ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「ニコロ、そっちの調子は?」
『返答:
「了解っ」
ぶつり。
アクセサリーとして装備した無線アイテムが、通信の途絶を無機質な音で示した。
そのノイズにも似た効果音を、私以外の誰かが聞くことはない。無果落耀の古城骸はかなり不人気なフィールドだし、とりわけ今はほとんどのプレイヤーは戦争の準備をしている。今はエリアボス直前の地点にいるから雑魚モンスターが出るわけでもなく、ただ虚ろに吹き荒ぶ風たちが、どこか不気味に―――誰かの断末魔のような聞こえ方で、そっと響いていくだけだ。
いや、実際のところ古城骸を敬遠しがちな気持ちはわかるんだよね。攻略中の様子を想像するとさあ……まず古城骸に、来たぞーーっ!って。足を踏み入れるじゃん?で初手でなんかめっちゃデカい手が落ちてるじゃん。当然テンションは上がるわけよ。まあめっちゃデカい手が落ちててテンションが上がらなかったらウソだもんね。でもさぁ……敵がまあ、しぶといじゃん?しぶといのはいいよ、むしろやりがいが出るみたいな側面あるし。でまあ意味深な瓦礫とか意味深な動く床とか色々を踏まえつつ、無駄に硬い敵に必死で魔法なり斬撃なりを叩きこむわけじゃん?ここで思うんだよね、これ意味深なだけじゃね?って。瓦礫があろうが別にバフ効果にはならないし、動く床とか単なるダルいタイプのギミックだし。何より手だよ。実際この手って何なの?っていう。普通に攻略しててもわからないんだよね、あのデカい手が何なのか。別に応援とかしてくれなくてマジで落ちてるだけのデカい手っていう。そうなるともう説明しろよ以外言えなくなるじゃん。テンションは上がるけどこう……自分だけ蚊帳の外、みたいな。
「……まあいいや」
古城骸にあんまり人がいないのは……今の私には、むしろ
「すぅ……はぁ」
私は適当に深呼吸して気持ちを入れ替えると、システムメニューから時計ウィンドウを展開した。現在時刻……12月2日17時14分23秒。リアルであればもう太陽が沈んでいるころだと思うけど、シャンフロには季節の概念がないし自転公転まわりもなんだかよくわからないシステムになっているので、結論として日光は未だに差し込み続けている。とにかく……重要なのは、
角ばった数字フォントたちが、ウィンドウの上で絶えずその姿を変え続け……一秒、また一秒と、世界に時が刻まれていく。30秒が過ぎ、40秒が過ぎる。……よし、何事もなければもうすぐ
私がそわそわと
「……!来た!」
魔法陣が、私の呟きに効果音を被せながら……仄かな光粒を振りまいて、その霊耀に群れを成させる。それらは空間に散る微細なもろもろを暴き出しながら、蠢き囲む
……クソアプデによるプレイヤードロップの仕様については色々と調べた。結局のところ厄介なのは、三十分間保持される所有権だ。落ちたアイテムを持ち上げることはできても……インベントリには当然入れられない。ある程度離れた場所に一定時間置くと元の場所に戻る。転移魔法を使っても装備判定を剥がされる。なかなか条件が厳しいわけだ。
人影が、霧散していくエフェクトの中で言う。
「―――ごめん!」
賞金狩人の不在を嗅ぎ付けてドロップ目当てで街中PKをやりまくってるクズのみんなも、この仕様には辟易しているみたいだ。結局彼らは根本的な解決をあきらめ、一人あたり三分くらいの時間でどんどん通行人を殺していき、十一人目を殺すタイミングでついでに一人目の装備を回収する……という手法でやっているようだ。当然三十分が経過した後ならクズ以外のプレイヤーも平等に拾えるんだけど、その場合はそのプレイヤーが十一人目になるだけという寸法らしい。ひどいね!
人影が、もはや人影ではなくなりながら言う。
「十一秒遅れちゃった」
そして。
転移すると装備判定を剥がされるという仕様には抜け道がある。【
「大丈夫だよ、
浮かばせた剣七本。さらに両手枠を使うだけの任意の武器。それらを自在に繰る職業……
ハゴノイゲは、フィフティシアでクズ集団に襲われた哀れなプレイヤーがドロップし、そしてクズ集団が別のプレイヤーを殺している隙にニコロの「回収者」の光線を当てられ、更に彼女に手渡されてここまで運ばれた七本の剣たちと一本のハンマーを床に転がした。そして、新たな【
「じゃっ、また十分後にね!」
「了解!」
魔法陣が彼女を包み始める。転移エフェクトを最後まで見ている余裕はない。転移魔法の制約は回避できても……「ある程度離れた場所に一定時間置くと元の場所に戻る」件についてはそのままだ。この八本の武器が消失する前に、
……といっても、大したことじゃないんだけどね。
「さぁて……!」
私は剣のうち二本を拾い上げながら、自分の背後を改めて見据えた。そこには「ステルスアサルト」でごまかせる程度まで距離を離し、
「行っけぇぇぇぇ!」
あとは
腕に遠心力を感じつつ、前よりは多めに振ってあるSTRでもって剣たちに空を舞わせる。一見すればこれは安全圏からの投擲攻撃でしかないけど、実際は違う。私が攻撃だと思っていないからだ。シャンフロのシステムは判定が微妙な時は意思を見る。「ステルスアサルト」が途切れていないのが何よりの証拠だ!
簒奪者たる竜の手前あたりに落下した剣たちは、当然の帰結として
「最後の一本!」
投げる!奪われたのを確認!ユザパは……謎のパワーでもって自分の周囲に武器を浮かせている!
このゲームのボスは基本的に複数人想定だ。ユザパも四人くらい~で挑むことを想定されているだろう。四人ということは全員が二刀流なら八本の武器があることになって、ユザパの四肢だけでは足りない。よって、コイツは装備枠が足りない分の武器を浮かせる。
「後はァッ!」
倒すだけだ!
私は
「刃隠心得、奥義!」
空気を吸い込む。思えば、私というプレイヤーはしょっちゅう竜と遭遇してきた。アドバンテージ。セパレーション。オルケストラにいた恐竜。眼前に見据える銀の簒奪者もその例に漏れない。遭遇してきた。あるいは
「【竜威吹】ぃぃっ!」
熱が。蒼と、風を纏って。地面を抉る。静寂を破壊する。ユザーパー・ドラゴンただ一体を屠るために。その息吹はどこか、青空のようにも見えて。
遠くで、竜が斃れた。
「はい討伐ぅ!」
ハゴノイゲが来るまであと六分!早く拾っちゃおう!
私は忙しさと楽しさを心中で同居させながら、散らばった盗品たちのもとへ駆け出した。