ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「ククククク……!」
ぺらり、ぺらり。分厚い紙束をめくる音が、暗闇の中で静かに広がる。
闇は覗き込んだ洞穴の中に広がるそれのように、空間を重厚に塗りつぶし、決して明るさなどというものを許さない。しかし、そんな中でも……ただ静かに、ごく少しの光を発する存在なら三つある。一つは卓上でゆらゆらと燃える蝋燭の灯、もう一つは左の眼光で、最後の一つは右の眼光だ。喜びのような悪巧みのような、何とも言えない色がそこには宿っている。
「【
眼光の主の手中にて捲られているのは、薄褐色をした
計上は淡々と進められる。
「【
がたり。
闇の中に呑まれてこそいるものの、この室内には椅子も存在する。それが今、立ち上がった眼光の主によって動かされた。今の物音はそれに起因している。
「やっぱりだ―――【
眼光の主はスキップを踏んで部屋をぐるぐる周り始める。それによって気流が生じ、蝋燭の灯が僅かに揺れる。部屋の隅に置かれていた生首が目を開き、かくして光源は五つとなった。
カーテンが開かれる。
「さあ、今度こそ新大陸に行くぞ!」
室内を照らす暴力的なまでの日光に、闇たちはすっかり消え失せた。代わりにスクロールの束を片手に笑っているのは、つい先ほどまでの眼光の主だ。
そう、私である。
◆
【
近くにいる(壊れポイント1:「近く」と言ってもキロ単位)
『救難信号』を出している任意の(壊れポイント2:別にフレンドじゃなくても使える)
人間(壊れポイント3:「プレイヤー」ではなく「人間」、征服人形も可)
のもとに転移(壊れポイント4:近ければ未開拓エリアでも行ける)
し、数十分間(壊れポイント5:長すぎる)
に限り行動を取った後、元居た地点に送還される(壊れポイント6:途中で死んでようが送還される)
という効果を(壊れポイント7:転移先でさらに発動した場合、送還イベントが二回発動して転移先に留まることが可能)
持っている。(壊れポイント8:魔法強化魔法で射程を伸ばせる)
はっきり言って最強に近い。
なぜ私がこの最強魔法に手を出していなかったかというと、この壊れぶりを十全に発揮できる相手がいなかったからだ。いくら射程が長いと言ってもせいぜい二桁だから、新大陸のプレイヤーのところまでひとっとびというわけにもいかない。適当な協力者を雇って密航させてある程度船が進んでから【
しかし、今の私にはニコロがいる。つまり最強と言うことだ。
◆
「いや、【
しかしペンペンを誘ったところ心ない事を言われた。うるせ~!
私は反論する。
「いやでも【
「実際壊れではあるよな……でも新大陸って5000キロ先だろ?20キロ25枚は心もとないって」
「この魔法強化魔法コンボで10倍にできるよ!200キロだよ!」
「……確かに全部使えれば5000キロになるが……」
「ね?」
ペンペンは訝しげだ。まあ、荒唐無稽なアイデアの自覚はある。
「まああの……ちょっと実演するから。見ててよ」
「へえ?」
とりあえず魔法強化魔法コンボは無し、【
私はペンペンから視線を動かし、砂浜の先に広がる大海原を見た。そっと生首を取り出す。
「ニコロ、準備はできてる?」
「
振りかぶる。
「ちょっと待って」
何?
「投げるのか?ニコロを」
「うん。どうせなら自力で飛んでほしいんだけどね」
「消極的:自発的運転の拒否」
「というか飛べるんだったら普通にロープで吊り下げてもらえばいい話だしね」
「
「投げてどうするわけ?」
「救難信号の常時発動くらいならニコロもしてくれるんだよね」
「
「ニコロの首をブン投げて【
「これは実演だからね。実際は自走竜砲で撃つよ」
「200キロ飛ばせなくない?」
「飛ばせない」
「ダメじゃん!」
ダメだった。
「おいクグリン!お前おかしいぞ!テンションがおかしい!」
「おかしくないよ!」
「いやおかしいよ!いつものお前ならもうちょっとマシな理論で計画を立てるって!昨夜何時間寝た!?」
「20分!」
「ニコロを仕舞え」
「ニコロを仕舞ったよ」
「一旦死んどけ!」
ペンペンはおもむろにバトルアックスを取り出し、私の首をサクッと落とした。
◆
起きた。天井が見える。
……もしかして寝落ちしてた?昨日のことが思い出せない。なんかこう……そう。最強の【
でも……ああ、思い出したら悲しくなってきた。私は碌に準備せず、金も持っていないころに【
ふとスクロールを取り出せば、その紙面には点々と丸い染みが残っている。きっと、私の涙だろう。
「ようクグリン、起きたか」
部屋の中にペンペンがヌッと現れた。本当にヌッて感じだった。何かがおかしい気がするが、寝起きなので判断力が下がっている。VRゲームを遊んでいる途中に寝落ちすべきではないと言うことだけが確かだ。
「とりあえず聞こう、【
えーっと。
「まず、ベヒーモス内での挙動を検証する」
「その心は?」
「ベヒーモスってクソデカいじゃん?」
「クソデカいな」
「でもあんまり広いイメージないじゃん?」
「広いイメージないな」
「多分なんかそういう超技術なんだよ、空間湾曲みたいな。……その対象下でも20キロが20キロのままなのか確かめる。あとは完全に隔離された
「よし、それでこそだ」
ペンペンは言った。
私は何だか嬉しかった。なんとなくペンペンの頭上のプレイヤーネームを見た。赤かった。なるほど。よく見れば、彼の肉体が段々その透明度を上げていく。私はそこでようやく気付いた。ああ、彼の足元にあるのは【
サッと消えていったペンペンに、私は穏やかな心持ちで手を振った。