ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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銃を買おう!

 リザルトの使用結果(リザルト)は割愛する。

 まあなんというか、大したものは買ってない。ドレッセリアの装着時エフェクトは何かの悪巧みに使えそうな気がしたけど、普通に考えて使い道が思いついているもののほうが優先されるべきだ。フライングディスクにはガレージリアが必須だった。そういう風に候補を狭めていった結果、メガホンとか水鉄砲とか、そういういかにも微妙な感じのものばかりが揃うことになった。

 だけど……一つだけ()()がある。

 

「銃だァーーーーッ!」

 

 手に握り、天(井)に掲げたのはフルオートライフル、名前は『AZZ-282』だ。魔力弾規格42口径、全長857ミリで銃身長170ミリ。特筆すべきはその変形機構で、スイッチを切り替えると銃身部が変形し、同時にホログラム・スコープが出現する。これを覗けばスナイパーライフルに早変わり、ってワケ!いや~~いい買い物をしたね!満足!

 しかしペンペンは満足ではないようだ。

 

「え、『AZZ』買ったの?」

 

 彼は私と落ち合うなり、露骨に顔をしかめてそう言った。

 ……なんだこいつ?

 私はイラついた。魔力弾規格42口径、全長857ミリで銃身長170ミリ。特筆すべきはその変形機構で、スイッチを切り替えると銃身部が変形し、同時にホログラム・スコープが出現する。これを覗けばスナイパーライフルに早変わり、ってワケ!いや~~いい買い物をしたね!満足!というところに急に現れて顔をしかめてんじゃねーよ、という気持ちがあった。そこはお前も一緒にいや~~いい買い物をしたね!満足!すべき時だろ、と思った。

 

「……それがどうしたの?」

 

「あちゃー……」

 

 あちゃーって何!?

 ペンペンはやっちまったなとでもいう風に頭に手を当てる仕草をした。あちゃーって!あちゃーってお前!張本人の前であちゃーって口に出すことある!?そんなんだから新大陸に行けないんだよ!

 ……しかしそれはそれとして、どのあたりがあちゃーなのか知りたいという気持ちもある。

 私は渋々聞いた。

 

「えっと……何かダメだった?」

 

「いいか?クグリン。まずこの銃は微妙だ。そもそもモードチェンジがある銃ってのは基本的に微妙なんだよ」

 

 ペンペンがぺらぺらと早口で言う。

 ……もう少し歯に衣を着せてほしい。

 

無限インベントリ(チェストリア)が存在する以上、一つの銃のモードを変えるより役割の違う二つの銃を持った方が楽だろ?モードチェンジ機構が不要になる分威力も上がるしな」

 

 い、一理ある……。

 しかし反論しないわけにもいかない。私はどうにかしていや~~いい買い物をしたね!満足!を手放さない方法を探していた。

 藁にもすがる思いで反論を捻りだす。

 

「で、でも……装弾とか、銃と銃の切り替えとかさ。二つ持つことによるデメリットもあるわけじゃん?一概に……」

 

「それに加えて、だ」

 

 まだあるの!?

 ペンペンは手近なショッピング・コンソールに近づくと、慣れた手つきでそれを操作した。落ち着いたインターフェースの間をすいすいと移動し、『検索』画面で文字列を打ち込む。

 

「この銃と、この銃を見てみろ」

 

 うん……?

 一方の銃は狙撃銃(スナイパーライフル)、もう一方の銃は突撃銃(アサルトライフル)。二つはそれぞれ、AZZ-282の六分の一ほどの価格で……んんん?

 

「これ、合体すると……」

 

「ああ。『AZZ』はな……既存の二つの銃を()()()()()て売ってる、地雷モデルなんだよ……!」

 

 私はおもむろに黒死の怨涙を取り出して死に戻りした。

 一人にしてほしい気分だった。

 

 

 ばん、ばん、ばん。

 静謐とした神話の大森林、天光が漏れ出す緑の天井の下。木々に分かたれた空間を、轟音がいくつも走り抜ける。

 私がカメレオンを撃ち殺している音だ。

 

「うぇ、うぇえ……」

 

 私は泣いている。泣きながら、透明化能力を行使したカメレオンに銃口を向け、思ったより大きかった魔力弾の反動をその身に受けながら、手元のAZZを連射している。何もないように見える場所から紅のポリゴンが散る。透明化能力は銃の前に無力だ。

 あ、弾切れた。

 

「くそぅ……」

 

 涙が見下ろした銃身を濡らす。弾倉を持つ手が哀しみに震える。リロードがうまくいかない。私は正体不明の悲壮感に包まれていた。

 客観的には、ただ本来の三倍の値段で微妙な銃を一丁買わされただけなんだけど……それがなんだか取り返しのつかないような、酷く苦しいものに思えた。

 ……誰かと話したい。

 それはあまりに身勝手な欲望だった。ついさっき一人にしてほしくて自殺したばかりなのに、今度は孤独の埋め合わせを求め始めていた。

 

『最近どう?』

 

 とりあえず、適当に……フレンドリストのログインマーカー点灯勢のうち、ついさっき目の前で自殺したペンペンと、コミュニケーションができないボルクネスを除いて……ジュゲッキとパストラットに、そんな伝書鳥を送ってみる。

 

「ピィーッ!」

 

 隼は飛び立ち、森の静寂が再び戻る。

 ……返事が来るかはわからない、とりあえず時間をつぶしてみよう。私は涙をそのままに、落ち葉の彩る地面に座り込んで錬金術を始めた。完全に情緒が不安定になっていた。

 えーっと、ついさっき手に入れたカメレオン素材をこう加工して……。

 いろいろな音が、銃声に代わって森を走る。

 ……できたぞ、透明な玉!中に調合物を詰めて使おう!

 ……。

 

「透明だから何なんだよクソ!」

 

 私は透明玉に爆薬を入れて放り投げた。玉は偶然にも木々をうまく避けて進み、結構遠くのところで着地する。爆音が轟き、緑の中で赤が炎光を発し始める。どうやら火事が始まったらしい。そうだそうだ、この調子でこんな世界燃えちまえ!

 

「クソーッ!クソーッ!」

 

 投げる、投げる。一つ投げるたびに爆音が一つ重なって、炎の自然への浸食が強まる。まあこのゲームは神ゲーだし、きっと何かしらの形で鎮火することになるんだろう。私の怒りとは、結局その程度のものなのだ。実際、なんか投げてるうちに落ち着いてきた。冷静に考えると、三倍で買ってたのが分かったというより三分の一で買う方法を見つけたという方が近いし。ここから買い増せばまだ逆転できるんじゃないのぉ~!?

 

「あはは、クソーッ!あはは、クソーッ!」

 

 投げるのが楽しくなってきた。火事によって上昇した温度で涙も乾いた。私は一向に帰ってこない伝書鳥のことも忘れ、森への放火をさらに進めた。

 その時だ。

 ぱち、ぱち、ぱち。

 

「……ん?」

 

 背後から、拍手の音が聞こえる。

 私は振り返った。その先には、眼鏡を掛けた一人のプレイヤーがこちらへと歩いてくるのが見えた。女性アバターだ。その目元は、燃え盛る炎を反射するレンズが隠してしまっている。歩みに合わせて上下する頭上の名前は赤く染まっておらず、『バッド・ク・ラフト』と、そう主張する。

 ぱち、ぱち、ぱち。

 

「素晴らしい」

 

 続けられる拍手の音は、ごうごうと火が燃える中にあって、なおも存在感を帯び辺りに響く。よくわからないけど私のことをほめているみたいだ。とりあえず謙遜しておこう。

 

「プレイヤーネーム……『クグリン』さんですか。あなたの使った()()()()、実に興味深い」

 

 えへへ、それほどでも。

 とりあえず謙遜する私の前で立ち止まり、しかし拍手は止めずにえーっと……()()()()()は言う。

 

「つきましては―――あなたを、爆弾勢コミュニティにご招待したい」

 

 角度が変わり、光を反射することをやめた眼鏡が、何かしらの志に燃えているであろう彼女の瞳を、炎の中に透かして見せた。

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