ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
爆弾勢。
それは鍛冶師掲示板において、つい最近流行しつつある概念だという。意味は文字通り、爆弾の制作を好む勢力を指す。時限爆弾から燃料気化爆弾まで、様々な爆弾を作り出し、色々な場所で爆発させる。爆弾勢というより爆弾魔と言ったほうが正しいのではないかという気もするけど、一応これでも結構ゲーム内産業の発展に寄与しているらしい。
ドクラフトは手持ち無沙汰なのか、右手に握った謎の押し込み型スイッチをカチカチとやっている。爆弾勢コミュニティの話を踏まえると、何かを遠隔起爆しているようにしか見えない。
「さて……たまたまスタート地点は鍛冶師掲示板でしたが、本来、爆弾の生産はむしろ錬金術師系統がメインなはず。そういう方向性の人員を補充しようか検討していたところ」
彼女は私を指した。
「あなたと、あなたの作った透明爆弾に出会ったというわけです」
なるほど。
正直……なかなか胡散臭い、と思った。だって透明爆弾なんてどうせ私以外もやっていることだろうし、歩いていたらたまたま、というのも奇妙な話だ。でも、それ以上についていくメリットが大きかった。コミュニティと言っているけど、話を聞いた限りやっていることはクランに近い。そして、鍛冶師掲示板で盛り上がってるようなヤツは大抵もう新大陸に到着しているはずだ。つまり、どこかのタイミングで「大陸を挟んで爆弾のやり取りするのめんどくさくね~?」みたいな話になる。で、新大陸に連れて行ってもらえる……紹介状とか書いてね。この船に乗っておけば勝てる、私は確信していた。
なので、ドクラフトに言った。
「わかった、参加する。まずは何をすればいいの?フレンド登録かな」
ドクラフトは、にっこりと笑ってこう答えた。
「フレンド登録は必要ありません。まずは、会費を払うところからですね」
スイッチが押される音が響く。
爆弾勢コミュニティは月額制だった。
◆
懸賞金を払うときに生じた若干の差額で普通に払えたけど、月額20万ってまあまあ高くない?相場知らないけど。
まあいいや。
ドクラフトのスイッチが鳴る音をBGMに、私は爆弾勢コミュニティの顔合わせに来ている。
工具姿の少女アバターが、ニコニコと握手を求めてくる。身長が私より低いので、結果として見上げる形になる。
「あなたがクグリンさんですね!僕は
プレイヤーネームはともかくとして、こうやって褒められると悪い気はしないね!
打稲魔糸が興奮した様子で続ける。よく見たらレッドネームだ。
「晒しスレで!」
「ライン越えでしょ!」
悪い気しかしねえ!
掲示板から集まったせいか、彼らは面と向かって掲示板の話をすることに抵抗がない。
「ライン?ああ、導火線は頑丈にしないとダメですよね」
しかもコレだよ。
打稲魔糸は晒しスレの話をやめ、今度は以前自爆テロをしたときに導火線の素材をケチったせいでその辺のプレイヤーに炎ごと噛みちぎられちゃって意味なかったんですよねみたいな話を始めた。明らかに導火線の素材だけで解決する問題ではない。
彼の懸賞金返済譚を聞き流しながら、私は手元のウィンドウに目をやる。
……シャングリラ・フロンティア、メール同期サービス。そこに登録した捨てメアドに、毎秒数十通ほどの頻度で
「新大陸のプレイヤーが隕鉄鏡を使い、動画サイトで配信をする。現実で走らせているBotがそれを取得し、20FPSで切り出した後、既定のメールアドレスに送信する。ラグはほとんど無い、音声通信は無線アイテムでやればいい」
このシステムを作り上げたらしい長身のプレイヤーが、三角座りをしながら虚空に向かって説明している。ボルクネスに見せてあげたいなあこれ……いやでも、フィロジオ中は無線アイテムは使えないんだっけ?じゃあ厳しいかな。
思案する私の視界の隅で、隕鉄鏡が瞳を開くのが分かる。マニュアル操作で動くそれは、たぶん
「それでは、会議を始めましょう」
ドクラフトは頷き返し、そう言った。
スイッチの音が、また響く。
◆
一日目。
会議の内容は簡単だ。爆弾の時代がついに来た、拍手喝采。みんなで作って売って作って売ってを繰り返そう、拍手喝采。爆炎の中にしか希望は存在しない、拍手喝采。自己紹介タイム。
一人目、私。錬金術師であり、爆弾というよりは爆薬を作る係。透明被膜など様々な素材を制作でき、爆弾の幅を広げること間違いなし。拍手喝采。
二人目、打稲魔糸。鍛冶師であり、爆破テロの経験多数あり。好きな爆弾は焼夷弾。サーモバリック爆薬の開発をひとまずの目標に掲げている。拍手喝采。
三人目、ラエルカン。長身のあいつね。
四人目、バッド・ク・ラフト。拍手喝采。
会議という名の拍手オンラインが終わると、フィフティシアにある小さなガレージに案内される。ここで爆弾を作ったり、作った爆弾を保管したりするらしい。床はところどころ錆びついていて、コツコツという足音も何やら不安を誘ったが、これくらいがちょうどいいという見方もある。
なかなか面白くなりそうだ。
◆
二日目。
爆薬を作りつつ、作った爆薬がどんな感じで運用されるのかを確認。とりあえず打稲魔糸から二、三個の爆弾を借りてみる。ふむふむ、こういう感じになってるんだぁ……なるほどね。
ラエルカンはよくわからない。口数が少なすぎる。ドクラフトから聞いたところによれば、
時折爆音が響くガレージの中で作業するのは、思ったよりは楽しかった。楽しかったので、活動が終了してガレージが施錠された後も、盗賊と上忍のスキルを使って入り込んで残業してしまった。見ようによっては侵入者でしかないけど、ドクラフトは見逃してくれるだろう。
◆
三日目。
新たな爆弾が完成した……『水中爆弾』だ。これは火薬の衝撃を魔力波に変換する爆弾で、水中で起爆させると水柱が立つ。これと【水滑り】を組み合わせれば……へへ。意図的に必要な素材を少し多めに申告しておいて、余った分をさりげなくチェストリアに忍ばせておく。なあに、バレっこないさ。
コミュニティそのものも順調だ。私の透明爆弾と水中爆弾、そして打稲魔糸の破片爆弾が主力となって、
鍛冶師掲示板を私は見られないけど、伝聞ではそちらも盛り上がっている。なんでも、クラスター爆弾の制作プロジェクトが動いているとか。私たちもそこに参加しようとドクラフトに進言したら却下された。敢えて迎合する理由はありませんとか、そういうことを言っている。しかし言っているだけだったので、それとなくパストラットに伝書鳥を送って取り次いでもらおうとした。しかし返事がない。返事がないなら仕方ないや。爆弾をさりげなく改造する作業に戻る。
◆
四日目。
爆弾の時代が終わった。
◆
「そもそもクグリンさん」
問い詰められている。
何が悪いかというと、何が悪いんだろう。鍛冶師掲示板に現れて、爆弾情報で爆弾勢そのものを爆破してしまったイムロン氏が悪いのだろうか。いやしかし。確かに爆弾バブルは彼女のせいで弾けた側面があるけど、それだけだったら問い詰められることはなかった。単に残念だったね何だかんだ結構収入は手に入ったしもういいや解散、で終われたはずだ。じゃあ、私が悪いのか。
いや、そんなことはないはずだ。
「あなた―――夜に倉庫に忍び込んで、出荷する爆弾に手を加えていましたよね」
うん、そうだよ。だから?
私は肯定した。
ラエルカンは早々にログアウトしていってしまったから、今のガレージには三人いる。私、私を問い詰めるドクラフト、その様を楽しそうに観察する打稲魔糸。この指の動き、さては晒しスレを開いてるな?こいつも、純粋に爆弾を作りたいだけじゃなかったってことか。
「分解してわかりましたよ。機構が組み変わってて……あなたが
新大陸のレイド戦の途中に起爆して、討伐報酬をもらうためさ。
そうバカ正直に答えてやる必要もない。私は言い返す。
「逆に聞くけど。あなたの
このコミュニティは嘘つきだらけだ。
爆弾を純粋に作ろうと、そういう題目があったのに。私は新大陸行きのために利用しようとしか考えていなかったし、打稲魔糸は私をスレに晒したいだけだった。いや、「しか」とか「だけ」ってほどでもない。確かに爆弾を作るのは楽しかった。でも、私たちは絶対に
私の指摘を受けても落ち着いて、眼鏡の位置をずらし、片手のスイッチを押し続けるドクラフトも、やはり爆弾勢じゃなかったのだ。
「……気づいていましたか」
「こんなどう見てもクランでしかないものをコミュニティと呼び、フレンド申請も断った……それって、あなたのプレイヤーネームをシステムメッセージに流さないためじゃないの?」
彼女は雲隠れするつもりだったのだろう。きっと爆弾バブルの崩壊が近いと知って、せめてもの売り抜けをしたうえで、発生する負債をコミュニティのメンバーに押し付け、そのまま夜逃げする予定だったはずだ。
狭いガレージの中で、私たちの声が縦横無尽に響く。
「……それでは、この頭上に存在するはずのプレイヤーネームを、どう説明するというのですか」
「簡単だよ」
私は、彼女の手元のスイッチを指さした。
カチカチという音が止まる。
「それ、
……プレイヤーは、ドレッセリアの装着時エフェクトをカスタムできる。ドレッセリアそのものの形状も、だ。スイッチを連打しているのは、装着時エフェクトを持続させるため。装着時エフェクトを持続させるのは―――。
ドクラフトの頭上で、プレイヤーネームが解けていく。
……本来のプレイヤーネームの上に、偽のプレイヤーネームを
「く、くく……!」
バッド・ク・ラフト……改め。レッドネームの『グロントフック』氏は、掛けていた眼鏡を放り投げると、口に手を当てて笑った。
「バレちまったなら仕方ねェなぁ!」
なるほど、性別反転聖杯ね。
打稲魔糸がいかにも楽しそうにスクリーンショットを連写している。
「ふふふ……そうでなくっちゃ!」
無邪気な声で、そう言いながらだ。
私も責められはしない、みんながこうして、いかにも楽しそうに何かの悪巧みをしているのだ。
「あばよっ!」
グロントフックが、ドレッセリアとは別のスイッチを取り出した。悪巧みの塊のようなスイッチの上に、親指が乗る。何千と聞いたカチリという音が再び鳴って、ガレージの奥から、閃光を伴った爆発が迫り来る。
……なんだよ、あんたも手、加えてるじゃん。
自分のアバターが塵と化すその瞬間に送ったフレンド申請は、怒り狂う炎の壁を前に掻き消えて、受理されたか、受理されなかったのかもわからないまま、世界のどこかへ消えていった。