ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
抽選に当たろう!
よし、殺そう。
私は決意した。
「っしゃああああああ!!」
第七次新大陸開拓船の搭乗者における『抽選枠』に選ばれた筋肉質の男が叫ぶ。その声は
ある者は膝をつき、ある者は涙を流し、ある者はこいつがチケットを受け取ったタイミングでぶっ殺してやろうと凶悪な形状の
私のことだ。
「さあ、チケットを渡してくれよ!」
「承知いたしました」
管理役のNPCが、男の要請に応じて紙切れを取り出す。それにしても日差しが痛い、ゲームなんだからもうちょっと抑えてくれてもいいんじゃないかな―――そう思う。周囲のプレイヤーたちもそう思っているはずだ、彼らにとって日差しは絶望の増幅者であり、また興奮が引き上げた体温を戻してくれない喚起者でもある。
その証拠に。
「よし、これ……」
「うおおおおおおッッ!!」
奇襲、奇襲だ。先ほどのチャクラムの男が獲物を振り上げ、筋肉質の男がチケットを受け取ると同時に突っ走る。それに伴って揺れる頭上のプレイヤーネームは……『ペンペン』、レッドネームじゃない、つまり今の今まで人畜無害を装ってきたってことだ。私はそれを頑なに見守りつつ、こっそりインベントリアから錬成爆薬を取り出しておく。さあ、どっちが勝つかな……!?
ペンペンの決死の一撃を、筋肉質はひらりと
「おいおい、そんなもんか?」
筋肉質が煽りを入れながら攻勢に入る。攻撃手段は当然殴打……じゃない!一点に豪雨が集まったような音が聞こえる、ショットガンだ。見かけと実態の乖離が凄まじい。流石にペンペンも予想できなかったようで、反射的に防御系のバフを展開する以外はできなかったようだ……見たところ、かなり負傷してる。これは筋肉質の勝ちかな?私は錬成爆薬を握ったまま、徐々に手を組み始める。どちらかが倒れるのを、待って……。
「……!?」
あれ、なんか筋肉質がうろたえてる。何があった?……え、ペンペンがチケットを持ってる!?慌てて筋肉質の方を見ると、どうやら先ほど掠り傷を作られた部分に……紫色のポリゴンが、食い込むように生まれている。壊毒のエフェクトだ。指の付け根へのかすり傷から破壊属性で
「刃隠心得【
スタンバっていた印を完成させる。ぎょっとする周囲のプレイヤーの顔をエフェクトが隠す。同時に、手元の錬成爆薬を
どかん。
「死ね~~~!」
【追鼠火花】と錬成爆薬が組み合わさって起きた目の前の大爆発を、新たに組んだ【空蝉】の印で突っ切る。混乱したペンペンからチケットを奪い取り、すぐさま逃げ……
「ふざけんなッ!」
「っとぉ!?」
烈火の先から銃声が聞こえ、次の瞬間には散弾たちが迅速に到来する。【空蝉】をもう一回撃って回避する、少し被弾した。回避先は特に考えていなかったがペンペンの真横になって、彼とふと目が合う。私たちは通じ合った、とりあえずこの筋肉質をぶっ殺してから話を進めよう。そんな合意が瞬時に形成されたのだ。
爆炎が晴れて秘密の時間が去り、代わりに強烈な日光と、固唾をのんで私たちを見守る負け組たち……そして、血眼の筋肉質があらわれる。多分横のペンペンをぶっ殺すより筋肉質をぶっ殺した方が勝算が高い。彼には私にそう思わせるだけの気迫があった。仮想世界であるにもかかわらず、だよ?つまり、ヤバいってことになる。
「おりゃッ!」
ペンペンが合図もなしに閃光弾をブン投げた。何も見えない。協調性なさすぎない!?私は思うが、よく考えてみると協調性があるんだったらとっくに大手クランに入って枠を譲ってもらえている。旧大陸居残り組というのは要するに面倒くさいプレイヤーの集まりなのだ。だからむしろ当然の話だ。何も見えないが操作自体は可能、私はとりあえず適当に錬成毒入りの瓶を投げ上げておく。蓋はしていない、空中でぶちまけられることになるはずだ。ペンペンに確認はしていないが、特に問題はないと思う。私は協調性があるから、ペンペンに確認しないでも問題ないことがわかるのだ。
視界が晴れると同時に【空蝉】、天から舞い降りる毒のカーテンの上に転移する。
「ちょ!?」
ペンペンがめちゃくちゃビビっているのが聞こえるが、大したことではない。下から銃声、直後に真横のカーテンから散弾たちが飛び出してくる。どうやら筋肉質が当てずっぽうで発砲したっぽい。でも……
「ハズレだよ」
錬成毒と一口に言っても色々あるけど、この場合は触れるとヤバいタイプだ。とはいっても触れるとヤバいタイプというのは傷口に塗られるとヤバいタイプとか飲むとヤバいタイプに比べて適用範囲が広すぎるから、そこまで大きなダメージは期待できない。つまり、筋肉質は落ちてきた私をショットガンで撃ってくる可能性が高い―――でも。
「刃隠心得奥義、【水滑り】」
印を組む。【水滑り】……水の上を歩く忍術の対象は
毒の雨が地面に落ちて、筋肉質がショットガンを明後日の方向に外す。
「死ね」
呟きと共に急降下、錬雷合金のダガーを取り出し、紫電のエフェクトを白昼に曝す。筋肉質は真上を見上げるが……あいにく弾切れ。盗賊時代に取得したいくつかのスキルを発動し、私は直下の敵を討つ為の必殺性をとにかく高め、一撃を―――
「えい」
「あ」
ペンペンに掠め取られた。
ヤバい、地面に衝突する。真下には深紅のポリゴンに包まれながら円月刀を抜き、ひらひらと落ちるチケットを掴み取ろうとするペンペンがいる。こいつをクッションに?いや。彼の頭上のプレイヤーネームは既に赤く染まっている。もうこいつには私を殺さない理由がないということだ、激突と同時にサクッとやられるのがオチなはず。だったら。
「【
ペンペンがこちらを見上げ、チケットをつかむ。インベントリに収納するつもりだろう。間に合うかな?場合によっては手裏剣で妨害するべきかも。私ははためく布を掴む右手で、それとなくインベントリを操作して……。
「―――」
金色の風が吹いた。
「な」
深紅を塗り替えるように更なる深紅が散る。いつの間にか死体になっていたペンペンの周囲に装備が散らばる。まさか。
「
私は布から手を放し、【空蝉】で落下位置を強引に修正した。どしん、という僅かな衝撃がアバターに走るが、それよりずっと大事なことがある。つまり、颯爽と現れたティーアスが
ヤバい。
ヤバいけどどうすることもできない。祈るしかない。
私は祈ることにした。青空を見上げ、何かしらに対し祈りを捧げる。どうかチケットだけは取らせないでくださいどうかチケットだけは取らせないでくださいどうかチケットだけは取らせないでください……。
「……」
ティーアスはチケットだけ取ると、その場から文字通り颯爽と去っていった。
なるほどね。
「ちょ、ど、どうなった!?」
死に戻りしたらしいペンペンが駆けてくる。第七次新大陸開拓船の搭乗者における『抽選枠』は、既に一人の幼女の手によって消滅してしまったんだよ……と。そう生真面目に答えるより、きっとこうしたほうがずっと早いんだろう。私は思った。
思いながら、彼に無言でフレンド申請を送った。
日光が照り付ける、旧大陸でのことだった。