ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
ログインした。
今の私は極力保身モード、空からトガった魚が降ってきたみたいなつまらない理由で死ぬわけにはいかない。つまり、航海中のほとんどを
……とはいえ、参加すると言った作戦をすっぽかしたら流石に後が怖い。事前に通達されていた『
ささやかな効果音と二重に目覚めるような感覚が重なり、流れる潮風が頬を撫でる。とりあえず、私がいない間に船をサメに食いちぎられたりはしていないようだ。でも……。
辺りを見渡す。なんとなく活気が薄れているような……いやまあ、真面目な場面だから当然なのかな?でも本来のタイミングから二十分早めに来たはずなんだけど……。
いいや、その辺にいた適当なプレイヤーに聞いてみよう。
「……今来たんだけど何かあったの?できれば三行で説明してくれると嬉しいな」
「一行で十分だ」
へぇ?
プレイヤーは神妙な顔つきを崩さず、船上ではためく帆を見つめている。見つめながら、口を開く。
「無線が通じなくなった」
……なるほどね。
まあ……ある意味当然ではある。この現象が何かしらのモンスターによるものだとすれば、
迫り来る決戦の気配に怖気づいた私は、特に理由もなく船首の方面を眺めた。おや?何やら伝書鳥を操作してる……ああ、断絶圏めがけて飛ばしてみるわけね。
「コケェーーッ!」
入力されたメッセージを携え、漆黒の羽毛を散らしながら、飛び立ったカラスがまあまあの速度で前方に向かう。コケーって何……?まあいいや、私も観察してみよう。AZZを取り出し、スコープを覗き込んで望遠鏡代わりにする。
さざ波の上に影を落として、カラスはその場違いな黒さを帯びて、空中にぽっかりと空いた穴のように進む。その姿は徐々に小さくなっていき、翼はいっそう風を受けて―――
「え……?」
その様を観察していたプレイヤーたちが、双眼鏡とか望遠鏡とか神代製の広角レンズとかから目を離す。みんな後ろ姿だから実際にその表情を見ることはできない。でも、わかる。彼らは
……ちょっと検証してみよう。
ジュゲッキの後ろ姿をさっと探す。こういう時、彼女は一人だけウキウキしている節があるのですぐ見つかる。肩を叩き、頼む。
「ジュゲッキ、発信機貸して」
「クグリンちゃ~ん……ダメだよっ」
ジュゲッキはパッと振り返ると、楽しそうに私を指した。
「どうせ返す気がないんだから……貸してじゃなくて、
「わかった。発信機よこせ」
「お安い御用!」
手渡された物体は想像以上に小さかった。これ身体に仕込まれても気づけないのでは……?私はビビったが、先にビビるべきものが目の前にある。なのでいったん呑み込んで、代わりにチェストリアから
私が何かをしでかそうとしていることに勘付いたプレイヤーたちが、周りに集まって見物を始める。すみませんそこちょっとどいてもらえます?はい!OK!OKで~す!
「……よし」
迫撃砲の射程はそう長くない、断絶圏の直径には到底満たないくらいだ。しかし……今から観測するのは、『中心点を通ったらどうなるか』ではない。適当な弦を通せればそれでいいのだ。
錬雷合金のインゴットを二つ取り出し、一つに発信機を装着し、もう一つを迫撃砲に詰め込む。やはり数々の密航の経験は無駄じゃなかったと、自分の慣れた手つきに思う。
「さぁて……」
GUIを開いて軌道を調整、要するに断絶圏を
……よし、ここだ。
「発射!」
どごん、魔力光が散り、爆発音が鳴る。異常に目立つ合金が、紫電を迸らせつつ雲の下を飛んでいく。まっすぐな軌道の先には断絶圏、そろそろ突入するころだけど―――。
―――また、消えた。
プレイヤーの間に騒めきが走る。だってこれはおかしいのだ。断絶圏が行方不明にするのは伝書鳥だけ、NPCの漁船が消えたなんて話はない。でも目の前の光景を見た感じ、普通のインゴットが消えてしまったようにしか見えない。
「まだだよ」
しかし……事象はまだ
私の呟きを聞いたのか、プレイヤーたちが慌ただしく双眼鏡を覗き始める。私もAZZのスコープを覗く。本来の軌道を描いていれば、あの投射物はもうすぐ、断絶圏の中から―――。
―――
ついさっきまで世界から消失していたインゴットは、再び空中に躍り出た。そのまま重力に従い落下し、紫光を伝染させながら海水面に消えた。音は聞こえなかったけど、『ざぶん』とかそういう感じだろう。
プレイヤーたちは頷いている。なるほどねとか、そういう感じだ。彼らのうちある程度はライブラリに所属しているはずだから、ここから簡単に答えを導ける―――つまり、断絶圏の中に入った存在は外から見えない。おそらく、逆も然り。
まあ、ちょっとした思い付きだ。伝書鳥は『撃ち落されてる』みたいな感じ、というのが元々の予想だったけど、そんな素振りすら見えなかった。カラスは単に
「第二射いくよーっ!」
更に、だ。
もう一つの、発信機を付けたほうのインゴットを詰める。これだけでは説明がつかない、消えたカラスはインゴットのように戻ってこなければおかしい。断絶圏内を漁船が通っても無事なのは、当の漁船には自分が消えていることを認識できず、そのまま圏の外に出られるから。では、カラスだけが例外なのか?
「発射!」
ばごん、再びの光と音。周囲に光をまき散らしながら、インゴットは先ほどよりいい角度で飛んでいく。また消失、ここまでは既定路線だ。だが……。
……。
……やっぱり、
「どう、ジュゲッキ」
「
つまり、こういうことになる。
一、断絶圏の中に入った存在は、なんであれ外部から見えなくなる。
二、中に入った存在のうち、情報の伝達を目的とするものはそのまま消失してしまう。
三、これは何かしらの
私は三行でまとめた。
「要するに、入ってみないと分からないってことだよね?」
知らないプレイヤーが話しかけてきた。お前誰だよという感じがまあまああったけど、的確だったので私は良しとした。
「そういうことだね!」
そういうことだった。
……そうこうしている間にも、断絶圏はどんどん近づいてくる。
その内部。聳え立つ不可視の壁に囲まれて、すばらしく青い海が日光をちらちらと反射している。その様は波濤というには程遠く、せいぜいが細波といったところで……それがむしろ、違和感を強調する。前にwikiを読んだ限りでは、断絶の大海を越えたプレイヤーを、新大陸のNPCは『波濤の人』と呼ぶのだという。この海が、こんな平和なものであるはずがない。
ぐんぐん、ぐんぐんと偽物の海が近づいてくる。困ったときは空を見上げようと、私はなんとなく考えた。すくなくとも雲に関しては、断絶圏の外部と内部で繋がっているように見える。どこにいようと、空だけは真実を帯びているのだ。
「断絶圏、突入します!」
ライブラリの誰かが報告する。船が何だか速く動いているように思える。私は前を見据え、いよいよ不可視の境界を超え。
『
『
『参加人数:二十七人…二十九人…三十二人…』
『竜狩りが開始されました』
そんなアナウンスを目にした。