ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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密航をしよう!

「……よしクグリン、行こう」

 

「了解」

 

 暗闇。

 夜風漂うフィフティシア、港湾区域。囁き合ったペンペンと私は、ゲームゆえに現実より少し性能の良くなった夜目を駆使し、足音を潜め駆け出した。

 あの後何だかんだで意気投合したペンペンに聞いたところ、彼のサブジョブは隠密……私のサブジョブの上忍と同じく、隠れて行動するには持って来いのジョブだ。

 戦巧者/隠密でレベル107、ベヒーモスも攻略済みとなれば、最上位職こそ持たずとも新大陸行きには十分なラインを達成している……はずなんだけど、実際のところ彼は居残り組である。錬金術師/上忍でレベル99の私は、どうしてこうなってしまうのかとため息をつきながら、仮想世界の夜景を駆ける。

 はっきり言うと、密航しようとしている。

 いやだって、普通に考えてそれ以外なくない?って感じあるよね。私は自分を正当化した。どうせクランには所属できないから枠は回ってこないし、抽選は当たらないし当たった奴も最終的に行けなくなった。もはや希望はない。希望がないなら絶望ルートで行くまでだ、例えこれまでに密航に五回挑戦して五回失敗していたとしても、六度目の正直という言葉もある……かもしれない。

 壁際でペンペンが立ち止まる。何か()()()()()()のかな?私も一緒に立ち止まる。

 この間の閃光弾のように、ペンペンはベヒーモスの攻略過程で得た神代製装備をいくつか蓄えている。チェストリアは流石に買えなかったようで、運べる量は隠密というジョブに見合った量になるが、それにしても結構だ。避けて通った街燈を反射して鈍く光る、彼の目元の赤いゴーグル……熱源視認板(ホットスポット・グラス)もその一つだ。

 

「……護衛1。あそこ」

 

「了解。スキル?」

 

「いや、温存」

 

「了解」

 

 短い言葉を交わすと、私はインベントリから錬成品射出用迫撃砲(アルケミック・モーター)を取り出しこっそり設置、フックを繋げた錬雷合金のインゴットを入れる。錬雷合金は私が錬成した合金で、常時紫の電流をバチバチさせているうえ、特定の物質に対し魔力伝導性を貫通してそのバチバチを伝染させる、というはた迷惑な性質を持っている。武器にも使えるが、こうして何かを()()()()()上では……。

 

「発射」

 

 この上なく、便利だ。

 どん、という発射音が響き渡る前に、インベントリに錬成品射出用迫撃砲を仕舞い込む。そして後には、括りつけられたフックともども尋常じゃなく派手に発光しながら夜空を切り裂いていく、怪しげな帯電物質だけが残る。

 

「……どう?」

 

「成功、確認に向かった」

 

「了解」

 

 位置関係から言って、護衛氏はインゴットがこの壁際から発射されたことに気づけない。気づいたとして、発射源より先に発射された謎の存在を確認しに行く方が先決というものだろう。護衛の視界の外にあることを確認すると、私たちはまた忍び足を再開し、開拓船への到達を急ぐ。等間隔に置かれた照明たちが、視界の隅を流れていく。地面に落とされた灯光たちが、私たちをじっと見守っている。

 そんな風に駆けていって、私たちは最終目標地点……すなわち、貨物の積み下ろし場に到達した。

 

「……」

 

 壁越しに熱を視認しながら、ペンペンが指を折って私に人数を伝える。20、21、22……とにかく、静寂のわりに随分いることは間違いない。積み下ろし場といっても現実のコンテナが積み上げられているような豪快なものではないけど、護衛の人数に関してはそう違わないらしい。ここまでいると、謎の帯電物質作戦も使えなさそうだ。

 だったら。

 ペンペンがこちらに頷いてきて、彼の頭上のまだ赤いままの名前が上下する。私も頷く。事前に決めていたわけではないが、それが一つの合図になった。ペンペンが使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)を取り出す。私が静かに印を結ぶ。

 

「……【迸る雷律(スタンビート)】」

 

「……刃隠心得、【朧隠(おぼろなばり)】」

 

 朧な照明にすらかき消されてしまうような、恐ろしくか弱い雷線が空を裂く。そして私が、その細々とした黄色に同化して、沈黙を保ったまま貨物の積み下ろし口へと駆ける―――いや、ここは()()と言うべきだろうか。到達と同時に使い捨て魔術媒体を()()取り出す。

瞬間転移(アポート)】。

 私は、視線だけ通していた入り口に入り、

引寄転移(ジョウント)】。

 更にペンペンを()()()()()

 

「……」

 

 歓声を上げたくなるところだけど我慢だ、私たちは外と同じように、声を殺し、足を忍ばせて船倉を歩く。月明かりもなければ街燈もない、本物の暗闇がそこにはある。

 

「…………」

 

 進む。進む。並び立つ貨物たちを潜り抜け、船倉の最奥へと向かう。

 

「………………」

 

 そして、たどり着いたそこで出航を待つ。

 出航前の時点では、新大陸開拓船……今回の場合リーバイオスヌ号は()()()()()()として判定される。つまり出航前にログアウトしてから出航後にログインしても、アバターが出現するのはリーバイオスヌ号の内部じゃない。かつてリーバイオスヌ号があった海の上に出現して、そのまま下に落っこちちゃうことになる(一敗)。

 それを避けるためには……結局、出航を待つしかない。出航後のリーバイオスヌ号は単独の()()()()()()扱いだから、中でログアウトしてからログインすれば、船内の同じ場所に出現できる。予定時刻自体はわかっているから、別に出航までログアウトしていてもいい。しかし用心は常に重要、出航を予定より1時間早めますなんて言われたらその時点でアウトだ(一敗)。結局、その場にとどまるのが最も安全なのである。

 

「……………………」

 

 そういうわけで、私たちは待つ。

 

「…………………………」

 

 待つ。

 

「………………………………」

 

 待つ。

 

「……………………………………」

 

 待つ。

 

「…………………………………………」

 

 待―――。

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおん。

 

「「来たァ!!」」

 

 汽笛信号の音が聞こえた。

 ペンペンと顔を見合わせる。彼の表情は歓喜に濡れていて、それはきっと私の鏡映しでもあった。

 船が加速していくのを感じる。船倉は依然闇に包まれているが、もはやそんなことはどうでもよかった。そもそものゲーム的な補正があるし、二人ともサブ職業の補正で多少眼がいい。さらに、長時間にわたる待機によって夜目も効きに効いていた。

 

「イエーイ!」

 

 二人で跳び上がり、ハイタッチをする。快音が闇を拓くように広がり、着地によって床板が少し軋む。それらは広がる静寂の中に、ある種の賑やかさを提供してくれて……結果、私たちのテンションはすこぶる上がった。

 

「ヒャッホー!」

 

 手と手をつなぎステップを踏んで、よくわからないダンスを踊る。よくわからないといっても、喜びというのは時によくわからないものだから問題ない。私たちの喜びは留まるところを知らず、粛々と進んでいく船の底で、二人の祝宴は一段と……。

 

「……ああ、そこにいたんだ」

 

 誰だ!?

 慌てて手と手を放し、声のした方に首を向ける。そこには、人型のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。頭上の『PastoRat』のプレイヤーネームだけが場違いに鮮明だ。アバターについてはわからないが、とりあえず声は女性のものに聞こえる。

 

「……な」

 

 んで分かったの、そう言おうとした。でも途中で止めた。だって答えは明白だった。彼女ないし彼が顔を触るのを……まるで()()()()()()()()()()()みたいな素振りをするのを、見てしまったから。

 ……熱源視認板(ホットスポット・グラス)

 思えば考えるべきだったんだ。神代製装備は便利で、しかも誰でも購入できる。だったらそれを自分だけの手札みたいに思うべきじゃなかった。でも、それじゃあなんで船倉に入るまでは成功したのか―――そうか、船には熱源なんてごまんとある。熱源を人間と特定するためには……()()()()()()()必要がある。つまりこいつは私たちの密航を知って、そのうえで泳がせていたんだ。

 なんてこった……なんてこった。

 ペンペンと顔を見合わせる。こりゃダメだ、何も考えてない。となると私が……何とか、ここから密航を成功させる方法を考えないといけない。交渉すれば案外イケたりしないだろうか?いや、失敗時のリスクが高すぎる。そもそも密航者を禁ずる理由ってあるのみたいな?しかし相手はプレイヤーのくせにわざわざNPCみたいに密航者を取り締まってるようなヤツだ、何かの反論は考えてるはず。それじゃあ、それじゃあ……。

 そうだ。

 

「……」

 

 私は黙ったまま、堂々と足音を立ててパストラットに近づいた。至近距離で見れば簡単で、彼女のアバターはどう見ても()()だった。背格好はだいたい同じ、結果として視線は同じ高さとなり、完全に見合った状態になる。

 私は口を開いた。

 

「30万マーニでどうです?」

 

 海に捨てられることになった。

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