ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
強いものをより強く、弱いものをより弱く。それは言い換えれば、強いものが弱いものから
◆
ラエルカンを殴っている。
「がっ!わ、分かったぞ!自分より与ダメージが低い攻撃を
ご名答、死ねっ!私は彼をさらに殴りつけた。
「ぐっ」
しかし中々死なない。
クソ、STRが足りない。やっぱりもうちょっと振っておくべきだった。ダガーはさっきの火球に吸われちゃったっぽいし、やっぱりこのまま殴り続けるしか……!
「ごべっ」
いや、おかしい。
「……がはっ」
ダメージが大して入って無いわりにラエルカンが無抵抗すぎる。このやられ声も演技くさい。何がごべっだよ。これはちょっと―――
「え」
側頭部に痛み。
もしも私が上忍のままなら、それを食らうことは無かっただろう。【空蝉】とは本来そういう忍術だ。住居不法侵入は主目的ではない。最大の使いどころは緊急回避、極めれば半自動発動も可能になる。私は極めていた。でも、それを自分から捨てた。
「……食いしばったか」
視界が赤い。逆に言えば黒くない。まだ生きている。
「死ね」
私の声だ。AZZを取り出して、ラエルカンに発射した私の声だ。何が起きたかは把握している。ラエルカンの分析力をナメていた。アドバンテージの性能は「自分より与ダメージが低い攻撃を吸収する」だけじゃない、それじゃ強すぎるんだ。「自分より与ダメージが高い攻撃に
「残念ながら」
赤が晴れた視界の先、佇むラエルカンは弾丸を避け……左手に紫の光沢、ダメージ反転聖杯を使おうとしている。そうはさせない。チェストリアからポーションを片っ端から取り出して全部投げつける。〈住宅〉の中を緑色が埋め尽くす。それはどこか、繁殖していく植物のようでもある。
「それもブラフなのだよ、クグリン氏」
紫色が収納エフェクトに包まれ、消える。ダメージ反転をすると見せかけて回復ポーションをぶっかけてもらう算段、まあそんな気はしてた。
でも。
「……?」
ラエルカンは怪訝そうだ。当然だろう、彼のHPは回復などしていないのだから。
「これは」
ラエルカンが言いかける間に、私はAZZをスナイパーモードにして撃てるだけ撃った。
錬成毒の良いところは、効果のカスタマイズ性が高いこと。錬金術師じゃなくても使えること。そして、見た目を自由に操れることだ。
私の火球には破壊属性が付与されていたが、火球を吸収したラエルカンの弾丸は私の脳天を貫かなかった。つまり、吸収は属性を維持しない。
毒を吸収した弾丸に、毒耐性は無意味だ。
毒のカーテンに弾丸が突入し、周囲の緑を吸い込んで渦を作り出していく。
着弾音。着弾音。着弾音。
「クグリン、氏」
足元から声がする。着弾音がした所から少し距離がある、【
破壊属性はHPの最大値を削る、今から聖杯を使っても、少し回復ポーションを使えば死ぬ状態にしかならない。あの頭が燃えるヤツは……まあ微々たる差か。燃えた時点で回復ポーションをブッかけて鎮火してしまえばいいだろう。
ラエルカンが私の右足首を掴む。随分弱々しい力だ。とりあえず適当に【ファイアボール】を撃ち込んでおこう。そういえば毒は効かないけど火傷って効くのかな?私は普段麻痺や毒ばっかり使うし、対策してない可能性があるのでは……試してみよう。発射っ。
「私は」
ラエルカンがか細い声で言う。
「このゲームを、ぶっ壊してやるぞ」
足首にかかる握力が強くなったのを感じると同時に、真下から爆発音が聞こえた。
……〈繁殖住宅〉の構造は雑だ。単に〈住宅〉を積み上げただけ。傍から見れば巨大なだるま落としでしかない。そして今、提唱者が直々に爆弾を仕掛け、だるま落としを開始した。
床が傾いていく。雨音が近づいてくる。下の方の階で起きた爆発によって、〈住宅〉たちは
〈繁殖住宅〉は、無念の塔だ。天にも届く建物を作ろうと頑張って、しかし志半ばで計画を中止された。そこには関係者たちの無念が詰まっている。そして今、無念の塔は雨と共に崩れつつある。派手に、豪快に。世界への恨みを発露するように。
「……【
視界が切り替わる。しかし足首を掴まれる感触は消えず、むしろ強くなる。
「無駄なのだよクグリン氏、【
ラエルカンは断固として私の足首を離さないつもりのようだ。せめて道連れにしようと考えて……いや、こいつはこのゲームをぶっ壊すことしか考えてない。私はどうにか生き残ろうとするから、それにしがみ付いていれば自分も生き残れる。そういう算段じゃないか。
でも、
「無駄なのは、そっちだよ」
私はセパレーションの能力で右足首を切り離した。
「……そうかね。そうだったな」
ラエルカンが滑り落ちていく。
「クグリン氏!先ほど『私をぶっ殺せば、アイヴィ=256は帰ってくる』と言ったな!」
戦闘によって傷ついた〈住宅〉の壁にはこれでもかと穴があいていて。
「訂正させてもらう!」
その向こう側には。
「は?」
雨粒とか、曇り空とか、瓦礫とか。
「厳密には嘘ではない、私をぶっ殺して
多種多様なもろもろが見える。
「私も想定していなかったのだ、アイヴィ=256が
「え」
ラエルカンも『多種多様なもろもろ』に加わった。
彼のアバターが落ちていく。
「もっと早く言えクソ野郎!」
かつて壁だった天井に掴まりながら怒号を上げる。おいおいおいおいおい……!私はヘッドギアを被った。ニコロの視界を確認する。確かに彼女はまだ戦闘を続けているようだ。しかも……ステータスモニタ確認、左腕破損、右脚不調、飛行ユニットエネルギー残量僅か、そのほか諸々……ヤバい。
内部でニコロが破壊されたとしたらどうなるだろう?何事もなかったかのように状態をリセットされて現実に戻るのだろうか?いやでも、『状態をリセット』なんてことがありうるだろうか?例えばニコロが思考回路を完全に破壊されたとして、『状態をリセット』したらどうなる?オルケストラ内部での記憶が消える?それは不自然だ。でも『破壊された記憶』があるのもおかしい。
それじゃあ、
『ミオン=129。
スピーカーが合成音声を吐き出す。こちらでも、あちらでも。
「ふざけんな」
私は呟いた。ヘッドギアを取り外せば曇り空が広がっている。そろそろ壁に掴まっているのも限界だろう。このままじゃ終わる。チェストリアに何かないのか。ウィンドウを開く。漁る。毒薬と爆薬と素材と丸太ばかりだ。使えない。そんなのでどうやって友達を助けに行けばいいんだ。
……。
「友達を、助けに行く?」
『―――では、
ニコロのセンサ越しに聞いた、虚空への講義が思い出される。
ニコロは新大陸に連れていかれたが、新大陸にいるわけではない。かといって旧大陸でもない、単純な距離制限で量ることのできない場所にいる。しかし、転移魔法が使えないわけではない。ラエルカンは、現に【
「やってやる」
私は壁から手を離す。自分を地面に叩きつけようと働く重力の中、空いた右手に一枚のスクロールを取り出す。
MPは十分に足りている。風を受けてバサバサとはためくそれを広げ、魔法を発動する。
「【
私は消失した。