ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
転移魔法を覚えようと思う。
理由はいろいろある。もともと転移系の
でも、それらよりもっと大きなワケがある。
「えっと……」
メニューを開き、
インベントリ内には頑張って買い集めた3つのテント、更に装備はある程度の耐寒・耐熱・耐毒性を加え、残りはすべて
その他、錬金術関連の色々、忍術関連の色々、愛用の錬雷合金のダガー……まあ、持ち物としてはこんなものだろう。
「……よし!」
確認完了。
私は満を持して、ヴェルガント氏のもとへと歩みを進め始める。そして、改めて考える。
……
それは、今まで7回参加してきて全部外れた抽選枠に比べれば……いや、比べ物にならないほどに、大きな確率なのではないか。
「……ふふふふふ」
笑う。この乱数転移という選択肢は、存在を知ったうえで封じていた側面がある。手持ちの手札の中で最も強力な半面、一度しか使えないし、生半可な準備では空振りに終わりかねないからだ。しかし私は、それを使おうとしている。今、まさに。
右足を前に出す。ニーネスヒルの固い石畳を、私は力強く踏みしめた。
◆
旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ……!
お祈りをしている。
目をつぶっているから当然前は見えないが、開いたところで同じことだ。私の肉体は現在進行形で魔力光に包まれつつある。要するに、【乱数転移】の発動過程にあるのだ。そのため瞼を開いても、眼が眩しさに焼かれるだけだ。
だから、代わりに祈る。
旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ旧大陸はやめろ……!
瞼を通り越して入ってくる光が、それ自身が一層強まりつつあることを教えてくる。私を取り巻く魔法発射の効果音も同様だ。どんどん大きく、どんどん高くなり―――そして。
ひゅん。
そんな音がした。
「……っ!」
急いで瞼を開く!さあここはどこかな、どこだろうと十五分以内に近くの地面にテントを張らないと!基本的に張ったことに後悔する方が、張らなかったことに後悔するよりましだからね!
しかしそもそも地面がなかった。
「は?」
いや、落ちてますよね?という話。ゴォーッみたいな。風、吹いてるし。下から上に。私の纏ってるローブ、はためいてるし。辺り、一面の青空だし。綺麗だね、流石シャンフロ。綺麗だね、ではないんだよな。ふざけてんの?何?この見下げた先に広がる雲の海。確かに旧大陸はやめろって言ったけどそもそも
Bililiiiiiiiiiii
なんかいるんだよなぁ……。
絶賛落下中につき視認が難しいけど、とにかくなんかいるのは間違いない。しかもデカい。黒い。バチバチしてる。雲の裏側ってこんなヤツがいるものなの!?とにかく目を合わせないようにしないと……。私はどうにかして逃亡を考えた。いや逃亡とか言ってる場合じゃない。シャンフロ世界の重力加速度は地球とほぼ同じ、落下は当然どんどん速くなる!どうするどうするどうする……!?下から上への風はいっそう轟音を強め、眼下に広がる純白の雲はどんどん近くへ寄ってくる。まずいまずいまずい……!
「……そうだ」
雲って……基本的に、氷の粒と水滴の塊だよね―――だったら。
「刃隠心得奥義、【水滑り】っ!」
飛び込んだ雲は足の裏をやわらかく跳ね返し、落下ダメージを吸収したうえで上を歩ける状態となる。【水滑り】はそういう魔法だ。よっしゃこれで一安心!私は思った。
「……あれ?」
よくよく考えてみると全く一安心ではなくない?
よくよく考えてみると全く一安心ではなかった。
私は再び落ちた。
「くそーーーっ!」
ど……どうしよう!?【
地面がどんどん近づいてくる……そう、地面だ。海の上でもない。さらに言えば、その一角には何やら城のようなものがあって……もしかしてあれが噂のスカルアヅチ!?え、じゃああのドデカいのはリヴァイアサン!?賭けに勝ったってこと!?いや勝っても意味ないじゃん落下死するんだったらっ、おい!どうにか……
「どうにかしてぇぇぇ!」
誰に向けてかも分からないような願いを叫びながら、私は。
「ぎゃぺ」
ぼてんというような鈍い音と共に港の片隅に勢いよく激突して、
「……あれ?」
え、どういうこと?VITには大して振ってない、ギリ耐えたってわけでもない。じゃあ……いや、わかった。残りHPが1、つまり食いしばりが働いてる。どうやら願掛けでLUCを上げたのが功を奏したようだ……何とも、虫のいい話だ。
しかし、その虫のよさを吟味している時間はない!残り時間が少ないとはいえ、結果的に私は新大陸への上陸に成功したんだ。急いで錬成回復薬とテントを取り出し、自分の体を染める紅の
「よしっ!」
テントは設置完了、半分浴びているようなものだが錬成回復薬も飲み終えた!残り時間は本当に僅かだ、とにかくすぐにテントでセーブを……。
「……ん?」
ひゅうん、と。そんな音がする。
音の出どころは上空だ。私は焦燥感を抱きつつ、何かあったら嫌だと思って上空を見上げた。そこでようやく、天を黒雲が包み込み、既に雨が降り始めていることに気づいた。
……まあ、なんだか不穏な雰囲気だけどそれだけだ。別に気にせず作業に戻って、問題な―――。
「
額にぶつかったそれが、固い港の地面に当たり、かたかたと音を出しながら転がる。やめろ、拾うな。自分の体にそう指示するが好奇心が言う事を聞かない。ちょっとくらいならいいじゃないか、とかいう思考が勝ってしまう。
仕方がない、拾い上げたらすぐにセーブだ……まあ、この文なら間に合うだろう。私はどんどん薄くなりつつあるアバターに危機を覚えつつ、右手を伸ばすのを止めないことを決める。
そして、いよいよその……
どんがらがっしゃん。
「っ!?」
て。
まずい、客観的にはただ近くに雷が落ちただけだ。それなのに、一瞬の動揺がどんどん拡大してミスを誘い始める。まず拾い上げたはずの欠片を再び取り落とした。それに反射的に手を伸ばし、インベントリに収納するまでをやってしまった。到来した稲光が、テントの開けっ放しの窓を映し出した。閉めなきゃ。いやそれより前にセーブだ。えっと、えっと。アバターはどんどん薄くなる。私はどんどん焦りを覚え、焦りが更なる焦りを呼ぶ。もはや考えるのは無駄だ、走るのみ。私はそう考えて考えを捨て、ずぶ濡れになった体を動かし、とにかくテントへ走って―――。
「な」
もうダメだ、きいんみたいなきゅうんみたいな、聞き覚えのない効果音が鳴る。それはきっと、私の転移の
◆
「さてお嬢さん、転移魔法の体験はどうだったね?」
目の前に現れたヴェルガント氏が、なんだか不純なものを感じなくもない眼差しでこちらを見据えて聞く。
「最悪ですね」
ぐしょ濡れになった私は、紛れもない本心でそう答えた。