ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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懸賞金を見繕おう!

 指名手配された。

 は?

 は?という他に無いんだけど、実際指名手配されたものは仕方ない。多分ベヒーモスで殺した人数が思ったより多くて、しかもその状態で街中でもPKしたせいでカルマ値が行くところまで行ったんだろう。

 正直……まずい。指名手配された状態で新大陸に行けるわけがないからだ。例えばこの状態で第八次抽選会に参加したとして、行けるのは船の上ではなく牢屋の中ということになるだろう。

 この状況を打開するためには……やっぱり、懸賞金に足りるだけの額の金を用意し、その状態で知り合いに殺してもらうのがいいだろう。でも……。

 キャラクターウィンドウを開く。ここから懸賞金を見られるのだ。

 

『あなたの懸賞金:10,000,000マーニ』

 

「高すぎィ!」

 

 天へと叫ぶ。一千万はちょっとやりすぎじゃない!?一千万って!私の全財産三十万だぞっていう!オイ!ふざけんなよ!

 しかし、仮想の天が何かを言うことはない。さっき(運営)に懇願メールも送ったけど、1秒足らずでテンプレ自動返信が戻ってきた。「引き続き、『シャングリラ・フロンティア』をよろしくお願いいたします」ではないって。クソ……まあまあ高い割合で自分のせいなのが腹立つなあ。

 

「……仕方ない」

 

 私は空から目を離し、代わりに地べたへ視線を下げた。私がいつも這いつくばっている場所だ……きっと、今回もそうなる。

 ……仕方ない、仕方ないのだ。払うべき一千万はどうしたって目の前にある。私はほとんど何も持っていなくて、このままじゃ全財産を売り払っても足りない有様だ。

 でも。

 フレンドリストを開く。『ログイン中』を示す緑のマーカーたちが、間隔を開けて光を浮かべている。

 私は、確かにほとんど何も持っていないし、持っているものもいつ崩れ去るか分かったものじゃない。ただし、()()に関してはその限りではない。

 

「……やってやる」

 

 呟く。あとは行動するだけだった。

 

 

「倉庫を一つちょうだい。それを置く土地も」

 

「え~?結構強情だねクグリンちゃん、なかなか値が張るんだよ?」

 

「いいから。この前の棺桶……使い捨てにできる程度には安く作れるんでしょ?」

 

「棺桶じゃないよっ」

 

「じゃあ棺桶()()()家!あれにちょっと土地を付けるだけ!今までさんざん私を実験台にしたでしょ!白衣一枚で足りるとでも!?」

 

「……う~ん」

 

「竜災大戦について……詳しく調べたんだけど」

 

「……」

 

「なんでも、ライブラリは建築周りで随分()()()をしてるみたいだね……?wikiまで運営してるくせに。それって―――」

 

「……仕方ないな~!倉庫一つで良いんだよね?それくらいならあげるよ」

 

「ありがとう、ジュゲッキ」

 

「どういたしまして~」

 

 

「廃棄物を処理するみたいな仕事はない?」

 

『その前に聞きたいんだけど、なんかあなたに似た特徴のプレイヤーが指名手配されてるって……』

 

「それね、皆に言われるけど他人の空似でさ」

 

『……わかった』

 

「それで……あなた、プレイヤーなのに密航者の取り締まりをしてたでしょ?ってことは、NPCとのつながりも大きいはず……何か知らない?」

 

『ん~……そうだ、旧大陸の「青」に汚染された土壌を処理する仕事があったはず』

 

「それだ!」

 

『触るだけで死ぬとか評判で、誰もやりたがらないらしくてさ……取りつごうか?』

 

「お願い、パストラット」

 

 

「ドリルについて知りたいんだけど」

 

「別にいい……けど、最近はドリルより刺股(サスマタ)がアツいぞ」

 

「いいから」

 

「……わかった。どんなドリルだ?」

 

「精密さとか自由度の高さとかは要らないから、なるべく深く速く掘れるやつが良いな」

 

「そうだな……クグリン、お前STRはどんなもんだ?」

 

「そんなに取り回すわけじゃないから、重量制限は無視していい」

 

「となると……λはかなりいいドリルだけど効率性では劣るしなあ。αもδもオールラウンダーすぎ……そうだな、ξかτがおすすめだ」

 

「その二つはどう違うの?」

 

「ξのほうがτより広く薄い感じかな」

 

「ん~……まあ爆弾で補助するしτでいいかな」

 

「わかったぜ、いいドリルライフを送れよクグリン」

 

「うん、ペンペン」

 

 

「小切手を作ってほしいんだけど、ドロー」

 

「小切手……?NPCの銀行に行けばいいんじゃないのか」

 

「懸賞金一千万だって、《マッドフロッグ》をオリジンに二体召喚」

 

「完全に信用育成失敗してるじゃん……」

 

「だからプレイヤーに頼むんだよ、印字士(プレスマン)でしょ?《既定条件領域(レゾンデートル)泥濘(スラッジ)》設置、ターンエンド」

 

「まあ……いいよ、俺のターン、ドロー!スペル発動、《空隙分岐》!デッキトップから3枚めくって1枚捨てて残りは戻す!えーっと……なるほどな!《蘇生誕生》で墓地から《マジョリティハウンド》を掬い上げて召喚、さらに召喚時効果で―――」

 

「よろしくね、ボルクネス」

 

 

 いよいよ決行だ。

 サードレマ、外壁付近。かつてレイドモンスター・彷徨う大疫青(だいえきせい)が進撃を見せたその跡には、いかにも有害そうな色合いをした地面が広がっている。その地面のすぐ横に建てられた、いかにも最低限という見た目の掘立小屋に私はいる。

 ガガガガガ。

 そして、「潜行者の穿貫(ベントラボール)」を発動しつつ、ドリルで地面に穴を空けている。……そろそろかな。

 

「起爆!」

 

 どかん、出力を絞った爆風が控えめに土を殴り飛ばし、衝撃波と共に穴がその深度を、そして底部に溜まる闇の濃度を増す。

 ……こんなものかな。

 いくつかの起動スキルと忍術を交え、掘り下げた穴から脱出する。覗き込んでみれば、現実ではまず考えられないような深さの穴が、大口を開けてそこには完成していた。改めて見ると壮観だけど、そう長い間感動しているわけにもいかない。踵を返す。

 

「……さて」

 

 目の前に広がるいかにも有毒そうな色合いをした地面を前に、今からやることを再確認する。……とはいえ、そう難しくはない。()()()()()()だけだ。そういう契約になっている。パストラットを経由することでレッドネームであることを隠して接触したNPCは、処理した土壌の量で報酬額を増やすと言っていた。じゃあ全部やる、それだけのことだ。

 

「……【黒潮】」

 

 取り出した瓶の口から黒雷が現れる。それは私の操作に従ってうねり、土壌を少しずつ移動させ始める。

 本来、NPCが言う『処理』というのは、浄化魔法か何かで土壌の毒を消すことを指しているんだろう。聖職者の掲げた杖から光がとか、そういう感じだ。しかし口から言われていない以上、単に()()()()()()()だけでも『処理』になるはずだ。別の場所とは言っても公共の場所ではダメだろうから、要するに()()()ということになる。

 つまり、この穴だ。

 

「【瞬間転移(アポート)】」

 

 転移魔法を発動。触れた相手を一緒に転移させる効果は、【黒潮】を間に挟んでも有効だ。

 ……私有地の穴に入れると言っても、色々問題は付きまとう。汚染土壌を一纏めにしたスポットにはシステム的な維持費がそうとうかかるし、場所が変わっただけで結局発生する魔力が変わらない以上、そのうち何かの問題を引き起こしてNPCに目を付けられることになる。非常に短期的な解決でしかない。

 でも、それでいい。

 どさり、どさり。名目上は『倉庫』となっている壁と屋根の集合体、その内部の穴へと毒土が落ちていく。しばらくこの『どさり、どさり』は続くことになる。MP回復ポーションを片手に、私はそれをただただ進める。

 ボルクネスに書いてもらった小切手……処理作業の報酬から出された一千万マーニ。その価値をそのまま有するそれを、倉庫の壁に貼り付けておく。

 

 

 というわけで今から死にまーす!

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

 彼らは何だかんだ約束は守るので、私の落とすアイテムを掠め取ったりはせず、ちゃんと返してくれるはずだ。指名手配犯である以上キルぺナもつかないはずだし、特に向こうに不利益はない。

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

 ……指名手配されたプレイヤーが殺されると、そのプレイヤーの私財は差し押さえられる。所有権を持っている場合、当然倉庫も差し押さえの対象だ。

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

 差し押さえられた物品の価値が懸賞金に届けば、特にそれ以上の支払い義務は生じず、レッドネームは解消される。ここで重要なのが……価値計算において、()()()()()()()()()()()ということだ。

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

 つまり、私がこのまま殺されれば、あの倉庫の中にある二種類の存在、『汚染土壌』と『一千万マーニ』は両方NPCの物となり―――

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

『汚染土壌』は()()()()()、『一千万マーニ』だけが返済に充てられる。

 着せ替え隊の人がこちらに迫ってくる。

 つまり、そういうことになる。

 着せ替え隊の人が私をぶっ刺した。

 赤のポリゴンが視界を染めて、その様はまるで散りゆく花びらのようで。

 私は、勝利を確信した。

 勝利を確信しながら、死んだ。

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