断に任せるわ」

 珍しく真面目な声と口調で言われ困惑しつつ、返事を考える。一緒に暮らす…?今更?いきなり帰ってきていきなりこれだ。急過ぎる。

「1週間後また来て。いきなり言われても判断出来るわけないでしょ」

「…それもそうだな。いや、でも迷ってくれるだけ嬉しいよ…てっきり即答で断られると思っていたから」

 それは…多分普段の私なら即答だろう。『ふざけるな 紅月カレン 安く見るな』と。うーん、字余り。でも、シャーリーに言われた生きている内にという言葉、無視も出来ないだろう。だから、少しだけ考えることにした。

 

 そうして約束の一週間が経ち、再び父が家を訪ねてきた。私はお母さんと父に着いてきてとだけ伝えて家を出る。

「…前に来た時も思ったが、この辺も随分変わったね」

「分かるー!偶に私もまた迷っちゃうからね」

「君は…相変わらずだな、初めて会ったときも君は道に迷っていたね」

 …この歳になって両親の馴れ初めを聞かされると小っ恥ずかしくなってくる。正直言ってやめて欲しい。

「君が入院したときも見舞いに行かなくて悪かったな」

「良いの良いの。久し振りに会うのにあんな姿は恥ずかしい」

 そんな両親のイチャ付きを聞かされるという精神攻撃に耐えつつ、私たちは目的地に辿り着く。

「ここは…」

「ここはお墓よ。兄さんの」

「ナオトのか…。」

 そうして三人でお墓に手を合わせる。…父も日本の作法に合わせてくれるらしい。お墓参りを終え、再び両親のイチャ付きを聞かされながら帰路に着いていると、またまた見覚えのあるオレンジ髪…要はシャーリーと遭遇した。

「あれ、カレン久し振り…ってほどでも無いか、あはは」

「うん、お兄ちゃんのお墓参りに行ってたの」

「そっかぁ…あれ?」

 シャーリーも私の両親に気が付いたらしい。

「シャーリー、紹介するわ。この人は…シュタットフェルト伯爵、まぁ…私の父親よ。」

「初めまして、シャーリー フェネットです。カレンさんにはいつも仲良くしてもらってます」

「初めましてシャーリーさん。娘と…カレンと仲良くしてくれてありがとう。これからも良き友人であって下さい」

 両親には先に帰るように促し、シャーリーともう少しだけ話をすることにした。

「カレンはお父さんのこと、許す気になったの?」

「わからない。でも、シャーリーの言葉が無視できなかったから、話すことにしたの。話してみないと許せるか許せないかも分からないしね。」

 笑顔で頷くシャーリーとはそこで別れ、家へと帰宅した。既に両親は話をあらかた終えたのか、黙って私が席に着くのを待っているようだ。私が席に着くと、父親は口を開いた。

「…答えを聞こう」

 また父と暮らすか、その答えは…一週間よく考えて答えを出してある。私の答えは…。

 

「一緒には暮らせない。悪いけど」

 

 答えは、ノーだ。父はその答えに余り驚かず、小さくそうかと呟き項垂れた。でも、私の答えには続きがある。

「はいこれ」

 私はメモを父の前に差し出した。私の声に父は項垂れるのをやめ、そのメモを受け取る。

「私の携帯番号。今度から来る時は連絡して欲しい。都合が合えば会うし、食事だって一緒に食べるわ。…私達は家族だし。それは一緒に暮らしてなくても、そうでしょ?」

「…そうだな、ありがとう。…本当に。そうだ、今度『東京クロヴィスランド』に行かないか?それと、またナオトの墓参りをさせてほしい。今度はしっかり花も供えて…綺麗にしてやろう」

「分かった」

 別に完全に許した訳じゃ無い、でも完全に許さない訳でも無い。そんな半端な答えだけど、別に全ての答えを白黒ハッキリさせる必要も無いだろう。

 

 だって私は…ハーフなんだから

 




活動報告に頂いた「野良犬ジョーさん」からのリクエスト「カレンと父の和解」のエピソードでした。

Q.筋肉要素関係なく無い?
A.その質問を待っていた(殴打)書いてたらどんどん話しが真面目になって筋肉要素入れる余地が無くなったんだよ仕方ないだろ(殴打)仕方ないよな?(殴打)仕方ないと言え!(殴打)

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