ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「……で!どうする!ペンペン!」
風切り音と戦闘音が言葉を遮ってしまうから、自然と叫ぶように発声することになる。
……ん、あのファンネルはこっち来てもおかしくないな。
「あ、八時の方向に注意!」
『了解!』
現在、私はペンペンの戦術機の左肩に乗って飛んでいる。しがみ付いて、と言ったほうが良いかもしれない。予感通り八時の方向から飛来した黒翼を、ペンペンはローリングで華麗に回避して見せる。そして私のアバターには華麗にGがかかる。こんなとこまでリアルにするなよぉぉぉぉ……!
……指揮系統が完全に崩壊している。致命的ではないものの船が破損したのと、無線が使えないのが良くない。これら二つは、作戦会議ができるような安置が消えたことと、安置じゃなくても作戦会議ができる手段が消えたことを意味する。結論は、やはり崩壊という他に無いだろう。
別に崩壊しているだけならいい。だが、厄介なのは相手の能力だ。相手との二次元的な距離を狭めるにつれ段階が上がっていき、第一段階で攻撃エフェクト、第二段階で攻撃そのもの、第三段階で他者の立てる音、第四段階で他者そのものが認識できなくなる。しかも見たところ、第四段階にあるプレイヤーはそれ以外の段階から認識できないし、第三段階にあるプレイヤーの音もそれ以外の段階からは聞こえない……要するに、この効果は相互的なものだ。攻撃の見え方については前段階共通なのがせめてもの救いだ。
いちばんの問題……それは、この能力をどれだけの人間が把握しているのか知る術がないことだ。つまり、例えばセパレーションの本体ど真ん中で爆弾を起爆できるとして、そのすぐ近くに第四段階に達したプレイヤーがいる可能性を捨て去れない。さらに言えば、第四段階のプレイヤー側が「ああ、第四段階の俺がいると誤爆の可能性があって危ないな」と思って第三段階以下まで退いてくれるのか、くれないのかがわからない。全員の物分かりが良ければそれで問題ないんだけど、そうでない場合誤爆で味方を殺してしまうことになる。というか、第四段階同士で攻撃し合うような状況すらありうる。しかも、第三段階以降ではその情報を言葉で伝えることができない。かと言って第二段階以下なら安全かというとそういうわけでもなく、第一段階が「避けてくれるだろう」と思って放った魔法とか銃弾とかが第二段階では認識できなかったり、あるいは魔法とか銃弾が飛んでいる間にセパレーション側が移動して第一段階と第二段階が入れ替わったりすることになる。段階段階段階段階……。
「……めんどくさ!あ、四時の方向!」
『本当にな!了解!』
……これさぁ。もう本体爆破しちゃってよくない?だってそうじゃん。今になってまだ段階の概念分かってないヤツとかいらないし。多少のフレンドリーファイアはやむを得ないところあるでしょ。いやでも、爆破したとしてそれを知覚できるのは第一段階のプレイヤーだけだからなぁ……。そうだ、他の奴を全員殺せば誤爆なんて……。
「……っと」
しまった、ハマってた。
……セパレーションのことが分かってきた。こいつは仲間割れを引き起こすモンスターだ。四つの段階を
「お!モードチェンジ!飛竜っぽい!」
『オッケー!どっちに回避する!?』
「とりあえず左行っとけば間違いない!」
『わかった!』
とりあえず、今はなるべく第一段階を維持しながら策を練るしかない……ってウワー虚空から魔法が飛んできた!第四段階の奴の流れ弾!?
「テレポ入れるよ!」
『了解!』
【
……今の、本当に流れ弾なのかな?正直心配だ。第四段階のプレイヤーは背後からの攻撃を認識できない、つまり誤射を受けることもあるはず。だったら……「後ろから魔法を撃ってくるやつ邪魔だし殺しちまえ」みたいな思考を、持たないとも限らない。
……いや、考えないでおこう。
それより、思いついたことがある。
「ペンペン!方向転換!」
『なんだァ!?』
「いい作戦を思い付いた!」
『どんな!?』
「
私は風音に負けないよう、声を大きく……そして、堂々と宣言する。
「だから、ジュゲッキに聞きに行くんだ!」
私を鉄砲玉にすることについては、私を超える適任がいるんだから!
『なるほどなッ!でも……どうやって、だ!?』
ファンネルを回避しながらペンペンが言う。実際、彼の言うとおりだ。ジュゲッキのことだから第四段階で戦ってるってことはないだろうし、十中八九第一段階にいるけど……第一段階にもいろいろある。誰もが【水滑り】や戦術機を持っていない以上、ただ板切れにつかまって浮くだけのようなのも。そんな中でジュゲッキを探すのは至難の業だ。
……でも、私たちは知っている。
こういう時、一番のズルができる方法を。どいつもこいつも活用しておいて、肝心なタイミングで忘れる方法を、だ。
「
◆
「よく私の場所が分かったね~!」
ジュゲッキはやっぱり楽しそうだった。
……伝書鳥は断絶圏、あるいは第一段階に入った時点で消失する。しかし……
そして……飛び立った伝書鳥は、ターゲットを向いて一直線に進む。
一直線のその先で、のほほんと板切れにつかまって浮いていたジュゲッキは、私のそんな話を聞くと、裏しかなさそうな笑みを顔に浮かべて言った。
「それだけわかってれば……辿り着けそうなものだけどね」
なんだと……?
まあいいや、話を聞けばわかることだ。
「私のプランも伝書鳥を使うんだよっ」
ジュゲッキは、笑みを崩さないまま私に言った。
◆
だからってこんなことってある?
いやまあ……仕方ないんだけど。
ペンペンが無言で頷いて、私も無言で頷き返す。その手元に大量の伝書鳥申請ウィンドウを開きながら。
ペンペンが
……ジュゲッキの推測によれば、断絶圏に入った伝書鳥はまずファンネルにルートを誘導される。目の前に壁があったら避けようとする、それの繰り返しだ。そのまま第四段階まで達してしまい、伝書鳥は
……だったら、
答えを知る者はいない。推測はあっても推測でしかない。だから、今からそれを証明するのだ。
「……【
「……刃隠心得、【
朧な照明にすらかき消されてしまうような、恐ろしくか弱い雷線が空を裂く。そして私が、その細々とした黄色に同化して、沈黙を保ったまま第四段階に駆ける―――今だ。
「うりゃ~っ!」
残存する二十九人のパーティーメンバーに向けた伝書鳥、その『送信』ボタンをとにかく連打する。第四段階の『他者』には伝書鳥も含まれるから、送信されるそれを私は認識できない。でも、伝書鳥の運ぶメッセージだけは、確かにターゲットに着弾する。
「……はぁ」
思わず溜息をついてしまう。第三段階移行は自分以外の存在が無音になるから、それがただ一つの音源だ。ハヤブサたちのピヨピヨという鳴き声もない。でも―――そんな世界も、すぐに通り抜ける。
【空蝉】、【瞬間転移】、リキャストが終わった分でもう一回【空蝉】。慣性を強引にキャンセルし、振り返った先には……。各々の手段で第四段階から離脱したプレイヤーたちが、音もなくただ存在した。