ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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遺失物を横領しよう!

 リスポーンした。

 後頭部に柔らかい感触がある、枕だ。特に裁定がバクったりすることもなく、〈繁殖住宅〉近くの宿屋の一室に戻ってこられたらしい。

 

「……ふぅ」

 

 私は目を瞑ったまま嘆息した。吐息が熱を帯びているのが分かる。

 ……とりあえず、目を開く前にある程度の予定を立てておこう。まずは何から始めよう、まずはニコロの四肢パーツを交換するところかな?たぶんベヒーモスに売ってるんだろうけど、今のジョブ構成で前と同じようにリザルトを荒稼ぎできるとは思えない。爆弾の大量生産も、【空蝉】の発動もできないのだ。

真竜討滅者(ドラゴンバスター)】のうちどちらか一つを解除するっていうのも手だとは思うけど、せっかく手に入れた特殊ジョブを自分から手放すのもなんだか嫌だ。それに手放したとして、上忍はともかく錬金術師への再就職はどの道叶わない。他のジョブにしても同じようなものだ、錬金術師ギルドが特段私のことを嫌っているだけで、そもそも密航失敗イベントを複数回踏んでいる時点で他のギルドも大差ない。むしろ忍の巣(ギルド)が例外なのだ。就職はギリギリ可能でも、そこから新大陸調査船への推薦状を書いてもらえたりはしないだろう。

 そういうわけで、方針としては……とりあえずベヒーモスに行って、今の構成でできることを試行錯誤しつつリザルト稼ぎ。【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】については特に動かさず、自然に喪失するのをいったん待つ。喪失したら忍者に再就職。こんなところかな。よし、それじゃあ目を開こう。

 私は目を開いた。そこには予想に反して、宿屋の天井ではなく数枚のウィンドウが開いていた。

 

竜滅装備(バスターアームド)喪失(ドロップ)しました:過多技の羽衣(リデクセッター)/唯一義の玄衣(レテックスデル)

『ジョブを喪失しました:【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】』

『称号を獲得しました:【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】』

 

 私は特に動かさなかった【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】を自然に喪失したので忍者に再就職することになった。

 

「なるほど」

 

 もしかしてこのゲームってクソゲーなの?

 私は悟りつつあった。

 とりあえずむくりと起き上がり、ウィンドウを操作して詳細を確認する。いや待て待て待て待て……。不思議と驚きはない。焦りもない。()()が圧倒的に強すぎるからだ。

 

「……()()()?」

 

 おかしいのだ。それはおかしい。装備していた防具をドロップするなんて普通じゃない。PKされたときならあり得るかもしれないけど、私の死因は落下死だ。逆にこれがPK扱いになったとして、主犯はラエルカンということになるのだろうか?ラエルカン側としてもこんな意味わからん裁定でキルぺナを付けられたら困るだろう。つまりあり得ない。

 ……いやちょっと待って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私は胸のあたりに手を置いた。防具の喪失によって空気中に晒された肌は仄かに体温を帯びていて、そこには冷たいものなど何もなかった。首飾りが消えている。

 私はそもそも()()()()()()()()()()()ことに気付いた。AZZはどこに行った?やっぱり消えている。

 チェストリアは……キャラクターステータスを確認する。装備済み、中身も問題ない。流石に取り外し不能アクセサリーを落とすなんてことは無いみたいだ。しかし私はステータスの隅にバフの発動を示すアイコンが輝いているのを見逃さなかった。

 

『特殊状態:運命神の救手』

『効果:ドロップ率増加(超特大)』

『効果時間:5:52:39…5:52:38…5:52:37…』

 

 えっと、これがいわゆる詫び石ってやつですかね?

 

「なるほど」

 

 このゲームって明らかにクソゲーだね。

 私は悟った。

 ベッドから抜け出す。とりあえず落としたものを拾いに行かないといけない。仮防具として黒き死に捧ぐ嘆き(レクィエカスト・イン・パーケ)を装備、空いたサブジョブのスロットは……神秘(アルカナム)でも入れとけばいいかな。「(タワー)」設定、効果は自分の与えたDoTと受けたDoTの効果倍増。ニコロは……。

 

「いけそう?」

 

困難(きびしい):しばらく充電さ(ねか)せて……」

 

 了解。私は展開したニコロをもう一度格納した。

 ……それじゃ、行こうかな。

 私は歩き出した。

 

 

 瓦礫の山が広がる。

 山といっても、別に掘り返す必要があるわけでもない。私は〈繁殖住宅〉が崩壊した後に墜落死したので、山の上にある装備を拾えばいいだけだ。ちょっと探せばすぐ、過多技の羽衣(リデクセッター)が帯びる白亜を見つけることができる。というか落としただけで喪失扱いってちょっとひどくない?いやかなりひどいよね。逆に拾いなおせば戻ったりしないかな?

 

「えい」

 

 私は駆け寄り、過多技の羽衣(リデクセッター)を拾い上げた。裏側から唯一義の玄衣(レテックスデル)が出現する。しかしそれだけだ、チェストリアに仕舞ってもアナウンス一つない。

 ……なるほど、特にジョブが戻ったりはしないらしい。いや、クソ仕様じゃん。

 

「はぁ~~~~…………」

 

 私は萎えた。萎えつつ、周囲に散乱する首飾りを拾い集めていく。一つ、二つ……。何かしらの建材の粉にまみれ、くすんだ様子の輝きをチェストリアに仕舞う。自分は今、地面を這いつくばっているように見えるのかな……なんて思ったりした。

 

「……クソ」

 

 ちょっと悔しい。

 ニコロと契約もできたし、別にすごく悔しいって程ではない。でも、なんとなく……自分が誰かへの優位性(アドバンテージ)を失ったような気がしてしまう。

 ……いいや。こういう時は自分より下の人間を見て安堵感を覚えるに限る。誰がいいかな……。私は周囲を見渡すが、基本的に野次馬と、見てはいけない者を見てしまったようなそぶりをして立ち去る通行人と、ファインダー・インターフェースを覗き込むパパラッチ(晒しスレ民)どもしかいない。もうちょっと張り合いのありそうなヤツは……あれ?

 いた。

 そいつは両手にドリルを携え、轟音と共に瓦礫を掘り進めていた。掘削された瓦礫がさらに小さな瓦礫を量産していくのにも厭わず、一直線に作業を続けている。

 ラエルカンだ。

 

「なるほどね」

 

 私はラエルカンを自分より下判定した。ドリルを持っているからだ。どうせ私と同じで落としたアイテムを探しているんだろうけど、私はドリルを持っていない。それだけ楽と言うことだ。実際、ラエルカンは〈住宅〉たちが崩れるのと共に死んだから、装備があるとすれば瓦礫の下だ。ご愁傷様ァ~~。私は安堵感を覚えた。よし、元気が出てきたぞ……!

 私は随分前に使った……何だっけ。そう、τ型のドリルを取り出した。うまくいけばラエルカンの装備を横取りできるかもしれない。いやでも本人が見つけられてないんだったら流石に……待てよ。

 思い出そう。ラエルカンが使ってたのは……デカい銃でしょ、聖杯でしょ……いや聖杯は多分仕舞ったかな。それで……そうだ、()()()()()()()

 

「これだ」

 

 私は熱源視認板(ホットスポット・グラス)を取り出し、装着した。ふふふ、瓦礫の山でも不自然に熱量が多い場所発見……!

 駆け寄ってドリルをドリドリする。ビンゴ、空けた穴の向こうにちらちらと、燃え盛る蒼い炎が垣間見えている。火傷するかな?まあちょっとなら大丈夫か。私は手を突っ込み、なんか燃えてるやつをチェストリアに収納した。

 

燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)を獲得しました』

 

「よっしゃあ!」

 

 (タワー)の効果で思ったより火傷が強かったけど、回収に成功したぞ!

 

「何をしている?クグリン氏」

 

 しかしそこに長身の影が落ちた。ラエルカンが気づいたらしい。

 彼は私の頭上で言った。

 

燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)を返すのだ」

 

「返すぅ?なんで?」

 

「このゲームを破壊するのに必要だからだ」

 

 それでイエスって答えるヤツいるかな……?

 

「じゃあ聖杯と交換ね」

 

「いや、聖杯もこのゲームを破壊するのに必要だ」

 

「じゃあデカい銃」

 

「……まだ掘り出している最中だ。あそこに」

 

 耳寄り情報ゲット!

 私はラエルカンの指差す方向に【瞬間転移(アポート)】し、【空蝉】……はダメか。自走竜砲をその場に置いて錬成毒を突っ込み、不安定な足場の上を駆ける。ハイヒールは走りにくいからやだなぁ……。背後で発射音、ラエルカンが追いかけてきている。

 

「そこだァーーッ!」

 

 もう一度【瞬間転移(アポート)】!銃があるという場所に到達する。えーっと、瓦礫が組み合わさってできた空洞の中に銃があって、今空洞に穴をあけている最中と。これ私の身長なら入れる気がする。やってみよう。【瞬間転移(アポート)】。入れた。銃を掴み取り、瓦礫の山の上にもう一度【瞬間転移(アポート)】する。後はチェストリアに……おや。

 

「……クグリン氏」

 

 全身にダメージエフェクトを残しつつ、ラエルカンがそばに立っていた。銃を掴んでくる、これではチェストリアに収納できない。

 

「その手を、離してもらおう」

 

「こっちのセリフだよ」

 

 奪い合いの構図だ。

 私が銃を引っ張り、ラエルカンも銃を引っ張る。STRはだいたい互角らしい、両者のどちらかが銃を得ることは無く、ただただ腕が酷使されていく。

 

「私は―――絶対にこの手を離さないぞ、クグリン氏」

 

 ラエルカンが言う。そっか、じゃあ逆に……。私が考えたところで、ラエルカンの左腕が私の右腕を掴んだ。

 

「『そっか、じゃあ逆に私が手をいきなり離してやれば、こいつは転ぶだろう』とか考えていただろう」

 

 チッ、お見通しか。

 

「残念ながらね。私は」

 

 じゃあこっちで。

 私はセパレーションの能力を発動し、ラエルカンに掴まれた部分ごと腕を切り離した。

 

「は?」

 

 ラエルカンは転んだ。今だ!ハイヒールでラエルカンを踏む。オラッその銃を放せ!しかしラエルカンは離さない。

 

「言った、だろう!手を離さないと!」

 

 しゃーない、じゃあ腕を離してもらおう。私はドリルを取り出してラエルカンの手首近くを掘削した。

 

「は?」

 

 破壊属性の暴虐がダメージエフェクトを飛び散らせる。よし、確かにラエルカンは銃から手を離してないけど、別に手が常に腕とくっついてるとは限らないからね。私はラエルカンの手ごと銃を拾い上げた。チェストリアに収納、手だけが残って地面に落ちる。

 

「待」

 

「じゃあね~!」

 

 セパレーションの能力を首に発動。自分自身の頭部が胴から切り離される。私は死に戻りした。

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