ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
第二階層。
あそこでレーザーが都合よくオトシスに当たったのは幸運だった。正直オトシスじゃなくても不意打ちで殺せれば誰でもよかったんだけど、それにしてもクソ粘着妨害マンが相手のほうが何となく正当性がある雰囲気が出る。第二階層まで追ってこないとも限らないしね。実際、筆記テストであるこの層で第一階層みたいな妨害ができるとは思えないんだけど……まあ、このゲームには「手を切り落とすとウィンドウが操作できなくなる」をはじめとした数々の謎仕様がある。何が起こるか分かったもんじゃない。
「第二階層へようこそ、新たなる探究者たちよ」
ぱちぱちぱちぱち。
無機質なデザインに相反し、どこか熱気を感じる会場に、豪雨のような拍手が鳴り響く。
私も、隣のボルクネス、そして周囲のプレイヤーたちの例に漏れず、パイプ椅子の背もたれに寄りかかりながら拍手を送る。
壇上でマイクを手にしている眼鏡のプレイヤーが、手のひらを上げて言う。
「ありがとう、もう十分だ」
拍手が止んだ。
書物に取り囲まれた会場が、落ち着いた雰囲気を取り戻す。
……いや、何?
眼鏡は何やら手元の棒状の物を振っている。なんだ?油性ペンかあ。ゴロゴロと運ばれてきたホワイトボードの表面にそれを踊らせ、みるみる文字が描かれていく。
……ゴロゴロって何?車輪なの?そのホワイトボード、車輪がついてる感じの奴なの?
私の疑問に答える者は無く、ただ油性ペンが白を黒に塗り替える、キュッキュという音だけが会場に木霊する。騒めきすらそこにはなく、誰もが真剣に壇上を見守っている。
……このパイプ椅子世界観壊しすぎでしょ。家具職人?それとも神代技術使ってるのかな?
増殖していく疑問は行き場を失い、眼鏡がただ文字を書き終える。
『【ネタバレ注意】ベヒーモス第二階層問題解答対応スレッド【ライブラリ】』
…………。
眼鏡が次の言葉を発するより先に、私は無言でゲーム内掲示板を開き、他のほとんどの聴衆と同じように、言われたスレを検索した。
あった。開いてみよう。
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【ネタバレ注意】ベヒーモス第二階層問題解答対応スレッド【ライブラリ】
301 クローバー(主)
〈Q300〉【惑星ユートピアの大気を十分な大きさの空間に密閉したうえで、内部に入った人間がデバイスを通じて「重力の増幅」を空間中のマナ粒子に命じ続けた場合、最終的に何が起こるか。】
〈A300〉【空間の底部でマナ粒子が液体化する。】
〈C300〉【空間内におけるマナ粒子の濃度が現象改変の出力に影響を及ぼすというのは、ジョルティー・ビーゼンテール著『
302 システムメッセージ
このスレッドはスレッド主により閉鎖されました。
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……………………。
「ネタバレには十分注意してほしい。基本的に我々は、問題を自力で解くことを―――」
私はページ内検索ボタンに手を伸ばした。
◆
ライブラリに入れてください新大陸行きたいです、という何度目かもわからない懇願をし、何度目かもわからない拒絶を受けて第三階層。いや、「クグリンさんだね、君
さて……事前にwikiでも読んだけど、第三階層は闊歩してる環境生物を一体倒せばいいんだよね。どれどれ……。
目の前に広がる開放的な草原を切り開くように、緑と灰色の境界線に視線を巡らせる。なになに、ヤバそうなトラ、ヤバそうなゴリラ、ヤバそうなワニ、ヤバそうなタカ、ヤバそうなクマ、ヤバそうな花、ヤバそうなカマドウマ、ヤバヤバヤバヤバヤバヤバ……。
「……ボルクネ……」
やっぱり帰らない、と言おうとした。
「……あの花の効果は何になるのかな。見たところ食虫植物をベースにダチョウか何かの足をくっつけたように見える。そもそもユア・エクスペリエンスで排出されるのか?いやでも色竜とかも出るっぽいしある程度無理が……」
ダメだ、既に目の前のモンスターでどんなコンボを決めるかしか考えていない。
……仕方ない、やるか。
……。
とりあえず流れ的に緑を踏みしめて歩くが、具体的にどうするか特に決まらない。私ははっきり言って雑魚だ。雑魚じゃなかったらとっくに新大陸に行けている。錬金術と忍術で搦め手をするのは得意だけど、搦め手でヤバそうな色々を倒せるかといわれると倒せない。最大火力がただの爆薬という時点でお察し、戦災孤児を倒せたのもまぐれみたいなものだ。
「……ボルクネス、どうする?」
せめて作戦会議くらいはしておこう。私は念のために
しかし彼はいなかった。代わりに、視界の端に触手が見えた。
「ボルクネスーーっ!」
頭上から聞こえた何かが握りつぶされる音と共に、彼が取り落とした短剣が草原に落下して、その鏡面のような刀身に、頭上の凄惨な……触手生物に一人のプレイヤーが握りつぶされる、そんな光景を映し出した。
とりあえず短剣を拾っておく。これいくらで売れるかな?
しかし明らかに皮算用をしている場合ではなかった。
次の触手が来る。【空蝉】で咄嗟に回避、そのまま脱兎のごとく逃げ出す。
いや……無理でしょ!
「無理でしょ!」
私は思ったままのことを口にした。
とにかく、これはヤバい。ボルクネスはそのうちリスポーンしてくるだろうけど、割とそれ以前の問題感がある。火力は足りず、防御力も足りない。どこかでズルをしなきゃ、この第三階層を突破することはできない……!
でもどうしよう?
STMを消費しながら駆け抜ける草原はものすごく生命力に満ちていて、それが何だか逆に不気味だった。石ころ一つ、枯草一つそこにはなく、ただ瑞々しく育った……まるでコピペしたみたいに画一的な草たちが、見渡す限りを埋め尽くして、まるで同じようにそよ風に傾いていた。
……そうだ、モンスターとモンスターで相打ちさせればよくない?
よし、ターゲットを決めよう。ん~……この中だと花が分かりやすそうだね。典型的な自衛型、多分現実世界の食虫植物みたいに、花びらに生物を誘い込んで溶かすとかそういう感じだろう。もちろん能動的に攻撃もするだろうけど……しかし、あの形状で花びらに生物を誘い込んで溶かすとかそういう感じじゃなければウソだ。あそこに適当な奴をダンクシュートすれば勝てる。
いや……無理でしょ!
「無理でしょ!」
私は思ったままのことを口にした。
ダンクシュートって言っても……無理では?ゴール、高すぎるし。ボール、デカすぎるし。私のSTR、ゴミだし。無理がある無理がある……一生クリアできないよ。
……いや待てよ?
推進力……低いSTR……そうだ、
「これだぁっ!」
反転、再び走り出す。これだ、これしかない。ちょうど花の近くにいてしかも図体も小さめのトラのほうへ駆けていく。緑の海が加速し、私に気づいたトラがこちらを向く。なんか全身に怪しげな穴があって結構キモいぞ……でも所詮はトラ、結局引っ掻くとか噛むくらいしか攻撃手段は持ってない!
私と花の間にトラが挟まるようにして突っ込む。
しかしトラは気怠そうに口を開いてビームを発射した。
は?
絶熱の光線が私の動体を貫き、無数の紅をまき散らし、私はそれと呼応するように死んだ。
遠距離攻撃できるんだぁ……。