ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
また一つ、マーカーが消えた。
ファンネルで破壊された船は直せはするだろうけど、今の時点では設置されていたベッドも破壊されている。つまり、死んでいったパーティーメンバーたちはそのままはるか遠くの旧大陸でリスポーンすることになるはずだ。そして、あまりにも距離が遠すぎて、システム的にパーティーから自動脱退する結果となる。
……ボルクネスの姿が見えない。
彼はセパレーションとは無関係に、シンプルに他者と交流できない。つまり、第四段階に進むことに迷いが無いのだ。とりあえず死んではいないっぽいから、第三段階にいる私……いや、彼以外の誰からも見えないどこかで地道に戦っているのだろう。たぶん危険察知系のスキルを使っている。第二段階の時点で攻撃を察知することはできなくなるが、攻撃により発生するダメージを察知することはできるはずだ。彼の有する数々の意味わからんスキルなら、しばらくは持ちこたえられるだろう。
……でも、遠からず限界が来るはずだ。
そう、遠からず限界が来る。それは調査隊全員に言えた。フレンドリーファイアを恐れた結果、逆に自分の身を守ることができなくなって、一人また一人と倒れていく。
「―――」
沈黙の中、またしても攻撃が来る。セパレーションの、先ほどまでを『分離』モードとするなら……そうだね。『隔離』モードとでも言うべき形態は、たった一つの攻撃手段しか持たない。ただ、回転しながら
また一つ、マーカーが消えた。
『隔離』モードはそれ自体が日光を遮る上、第三段階が前提となるから音が聞こえない。つまり、回避をミスって死ぬプレイヤーも出てくる。あとは、水上に存在している手段が尽きて溺れてしまうタイプなんかも。セパレーションの内部は、言うなれば巨大な蟻地獄だ。
……そろそろ、腹を括らなきゃいけないな。
そう思った。
どうせ、このままやっていれば終わりが来る。それはわかっている。何かのカンフル剤が必要だ。それもわかっている。そして……私には既に、カンフル剤のアイデアすらある。けれど、使いたくない。使ったら死ぬからだ。死んで、新大陸への道が閉ざされるからだ。
……でも。
ここで私が行動しなければ、結局道は閉ざされるのではないか。
ボルクネスが、コミュニケーションなしに新大陸に行ける機会は。この先、どれだけあるだろうか。
そういう疑念が止まないのだ。
自分のことはある程度分かっているつもりだ。新大陸に行きたいという原動力を持って日々行動している。でも……正直、自覚がある。何かを成し遂げるより、成し遂げようとして失敗した何かを元に戻すほうが得意だ。要するに、本質的に後始末のほうが上手い。
……クソ、やってやる。
「ペンペン~~!」
声を出す。意味はない。第三段階にいる時点で、プレイヤー間の声による意思疎通は一切が無効化されているからだ。だが、スイッチを入れるにはこういう行動が必要になる。
ペンペンは戦術機を着ているから一目で見つかる。駆け寄ると、彼の機体のフロントガラスをトントンと叩く。トントンが向こうに聞こえるかはともかく、私がフロントガラスを叩いていることはきっと伝わる。
「―――」
気づいたらしいペンペンが何やら言う。何を求めているか聞きたがっているんだろう。なあに、説明には一行すら必要ない……簡単だよ。私は人差し指を立てて、そのまま掲げた。
ペンペンが頷く。ブースターをふかし始めた戦術機に、私は急いでしがみ付く。Gを身に受けながら、徐々に近くなる青空を見る。そう……いくら城塞で囲もうと、結局青空を遮断することはできない。ここから抜け出してやる。
壁を乗り越えられるだけの高度に到達して止まったブースターが、若干の浮遊感を私に与える。そのまま横に少しスライドする。……今、第二段階と第三段階の境界を抜けた。もう喋れる。
「ありがとうペンペン。もう大丈夫―――」
『餞別だ』
へ?
ペンペンは私に、一つの……
『
……そうか、ペンペンはベヒーモスをクリア済みだ。黒死の天霊を一度倒している。彼にとっては、これは黒死の怨涙なんて優に超えるハズレアイテムだったんだろう……そう思うと何だか面白い。
「……ありがとう」
『じゃあな!』
ペンペンは私を
「ヒャッホ~~!」
風が肉体の周囲を流れていくのが分かる。【
「パーティー登録を解除、っと」
マーカーがすべて消えた。
……真なる竜種を相手取るときは名前を見るべきだ。ジュゲッキは確かにそう言った。セパレーションと戦った後では、その言葉の意味がよくわかる。そして……そのうえで考えてみると、アドバンテージとはどういう竜なのか?
第八次抽選が行われるほどまで新大陸開拓船は行ったり来たりを繰り返しているのに、アドバンテージがそれを襲ったなんて話は聞かない。なぜか?きっと、
海面がざばんと隆起する。
……海を渡ろうとしている、極めて少人数のパーティーなんて、どうかな。
アナウンスが走る。
『
『
『参加人数:一人』
『竜狩りが開始されました』
ビンゴ、私は運の悪さだけは良いんだ。
出現しつつある竜の背後に、【瞬間転移】で回りこむ。そして……波濤の中に一人立って、私はとあるスキルを撃つ。
「―――ステルスアサルト」
効果は、最初の攻撃を気づかれないことだ。
私は黒衣を脱いで、そのまま黒き死に捧ぐ嘆きを発動する。過ぎ去った黒を、また別の黒が塗りつぶす。普通に考えて意味のない行為だ。wikiを読んだ限り、黒き死に捧ぐ嘆きは
でも……今だけは違う。むしろクソ装備であることこそが、私の目的を満たしてくれる。
「……
その呟きに、アドバンテージは気づけない。
「……ようやく気付いたの?」
アドバンテージは驚いている、露骨にそういうモーションを取っている。しかしもう遅いのだ。なぜって―――
「
空中を面白いように飛ぶアドバンテージを、喪服を風にたなびかせて転移魔法と忍術の連発で追いかける。追いかけながら……私は、チェストリアから
着水地点は、ちょうど断絶圏のすぐ横だ。
……さて。
セパレーションの能力について考えてみよう。どうにも妙なのが『断絶圏』という概念だ。だって第零段階は圏より外にあるわけで、断絶圏は『外部からの遮断』と『第零段階と第一段階の境目』という二つの役割を担うことになる。それはなぜか?……例えば、断絶圏の外からの攻撃に対応できないから、というのはどうだろう。
ぎゅっ、ぎゅっ。
取り出した荒縄で、数多くの爆発物たち……おおむね、爆弾勢コミュニティから盗み出したそれを、体中へと縛り付ける。
アドバンテージの能力について見よう。こいつは要するに『倍返し』……厳密には違うけど、おおむねそういうことをする。以前ペンペンが試した限りだと、受けた攻撃のうち『威力』と『範囲』の二種類を増幅して返すらしい。この場合、自分への負担をできるだけ減らすよう『範囲』と言う事になるのだろうか。
ぎゅっ、ぎゅっ。
この二つを合わせて考えると……アドバンテージの付近で
ぎゅっ、ぎゅっ。
……よし、できた。
私は走り出す。爆弾を括りつけて走り出す。新大陸への夢を、誰かに壊される前に自分で壊し、せめて破片を拾い集めるくらいはするために。アドバンテージが近くなる。虚構の細波が近くなる。あとは、城塞がせめて城塞として、崩れ去ってでも中にいる人々を守ってくれるのを祈るのみだ。
そして、私は爆発する。最後の視界は青空だった。
『
『
『参加人数:一人』
『
『真なる字名が明かされる:
『職業【
『称号【竜殺の実現者】を獲得しました』
『Loading………』
『
『
『参加人数:四十八人』
『
『真なる字名が明かされる:
『職業【
へぇ、二匹とも……そんな名前だったんだ。