ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「征服人形を捕まえた?」
地面に直立させた巨大なハンマーの持ち手に掴まりながら、ペンペンは私の言葉を繰り返した。
「うん。まだ契約までは行ってないんだけど」
「へェ~~」
ペンペンはおもむろに巨大ハンマーを持ち上げた。よく見れば、ハンマーの周囲には赤黒く禍々しい怪しげなオーラが漂っている。正体がかなり気になるけど一旦流しておこう。
彼は言った。
「旧大陸でも会えるモンなんだな……というかチェストリア内にいるんだろ?未契約でも収納できるってダメじゃないか?」
「ダメだと思う」
「ダメだよなあ……」
満場一致でこのゲームはダメということが決定された。
ペンペンが聞く。
「でこう……どういう感じの征服人形なんだ?」
私は一言で答えた。
「怠惰」
「怠惰ね。ミオン型か?」
「いや……」
言葉で答える代わりに、チェストリアから当の本
「……
そして、透明感と落ち着きを伴った声が、取り出された
ペンペンは聞いた。
「何で首だけなの?」
ニコロは答えた。
「それ以外の部位を稼働させるのがめんどくさいから」
ペンペンは腕を組んだ。
「なるほど」
「希望:もう戻っていい?」
ニコロは既にやる気をなくしているらしい。仕方ないなぁ……。私はチェストリアのUIを操作し、彼女を再び格納した。
何とも言えない沈黙が流れる。
「……アイヴィ型ってあんな感じだったっけ?」
「さあ……」
何かがおかしいとは思っている。アイヴィ型の概要はwikiに載っているけど、それを信じるならシンシア型ほどではないにせよ勤勉なほうの性格を持っているはずだ。征服人形の中でも特に勤勉と言えるミオン型にしても、『職務が面倒だから旧大陸に密航』なんてやらない。というか旧大陸に密航ってなんだよ!最初から新大陸っていう恵まれた立場を敢えて放棄するなよ!私は憤った。
ペンペンも憤っている。
「クソ、許せねえ……!」
許せんよな。
……とにかく、ニコロは全体的にヘンだ。最初は何の変哲もないアイヴィ型だったのが何かのはずみで極端に怠惰になった、みたいな線しか考えられない。しかし……その
「いやでも」
ペンペンが口をはさむ。
「契約できないんじゃ元も子も無くないか?」
実際のところ、彼の言い分は一理ある。一度ニコロに契約を持ち掛けてはみたけど、どうも腕を噛んで血液情報を採取するあたりでめんどくささが勝って拒否してくるみたいだ。関係性を維持したところで、その状態が続くのでは永遠に契約できない。
しかし、こう言うこともできる。
「契約
「……あれだけ怠惰なヤツを契約なしでどう運用するんだ?」
「そりゃもう」
私はにやりと笑った。ニコロは私と契約していない。それは同時に、私のチェストリアとリンクしていないということも意味する。つまり、私が許可を出さなければ格納空間に退避できない。往来の真ん中でスリープモードに入るわけにもいかない以上、結局私に頼まれれば『横に立って、目を開いている』くらいのことはやらなければならなくなる。だったら、
「
さあ、稼ぎ時だ。
◆
「トゥールはやめろトゥールはやめろトゥールはやめろ…………!」
むき出しの欲望が広場を駆ける。
着せ替え隊は単なる変質者集団ではない、と言うことが最近になって理解できるようになってきた。彼らはこのゲームで最も賞金狩人という存在に興味を持っている集団だ。興味を持っているということは情報を持っているということでもあり、とどのつまり、着せ替え隊はティーアスに関してだけは【ライブラリ】並みの情報を持っている。
彼らは、時に
「ティっ」
誰のものでもない叫びが発生し始める。結局あのリングとかいう賞金狩人は全然現れない。何かしらの条件があるのか出現確率が異様に低いのか、あるいは何かしらの条件がある上に出現確率が異様に低いのか。全く分からない。どうせなら現れてくれた方が
「ティーアスだァーーーーッ!!」
……彼女でも十分だ。
紅のポリゴンが散る。その様は展開された天使の翼に似ている。しかし、
「オイ!お前のヒョウ柄パーカー見向きさえされてないじゃねェ~か!」
「大体ヒョウ柄ってなんだよ冷静に考えて!ダサすぎるだろ!」
「ウシ柄よりはヒョウ柄のほうがティーアスたんの速さを表してね?みたいなノリで決めたけどさァ!」
「冷静に考えるとウシとヒョウ以外にも選択肢あるだろ!キリンとか!」
「キリンはキリンで嫌だよ!」
「ふざけんなテメー!」
「殺すぞボケ!いやもう殺したわ!」
すぐ横で一触即発のにらみ合いに一触が加えられつつあるけど一旦無視。隣に立っていたニコロに話しかける。
「さてニコロ……
「
「ニコロ~?」
「
大丈夫か……?まあ撮れてるならいいや。私はニコロの動体視力を戦闘時並みにするためにブッ刺しておいた針を彼女の人差し指から抜き、小さなダメージエフェクトを塗りつぶすようにポーションをブッかけた。……機械なのにポーションで回復可能ってなんか違和感あるなあ。
とめどなく湧き出るどうでもいい思考を払いのけつつ、私は頭にヘッドギアを被った。征服人形の視界がリアルタイム共有できて直近のものも遡れるってちょっと便利過ぎるし、多分いつかとんでもない悪用の仕方を発見されて大幅にナーフされると思う。つまり、他のヤツに悪用される前に悪用しておいた方がいい。
「……よぉし」
ヘッドギアの中で視界記録を等速再生する。ティーアスの使う加速スキルは、どうも
「切り抜いていこうか……!」
横から殺到しつつある殺伐とした打撲音の一切を無視し、私は呟いた。
◆
「40万!」
「50万!」
「80万!」
「300万!」
「急に桁変えてんじゃねーよ400万!」
ということでオークションをしている。
「もう一声!もう一声ないですかぁ~!?」
「420万!」
私が右手にティーアスのベストショットを掲げ、神代製のメガホンに吠えかければ、早速参加者のうち一人が手を挙げた。
「450万!」
そしてすぐに、別の参加者に塗り替えられる。
……着せ替え隊には『スクショを印刷した写真でオークションをする』というよくわからない文化がある。普通に考えればおかしな話だ、この世界はゲームなわけで、別に写真を取引しなくても電子的な画像データを取引すればいい話だし、そもそも写真をオークションにかけるというのが既に歪だ。だいたい、今回の場合元となる動画が前提としてあるんだから、情報量の多いそちらの方が求められるような気がする。
とはいえ。
「500万!」
みんなが実際にこうして熱狂しているなら、私にはどうでもいいことだ。
「他にいませんか!?」
私は喧騒に叫びを投げ込む。新たに手を挙げる者はおらず、代わりに項垂れる者が数名。どうやらここらで打ち止めのようだ。
「それじゃあ落札おめでとうございます、こちらに来てください!」
……ヌルい、ヌルすぎる。このゲームはあまりにもひどい。基本的にフィールドで狩りをしているより、変態と仲良くなってかわいいキャラクターの写真を売りつけたほうが儲かるゲームだ。旧大陸でこれなんだから、新大陸ではもっとすごい桁が飛び出すことだろう。
私は思った。
『称号【
そして、ブツを受け渡すと同時に展開したアナウンスウィンドウに、喜びの笑みを投げかけた。