ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
殺すぞーっ!
私は決意した。
リスポーン、周囲を見渡す……ファスティアの宿のベッドの上ね、了解。急いでドアを開けて部屋から飛び出る。チェックアウトだ~!
「ひ、ひっ……!」
おや?チェックイン時点ではカウンターから和やかな態度で接してくれたはずのNPCが、私の顔を見ておびえている。……いやそうか、『レッドネームお断り』の宿というものもある。普通ならレッドネームのプレイヤーが来たのを排除するだけで済むけど、今回はレッドネームじゃないから排除せずに泊めさせたプレイヤーがいつの間にかレッドネームになってチェックアウトしてきた状態、あからさまなイレギュラーだ。
……そうか。
恐怖の色をしたNPCの瞳をじっと見る。それはつい数時間前までは、元気に満ちて私を出迎えてくれた瞳だった。目を凝らすうち、瞳が映し出す私自身すら見える。その顔は、まあなんていうか……悪そうだった。
これが、レッドネームか。
「……ごめんね、これお代」
ちゃりんと貨幣をトレイに置いて、逃げるようにして宿を出た。ちゃりんと小さなドアベルが鳴って、私を追うようにして響いた。
ドアの先には雑踏がある。ファスティアは初心者の街だが、PKの人数はむしろ多い。初手でPKをする人種というものがいるからだ。それもあって、群衆の波の中にはいくつかレッドネームも見られる。私の
……正直、レッドネームを食らうのは完全な想定外だった。
この判定の原因はオトシス……じゃない、第四階層での絨毯爆撃だろう。なんかその場のノリで森に火を放ったけど、よくよく考えてみると私たちの他にも攻略プレイヤーはいるわけで、そこに爆発を起こせば死ぬ奴も出てくる。余りにも当然で逆に見落としていた。
まあ、何というか……悔やんでもしょうがない。一度赤くなったものを戻すのは難しい、返り血のついた服を洗濯するのが難しいのと同じことだ。だったら……むしろ、
私はしめしめと笑う。
……名前が赤い、それは裏返せば
だったら……カルマ値を必死こいて下げるより、むしろ日頃殺さない分を殺しておく方が……
言うなればそう……早押しクイズで持ち点が0だからヤケクソになって回答ボタンを連打する感覚に近い。
「……ふふふふふ……!」
笑みに企みを乗せながら、私は足を踏み出した。
◆
というわけで、ゴスロリを着ている。
なんで?
「お、サイズ的には……ちょっと小さい?」
「まあもともとは幼女向けだからな、許容範囲だろ」
「それもそうか」
私の身を包む黒のドレスは、
私の服装を見ておお~とか言ってるプレイヤーたち……ティーアスたんを着せ替え隊の面々のうち一人が話しかけてくる。当然のようにレッドネームだ。
「いや~助かったぜ、ゴスロリが完成したまでは良いけどなんか使った素材の関係で女アバターじゃないと着られないって言われてさぁ」
「女性
「正直クソ仕様じゃね?」
プレイヤーたちが駄弁り始める。あ、アウェーだ……。私は何をすればいいか見失いつつあった。そもそも着せ替え隊の面々に囲まれてゴスロリファッションに包まれて日傘に覆われている時点で全部おかしい。殺すことを決めたはいいけど、具体的に誰を殺すか決めていなかったのが良くなかった。着せ替え隊はこう見えてもファスティアにおける
何やら黒板を携え、プレイヤーがやってくる。当然のようにレッドネームだ。右手にはチョーク、目元には眼鏡、身体を包むのはスーツ……クランをライブラリと間違えてるんじゃ?
「よし、それじゃあ……簡単な解説を始めよう。俺は『ルティアさんに教わり隊』のモンだ、今回あんたと戦うことになる」
杞憂だった。
教師かと思ったら教師コスだった男が、黒板にチョークで書き殴る。字が汚い。
『賞金狩人一[判読不能]紹介』
なるほど、まずは面子を教えるつもりらしい。
チョークが黒板とぶつかり合う音が聞こえる。まずはティーアスを描いているようだ……え、上手くない?かなり凛々しい感じが出てる。字に対するギャップがすごすぎるでしょ……。速度もすごい、高いクオリティの似顔絵がパッと完成した。
「まず、これがティーアスたんだ」
『ティー[判読不能]スたん』と文字が添えられる。依然として汚い。
「賞金狩人の中でも最速と言われている幼女、着せ替え隊の公式観測では、最後の衣装はビキニアーマーってことになってるが……最近、どうも事情が変わったっぽくてな。着せ替え隊とは別に裏から衣装を変えてるプレイヤーがいる」
ふーん。新大陸でなんかやってるのかな。
……ティーアスには未練がある。ペンペンが奪われた新大陸行きのチケット……あれの行き先を突き止められれば、私はいい加減海を渡れるはずだ。
「名前の由来は『TAS』って説が有力だ。出現率は低い……まあ、せいぜい祈ることだな」
是非ともそうしたいところだ。
「次に、これがルティアさんだ」
再びの似顔絵、やはり上手い。破綻がなく、それでいてどこか躍動感を感じられる。チョークで描かれたマフラーが隠す口元の向こう側には、笑みがあるのか怒りがあるのか。……それを明確に描写していない。
「ティーアスたんほどではないがやはり速い、なんか隠し武器っぽいものを使ってくる。背が高いのもあって最初は男じゃないかとも言われていたが、調査の結果女だと判明した。名前の由来は『RTA』って説が有力だ」
なるほどね……見分けるのは簡単そうだな。
「次に、これがトゥールだ」
チョークが走り始めたかと思ったらもう下ろされている……ついに似顔絵まで雑になった。というか似顔絵ではない。棒人間の領域に到達している……この両手に持ってるのは盾?こんな明確に情熱の違いが感じられることってあるかなぁ。
「なんか盾二枚持ってる、名前の由来は『Tool』らしい、でこれがグリッチで弓矢使いで名前の由来は『Glitch』」
途中でめんどくさくなるなって!
乱雑に『グ略』と書き終えると、男は黒板から手を放してこちらを見た。刹那、眼鏡が光を反射する。
「あとはエースとかいうのもいるらしいが……俺は顔を見たことがないからな、男らしいけど……似顔絵が描けない。名前の由来は『ACE』だろう」
終盤に詰め込みすぎじゃない……?
「……えっと、以上?」
「以上だ」
じゃあ仕方ないや。
そういうわけで、戦うことになった。
◆
「さあ……
教師コスが好戦的な笑みを浮かべ、片手の鞭を地面に叩きつける。え、教師コスで鞭……?やだなぁ。私はやだった。
とりあえず日傘を構えておく。フレーバーテキストを読んだ場合、どうもこの日傘は相手に向けると盾代わりになるらしい。正直期待はしてないけど……とりあえず、相手の行動を
「うおおおお!」
ビンゴ、こっちに走ってきてる。
新スキルその1、「
「よっ」
というわけで、もう片方のダガーを取り出してガガガと地面に穴を空ける。錬雷合金は強く光るけど、日傘は光を遮断するための器具だ。相手に気づかれることはない。
……よし、こんなもんかな。
新スキルその2、「
……なるほど。
「そこか」
足音を聞く。もう少しだ、もう少しで相手が到達する―――方向は既に割れている。あとは、実行するのみ。
「今だ」
新スキル……ではない、
「っと」
相手の背後に移動して、
「えっ」
地面に落ちた丸太につまづき、さらに掘っておいた穴に片足をハメた相手に、
「えい」
毒を浴びせかけたら死んだ。GG。
観戦していた着せ替え隊の面々が湧く。それは多分勝負の決着そのものについてではなく……
んー……ここだっ!
風切り音に囲まれながら、今のうちに新スキルその3、「ステルスアサルト」。これでやってくる賞金狩人は、一撃目まで私にヘイトを向けられない。
推進力が無くなり、地面に激突するギリギリのところで【
さあ……準備は整った。
空間に静寂が走る。さっきまで私がいた場所にやってくる賞金狩人への期待と、さらにその賞金狩人が私を認知して攻撃できるかの疑問。その二つが主な原動力だ。
……。
!来た!
「うおおおおお!」
女性だった。トゥールでもグリッチでもエースでもない。じゃあティーアスかと思った。でも髪の色は銀色だった。じゃあルティア、それも違う。マフラーをしていなかった。
いや、誰?
「……え?」
スクショ音の嵐が吹き荒れる一方で、着せ替え隊の面々もファインダー・インターフェースを覗きながら困惑している。
いや、誰?
「……リングだ」
今の誰?今の誰が言った?
分からない、何もわからない。多分NPCの名前を知れるスキルを持ってるジョブの奴が言ったんだろう。騒めきとスクショ音が生み出す混沌に囲まれながら、リング氏(推定)は何やら……というかリングの由来って何だろう。リング、RING……RNG。
「
今なんて言
私は真っ二つにされて
って?
死んだ。