ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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エピローグ 離れた腕を掴み取る

 落ちている。

 雨は止んだみたいだけど湿度が高く、見下げた先の大地の様子は正確には見えない。まあ、〈繁殖住宅〉の残骸が山を作っているのは確実だろう。とりあえずこっちの世界に無事に帰還することはできたみたいだけど……ニコロはどこに飛んだんだろう?事務所(ドールフロント)の場合少し骨が折れる。

 確認してみよう。私はメニューからヘッドギアを被った。彼女の視界を共有する。

 ……私と同じだ、()()()()()

 なるほど、理屈は理解できる。そもそもオルケストラの【予演(リハーサル)】とやらは、仮契約を結んでいたラエルカンが【瞬間転移(テレポート)】で〈繁殖住宅〉の最上階に逃げ込んだことで始まった。つまり、終了時もそこにそのまま出ることになる。理解できるけど……。

 

『飛行ユニット:エネルギー残量0%』

 

 ……結構ヤバいぞこれ。

 えーっと、共有された視界に映ってるものから推測して……よし、ニコロはあそこで落ちている。高さ的には私より少し下程度だけど、距離的には結構遠い。

 

「ニコローっ!」

 

 私はメガホンを取り出して叫んだ。絶え間なく発生する風音が邪魔で仕方ない。ヘッドギアからニコロの声が聞こえる。

 

応答(なに):」

 

「ラエルカンから渡されたチェストリア、入れる!?」

 

「不可能:チェストリア装備の有無に関わらず、契約解消により当機の直接的な転送は」

 

「逆に言えば()()()()()()()()ってこと!?」

 

肯定(うん):」

 

()()()()()!」

 

()():―――「貴方の人形(ユアドール)」プロセスを開始!網膜情報:登録済み!指紋及び掌紋情報:登録済み!血液情報:未登録!腕部との接触が必要!」

 

「わかった、()()()()()!」

 

 落下する私と落下するニコロの間にはあまりに大きな空間があって、それは【瞬間転移(アポート)】を強化しても埋められないほどのものだった。しかし、転移魔法だけが移動手段じゃない。物理的に飛ばすという手段もある。

 私はメガホンを仕舞い、右手を握った。

 

「……戦砕誇示(ウォールフェン)

 

 呟きと共に、右腕がスキルエフェクトを纏う。

 ……戦砕誇示(ウォールフェン)は矛盾のスキルだ。力を入れなければ入れないほど殴った対象に力が加わる。物理エンジンに少し不自然な挙動をさせないと辻褄が合わない。その不自然さの隙をつけばいい。

 私の全く力を入れていない拳が、落下の中でゆっくりと進み、前方に膨大なノックバックを形成していって……。

 

「今だ」

 

 セパレーションの能力を発動する。さっき左手にしたのとやることは同じ、スキルエフェクトごと右腕を()()()()

 

「いっけえええええええっっっ!」

 

 右腕が、飛んでいく。

 スキルによる破壊ゆえの余りに綺麗な切断面が、鮮やかな赤で染まっている。

 戦砕誇示(ウォールフェン)は自分の腕に触れた存在を加速させるスキル。であれば、自分の腕を切り落としてただの腕にしたらどうなるか。腕は、それ自身に推進力を与えることになる。要するにロケットパンチだ。ぐんぐんと、切り離された腕が空中を進む。蒼穹を背後に、紅のポリゴンが噴射剤めいて腕の尾に散る。もはや私は両手を失った、ウィンドウを操作することすらできない。やはりこの仕様はクソすぎると思う。メガホンが持てないから声も出せず、ニコロを頑なに見守る他に無い。

 地面が近づいてくる。頼む。

 赤色の光線が空中を切り裂いた。それはニコロの手元に浮かぶアクセサリーから産み出されていて、少しばかり方向を探った後に、切り離された私の右腕に照射された。そして、右腕を()()()()()……そう。確かにニコロは、切り離された腕を掴み取ったのだ。

 音は聞こえない。でも、やっていることはわかる。一目見ればすぐに理解できる。

 風が吹く。

 ニコロは。

 風が吹く。

 私の腕に。

 風が吹く。

 ()()()()()()()

 

『NPC「[アイヴィ=256]」がパーティに加入しました』

 

 よし、後は私のチェストリアに入ってもらうだけだ。私は成す術もなくこのまま死ぬけど、ニコロは安全地帯に退避できる。人間が入れる版チェストリア、みたいなの無いのかなぁ……無いか、ただ『人間が入れる』という言葉だけでも思いつく悪用法が多すぎるしね。そんな夢のようなアイテムについて妄想してないで、死んだ後にどうするか考えないと。その場のノリで転職しちゃった問題をまず何とかしないといけない。お気に入りのダガーもどっか行っちゃったし、〈繁殖住宅〉を倒壊させた責任を問われてもおかしくない。……ああ、やることは山積みだ。

 ……おや?ニコロの右手に何かが握られているのが見える。それは棒状で、黒くて、神代製装備特有のメカメカしさを備えていて……。ああそうだ、あれは()()()だ。

 

「―――契約者(マスター)

 

 迫りくる大地の背後で、ニコロの声が空に響いた。

 

「よろしくね」

 

 その言葉だけを空間に残し、彼女は光に包まれて、私のチェストリアへと収納されていった。

 ……確かに、やることは山積みだ。でも……。

 

「後悔は、してないな」

 

 大地が、大地を覆い隠す瓦礫たちがいよいよ近づいてくる。よく見れば、瓦礫たちは組み合わさって、その所々に窪みを持っている。……そしてそこには雨水が溜まり、晴天の陽光をぎらりと反射しているのだ。ああ―――。

 

「ご」

 

 その光景に、何かの感想を……綺麗だとか、【潮躱し】が使えればどうだっただろうとか、そういったものを抱く前に……私は脳天を思いっきり硬板にぶつけ、無念の塔の残骸の中に、一つ自分の死体を加えた。

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