ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「……ってわけなんだよ~」
「なるほどな」
ペンペンにハイエナジーの一件を語っている。
クソアプデだの戦争だの、最近のシャンフロにはいかにもめんどくさそうな要素が目白押しだ。ここらで一度、新大陸を目指す同志と視点を共有しておいた方がいいだろう……というわけで、私たちは蛇の林檎で情報交換をしているのだ。
ペンペンは濃いめのりんごジュースを啜ると、自分の事情について語り始めた。
「俺は……クソアプデの直前まで
おおむねいつも通りにヘンテコ武器を集めていたようだ。というかこのゲームってそんなのまであるんだね……。
一瞬持ち上げられたりんごジュースのコップがテーブルを殴り、ペンペンが話を再開する。その目つきは、なんとなく荒んだものにも見えた。
「だが……このゲームの運営はマジでクソだ。
……クソアプデは不意打ちで急に来た。ペンペンのように、落ちると思っていなかったものが落ちたことで不利益を被ったプレイヤーは数知れないだろう。はっきり言ってドロップ率増加程度で何とかできるレベルの事件ではない。つまりクソということだ。
「マジでクソだよね」
「マジでクソだよな」
私たちは意見を一致させた。
12月という時期にはミスマッチの清澄な氷が、季節なき
「それで……だ。探しはしてもぜんぜん見つからなくてな、多分誰かに持ち去られたんだろうが……まあ、萎えた」
萎えるよねぇ~。
ペンペンは続ける。
「しばらくこのゲームから離れるか?みたいに思いながら……まあ、ベヒーモスあたりをぶらぶらしてたわけだ」
……このゲームから離れる、か。
私には、ペンペンのその言葉が……本人の意図を超えたところで、より深い、示唆的なものを帯びているように思えてならなかった。彼は最終的に離れずに済んだようだけど、そんなのは数多のプレイヤーたちのうち一事例に過ぎない。このゲームの最大瞬間同時接続者数は某世界記録にも認定されたほどだ。当然のことながら、膨大な数の運命たちが絡み合っていて……世界そのものを
私は不吉な予感に思いをはせたけど、それはそれとしてペンペンは話を続けている。
「で……ぶらぶらしてたらさ、出会ったんだよ」
……出会った?
私はそこで気づいた。ペンペンの目つきは荒んでいるのではなく、むしろ活力が溢れすぎているというべきものなのだ。ギラギラしている、欲望に満ちている。色々な表現方法があるだろう。ただ重要なのは……
「
彼は一つ、大きいとは言えない小箱を掲げた。こ、これは……!
私が目を見張る中、ペンペンの親指が小箱の横を擦る。おそらくスイッチ的なものをスライドさせたのだろう。神代製アイテム特有のよくわからない光を放ち、小箱がまさに
ばちばち。
その先端を青い電流が走った。
「スタンガンだ」
……。
「な、なかなか強そうだね?」
「ああ。はっきり言って手持ちじゃ使い物にならないが、棒に括り付けると一気に化ける……薙刀ならぬ薙スタンガンってな。いいだろ?」
「そうだね……」
要するに、落とした武器を探している間に「飽き」のタイミングが来てしまったということらしい。
……まあ、そういうこともあるかもしれないね。
「それでクグリン」
「なに?」
「お前、戦争でどっちに参加するかもう確定したか?」
……そういえばまだだった。
シャンフロの一大イベントである王国騒乱は、来る12月15日午後6時に開始される予定だ。正直このままで本当に大丈夫なの?という感想しかない。だってクソアプデじゃん。前ルール読んだときは「手から離れていた武器以外はドロップしない」って書いてあったはずなんだよね。それがピンポイントで塗り替えられたとしてもさぁ、さすがに「プレイヤーをキルしてもレッドネームにはならない」のほうは変わるわけないじゃん?となるともう……起こるのは、
……しかしこのゲームの運営はクソなので、王国騒乱は何事もなく始まる。私が「前王」と「新王」でどちらの味方をするかも、そろそろ決定しなければならないのだ。
「ん~……まだ決めてないけど、どちらかというと新王よりかな」
「その心は?」
「えっとね……」
私はペンペンに自分の考えを語り始めた。
……まず、新王は正直負けると思う。
なんか配信者が来て色々やってるみたいだけど、このゲームには配信を見ながら遊べないという致命的な欠陥がある。ルール上も若干不遇な節があるし、掲示板での評価も芳しくない。……まあ、その中にはどこかの陣営が流したプロパガンダも混じってるんだろうけど。
ただ……これはゲームだ、負けたところで死ぬわけじゃない。
「新王陣営には恩赦がある……!」
新王陣営で成果を上げると恩赦が出て、カルマ値だの指名手配だのが清算される。それはごくごく単純な仕様で……
「自分の陣営の倉庫を襲撃する、とかね」
新王陣営はサーティードに拠点を置く。その倉庫には旧王と比べても上質なアイテムが揃っているだろう。それを全部掠め取る、完璧な作戦だ。
「……なるほどな」
「結構いいプランでしょ!」
「やめとけ」
あれっ!?
私はびっくりした。ペンペンなら賛同するだろうと思っていたからだ。なんなら、そのまま二人で倉庫への侵入方法を話し合うことになるとすら思っていた。しかし、違った。
スタンガンを握った左手を机に伏せ、ペンペンが言う。
「いいか?新王か前王かじゃないぞクグリン、そもそも
……なんだと?
それは、確かに選択肢の一つではある。実際、中立都市にいるようなプレイヤーはみんなそうしているだろう。どちらかの陣営に参加するのは負けるリスクを呑む行為、そして負けによるペナルティを受け入れる行為だ。私の「新王は負ける」という予想だって覆る可能性がある。勝敗は基本的に予想できない。
でも……参加しないというのは。目の前にあるPKし放題権を、完全に見逃すということでもある。
「……どうして?」
「リスポーンだ」
ペンペンがりんごジュースを飲み干す。
「どちらかの陣営に属した場合、死ぬたびに『本陣都市』にリスポーンしなきゃならない。それじゃダメだ」
「……フィフティシアにでも引き籠るつもり?」
「違うさ、
……もっと先?
首を傾げる私の前に、ペンペンの手に握られた一枚のチラシが突き付けられた。それは……妙に気合が入っていて。きっと、どこかの
『ツチノコ
「開催は、12月19日からだ」
……これは。
それは、私が何よりも待ち望んでいたものだった。
いい加減新大陸に行きたいと、そう思い始めてどれだけ経っただろう?大手クランには入り損ね、抽選枠にも外れるし、当たっても謎の小競り合いでチケットが消えている。そろそろ密航してみようかなんて思っても、基本的にいつの間にかつまみ出されている。
その状況を打開するための最も簡単な手段は、そもそも新大陸調査船に頼らないことだった。自分で、いや。自分じゃなくてもいい。誰か別の人間が作った船に乗る。それこそ、新大陸に行くための最高の道だった。ただ弱かったから実践できなかっただけだし、今の私には友達がいる。やれるということだ。
「海に出るぞ、クグリン」
スタンガンの電源は切れていないようで、電流はいまだにばちばちと、何かを鼓舞するかのように音を立てていた。