ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
第四階層。
花……正式にはチューリング10-4って名前らしいけど、とにかくあいつは何とかして倒した。ヒントは漁夫の利、そして自爆特攻。爆弾を持った状態で乗り込むことはできないが、乗り込んだ後に爆弾を取り出すことはできる。創り出すことも。溶解液に魔法阻害効果があったせいで【空蝉】で脱出できず諸共に爆死したのは悲しい事件だったけど、まあ誤差だ。むしろ触手につぶされて死んだボルクネスと釣り合いが取れたという見方もあるだろう。
不気味なほど静かに開いたドアの先、インベントリを埋める素材たちを数える私の前には、またしても人工的な森が広がっている。
上部三分の一くらいを読み込んだまま止まったライブラリのwikiの上で行ったり来たりを繰り返すプログレスバーに耐えた私は、ここに存在するモンスターをだいたい把握している。ベヒーモス、ペーパーテストもだけどネタバレされると一気に簡単になる系が多いんだよなぁ……。まあ、私には好都合だけど。
がさり。
少し離れた先にある腐葉土が僅かに、風とは別の何かによって動いたのを確認。確かに
「おりゃ~っ!」
というわけで、私は爆薬入りの瓶を全方位にブン投げた。
一泊置いて、地面に落下した瓶たちが爆炎を生み……そしてその爆炎に当てられた爆泳魚たちによって、更なる規模の爆炎が生まれる。後は繰り返しだ。視界は爆発の赤一色に埋め尽くされ、火が燃え移った森の木々も例外とはならず、もうもうと煙を上げながら酸素を消費し始める。ベヒーモスの薄灰色の天井に、黒煙がその手を伸ばす。それは、垂らされた糸に手を伸ばす、地獄の亡者のようにも見えた。
森がどんどん燃えていき、緑を紅が食い散らかしていく。ターゲットであるドミネイト・グリズリーが潜む竹林の位置は定期的にリセットされるらしいが、燃えてしまえば関係ない。焼け死んでくれれば最高だし、焼け死ななくても視界が開ければ狙撃ができるようになる。
「いけーーーっ!」
炎に向かって声援をかけ、ちょうど同時に爆発が起きた。爆泳魚たちは大混乱状態、シンプルに周囲が爆発にまみれているのに加え、私に「あからさまに危険な行動」判定が下ったことによりこちらをターゲティングし、しかしターゲティングしたせいで挙動が変わってさらに誘爆している。
「ははははは!もっと燃えろ~!ははははは!」
ハイになった私の高笑いが、炎に埋め尽くされた森に響き渡った……。
◆
第五階層。
あのあとキレたドミネイト・グリズリーが竹を
この層のクリア条件は一体のモンスター……
入るなり現れた死が、纏った漆黒を振りまきながら、大鎌を携えゆらりと動く。そこに無言で回復ポーションを投げ続けるボルクネスの横で、私も片手で回復ポーションを投げながら、膝をついて祈り始めた。
……黒死の怨涙は……やめて……!
絶死のエフェクトと蘇生のエフェクトがせめぎ合い、黒死の天霊が襲い掛かる行動阻害の波に打ちひしがれる。そう長くはかからなさそうだ……だったら、もっと気合いを入れて祈らないと!
……黒死の怨涙は……やめて……!
私の祈りを吸い込むように、分厚く無機質な天井が、じっとこちらを見下ろしていた……。
◆
しかし黒死の怨涙だった、クソゲー。
いやあ……マジ?みたいな。ビビっちゃったよね正直。
で、それを踏まえたうえで……黒死の怨涙なわけ?
一応テキストを読んでみる。えーっと……アクセサリーの製作に使える、どうせいつもの(※ただし優秀な細工師は別売りです)のパターンでしょ?ふざけんなっていう。素材に使える、仮にも鎌や喪服と並ぶドロップアイテムを錬金術に使うってどうよ?服用すると即死できる(何度でも服用可能)、死に戻りくらいにしか使えなさそうだよね。
「はぁ……」
「あ、あのクグリン」
私が呟くと、ボルクネスが何やら話しかけてきた。さっきからちらちらと私を見ている。何か言いたいのかな?
「ん?どうしたの」
しかし彼はかぶりを振ると、
「……なん、でもない。ところで、もう……第六、階層だな」
怖気づいたか?まあいいや。適当に返答する。
「そう、だね」
……そう、第六階層。神代製装備が大量に売られている場所だ。ボルクネスが私についてきた理由はよくわからないけど、たぶんこれらのうち何かしらを買うことが目的なのではないかと思う。私もここで適当なアイテムを買って、そのうえでレベルキャップを開放し、後は寝るなりすればいいだろう。いや、先にレベルキャップを開放したほうが良いかな?……そうするか。
「ボルクネス、私は先にキャップ外してくる」
「わか、った」
実際のところ第一階層でも同じことはできるんだけど、どうせベヒーモスに来たんだし、一気に進めてからやることにしたは正解だったと思う。
近未来バリバリの開き方を見せる自動ドアを潜り抜け、私はいかにもSFって感じの設備に到達する。
天井の隅に言う。
「レベルキャップを外したいんだけど」
どこかで絶対に聞いているはずの「象牙」に向けて、私は呼びかけを反響させた。
◆
気分がいい。
レベルキャップ解放がうまいこと行ったからだ。現在の私のレベルは102、レベルにExtendが付いたのはつい最近だが、ベヒーモスの攻略過程でまあまあ経験値が溜まっていたみたいだ。
スキップしながら近未来ドアから出ると、ちょうどボルクネスと鉢合わせになった。買い物は既に済ませたみたいだ。
「ジェネレーション、何買ったの?」
「ああ、無線機を買った」
無線機?
意外だ。ボルクネスに無線を使うイメージがない。だって無線機はコミュニケーションのための装置だけど、彼はカードゲーム中以外はコミュニケーションできないわけで、しかもカードゲーム中に無線を使って外部と相談~なんてやれば普通は反則になる。基本的に、ボルクネスと縁がないアイテムじゃないかと思う。
「なんで買ったの?」
「これなら
まだ諦めてなかったのか……。
ボルクネスの澄んだ瞳には……普段はあまり見ることのできない、確かな熱意が燃えていた。
彼は話を続ける。
「掲示板が使えれば画像も貼れて一番いいんだけど、流石にフィロジオルーム内での使用はレギュレーションで禁止されているんだよ」
逆に無線はアリなの?
フィロジオを取り囲むルールは結構ザルだった。
ボルクネスはそのあとも、少しばかり早口気味でオンライン対戦のあれこれについて説明した。メガホンについて、メール転送サービスについて、観戦システムについて……。ここまでの労力がなんとなくソリティアを使いたくなったプレイヤー一人によって打ち砕かれるの、酷い話だなあ。
……そうだ、今のボルクネスなら答えてくれるかもしれない。先ほどからの疑問を口に出す。
「ボルクネス、さっき私に言おうとしてたのって何?」
まあ、どうせ大したことではないはずだ。ボルクネスは他者と関わるのが苦手だが、ある程度以上に重要なことを「何でもない」で片付けることはしない。どうせ首筋に虫が止まっているとか、そういう他愛の無いことだろう。そうは思いつつやっぱり気になるので、一応聞くだけ聞いておく。
「ん?ああ」
ボルクネスはいかにも他愛無さそうに返事をして、他愛無さそうに少し考えた後、極めて他愛無くこう答えた。
「君がレッドネームになってるってことを指摘しようとしただけさ」
私は黒死の怨涙を取り出して死に戻りした。