ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
メッセージの内容は簡潔だ。一つ、セパレーションに近づくとどんどん認識できるものが減っていく。二つ、今からそこを爆破する。三つ、全力で離れろ。
誰もが【水滑り】を持っているわけではないとはいえ、そもそもわざわざ接近して殴っている時点で、第四段階のプレイヤーたちは何かしら、溺れないための手段を各々で有しているはず。そして、その読みはどうやら当たったらしい。足元にバリアを展開して足場にしているヤツ、フローティングディスクに乗ってるヤツ、征服人形に吊り下げられてるヤツ……色々いるけど、とにかく大体は爆発影響範囲から出た。
よし、今だ。
本来であれば仕込んでおいた遠隔爆破機能を使う予定だったけど、アレは無線用の回線を使っている。動作しない可能性が高い。というわけで代案を用意した……シンプルだ。
今の私は第三段階。認識阻害の静寂の中、迫撃砲の発射音だけが大きく響く。
「よし退避!」
発射を確認した時点でチェストリアに迫撃砲を仕舞い、適当に魔法と忍術を絡めて逃げ出す。第二段階の境界をまたいだタイミングで、轟音とともに高い水柱が立った。……よし、流石に結構なダメージなんじゃないのぉ!?
私の読みは当たっているようで、辺りを飛び交うファンネルの動きが目に見えて鈍っている。よーしいけるぞ……いや、
……ファンネルは随分遅くなっている。もちろん【水滑り】状態で走っても逃げ切れない程度の速度はあるけど、それにしてもキレが悪い。よくわかんないけど……急所を突いたとかかな。これ行けるんじゃね?私は襲い掛かるファンネルを難なく避けて、そそくさと第一段階まで退避する。そして、「今だ!」と……。
……叫ぶまでもないみたいだ。
第一段階に入ったとたん、視界じゅうを魔法と弾丸と矢が埋め尽くした。いや厳密には違う、ご丁寧に私のアバターを避けて発射されている。その殺到する先は当然ながら、ファンネルを慌てて戻そうとしているものの露出状態にあるセパレーションの本体だ。よしよしよし……いける、いけるよこれ。私も【
「火力貢献ーーーっ!」
いいぞいいぞ!どうやらセパレーションの弱点は下部みたいだけど、とりあえず翼に防がれなければ最低限のダメージは通るはずだ。質より量!二十九人の火力が、それぞれ自由に振るわれる。
「……形態変化来ます、飛竜!」
誰かが言った。キレを失いながらもセパレーション本体に最接近したファンネルたちが、再び紫のプラズマを迸らせ、連結し始めたのだ。オッケー……このボス、全員が近づいていない状態を維持すれば何とかなる。一度第三段階から離れたプレイヤーなら、普通にメガホンか何かを使って連絡できるからだ。つまり……
「横に退避ぃーーーっ!」
こう叫んでやるだけでいい!
さあ来いセパレーション、いつも通り体当たりするんだ!……まあ、ど~~せ当たらないけどね!
私は若干調子に乗っていた。
それだけの材料があった。相手の手の内は割れている、プレイヤーたちは散っている。そしてセパレーションは一点にしか近づけない。戦闘範囲が断絶圏に制限されているとはいえ、あとは鬼ごっこをすれば勝てるはず……!さあさあ早く突進しろよ~!
「……?」
何か、妙だ。
一旦【水滑り】を連打してスキップするのをやめ、普通に水の上に
……見たことのない予備動作。
セパレーションの翼を繋ぐプラズマが、発する光を強めたように見える。いや、実際に強まって……そして、翼を構成するファンネルたちの間隔がどんどん開いていく。要するに……セパレーションは
まさか。
私には、こういう大規模なボスとの戦闘経験があまりない。新大陸に行けないからだ。
「……
誰かが呟いたそんな言葉で、私はようやく理解して。でも、その時には既に遅かった。
目一杯間隔を開けて広がった翼は、日光を受けてずいぶん長い影を私たちに落とした。誰もがヤバいとわかっていながら、どうするべきかわからなかった。翼の変形はどこかゆったりとした所があって、それが事態の深刻さに気づかせなかった。
「
遅い。
翼は急に高速化して、一気に私たちを取り囲んだ。背後でがきんと音がする。それは左翼の先端と右翼の先端が、例のプラズマによって連結された音だ。つまり……現在、セパレーションはドーナツ型の構造を取っている。抜け道がない、ということだ。
「ちょ」
頭上に落ちる影が一層濃さを増す。それは……ファンネルとファンネルの間隔が、徐々に狭まっていることを意味している。視界の隅で紅のポリゴンが散る。ドーナツがどんどん縮小している、壁に当たれば圧死だ。
つまり、中心部に近づくしかない。
「走れぇーーーっ!」
行進だ、行進が始まる。ついさっきまでなるべく距離を取って戦うよう話していたボスに、できるだけ接近するための行進だ。プラズマの光はどんどん弱くなる。セパレーションの
……わかった。今のセパレーションを外部から見たらどう見えるか。一番的確な例えがある。
……
「く、そ」
痛い。第四段階に属する他の誰かとぶつかったのだろう。第四段階は相互認識すらできないから、こういう風にただ動こうとするだけでも衝突する。とりあえず退避したいところだが、翼の内部にいる限り、どれだけ離れても第三段階が限度だ。では、翼の外部に出たら?……意味はない。外部からの攻撃を防げない城塞なんてないからだ。
まとめるとこうだ。私たちは外界から
とにかく、せめて第三段階に……!
「がっ」
HPが減る。誰かが放った魔法に直撃したらしい。でも、止まるわけにもいかない。
異様なまでの静謐に満ちた、これ以上ないほどの単純な世界で、私は少しでも複雑な方に向かった。