ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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肉体を再改造しよう!

 というわけでベヒーモスだ。

 よくわからないけど確実に近未来的ではあるデザインの板が、私の目前で左右にスライドしていく。静かな動きが終わった先にあるのは、立ち並ぶ()()()()()()の数々だ。爆泳魚を誘爆させたときのリザルトが結構あるし、体重を軽くするくらいならチャチャっとやってしまおう。

 しかしそうもいかないらしい。

 

「―――来たな」

 

 な、なんだァ……?

 つかつかと、床のタイルを通して足音が響き渡る。歩いてきたプレイヤーの頭上には『エコロキア』の名前が上下に動いている。レッドネームではないみたいだけど……油断はとてもできない。

 エコロキアが立ち止まり、大げさな素振りで腕を広げる。その身にまとった怪しげな外套が腕の動きに追従し、照明を隠して影を作り出す。

 彼は言った。

 

「探究者よ、我らが〈リフレクション〉にようこそ」

 

 なんか組織名持ってるぅ……。

 私は後ずさった。しかし私が後ずさるほど、エコロキアは逆に前に出る。距離が離せない……!【空蝉】を使って一気に行くしかないか!?

 エコロキアはそんな私の葛藤を無視し、淡々と言う。

 

「探究者、君は『チャチャっとやってしまおう』なんて思いながらここに来ただろう」

 

 ふと気づく。彼の瞳は焦点が合っていない。

 

「ドアの向こう側を移動するときの足音でわかったよ。全力疾走とは言い難く、かといって急いでいないわけでもない……()()()()()。面倒な課題を片付けに行くのとも違う、あくまで楽しんで、しかし本気ではない足取りだ。あと……足音の聞こえ方から言って多分消音系の補正がかかっているな。盗賊系統のジョブに就いているね?そしてあの、足音と同時になるカチャカチャという音……何かの小道具(アクセサリー)を身に着けている証拠だ。盗賊そのものは、アクセサリーを装備するより適宜アイテムを取り出す局面のほうが多いジョブ……つまり派生職だ。分かったぞ、君は忍者だな」

 

 ……こいつ……。

 間違いない、聴覚補正スキルだけでこんなことはできない。肉体改造で聴覚を強化している。考えてみればこの試験管しかないような部屋で「ようこそ」とか言ってる時点で、改造を専門にしているのは当たり前なのだ。多分……〈リフレクション〉というのはそういう組織だ。

 正直言って"悪"の気配が漂いすぎている感じはあるけど……でも、彼らのサポートを受けたほうがより良いキャラモデリングができるんじゃないだろうか。

 よし、私は決意し、右足を一歩踏み出した。すると今度はエコロキアが後ずさる。今度は距離が詰められない。意趣返しか?

 しかしそうでもないらしい。

 

「く……げ、限界、か……!」

 

 一歩、二歩、三歩。私の歩みとは関係なしに、エコロキアはどんどん後ずさり……そして。

 

「ぐっ」

 

 どさりと、崩れ落ちた。

 な、なんだァ……?

 床に走る幾何学的なパターンの上に、エコロキアの外套が静かに覆い被さる。それはまるで、奈落へと開いた大穴のようでもあった。何!?何が起きてるの!?

 とりあえず流れ的に駆け寄る。あわよくばドロップアイテムを掠め取ろうと考えたからだ。しかしこの様子……リアルがヤバいのか?そうだとしたら強制ログアウトが入るからドロップアイテムが回収できない。クソ……!いや、でもシャンフロのシステムは優秀だ。こんなことになる前にログアウトは入るはず。つまりゲーム的に死ぬだけ、ドロップアイテムは回収できる!ヤッター!

 ……いや、でも。

 エコロキアの顔は苦しげだ、

 確かにリアルはヤバくないかもしれない。けど……例えば、()()()()()()()()()、というのは?

 

「探究者、よ」

 

 か細い声が、空調の効きすぎている部屋に響く。

 

「すまない、最後に……君の名前を、教えてくれないか」

 

 ……。

 ………え?

 

「それは……」

 

 おかしい。

 

「いいから……」

 

 彼は言う。しかしおかしい。だってそうだ。このゲームにはプレイヤーネームが頭上に表示されるシステムがある。正直クソだ。これのせいで変装とかが全く意味をなさず、ちょっと詐欺をしたりちょっと人を殺すくらいで晒しスレに乗せられることが確定してしまう。私が日々憎んできたシステムだ。

 でも……そのクソが、エコロキアには有効ではないらしい。

 

「ストロガです」

 

 よし、偽名を言っておこう。

 気づかれは……していないみたいだ。エコロキアはふっと笑うと、

 

「そうか……ありがとう、ストロガ」

 

 そう言って。

 

「何分……目が、見えないものでね」

 

「えっ」

 

 結構衝撃的な事実をカミングアウトして。

 

「……ぐぅ」

 

「エコロキアー!」

 

 強制ログアウトを示す、眩い光の中に飲み込まれていった……。

 

 

「それは寝落ちだな」

 

 目の前の幼女は幼女っぽい声で言った。彼女……彼女?も〈リフレクション〉のメンバーの一人らしい。頭上には『デット・オーバーハング』のプレイヤーネームが浮かんでいる。

 色々言いたいことはあるけど、とりあえず適当に相槌を打っておこう。

 

「と、というと?」

 

「いいか?エコロのヤローは耳を限界まで良くしようと考えたんだ。耳の良さにもいろいろあるが、あいつの場合地獄耳を求めた。とりあえず手始めにスキルを覚えるだろ?神代製の補聴器みたいなヤツを買うだろ?肉体改造で聴力に全振りするだろ?でも、()()()()()()と思ったらしくてな」

 

 うん。

 

「視力を全部捨てた」

 

 まあそういうこともあるかな。

 私は思考を放棄しつつあった。

 

「視力を捨てたことにより他の感覚がより研ぎ澄まされた……とか言ってたな、実際に効果があるのかは知らねぇが……あいつとしては近々味覚も捨てる予定らしい」

 

 オーバーハングの金髪が揺れるのを見て、ふとティーアスを思い出す。というかむしろオーバーハング側がティーアスに寄せてるのかな?

 

「さて、寝落ちに話を戻すが……まあ、カラクリとしては簡単さ」

 

 うん。

 

「目が見えないから、ログアウトボタンが押せないだけだ」

 

 まあそういうこともあるかな。

 私は思考を放棄しつつあった。

 

「ログアウトボタンが押せない以上、ぶっ通しでゲームやって寝落ちによる強制ログアウトを狙う他に―――」

 

 オーバーハングがそこまで言いかけたところで、背後から呼ぶ声がある。

 

「ようデット、それ誰!?」

 

 また新キャラかよぉ……。

 私は頭を抱えた。正直、声の主の方向に視線をやりたくないという気持ちがかなりあった。しかしやらないわけにもいかない、チラッと見てみる。

 なるほど、四本ある腕と二本ある脚でカサカサ地を這っているプレイヤーかぁ。

 

「おうシャタ!新入りらしいぜ!お前も顔合わせてくか!?」

 

 新入った覚えないんだよなぁ……。

 シャタと呼ばれたプレイヤー……正式な名前は『Syatacrow』らしいけど、そいつはカサカサを止めないままに、

 

「イヤいい!もうすぐ0時なんだよ!また後でな!」

 

 そう言い残し、カサカサと去っていった。

 

「紹介しておこう、今のがシャタだ。蟲人族(バグマン)になってから六足歩行最強論者になってな、とにかく六足歩行に特化した人体を作るべく日々研究を続けている」

 

 どちらかというと不具合男(バグマン)と言ったほうが近いのでは……?

 オーバーハングはぺらぺらと口を回す。

 

「本業は農家、ベヒーモスの天候操作システムを利用して自分の農地に雨を降らせるのが日課らしいぜ」

 

 へぇー。

 

「あ、見ない顔だ!」

 

 試験管のうちの一つから女が出てくる。またしても新キャラだ。私は頭を抱えた。

 

「こいつはケルベ、手をクソデカくすることで片手だけで五丁の銃を同時に持つプレイスタイルだ」

 

「単純に考えて銃の数が五倍あれば五倍強いからね!」

 

 ……ちょっとベヒーモスの深淵を甘く見ていたと言わざるを得ない。一旦退いた方がよさそうだ。私は判断した。

 

「すみません、フレに呼ばれたんで部屋抜けますね」

 

 そそくさと黒死の怨涙を取り出す。一旦おさらば―――

 

「待てよ」

 

 腕を掴まれた。また新キャラ?顔を上げると、長身の男が充血した目で私を睨みつけている。

 

「こいつはべベス、視神経全振り状態で思考加速スキルを使うことでものすごいスピードで掲示板を見ることを可能にしている」

 

 オーバーハングが後ろで律儀に説明してくる。しかし明らかにそういう場合ではない。

 べベスさんとやらの視線が私を突き刺す。な、何か文句でも……?

 

「あんた、晒しスレの常連のクグリンだな?」

 

 それはそうだったわ……。

 驚愕と畏怖の視線を感じる。私の周囲を取り囲む〈リフレクション〉の人々からのものだ。そうだ……彼らからしてみれば、陰でこそこそやっていたクランにいきなり害悪プレイヤーが乗り込んできた形になるのか。

 

「…………」

 

 沈黙が流れる。

 ……【空蝉】で脱出……。

 

「こいつは忍者らしくてな、【空蝉】を悪用して逃げやがる。後ろを警戒しとけ」

 

 ……できないかぁ……。

 まあ何というか、まだここでは事件とか特に起こしてないし。単に見に来ただけ、と言うことで押し通せば普通に帰してもらえるだろう。よし、これで行こう……私は口を開き、

 

「ん?何をしているんだ、君たち」

 

 ……エコロキアの睡眠時間は、思ったよりも短かったらしい。

 きっと自分が一番よく聞こえているであろう足音を鳴らし、沈黙の中を外套が進む。

 彼は言った。

 

「ストロガ氏を取り囲んでどうするつもりだね?」

 

「ストロガぁ?」

 

 オッケー、終わった。

 

「……偽名、ってことかよ」

 

 べベス氏が吐き捨てるように言った。

 

「…………」

 

 沈黙が流れ。そして、終わる。

 かちゃり。

 何かが装填される音が響いた。同時に、

 

「【空蝉】!」

 

 叫―――

 場にいる全員が一斉に行動し始める。

 ―――ぶ。

 そして、【鎖縛帷子(さばくかたびら)】を発動する。

 

「なッ……!」

 

 狙ったのは目の前にいるオーバーハングだ。【空蝉】と言われて素直に【空蝉】が来ると思ってた?それじゃダメだよ、相手は害悪プレイヤーなんだ。

 ()()は、こっちだ。

 

「【瞬間転移(アポート)】」

 

 オーバーハングが縛られたことで彼の背後の隙間が埋まらなくなった、そこにそのまま転移する。

 ……クソ、肉体改造ができない以上、結局()()()を使うしかない。これ燃費悪すぎてイヤなんだけどなぁ……。

 空間に光が走る。あるいはそれは亀裂かもしれない。とにかく最後に出現するのは、微妙な性能の浮遊戦車一つだけだ。背後にある未来ドアは〈リフレクション〉の面々に塞がれている。でも、だからどうした?

 

「突っ切る」

 

 それだけでいいじゃないか。

 錬成品射出用自走竜砲(アルケミック・ホイールド・モーター)が火を噴く。

 ……魔力で位置を移動できる、その一点に固執しすぎた。しかし考えてみると、浮いている時点で()()()による移動も随分楽になるはずだ。

 ……例えば、推進剤を利用した反作用とか。

 

「ぎょるべ」

 

「クグリンー!」

 

 私はロケットと化して高速で発進していった自走竜砲に掴まって〈リフレクション〉の面々を押しのけてドアを通った後そのまま壁にぶつかって死んだ。

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