選抜レースを終えた私はマヤちゃんと一緒に寮に戻ることにした。もちろん、その間もトレーナーからめちゃくちゃ声をかけられたが、とりあえず今は保留ということにしておいた。
「シルちゃん、すっごいカッコよかったよ!」
「ありがとう、マヤちゃん。自分もまさかあんなレースになるとは思ってなかったよ。でも、あの娘も強かったなあ」
ジェニュインことジェンちゃんは本当に強かった。彼女は今後GⅠなどを取るのではないだろうか。
「そうだよね。マヤも早くシルちゃんと走りたいなあ」
マヤちゃんはマイルのレースに出場するらしく、選抜レースで私と対戦することはなさそうだ。そうして話しているうちに寮に着く。そのときだった。
「シルヴィレア、少しいいか?」
後ろから声をかけられたので、振り返るとそこには芦毛を靡かせる伝説的なウマ娘の姿があった。
「オグリ先輩……?」
「ああ。オグリキャップだ。よろしく。急で悪いが、2人きりで話せないか?」
オグリ先輩は私に近づいて言う。
「マヤちゃん、ごめん。先行っててもらえる?」
彼女が頷き、寮に戻っていくのを見届けたのち、オグリ先輩が言う。
「ありがとう、シルヴィレア」
「礼には及びません。それと私のことはシルと呼んでください。みんなそう呼んでますし」
「では、分かった。さっそくだが、私のチーム、チームシリウスに入らないか?」
今日一日、トレーナーからのスカウトはかなりあったが、まさかウマ娘からもスカウトされるとは。しかも、芦毛の怪物と呼ばれた大物に。
「ありがたいお申し出なんですけど、1つ聞いていいですか?」
オグリ先輩が頷いたので続ける。
「どうして私なんですか?」
「……私が君の走りを目の前で見たかったからだ。君が選抜レースで見せてくれたあの走りに大きな可能性を感じたんだ」
「可能性、ですか?」
「ああ。君の走りは、長くファンの想いを背負える走りだ。そんな君の旅路を見てみたいと思ったんだ」
オグリ先輩は普段からクールで口数は多い方ではない。そんな彼女が熱く語っている姿を見て私は少し圧倒された。
「……どうかしたのか?」
怪訝そうなオグリ先輩に私は軽く微笑んで答える。
「少し意外でして」
「意外?」
「はい。オグリ先輩がこんなに熱く語ってくれるなんて思ってもなくて」
そう答えるとオグリ先輩は軽く笑う。
「確かにらしくはないな。私も自分がこんな気持ちになるなど思ってもいなかった」
「チームのことは前向きに考えておきます。今後もよろしくお願いします、オグリ先輩」
「よろしく、シル」
そう言ってオグリ先輩は去っていった。とんでもない大物に好かれてしまったものだ。しかし、気分は悪くない。オグリ先輩の走りは何度か見たことがあるが、それはウマ娘として憧れるものだからだろう。
そんなことを考えながら自室に戻った。中には1人のウマ娘がいた。私と同室になったナリタブライアン先輩だ。
「はじめまして、ブライアン先輩。ルームメイトになったシルヴィレアです」
「よろしく、シルヴィレア」
「シルでお願いします。みんなそう呼んでおりますので」
ブライアン先輩は頷き、ベットに腰を下ろす。
「1人部屋でしたのに、お邪魔してすみません」
「うるさくしなきゃ気にならないから、構わん」
「それは何よりです。そういえば、先輩ってチームシリウスのメンバーなんですよね?」
「ああ。それがどうした?」
「実を言うと、オグリ先輩からチームシリウスに入らないかとスカウトされまして……」
「そういうことか」
「はい。チームシリウスってどういうチームなんですか?」
しばらく考えたのちブライアン先輩は答える。
「……なんというか賑やかなチームだな」
「賑やか、ですか?」
「ああ。実力的にも申し分ないはずなんだが、どこか騒がしいな」
確かあのチームにはメジロマックイーン先輩、ライスシャワー先輩、ウイニングチケット先輩、ナリタブライアン先輩の4人がG1を制しているはずだ。実力的にはかなりのものがあるだろう。
「なるほど……。参考になりました」
「トレーナーは今後に関わる大事な決断だ。ゆっくり決めるといい」
「そうですね。あ、それと1つ言い忘れたことありました」
ブライアン先輩がこちらを見る。
「皐月賞、優勝おめでとうございます。ブライアン先輩」
「ああ。感謝する」
そう言う彼女は少し嬉しそうにも見えた。そんな意外な姿を見れて、そういう顔もするのかと驚いた。これもチームシリウスに入った影響なのだろうか。そう考えるとますます興味が湧くのだった。
その翌日、私は生徒会室で生徒会長のシンボリルドルフ先輩と向き合っていた。
「呼ばれた理由は分かっているかい?」
「はい。チームシリウスの件ですよね?」
ルドルフ先輩は頷く。
「その通りだ。昨日オグリキャップから話があったようだが」
「前向きに検討するつもりです。ご安心ください」
「それなら何よりだ。ところで君は何を目指して走っているのかな?」
ルドルフ先輩はこちらを見て聞く。
「何を目指す……?」
「難しく考えなくてもいい。自分のなりたい姿、つまり理想を述べてくれれば、それでいい」
「自分が目指すのは10年一線で戦えるウマ娘です」
ルドルフ先輩は少し驚いたように聞き返す。
「……10年?」
「はい。私は唯一無二の何かをほしいと思ってここに入学してきました。でも私には会長やオグリ先輩のような強さもない、ただの並のウマ娘なんです。そんな私が目指せる唯一無二は長く走り続けるウマ娘なんです」
ここで私は息を入れる。
「詭弁だと、不可能だと笑い飛ばす人がいるならそれで構いません。ただ、私は実現させてファンに希望を与え続けたいのです」
「……なるほど。さまざまなウマ娘を見てきたが、そのような言葉は初めて聞いたよ。君の目指す唯一無二が叶うことを祈るとしようか」
ルドルフ先輩は温和な表情で告げる。
「はい。必ずや実現してみせます」
「……オグリキャップはもしかしたら君のトレーナーを目指しているのかもしれないな」
またしても驚くべきことが聞こえた。
「私のトレーナーですか? 引退したウマ娘がトレーナーになった前例が?」
「ないよ。ただ、サポーターという形で後輩のウマ娘を指導することは可能だ。君がチームシリウスに入るのならね」
私も昔から憧れてきたウマ娘の一人であるオグリ先輩の元であらゆることを教えてもらえるのなら最高だ。
「そろそろ授業が始まるようだね。わざわざ来てくれて感謝するよ」
「こちらも考えがまとまりました。ありがとうございます」
そうして私はルドルフ先輩に頭を下げて生徒会室を出たが、その足取りはとても軽かった。最高のトレーナーと最高のチームで練習できる。そう考えると気分がより浮き足立つのだった。そして、チーム加入の手続きを進めていくのだった。
今回はここまでです。キャラの口調が難しい……