ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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無念の塔の頂上で 其の一

「グリッチはやめろグリッチはやめろグリッチはやめろ…………!」

 

 むき出しの欲望が広場を駆ける。

 プレイヤーキルの発生と、それに伴う賞金狩人の到来―――への期待。それらが熱気となって満ち満ちた広場を前に、私は傍らの征服人形に囁いた。

 

「ねえ、ニコロ」

 

「なに」

 

 あなた、少し変わったね。

 そう言うか迷って、やっぱりやめた。ニコロは相変わらず怠惰なままだけど、最初に比べれば僅かに現実に目を向けるようになってきた気がする。現に、今の「なに」という受け答えだって、以前のように仮眠状態に入りっぱなしではできないものだ。

 

「……なんでもない」

 

「そう」

 

 でも、それを本人(本機?)に言うのはまだやめておく。

 彼女がどうしてこんなに怠惰なのか、私にはまだわからない。わからなくていいとも思う。過去をいちいち掘り返さずとも、現在のニコロと対話することは可能だ。

 ……もう少しだけ勤勉になってくれると、個人的には助かるんだけど。

 

「ティっ」

 

 誰のものでもない叫びが発生し始める。変態の叫びであることは間違いない。何の変哲もない広場の中に、金色の……揺れ動く髪の残像が、一つ確かな線を描く。

 さあ、撮影の時間だ。

 

「ティーアスだァーーーーッ!!」

 

 歓喜だ。歓喜の叫びが広場に響く。同時に、紅のポリゴンがいつものように散る。目にもとまらぬ速度で何かが動いている。それはついさっき同胞を殺して見せたプレイヤーに肉薄し、その命を一撃で―――!

 どかん。

 

「え?」

 

 呟きが掻き消されてしまった。

 爆音と、爆風にだ。

 突如として発生した()()()が膨張していく。破壊の紅色が視界を埋める。規則正しく並んだ石畳が剥がれていく。衝撃がアバターを打ち、HPが減っていく。

 これは。

 

「に、ニコロ……っ」

 

 傍らにいたはずのニコロがいない。どこに……ああ、背後を見て理解する。爆風で飛ばされたのか。とりあえず破壊されてはいない、それを知れただけで十分だ。

 周囲を見渡せば、着せ替え隊の面々の誰もが、強烈な炎光に照らされながら混乱している。この爆発は予定されたものじゃない。ティーアスは問題ない、でも周囲にいたNPCは?違う、よく見れば着せ替え隊の面々の間に、NPCが怯えた様子で佇んでいる。ティーアスが超スピードで逃がしたんだ。さすが、だけど。

 

「やはり使ったか」

 

 爆炎の向こう側から声がした。

 聞き覚えのある声だ。

 私はそれを認めたくなかった。これだけ大規模な爆弾を用意できて、これだけのことをする動機がある。そんな人物への心当たりを捨てたかった。

 生成された火球のエフェクトがだんだんと晴れていく。その向こう側には二人の人間がいる。一人はティーアス、金髪の幼女が様々な魔法のエフェクトに濡れている。牢魔法、鎖魔法、鉄格子魔法―――それらはどれも()()のための魔法だ。そして、もう一人は。そうだ、長身の男で。なぜか頭部が燃えている。頭上のプレイヤーネームが、段々と赤く染まり始めている。

 

「ラエルカン……!」

 

 私の声を無視し、彼は虚空に語り掛ける。

 

超越速(タキオン)を長時間発動させるためにはどうすればいいか?考えたよ。ティーアスに正面から挑めば普通に撃破される。だから爆弾を使用して、彼女に()()を強要することにした。とは言え……ただ爆破するだけではやはりダメだ、ティーアスは普通に素の速度で爆破距離圏から脱することができるし、超越速(タキオン)を使うとしても僅かな時間だけだ。だったら―――彼女は秩序側のキャラクターだ、NPCを()()に取られたら?助けるしかない。そこを狙い目にすればいいのだ」

 

 彼は爆発の真っただ中にいたはず、なぜピンピンして……よく見れば、その全身には薄い紫色のエフェクトが走っている。ああ、聖杯を使ったのか。頭部が蒼く燃えているのも何かのアイテムだろう。大疫青由来か?

 

「おいふざけんな!」

 

「ティーアスたんをどうする気だ!」

 

「死ね!」

 

 罵声だの投げナイフだの魔法だの弾丸だの、様々なものがラエルカンに殺到する。全てダメージには繋がらない。

 彼はそれを無視した。

 

「なに大丈夫だ、これ以上のことはしない―――ただ『ティーアスと戦って、勝った』。その事実さえ手に入ればそれでいいのだ」

 

「ニコロっ」

 

 直感的に叫んでいた。

 こいつがこのゲームを壊そうとしているのは今に始まったことじゃない。でも、今回はダメだ。よくわからないけど彼の思い通りにコトが進んでいるように見える。確かに相性が良ければティーアスに勝ち逃げするくらいはできるだろう、でもその相性を作るにはかなりの準備が必要になる。こいつは本気だ。きっとこれまでも本気だったけど、私は少し楽観的に見ていた。一旦ニコロを退避させた方がいい。

 

「おや、やはりいたか」

 

 振り向いて視線を向けたニコロの傍らに、なぜかラエルカンは既に回り込んでいる。転移魔法を倍化したか?

 

「好都合だよ。アイヴィ=256、私の計画に参加するね?」

 

「断れーっ!」

 

【空蝉】!【瞬間転移】!まだだ、まだ距離が足りない!ニコロのもとへと走る。おいおいおいおいおい!

 

「……当機(ワタシ)は」

 

「もう一度言うぞ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……っ」

 

 何話してんだよ。

 ラエルカンがニコロの手に触る。ニコロの機体が光に包まれていく。まずいまずいまずい……!彼女はチェストリアへの収納を拒否しない。私がさんざん利用してきた設定だ。でも、それは誰かに横取りされても文句が言えないということでもある。

 

「ニコロを」

 

 私は回復ポーションを取り出した。針の刺さった人差し指を回復するために用意しておいたものだ。

 

「返せっ」

 

 クリアグリーンの液体が瓶から躍り出て、ラエルカンのアバターを濡らした。

 

「……ほう」

 

 クソ、まだ死なない。

 ラエルカンはダメージ反転聖杯を使っている。回復されまくれば死ぬということだ。しかし死なない。なぜか?きっと燃えている頭にカラクリがある。大疫青のアイテムを思い出せ。そうだ、どれもこれも体に悪そうな物ばかりだった。でもラエルカンはダメージ反転聖杯を使っている。体に悪そうなものを反転すれば当然体に良くなる。クソ。

 彼は悠々と言った。

 

「すまないが、ここらで行かせてもらおう」

 

「何をするつもり!?」

 

「このゲームをぶっ壊すのだよ」

 

 そんなことは知ってる。

 ニコロを取られた、それはどういうことだ?彼女は怠惰だけど前ほどじゃない、今なら契約くらいはできるかもしれない。じゃあ契約して何をする?ダメだ、思いつく悪巧みが多すぎる。一体、何を。

 

「待てっ!」

 

 空間を紫電が走る。【座標移動(テレポート)】のエフェクト。

 着せ替え隊の誰かが背後で叫んだ。

 

「どこに行く気だァ!」

 

「強いて言うならば」

 

 ラエルカンのアバターが透け消えていく。行き先は完全に不明、どちらの大陸かすらわからない。

 

()()、だよ」

 

 何だと……?

 

「タイムトラベルによってこのゲームはぶっ壊せる」

 

 その言葉を最後にして。ラエルカンのアバターは、ニコロを内部に収めたチェストリアと共に、このゲームのどこかへと転移していった。

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