ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
しかし諍いが起きた。
いかにもガラの悪い感じのキマってるファッションをしたプレイヤーが、頭上に輝くレッドネームにも届きそうな高いモヒカンを傾けて、直立する私につっかかっている。
「オンドレぁッゥゥゥ!?!??!!テメッォレらの"シマ"で調子コいてんじゃねェッゾッォ!?」
「ごめんちょっと聞き取れないかも……」
「え?ああすまん、じゃあもう一回言うぞ……オンドレぁッゥゥゥ!?!??!!テメッォレらの"シマ"で調子コいてんじゃねェッゾッォ!?」
「やっぱ聞き取れないかも……」
「マジかよ……」
彼の名前は『ハイエナジー』、現在シャンフロじゅうで蔓延っている街中PK装備回収クズ集団のうち一つ、フィフティシアを本拠地にするヤツらのリーダーらしい。クズ集団のリーダーである以上当然ながらクズで、そしてニコロに絡んできたって言うから駆けつけて数分話した感じ……バカでもある。クズでバカというのはリーダーよりは駒に求められる才能な気がするんだけど……いやまあ、このゲームのプレイヤーって全員誰かの駒なところはあるか。
「とにかくよォォッゥ!……クグリン?だったかァ!?困ンだよテメェーらみたいな雑魚にィッ!オレたちの
ハイエナジーがガンを付けながら言う。このガラの悪さはいくらプレイヤーとしての人間性がクズでもそれだけで身に着けられるものじゃない、ある程度はロールプレイの側面があるだろう。というか、ロールプレイ以外で髪型にモヒカンを選択することはまずない。
「え~?でも考えてみてほしいんだけどさ。私たちはドロップの中でも剣しか回収してないよ」
「剣だけだァ!?確かにテメーらが盗むのは剣だけだろォ~よッ!でもなァ!ここでテメーらをシメ上げてやんナかッたらよォ!テメーらの後に出てくる『槍だけ~』とか『靴だけ~』とか『指輪だけ~』とか言い出すヤツらにも同じように対処しきゃなんねンだよッ!」
「……チッ」
さすがにここで言いくるめられるほどバカじゃないか。
「今舌打ちした?」
「してないよ」
「そうか……とにかくそういうわケでァッェ!!テメーらは今すぐここを去れッ!それでノッたれ死ンじまえば―――おっと」
おや?
「ちょっとタンマ」
……ハイエナジーは私にハンドジェスチャーを送ると、何やらシステムメニューを操作し始めた。私からはそのウィンドウは見えないけど……伝書鳥が来た様子はない。少なくともメールを読んでいるわけではないということだ。一体何をしている?……まあいいや。とりあえず急にチャカを取り出してパスパスやってくるみたいな感じじゃないっぽいし、いったんチェストリアに退避させておいたニコロは外に出しても大丈夫だろう。
「起動:」
そうして幾何学模様に包まれたニコロが実体化するのと、
「ッフぅ~、あッたあッたァ……」
ハイエナジーが何やら
……なにこれ?
怪しげな黒い玉。そうとしか表現しようがない。それらはハイエナジーの掌の上でどこか誇らしげに日光を反射していて、なんだか禍々しげなオーラを帯びてるようにも見える。掌はそのまま、彼の口に運ばれて……ちょっと待って、あれってまさか。
「ニコロ、あれ何」
「解析:一号人類によって開発された臓器内貯蓄魔力の消費及び一時的な身体能力の増強を引き起こす薬物。レシピは―――」
「それは言わなくていいかも!」
私はそのアイテムを知っている。ただ、記憶から消そうとしていただけだ。
薬剤士で楽に稼ぐとなるとコレを作るのが手っ取り早かった。しかしそれは―――精神衛生という意味では、ぜんぜん
「
ニコロがその言葉を最後に黙ったころには、既に二つの黒い玉はハイエナジーの口内に吸い込まれていって……。おや、禍々しげなオーラが彼の全身に移った。
……これは。
「……ふゥ」
表情を満足感で塗りつぶし、ハイエナジーが言う。
「やッぱり―――
「えぇ……」
思考にとどめるつもりだった困惑が、思わず口から飛び出てしまう。ハイエナジーは……クズでバカなだけじゃない、狂っている。私は確信した。
「アァ?なンだよテメー。十五分おきに
逆におかしくないことってある?
ハイエナジーは続ける。
「……気にイラねェなオイ……!ちょっとテメー来やがれッ!俺が
うわっ腕を掴まれた!クソっこの……!?……こいつ腕っぷしが強い……!レベル99並みのSTRが入ってるから!?いや、それだけじゃ……!
「レッスン1だッ!
……
かなりの握力を腕に感じる。ハイエナジーは私の表情を見てニヤリと笑い、言った。
「勘付いたかァ!?そうだよッ!レベル1のポイントをSTRに5突っ込めばッ!バフによるポイントは5の99倍の495になるッ!」
え?つまりHPに1しか振ってないってことじゃん。殺すか。私はセパレーションの能力を発動して掴まれた腕を切り落とした。
「えぇ……」
なぜか困惑の呟きを発しつつ姿勢を崩すハイエナジーのもとから【空蝉】で脱出。叫ぶ。
「ニコロっ!」
「
ブースターの煙が視界の隅を行く!
それはニコロの飛行ユニットが発するエフェクトに他ならない。背中に感触。それは背後に回ったニコロが私を抱え込んだことによるものだ。つかの間の浮遊感が破壊され、再び重力がやってくる。脱出成功だ!
「くたばれ~!」
ハイエナジーは姿勢を明らかに崩している。私は自走竜砲を取り出して彼の足元あたりに行かせた。事故死はPK判定にならない!私の手が汚れることはない!そのまま
「ッとォ……」
しかしハイエナジーは転んでも死ななかった。なんで?
……右手に、何かが握られている。
「危ねェなァ……レッスン2はまだ終わってないぜェ」
それは、藍色の光を発する……
「ステータス反転聖杯を使えばァ!495ポイントを別のステータスに移すこともできンだよォゥッ!おススメは断然LUCだなッ!」
え?つまりSTRに1しか振ってないってことじゃん。殺す……のも面倒だなあ。
「というかさっきの何?『えぇ……』じゃないでしょ、
私は気になっていたことを質問してみることにした。
ハイエナジーは『逆におかしくないことってある?』みたいな顔でこっちを見ている。唖然って感じだ。なんかムカつく。殺すか。私は残った片手にラエルカン銃を取り出した。
「
しかしニコロが背後から忠告してきたので仕舞った。
「ちょっとタンマ」
ハイエナジーが怪しげな黒い玉を取り出し、飲み込み始める。
……マズいぞこれ、グダり始めている。そもそも何が問題だったんだっけ?うちのシマを荒らすなとかそういう感じだったかな。この調子だと睨み合ってる間に別の誰かにシマを乗っ取られて落ちそうな気がするんだよなぁ……。
……よし。
「飲みに行こうか」
私はハイエナジーにフレンド申請を送った。
ふと見上げた空はいつの間にか黒ずんでいて、ただ煌めきを纏う三日月だけが、私たちのもとへ輝きを注ぎ始めていた……。