ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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買い物に行こう!

「ペンペン!()()()だ!こいつ、私たちの攻撃を()()()してくる!」

 

「マジ!?試してみるか……えい」

 

「ほら二倍の長さのヌンチャクで殴り掛かってきた!」

 

「危ねっ!」

 

「どうするこれ!?テントもさっきの爆発で壊されちゃったしさあ!」

 

「そうだな……よしクグリン、お前自爆しろ!」

 

「はぁ!?」

 

「倍返しってことは自分へのダメージも倍になるんだろ!?つまりお前が手持ちの爆薬全部使って自爆すれば、こいつはその倍の爆発を起こす!1たす2で本来の3倍の威力を期待できるぞ!」

 

「なるほど!よっしゃ自爆だー!」

 

 

 リスポーンした。

 

『称号【竜殺の夢想者】を獲得しました』

 

 やったあ、なんか出たぞ。

 ……ただ会っただけで称号が手に入る。それは、あの『真なる竜種』とかいう謎のカテゴリが……相当に、強大かつ重要に設定されていることを意味している。でもあいつ、その割にはそこそこ倒せそうだったっていうか……自爆がクリーンヒットしたらワンチャンあるんじゃないの?

 ……まあ、ペンペンを待ってみよう。討伐に成功したなら、無線なり伝書鳥なりで連絡が入るはず。しかし目の前にリスポーンしてきたペンペンのアバターを見て私は考えを変えた。

 

「えっもう死んだの!?」

 

「うん……」

 

 ペンペンは申し訳なさそうに項垂れた。

 微妙な空気が流れる。

 名前も知らない小鳥の囀りが風に乗って、宿屋の窓の外に広がるフィフティシアの街道を通り過ぎる。その高い音が、どうしてだか耳にこびりつく。

 何かに助けを求めるように手元のヌンチャクを弄びながら、ペンペンは口を開く。

 

「倍は倍でも、さ……」

 

 じゃらじゃらと、金属のぶつかり合う音が室内に響く。

 目をそらすような素振りを見せながら、彼は二の句をついだ。

 

「……()()が、倍だったんだよね……」

 

 爆発に巻き込まれて死んだらしい。

 ……会っただけで称号が手に入るだけのことはあるね、どうやら一筋縄ではいかないみたいだ。

 

「よし、ペンペン」

 

 私の呼びかけに呼応してペンペンが顔を上げ、頭上のプレイヤーネームが揺れる。カーテンの先を眺めながら、私は言った。

 

「ショッピングに行こうか」

 

 そういうことになった。

 

 

 ここ最近の私は、レッドネームとか賠償金とか密航とかでごたついていた。そのせいで、せっかくベヒーモスに到達したのにパストラットと通信するための無線しか買っていなかった。……しかし、もう忙しいのも終わった。そしてベヒーモスの品揃えはかなり豊富だ、利用しない手はない。とりあえず、最低でもチェストリアは入手しておきたいところだね!

 しかし入手できなかった。

 

「5億マーニだよっ」

 

「はぁ?」

 

 戦術機売り場のほうに行くというペンペンと別れ、しばらく歩いて辿り着いた先。そこで、チェストリアは売り切れていた。ふざけんなこのゲーム売り切れの概念あるのかよと思ったら、「象牙」から「ちょうど数十分後に在庫補充が来るタイミングですよ」と教えてもらったので、待っていた。待っていたらコレだ。

 プレイヤーの頭上には半透明で『背後の一撃』の文字列、赤くはない。『背後の一撃』……?普通3000万人がプレイするサブキャラ不可の大傑作VRMMOをプレイ開始するにあたって『背後の一撃』なんてPN付けるか……?いや、これは多分印象を引くためのものだ。現に私もその裏にある真意を汲み取ろうと少し考えてしまった。多分こうして頭に名前を刻んで、後々の諸々をやりやすくするための行為だろう。

 背後の一撃……ええい紛らわしい。()()()()()、あるいは在庫補充の瞬間に閃光玉的な何かを投げ込み、人々が混乱している間にチェストリアを()()()()()彼女は、端正な顔立ち(メイキング)を動かして、まるで私が話を理解していないバカであるとでもいうように、指を振る仕草と共に言った。

 

「だ~か~ら、5億マーニだって!5億マーニくれれば、チェストリアを渡してあげるよ!」

 

 よくわかんないけどカスであることに間違いはない。殺すか?いや、でも……私はちらりとハゴノイゲの手元を見る。左手首に三つ、右手首に四つ腕輪を嵌めている。アイテム名はわからないけど多分アクセサリー、つまり彼女は最低でも七つのアクセサリースロットを持っている。レベル120を超えている、ということだ。今殴り掛かってもきっと勝てないだろう。

 ……いや、本当に勝てないかな?純生産職ならワンチャン行けるんじゃない?

 一回試してみよう。私はダガーを取り出した。空間を迸る紫電が派手なエフェクトをまき散らし、迅速なる一撃を彼女の胸部に向けて放つ。

 

「残念っ」

 

 が、弾かれた。なんだ?剣が浮いてる。後ろにも五本、手元に二本。オッケー二刀流剣聖ね……レベル120超えなら剣を七本+二刀流で一本くらい持ってることについては不思議じゃない。でもその剣が常時()()()()()()()()()のは明らかに不思議、ちょっ!?足元への攻撃を咄嗟に跳んで避ける。効果音が隔てる先に手首を見れば、七つの腕輪は七つとも光っている。もしかして……これ()()()()()()()()!?チェストリアを七つ装備することで()()()()()()()()()()()ってこと!?で……うわぁっ!?頭を正確に狙った一撃、【空蝉】で回避する。で、八つのウィンドウを全部操作することで剣を切り替えまくる!?

 

「バカじゃないのぉ!?」

 

「あんたがね!」

 

 スキルエフェクトを伴って三本の剣が同時に殺到、ハゴノイゲはどうやら、軽くて飛ばしやすい剣で動きの部分を担当させて、対象に直撃するタイミングギリギリで威力がデカい剣にチェンジする方式を取っているようだ。つまりこの剣たちも、もうすぐ炎とか雷とか死のオーラとか纏ってるヤツに変わる……ということになる。

 

「だったらぁ!」

 

 切り替えエフェクトの発生を見計らい、手を伸ばす。

 インベントリと装備を切り替える瞬間、対象の武器はコントロールを外れ、装備しているわけでも仕舞っているわけでもない、ニュートラルな状態を取る。

 そして、上忍は()()()()()()だ。

 

「えい」

 

 というわけで、私は相手の武器を盗んだ。

 

「はぁ!?」

 

 ハゴノイゲの驚きが聞こえ、そこから動揺の波が広がるように、剣たちの動きが少し乱れる。実際、普通ならまずあり得ないようなことだ。ハゴノイゲがバカみたいな量のチェストリアを同時に持ってて、しかも装備枠として盗んだ剣が入っていないのが大きい。とにかく、今がチャンスだ!

 

「やっ」

 

 さらに剣を盗む。盗む。盗む。すぐに新たな剣が取り出されるはずだけど、だから何だという話だ。冷静に考えるとチェストリアなんて次の在庫補充の時に買えばいいしね!それよりこいつから一本でも剣を奪わないと!

 私は目的を見失いつつあった。

 おや、新たな剣は出さないの?だったらここで死ぬんだなァーーーッ!!

 

「ちょ、タンマ」

 

 なんですか?

 

「オッケー、あなたがそれなりに()()のはわかった。だからそれに免じて……」

 

 お、無条件でもらえる系!?無条件でもらえる系かな!?

 

「4億マーニにしてあげるよ」

 

 バカにしてんのか?

 実際、確実にバカにしていた。

 ……とはいえ私だって、目の前のカスをぶっ殺すことで話が解決すると思っているわけではない。チェストリア内のアイテムは基本的に安全だから、チェストリアにチェストリアを入れればチェストリアそのものも安全になる。PKしたところで奪えはしない。

 

「ねえ、もうちょっと安くならない?」

 

 というわけで、私は根切り交渉に踏み出した。

 チェストリアが要求するリザルトは多いには多い。でも5億という価格設定は明確にぼったくり、1億でも高いくらいだ。

 

「ん~……そうだね」

 

 ハゴノイゲは視線を怪しげに遊ばせ、品定めするようにじろじろと私を見る。

 ベヒーモスのSF然とした幻想とは程遠いデザインの中、時間だけが平等に過ぎていく。

 

「よし、3億5000万」

 

 ……まだいける顔だ。

 

「ちょっとぉ~吹っ掛けすぎだって!20万にしてよ」

 

 私は相手が吹っ掛けていることを咎めながら吹っ掛けた。

 

「何言ってんの!3億までしか負けないからね!」

 

「なんだと~!?でもこのさっき盗まれた四本の剣を見ても同じこと言えるかな!?」

 

「う~ん……2億8000万!」

 

「200万!あのさあ、考えてみてほしいんだけど……2億8000万もあって何するの?っていう。いや5億の時点でそうだったけど」

 

「え……美味しいもの食べるとか?」

 

「そんなの200万で十分じゃーん!」

 

「……あれ?」

 

「ね、200万にしよ!」

 

「私って、どうしてゲームを遊んでるんだっけ」

 

 どうも意図せずして精神攻撃に成功しつつあるらしい。ハゴノイゲは自分がこの世界に存在する理由を自問し始めた。

 彼女の頬を涙が伝う。

 

「そう……確か。最初は、冒険をして、それが楽しくて。剣闘大会に優勝できた時は本当にうれしかった。でも」

 

 ……レベル120を超えている。買い占めができるだけのリザルトを用意できる。それは、彼女が普通のプレイヤーとして活動していたころの積み重ねあってのものだ。

 仮想世界の涙がぽろぽろと零れ落ちて、その一粒一粒が冷たい照明を受け、ささやかに反射光を浮かべた。

 

「……どうして。どうして、私はこんなことを……!」

 

 ……結構思い詰めてるみたいだ。ちょっとアクションを切ってみよう。

 

「……大丈夫だよ」

 

 私は口にした。

 

「え……?」

 

「『あなたは何のためにゲームをしますか?』なんて質問に答えはないでしょ?ゲームってそういうものじゃん。例え貴重アイテムを転売するクソ害悪プレイスタイルでも、システムが許す限り存在できると思うよ」

 

「……そう、だね」

 

 ハゴノイゲが涙を拭く。どうやら、私の助言は伝わったみたいだ。両手首の腕輪たちの表面に露出した回路が、やけに光って見えた。

 私は彼女が立ち直ったのを確認すると、笑顔を作って改めて言った。

 

「というわけで、2万マーニにしてね」

 

 余ったリザルトは何に回そう。

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