ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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アスレチックをしよう!

 私の番だ。

 列は粛々と進み、プレイヤーたちは死んだり死ななかったりした。どちらにせよ確実なのは、オトシスがいなければもっとたくさん死ななかっただろうということだ。響き渡ってたからね、銃声が。

 そして……銃声が響き渡ったという事は、私が彼の「ステルスアサルト」を()()()()フェーズが、十分に進んだという事でもある。

 欲しいスキルを習得する手っ取り早い方法は、やはり他のプレイヤーがそのスキルを使っている様子を目に刻み込み、そのうえでスキル内容に合致した行動を取ることだ。その成果が新規習得スキルに出るか、あるいは既存スキルの進化として現れるかはわからないけど……どちらにせよ、やらないのと比べれば習得率は格段に跳ね上がる。『スキル内容に合致した行動』というと、この場合は()()()()ってことになるのかな?覚えておこう。

 

「チッ……」

 

 オトシスは苛立っている。ボルクネスを妨害しきることができなかったからだ。彼のジョブは印字士(プレスマン)/神秘(アルカナム)隠者(ハーミット)」。戦闘職は持っていないけど、「隠者(ハーミット)」によって習得した数々の意味わからんスキル、そして魔法が彼にはある。今回も、謎の紙切れを取り出してなんか書き込んだ後10秒くらい回転し、その後バク転をしたらゴール付近に転移していた。意味が分からなすぎる……。

 

「……まあ、イイか」

 

 しかし気を取り直したようで、彼はこちらを見てニヤリと笑った。目ぇ付けられてるぅ……。私は通報を検討したが、ただPKをしているだけでは通報できない。そもそも厳密にはキルではなく、あくまでアスレチック器具による()()()を装っているから猶更タチが悪い。とりあえず、後で「象牙」にチクっておこう。

 先に第二階層へと進んでいったボルクネスを見送ると、いよいよ私が出発する瞬間がやってくる。

 

「……よし」

 

 アスレチックの全景を見る。改めて、結構長い設備だ。確かだいたい50メートル。動く床が、回転するローラーが、迸るレーザーが……若干の動きを伴っても、視界全体は大きく変わらず、ちょうどループするgif画像のようだ。

 手始めに、私は錬成品射出用迫撃砲(アルケミック・モーター)を取り出した。

 列をなすプレイヤーたちがざわつく。迫撃砲の図体はデカいし、アスレチックには少々場違いな外見をしている。でも関係ない。私は迫撃砲のウィンドウを開いて、インベントリから()()()()()を移し、さらにタイマーをセットする。

 砲口が、仄かな紫光を帯び始める。チャージが始まったのだ。同時に上げられる甲高い音に向かい合うようにして、私はスタート地点に立って、グローブに包まれた両手にTECを込める―――印を組んでいるのだ。

 三。

 迫撃砲の充填音はどこか緊張を覚えさせるものを持っていて、最初はざわついていたプレイヤーたちもいつの間にか黙っている。私も同じだ。そうして生まれた静寂を、徐々に高くなっていく充填音が端から切り裂く。

 二。

 白尽くめから一義の黒衣(テックスド)に裏返す。ついさっきまで錬成していたいろいろも、既にインベントリの最上部に設置済みだ。抜かりはない。

 一。

 目を見開く。ここで……宙返りだ。

 

「【水滑り】っ!」

 

 どん。背後で発せられた発火炎が、正反対を向いていてもわかった。迫撃砲から発射された()()()()()……あるいは、()()()が、宙返りをした私の脚部にちょうどぶつかる。すり抜けはしない、【水滑り】を発動中だからだ。

 

「は?」

 

 顔を見なくても、呟きを聞くだけでオトシスが唖然としているのは分かった。体勢を整え動く足場突破。今がチャンスだ。そう考える間にも、足元を濡らして持ち上げる水の塊はぐんぐん進み、【水滑り】の効果に基づき、私のアバターもぐんぐん進む。

 次、トゲトンネル。ギリギリすり抜ける。場合により【瞬間転移(アポート)】で補正しようと思ってたけど、どうやらその必要はなさそうだ。視界の端から端までを埋め尽くす、殺意を隠しもしないトゲたちの間をすり抜ける。

 次、レーザー。ここは単に突っ切るだけじゃ無理がある。工夫がいる……だから私は錬成物を取り出した。

 

「よ」

 

 賢者の石だ。

 賢者の石はなかなか自由度の高いアイテムだ。一定間隔でこれを生産しろとか、これとこれを交互に生産しろとか、これが付近に存在する場合これとこれをこれしたうえでこれをとか、そういう詳細な命令が通るようになっていて、その詳細さの代償に時間が要求される。しかし……今回は、()()

 私がレーザーめがけて投げ込んだのは、()()()()()()()賢者の石だ。

 賢者の石は、空気中からの吸収あるいは直接的接触によって取得した魔力をアイテムに変換して出力する存在だ。であれば、何も生産しない賢者の石とは……つまり、取得した魔力をそのまま吐き出す存在という事になる。それでは意味がない、というわけではない。なぜって、賢者の石は―――。

 

「……よしっ」

 

 私の真横を、死貫の熱線が通り過ぎる。

 賢者の石は―――魔力を変換せずとも、魔力の()()()()()()ことはする。何も生産しない賢者の石とは、言うなればプリズムのようなものだ。

 

「がっ」

 

 背後からオトシスの断末魔を確認、どうやら流れレーザーに当たって死んだらしい。これは彼が今まで殺してきたプレイヤーと同じような()()()扱いになるから、当然キルぺナが付くこともない。……()()()()の成功。「ステルスアサルト」が楽しみだ。

 レーザーを潜り抜け、すれ違いざまに賢者の石を回収。次、シャッター。素通りしてもいいけど、安全を取って【瞬間転移(アポート)】でスキップ。

 さあ最後、振り子。刃たちはどのプレイヤーにも平等に、目と鼻の先での往復運動という形で殺意を向けてくれる。しかしそれに付き合う気はない。

 

「【空蝉】!」

 

 私が有していたベクトルに基づき、身代わりとなった後も前進を続けた丸太が、切り刻まれて木っ端みじんになる。しかし関係ない、私は……()に転移したから。

 振り子は上に行くにつれ動きを小さくする。つまり、固定点付近では……()()()()()()()()()()、ということだ。

 

「【鼯衣(むささびのころも)】」

 

 あとは飛ぶだけだ。ばしゅん、という効果音と共に、取り出した手拭いが照明の下に広がる。落とした影を徐々に太らせながら、横軸のベクトルを維持してゆったりと降りていく。

 狙撃が入る心配もない。やられる前にやったからだ。ギロチンに首を落とされる心配もない。どちらかというと浮いている。このままゴールに到達し、その調子で銃が売っている第六階層まで一気に行って、そこでレベルキャップを開放して帰ろう。帰れるに決まってる、第一階層がこんなにヌルいんだから!私は調子に乗った。

 たん、と最終地点に足を付き、忍術を解除して手拭いを畳む。いやー完璧に終わったね!粘着カスプレイヤーもぶっ殺せたし!

 ……おや?列に並んでいるプレイヤーが何やら掲げている。カンペか?50メートルくらいなら頑張れば視力補正で読める。えーっと、何々……。

 

『この迫撃砲どうするんですか』

 

 ……。

 二度手間になった。

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