ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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今度こそ密航をしよう!

 張り詰めた緊張感が漂っている。

 周囲に存在する要素を列挙してみよう―――高度なグラフィックで描画された、澄み渡った空。砂利一粒一粒に至るまで緻密に描画された、広がっていく地面。流れていく雲。並ぶ街並み。沈黙して()()()()()プレイヤーたち。ペンペン。筋肉質の男。NPC。―――そして、『第八次新大陸開拓船抽選会』ののぼり。

 このゲームに三隻(基本的に新大陸に停泊しているトルヴァンテ・ディスカバリエを含めれば四隻)存在する開拓船は、基本的に三隻合わせて運行される。大陸間移動に一週間、貨物の積み下ろしなどでそれぞれ二日ずつ所要するから、18日に一度のサイクルで帰ってくることになる。定員は図体の割には少なく一隻あたり400人ほど、つまり一回のサイクルで1200人が輸送されるから、一日で平均するとだいたい67人のプレイヤーが新大陸に行けていることになる。いや67人って。プレイヤー3000万人のゲームではないでしょ。実際は出戻り組とかいるからもっと少ないしさぁ……。

 ……さて。1200人といっても、新大陸行きの正規手段……つまり遠路はるばるフィフティシアまで到達し、さらにギルドからお墨付きも得た十分な実力を有するプレイヤーは、そのうち1199人にとどまる。その中にたまたま紛れ込んでしまった、ギルドからお墨付きを得られなかったり、得られてもクラン未所属のせいで優先順位が低いと判断されたり、お墨付きを得られなかったうえにクランにも未所属だったりする一人のプレイヤー……それを決めるのが、この『新大陸開拓船抽選会』である。

 開催地はフィフティシアだ。

 ……な~んかさ、なんかおかしくない?っていう。いや抽選会を開いてくれるのは良いし、定員が少ないのも最大限努力した結果だろうから良いよ。でも開催地がフィフティシアって何?みたいな。だってフィフティシアに到達してる時点で開拓船に乗るだけの実力はあるわけじゃん。それでも敢えて抽選に来るっていうのは……つまり、正規の手段が使えないめんどくさい奴ってことじゃん!いや私もだけどさぁ!なあ!実際抽選会で赤ポリゴン()を見なかったことってないし!もうちょっとこう……魔境っぽさを減らす努力をしたほうが良いんじゃない!?

 ……おっと、気が散った。

 どうやら、緊張から思考が加速しているみたいだ。でも……緊張なんて、本質的には必要ない。ここまで外れに外れたんだ、流石に次は私が選ばれる……確実と言っていい。だって七回外れたし。だから必要ない。深呼吸すらしないで良い。ただ平然と、起こるべきことが起こるのを眺めるだけなのだ。

 手渡された整理券を弄びながら、私は新大陸で何をするか考え始めた。

 

 

 というわけで、密航することになった。

 

「……あれ、ボルクネスは来るって話じゃなかったか?」

 

 ペンペンが囁く。今日の彼はヌンチャク装備、腰に提げられた鎖と鎖がぶつかり合って、月光を照らし返しながら、じゃらじゃらと小さな音を上げる。隠密のスキル補正で隠されているからいいものの、基本的に密航に向いた装備とは言えない気がする。

 ……まあいいや。ちらっと手元を確認したあと、答える。

 

「ボルクネスは来ないよ……フィロジオプレイ中の無線使用は禁止だったんだって」

 

 しかも伝書鳥(メールバード)を送ってもリヴァイアサン内で受信できないようになったらしい。まあ冷静に考えると二秒で海を越えられるっておかしいし、たぶん下方修正が入ったんだろう。

 ボルクネスのメンタルは、せっかく手に入れた無線が不発に終わって罅入り状態だ。

 ペンペンが怪訝そうに聞いてくる。

 

「当たり前では……?」

 

 当たり前だわ……。

 まあ、それはさておき密航だ。

 基本的に前回とやることはそう変わらない。迫撃砲と錬雷合金で適当に注意を惹き、忍術を交えてササっと侵入する。

 ……やっぱり、これだけ手際よく侵入できる私が新大陸に行けないのはおかしい気がする。上忍はともかく錬金術師は持ってるわけだから、薬剤士ギルドのほうに頼めば推薦状を書いてもらえる……はずなんだけど。まあ、ちょっと()()()()()側面はあると言わざるを得ないかもしれない。ヒントは賢者の石、市場価格、禁忌。

 

「……はぁ」

 

「どうした?潜入中にため息つくなよ」

 

「なんでもない」

 

 まあ、そんなことを言っていても始まらない。今度こそ密航を成功させて、さんさんと太陽が照り付ける新大陸の大地を踏みしめ、新たなる冒険を始めなければならないんだ。

 私は改めて深呼吸をすると、再び闇夜に溶け込んでいった。

 

 

 船倉には先客がいた。

 静寂が広がる中、私たちと彼らは顔を見合わせる。それは十数人のプレイヤーたちで、まさに密航に向けた長期的な支度をしている最中のようだった。船倉に広がる沈黙は異様だ。誰もが驚き、「えぇ~!?」なんて叫びたくもなりながら、しかしそれをしたら終わりだと理解して、必死に驚愕を抑え込んでいる。

 

「あ、あんた、ら……」

 

「十数人……えっと、とりあえず……その、敵では、敵ではないから。ね?」

 

 手のひらを突き出して宥めるポーズ、ついでにちらりと手元を見る。

 相手も私たちがパストラット(形容詞)ではないと理解したようだ、暗闇の中でも安堵が伝わってくる。

 

「ああなるほど……えーっと、『クグリン』さんと『ペンペン』さん?どれどれ……」

 

 こいつ絶対掲示板見てるな、私は思った。

 

「えーっと……あれ?テンプレ入りしてる」

 

 しかも晒しスレかよ!

 会話中に晒しスレを開いて相手を検索し始めるというかなり不届きなことを平然と行ったプレイヤーは、引き気味に言う。

 

「な、なかなか……有名(害悪)、みたいだね」

 

「あー……まあ、色々名前が知られる(悪名が轟く)機会も多いですからね」

 

「既存マップにトンネルを掘ってたとか、書かれてるけど」

 

「まあ、良くあることですよ。最終的に生き埋めになりましたけどね……はは」

 

「は、はは」

 

「ははははは」

 

「ははははははははは」

 

 狭く薄汚い船倉の中、不気味な笑い声が辺りを埋める。まずい、空間の正気度がどんどん下がっていく。一度場を和ませないと……私は手元をちらりと見ると、進言した。

 

「あー、何です……見たところ皆さんはこのまま出航まで待機するつもりみたいだし。お茶でも」

 

「い、頂こう……かな」

 

「じゃあ、創りますね……」

 

 インベントリからいくつかの材料を取り出し、錬金術でパッと茶葉を生成。こういう時に雑に便利なのがいいところだよなあ……。あとは水とカップを出して―――

 ―――殺気。

 

「【空」

 

 背後だ、背後から何かの攻撃。バレたか?結ぶ必要のなくなった印を省略し、

 

「蝉】!」

 

 忍術を発動して回避する!振り返りはしない、答えはわかってる……!

 

「……悪いけどよ、クグリンさん」

 

 ついさっきまで不気味に笑っていたはずの男が、一転していかにも悪そうな声色を使い始めた。いいね、そっちの方がよっぽど似合ってるよ。

 

「あんたは……どうも、ことあるごとに悪巧みをして、ことあるごとに失敗してるみたいじゃねえか。トンネルでも生き埋めになったんだろ?」

 

 第二撃、見つかってはならないことを考えると、連中の武器は小型の刺突系……ナイフあたりか。つまり攻撃範囲はそう広くない、対策の打ちようはいくらでもある。

 男が続ける。

 

「俺たちは―――あんたらの道連れになって、溺れ死にたか無ぇんだよ」

 

 ……そっか。

 それじゃあ。

 第三撃がやってくる。私はそれを【瞬間転移(アポート)】で躱す。

 ―――仕方ないな。

 私は手元を見た。そこにはレベルアップによって増えたアクセサリースロットを使い埋めて、小さな()()()が取り付けられている。

 

「パストラットぉーーーーっ!」

 

 私は友達の名前を呼んだ。

 海に捨てられたくないなら、海に捨てる側に回ればいい。……それだけの話なのだ。

 

 

「助かったよクグリン、おかげで無法者を一掃できた」

 

 パストラットが柔らかに言う。彼女は意外に接しやすいタイプだ。

 

「礼はいらないよパストラット、それより……」

 

 暗闇の中、響き渡る自分の声を感じる。数日後には新大陸で発せられている声だ。

 

「ねえ、約束してほしいんだ。協力したんだし、私を生身で海に捨てたりしないよね」

 

 それは確認だった。パストラットはルールを重んじる、それは自治厨と言う事でもあり、約束を絶対に守ると言う事でもある。ここで指切りげんまんの一つもしておけば、絶対に破りっこない。

 ここで拒否してきても、協力してやったのにそれでは虫が良すぎるだろうと切り返せるはずだ。抜かりはない……さあ、肯定するんだパストラット。

 

「うん、その点は心配しないで」

 

 やったああああああああああ!

 周囲に広がるのは暗がりに他ならなかったが、私の心は明るいことこの上なかった。踊り出そうとする体を制止する。

 パストラットが口を開く。今度はどんないい知らせかな?

 

「生身じゃなく、ちゃんとボートもつけるから」

 

 海に捨てられることになった。

 

 

 クソがァーーーーッ!!!!

 私は吠えた。

 

「うるさいぞクグリン……」

 

 狭いというほどでもないが広いというほどでもないボートの上、設置されたセーブテントを挟み、反対側に寝っ転がっているペンペンが苦言を呈する。

 でもさあ!でもさあ……!

 

「まあアレだ……物は考えようだろ」

 

 というと?

 

「なんだかんだ言って、漁船に同乗して新大陸いけますみたいなクエストもあるにはあるらしいじゃん」

 

 ふむ。

 

「出航から結構な時間を稼げたし、ここから餓死ループしてればワンチャン新大陸行けるんじゃないか?」

 

 ……確かに……!

 やはり私は間違っていなかったみたいだ。確かに、眼前に広がっている雄大なる青の海原は、一見して果てなど持たないように見える……でも、それにしたって終わりはある。深海のモンスターはヤバいらしいけど、逆に言えば浅瀬のモンスターはショボいってことだ。何ならそいつらを狩って食料にするのもいい。

 ……イケる……!!

 

「……ありがとうペンペン、確かにその通りかも!もうちょっと頑張って―――」

 

 アナウンスが走る。

 

真なる(The Truth)竜種(Dragon):No.VII』

 

Advantage(アドバンテージ)

 

『参加人数:二人』

 

『竜狩りが開始されました』

 

「み……」

 

 ……。

 クソがァーーーーッ!!!!

 私は叫びながら、前方に脈絡もなく出現した謎のレイドモンスターを睨みつけた。

 風雨もないのにやけに強い海波たちが、私たちの将来を暗示しているようだった。

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