ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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忍びの道を再び歩もう!

 まあとりあえずは再就職が先だ。

 ベヒーモスでパパっとニコロの手足を換装したあと、その足でやってきたサードレマの忍の巣(ギルド)。盗賊系統のギルドは他の職業とは少し違う運営形態を取っていることが多いけど、その中でも忍者はかなり特殊な部類だ。他のギルドが大通りぞいに建物を構えているのに対し、忍者たちは……こそこそと隠れるように、大都市のはずれのほうに偽装された施設を置いている。こそこそと隠れているため新大陸調査船への紹介状も書いてもらえない。よってクソだ。私は自分が今から就職しようとしているジョブをクソ判定した。

 

「機械人形の同伴は不可だぞ」

 

 ()()の入り口に入ろうとしたところで、受付のなんか口元とか隠してる感じのNPCに呼び止められた。

 ……忍者の特殊さは再就職においても発揮される。他のジョブのように一声かければすぐというわけにもいかず、逐一刃隠心得の習熟度試験を受ける必要があるのだ。これもクソ寄りなんだけど、見方によってはむしろ救済措置ととらえることもできる。まあ、それについては後ほど。

 

「……え~?」

 

 私は言った。それは不服というよりは浅めの困惑によるものだ。機械人形、っていうのは……制服人形のことか。つまりニコロをチェストリアに入れた状態で試験を受けるな、と言いたいんだろう。

 

「え~?ではない。機械人形を展開し、いったん別れろ」

 

 NPCは厳しげな口調をやめない。

 ……忍者はやっぱり全体的にヘンだ。この一職業だけで『忍術』とかいう特殊なシステムを有するアビリティ体系が一つできてるのもおかしいし、何より……関連NPCが何か妙だ。ニコロはチェストリアに入れているはず、このNPCはどうやって彼女の存在を検知しているんだろう……?

 

「早くするんだ」

 

 ……はぁい。

 ニコロを展開、忍の巣特有のなんかシェーダー変わった?みたいな雰囲気をぶち壊して神代の光が空間を破き、そこに整った顔立ちの人形が現れる。私はニコロに言った。

 

「じゃあここで待っててね」

 

 彼女はチェストリアからなんかミニコンボみたいな奴を取り出し、地面に置いてその上に座った。答える。

 

承諾(わかった):あまり長引かせないでね」

 

 ニコロの面倒くさがりは、契約してからは以前ほどの強さではなくなった。ただ……それはそれとして、行動原理ではなく性格的な面で効率を求める傾向が残っている。残っているというか、多分それがデフォルトになっているんだろう。誰だって、人格面で誰かに影響を受けることはある。

 となれば。私の帰りを心待ちにするであろう彼女にかけるべき言葉は……一つだ。

 私は口を開く。数秒後にはもう、入り口めがけて走り出していることだろう。

 

「大丈夫、すぐに戻るから!」

 

 

「諸君―――あれを見たまえ。赤色の棒手裏剣が一本、白塔の上部に突き刺さっているだろう」

 

「なんだ、アレに触ればいいだけかよ!」

 

「そんなの【空蝉】と【鼯衣】使えばヨユーだよなっ!」

 

「早く忍者になりたいぜ~!」

 

「諸君!よく聞き給え。君たちがすべきは―――この棒手裏剣にただ振れるだけ、なんてごくごく容易な行動ではない」

 

「容易じゃないってよ!」

 

「フン、ここまでのヌッルい試験で言われてもなあ」

 

「忍術強すぎでしょこのゲーム!」

 

「その縛りとは、刃隠心得を使わないことだ」

 

「なんだと!?」

 

「マジかよ!」

 

「終わった」

 

「刃隠心得に頼りすぎることがあってはならない―――それが、忍びの掟の第零条である。刃隠心得とはあくまで()()()がためのもの、それそのものを刃と置いているようでは、強力な忍者になど決してなれない。―――さあ、最初に挑戦するものはあるか!?」

 

「はい!!受験番号〇八二です!」

 

「『クグリン』だな?それでは始めろ」

 

「えい!(自分の左手を切り落として棒手裏剣めがけて投げつける)」

 

「えぇ……」

 

 

 というわけで合格した。

 

「おまたせー」

 

「おかえり、契約者(マスター)

 

 ニコロに手を振りつつ、もう片方の手に取り出した()()()を握る。

 別にこれで試験は終わりではなく、ここからさらに上忍試験に行く必要があるけど……その前にひとつ、片づけてしまわなければならないものがあるのだ。

 ……忍者は全体的に奇妙で、結構なクソ要素を持っているジョブだ。ただ再就職するだけでも、そのクソ要素はかなり体験できたけど……まだ終わりじゃない。最高のクソが、私の手中に円筒の形をとって収まっている。

 それは、すなわち()()だ。

 

「…………」

 

 私はじっと、その表面のくすんだ緑の上に重ねられた白い文様を見つめた。それはたぶん木の枝か何かをモチーフにしたものだったけど、目を凝らすうちに()()()()のようにも見えてきた。実際のところ、この巻物は分かれ道なのだ。忍者最大のクソ要素……それは、ジョブ就職時にもらえる刃隠心得・奥義の秘伝書の内容が……()()()()に決定される、という点だ。

 

「―――吹来い竜―――」

 

 おや、ちょうどあのあたりで奥義ガチャを引いてるプレイヤーがいる。まあぶっちゃけ秘伝書の中身はアイテムとしてもらう時点で決まってて、開封するまでその内容がわからないだけなんだけど……とりあえず見てみよう。

 プレイヤーはやけに可憐な声で一心不乱につぶやきながら、巻物を持つ手を徐々に動かしている。

 

「竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い……!」

 

【竜威吹】はかなり人気のある奥義だ。単純に火力が強いのもあるが……一番の理由は派手だからだ。実際、派手さをバカにしてはいけない。このゲームのスキル周りは基本的にセンスがいいから、派手ということはかっこいいということになる。トップクランの面接でかっこいいプレイヤーとかっこわるいプレイヤーのどちらかを採用するとなれば、基本的にかっこいいプレイヤーだろう。ただし【午後十時軍】を除く。

 

「竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い竜威吹来い……!」

 

 彼女のツインテールが緊張に伴い揺れている。結構引っ張るなあ……もしかして私と同じ再就職勢なんだろうか。再就職のために試験をやり直すことが一概にクソ仕様といえない理由も、この秘伝書ガチャを引き直せることにある。自分が求めているのと違う秘伝書が出てもリセマラが可能ということだ。いや他のクソ要素を緩和してるからって別のクソ要素があっていい理由にはならないし、一番クソなのは運営という話になるんだけど。

 プレイヤーはまだ巻物をにらんでいる。流石にそろそろ引き終わるかな?

 

「竜威吹、来いっ!」

 

 彼女は勢いよく巻物を開き、

 

「ァーーーーッゥゴミカスッッ!!!ァッ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!」

 

 そのまま地面に半開き状態で叩きつけ、茶色のブーツでもって踏みつけ始めた。高い声が口汚い罵倒を帯びて広場に響いていく。

 

「……ニコロ、あの巻物なんて書いてあるやつ?」

 

解析(なになに):センサ情報によれば、『刃隠心』『奥』『水』『り』の文字を確認」

 

「【水滑り】かあ……」

 

 掲示板とかではハズレ代表格みたいに扱われてるけど、ぶっちゃけ私にとってはアレはそこまでハズレではない。なんだかんだでかなりお世話になってきたからだ。まあ習熟度上げすぎると【潮躱し】になるのは正直擁護できないけど……何か回避手段があるかもしれないし?

 とはいえ、彼女にとってはハズレだったのだろう。プレイヤーは幾度とない踏みつけを経て足跡だらけになった秘伝書を、しかしもったいないとかそんな理由で拾い上げると、インベントリに収納し、とぼとぼと歩いて行った。

 ……私も引くか。

 ぶっちゃけ私にとってはあんまり当たり外れが無いというか、強いて言えば二連続【水滑り】は避けたいなあくらいだ。やっぱりいろんな忍術を使いたいしね。

 

「えい」

 

『刃隠心得奥義【水滑り】を会得しました』

 

「なるほど」

 

 いやまあ……良いんだけどこう……どうせなら竜威吹とか、無い?みたいな。無いかあ。

 

解析(なになに):センサ情報によれば、『刃隠心得奥義【水滑り】』の文字を確認」

 

「ニコロ、もう解析しないでいいよ」

 

「了解:」

 

 ……えぇ?こう……いやだってさぁ、私は単にジョブを失って再就職してるだけだからまだしも、仮に私がリセマラ民だったとしてさあ。あのダルい試験を突破するじゃん?で巻物を開いたら【水滑り】。実質的に振り出しに戻ってるわけじゃん。リセマラを始めた時点から状況が全然変わってない。しかも二回かぶった以上三回かぶったり四回かぶる可能性も付きまとうわけで、それは回を重ねるごとに重くなる枷としてリセマラ民を縛る。要するに何が言いたいかというとこの仕様はクソだということだ。クソッ!私は地面を蹴り上げた。土埃が宙を舞う。

 

「あっクグリンさん!やっぱりここでしたか!」

 

 そしてその中を打稲魔糸(ダイナマイト)が突っ切ってきた。えっ何……?彼女は当然のように録画アイテムを構えながら私に近づき、笑顔で言った。

 

「探したんですよクグリンさん!普通にどこにいるか分かんなかったんですけど、クグリンさんの目撃情報をチェックしてたらこう……なんか【空蝉】使ってなくね?みたいな感じになりまして!で、なんかのはずみで上忍じゃなくなっちゃったんじゃね?って。やっぱり再就職中だったんですね!」

 

 お、おう……。

 ……ツッコミを入れたいがいったん抑える。ダイナマイトは割と使えるヤツだし、普通に当たり障りのない感じで答えておこう。

 

「……あー、た、大変だったね。伝書鳥(メールバード)でも送ってくれればすぐに反応したのに」

 

「ああいえ、僕は伝書鳥(メールバード)使えないんですよ」

 

「……なんで?」

 

 私がなんとなく嫌な予感を覚えつつ発した問いに、ダイナマイトは笑顔で答えた。

 

「一回有翼爆弾を試したことがあって、その時にちょっと括りつけてみたら」

 

 当たり障りありすぎるだろ!

 

「わかった、それ以上は良い。……で、要件は?」

 

「はい、それが……」

 

 そこで言葉が途切れる。ダイナマイトが急に……そう、何かに()()()ような顔で動作を停止したのだ。

 

「……?」

 

「……」

 

「おーい?」

 

 ダメだ、反応がない。ダイナマイトの視線の先を見てみれば何かわかるかな?確認する。そこにはニコロが、制服人形の標準装備的な何かであろう白いコンボの上で座っている。

 ……そういえば紹介してなかったっけ?普通に晒されてるとばかり思ってたけど、まあニコロは前まで寝るか首だけかみたいなところあったし無理もないのかな。

 

「……ああ、紹介するよ。この子はアイヴィ=256、私の……」

 

「……契約機(ともだち)

 

「すみません落ち着いたらまた来ます」

 

 え?

 

「今から死ぬので」

 

 ダイナマイトはなんかナイフ取り出して心臓に突き刺して死んだ。

 ……まあ、そういうこともあるかもね。

 不思議とその行為に驚きは無く、むしろなんだか納得するような気持ちで、私はポリゴンとなり爆散していく彼女のアバターを見送った。

 散乱した彼女の装備品が、傾いた日光を受けて影を落としていた……。

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