ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「は、パッファー・トメントレイン……?」
「そう。〈
「長ったらしくない?」
「"はんしょくじゅうたく"でいいよ」
良いんだ。
私がそう思ったのと同時に、青空の下の工場が、ひときわ高い音を上げた。それはどこか汽笛のようにも聞こえて、しかし実際のところ汽笛ではなかった。汽笛じゃないなら何なの?これだけ大きい以上、機関車の発進ではないにしても、それとは別の
しかしジュゲッキは平然とネタバレした。
「お!一つ
何が?何ができあがってるの……?
……
不意に工場が煙を吐き出し、外部に露出したクランクを運動させ始めた。その様はどこか蒸気機関車に似ている。ある意味、汽笛という例えは間違っていないかもしれない。しかし間違っていないからと言って特に不穏さが軽減されたりはしなかった。
……き、聞く……か?ジュゲッキに……。いやでも、繁殖って……繁殖ってその……普通に考えると
「クグリンちゃん、紹介するよ」
え?
「あ、うん」
ジュゲッキの声に適当な言葉を返す。とりあえず、いったん不穏な勘繰りはやめておこう。いくらジュゲッキの頭のネジが飛びがちとはいっても、流石にそういう方向性の狂気はあんまり出してこないだろう。……多分、植物を繁殖させるとかそのくらいのはずだよね!
私は楽観的な感情を作りつつ首を捻り、彼女の方へと視線を運ぶ。
「この方が、本プロジェクトの提唱者である……」
彼女の横に長身のアバターが立っている。おや?何だか見覚えがあるような……セパレーション戦に乗ってたかな?まあ、プレイヤーネームを見ればわかることか。
私は視線を上げ、彼の名前を確認する。そこには、こう書いてあった。
『ラエルカン』「氏だよ!」
「最悪だ」
最悪だった。
思わず口をついて出た本音を平然と無視すると、頭のネジという概念がそもそも存在しなさそうな核爆発野郎は言った。
「こんにちはクグリン氏。このたびは賢者の石の提供に感謝する」
「逃げてえ」
逃げたかった。
思わず口をついて出た本音を平然と無視すると、ラエルカンは黙った。
数秒後、彼は口を開く。
「安心したまえ、核兵器を作ってこのゲームをぶっ壊すのは諦めた。基礎理論に致命的な間違いを発見してね」
そ、そっかあ。
……ラエルカンはヤバいプレイヤーだったが、そのヤバさはおおむね「核兵器を作ろうとしている」という事実に集約されていた。しかしそれを何だか知らないけど諦めたというなら、そう身構える必要もないかもしれない。前に見たオンライン会議といい、普通に役立つモノを色々作れるプレイヤーではあるのだ。となると繁殖住宅も、ひょっとしたらヒマワリを繁殖させて街中に飾ろう!とかそういう感じのステキなプロジェクトの可能性がある。いや、きっとそうだ。そうに違いない。
私の期待を背負い、ラエルカンは口を開いた。頼む、ヒマワリが花開く姿って眩しいよなとかそういう感じのことを言ってくれ……!
「だから、別の方法でこのゲームをぶっ壊すことにしたのだ」
「最悪だ」
最悪だった。
思わず口をついて出た本音を平然と無視すると、ラエルカンは虚空に向けてぶつぶつ説明を始めた。
ジュゲッキの肩を叩き、ささやき声で会話を交わす。
(ちょ、こいつがどんなプレイヤーか理解したうえで手を組んでるの!?)
ジュゲッキはやれやれ……みたいな感じで答える。
(理解してるよ、かなり危険なヤツだよね)
(危険なヤツだと分かってるならなんで関わるの!?)
(いや、クグリンちゃんも危険なヤツじゃん)
(それはそう)
それはそうだった。
(いやでもさぁ、この住宅が
(……
ジュゲッキはささやき声をやめた。
「違うよ」
えっ?
ジュゲッキが指をさす。私の背後、つまり〈
正直目を背けたい気持ちがまあまああるけど、仕方がないので振り向いておく。がちゃがちゃと、コンベアか何かの音に阻まれつつも、ジュゲッキは私に語り掛ける。
「勘違いしてるみたいだねクグリンちゃん」
工場が何やら震え出す。できあがった何かが排出されようとしているんだ。しかし改めて考えてみると……
私の疑問を察知するように、ジュゲッキは背後から説明をつづけた。
「これは『繁殖させる住宅』じゃない」
工場の震えがどんどん大きくなる。排出が近い。
「『繁殖
え―――。
私の思考を遮るように……いや、むしろ補完するようにと言ったほうが正しいだろう。工場は震えを止めると勢いよく、真上に向けて
愕然とする私の耳には、延々と虚空とおしゃべりをし続けているラエルカンの声が、なぜだか随分はっきりと聞こえた。
「……空を飛ぶものを惹きつける重力?知ったことか。それなら、地面を空まで高めればいい」
……狂気に満ち溢れていて、しかし楽しそうな声でもあった。これを止めるのは無理だ、私は悟った。
渋々ジュゲッキに伝える。
「わかった、協力するよ」
「ありがと~!」
ジュゲッキは喜んだ。彼女もやはり楽しそうだったけど、ラエルカンのものとは種類が違っていた。テンションとかの問題ではなく……裏側に隠れた
彼女が腹の中に隠し持っている一面を暴く代わりに、肩を叩いてジュゲッキに言う。
「ところで」
「なぁに?」
ちょいちょい……。
ジェスチャーを交え、完全に虚空との会話がヒートアップしているラエルカンから離れる。ついでに言うと他のスタッフからもだ。適当な大きめの木を見つけると、その影に隠れる。すぐ近くで禍々しい工場が稼働しているとは思えないほどに、その枝は生命力に満ち、のびのびと深緑を纏っていた。
ちらちらとかかる木陰の下で、私は声を潜め、座り込んだジュゲッキに囁く。
「何日で計画が頓挫するか賭けようよ」
私が勝った。