ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「というわけで、船を作るのに協りょ―――」
ずだん。
街角で無神経に上がった銃声が、言い切りかけた私の言葉を阻害した。
一瞬だけ訪れた静寂がすぐに晴れ、路上の人いきれはつい先ほどまでと同じように運行を始める。もはや通行人たちも、銃声一つ程度にいちいち気を留めてはいられないのだ。最近のシャンフロでは街中の銃声なんて珍しくもない。言うなれば、夏にセミが鳴くのと同じようなものなのだ。
私も周囲と同じく銃声をセミ扱いすると、改めて目の前に佇むジュゲッキに話し始める。
「あー、船を。船を作るのに協力してほしいんだ」
「……ふふふっ」
ふふふってなんですか!?
私はビビった。
私とジュゲッキの関係性はいつもシンプルだ。私が何かを要求してジュゲッキがその代償として人体実験にかけてくるか、あるいはジュゲッキが人体実験にかけてきて私がその代償として何かを要求するか。この場合は前者ということになる。実際……何かしらの人体実験を受ける覚悟はしてきた。でも、はいともいいえとも言わず「ふふふっ」だけ、というのはあまりに不吉だ。
「その言葉を待ってたよ、クグリンちゃん!」
私何やらされんの!?
最も気がかりなその疑問にジュゲッキは答えてくれず、代わりに何やらシステムメニューを操作し始めた。このアクションすら何かの人体実験の一環な気がしてならない。まずい。もうちょっと安心感が欲しい。そうだ!
「ニコロっ」
「展開:何の用?」
「しばらく傍にいて」
「……
わあい!私は展開したニコロの傍にササっと寄った。征服人形特有の妙に可憐な感じの衣装が、視界の隅で揺れ始める。
よ……よし。なんとなく未来に希望が持てる気がしてきた。友達が隣にいるって素晴らしいね!しかしジュゲッキがおもむろにチェーンソーを取り出していたので私は考えを変えた。
反射的に聞く。
「誰の腹を掻っ捌くの!?」
これで「もちろんクグリンちゃんだよ」って答えられたらどうしよう?不安だ。
ジュゲッキはのんびりした口調で答えた。
「……あれ?ああごめんクグリンちゃん、このチェーンソーは間違えて出しただけだよ~」
なぁんだ。
「使うのはもうちょっと先だからねっ」
最終的には結局掻っ捌くわけ!?
ま、まずい。不安量がデカすぎる。ニコロが隣にいてもなお抑えきれない。に、ニコロぉ~。私は更に彼女に擦り寄った。今の私はクソアプデ対策で
私が自分を鼓舞する中で、ジュゲッキのウィンドウ操作の手は仮想の板の上を滑り続ける。
「……よしっ」
いま、滑り終えた。
「……それで、私に何をさせようってわけ?」
「えっとね。今からクグリンちゃんには―――」
な、何が来る……?私は仮想の心臓が鼓動を速めているのを自覚していた。
「
ニコロの静まり返った腕は、上昇していく私の心拍数と対比を描いているようで。
「……うん」
私がそう答えたところで、ジュゲッキは一枚の書類を取り出した。
「ガンスミスになってもらいます!」
カンニングペーパーだった。
◇
生産系ライセンス。
それはこのシャングリラ・フロンティアにおいて、『武器を作る』ために生まれた第二の手段だ。従来、武器の製造といえば生産職である鍛冶師に一任されていた。
しかし、そこにリヴァイアサンとベヒーモスが浮上する。
二隻の神獣が提示した条件はこうだ―――『武器を作る』ための能力を、意思を、知識を。それら三つを兼ね備えしものに、挑戦への
それは紛れもなく、一つの大きな革命だった。武器を頻繁に必要としつつ、ジョブスロットの兼ね合いで鍛冶師に就職するまでは至らなかった開拓者たち―――彼らはこぞってバハムートへと足を運び、ライセンス試験を突破し、自分の考えた最強の武器を自分で作り出すようになっていった。
ガンスミス。それは、銃器を生産するライセンス。
◆
というわけで合格した。
流石は初心者にも人気なライセンスというか、取得はそう難しくなかった。
「プロトコル「オルケストラ」条件達成、
『ユニークシナリオEXの条件を達成しました』
『ユニークシナリオEX「あなたに捧ぐ
ついでになんかユニークシナリオも始まったしね!
とりあえず、簡素な封筒を渡してきたニコロに質問する。
「ニコロ、この招待状『貴方を待っています』って書いてあるけど……具体的に
「一万」
「一万?」
「キロメートル先」
「クソがァーーーッ!」
私は悪態をついた。
しかし悪態をつきっぱなしのわけにもいかない。私たちが立つベヒーモス入り口付近に、雑踏をかき分けてジュゲッキが歩いてきたからだ。
「無事にガンスミスになれたみたいだねっ」
やだなぁ、絶対まだまだ企んでる笑顔だよこれ……。
私はニコロに近づいて安心感を得るか考えたけど、実際のところ安心できたところで別に安全というわけではない。そろそろ……
私はジュゲッキに渋々聞く。
「……それで結局、私をガンスミスにして何をしようとしてるの?」
ガンスミスであることはそこまで大きな意味を持たない。ただ銃器の生産権があるだけだ。取っておいて損はないライセンスではあるけど、わざわざ
「一体、何を企ん―――」
ずだん。
街角で無神経に上がった銃声が、言い切りかけた私の言葉を阻害した。
ああ、またこれだ。このゲームはすっかり銃器に溢れてしまった。私は頭を掻き、阻まれた言葉を言いなおそうとした。しかし……その相手であるジュゲッキは、私から目をそらして射撃音がした方を向いている。
彼女の背中が言う。
「クグリンちゃん。NPCにとって……銃って、どんなものだと思う?」
NPCにとって?
……シャンフロではずっと、銃を生産する行為にシステム的なロックが掛けられていた。つまり一部の例外を除けば、リヴァイアサンが浮上するその瞬間まで、シャンフロに銃は存在しなかった。……プレイヤーはリアルを知っているから。あるいはリアルを介して遊ぶ別のゲームを知っているから。「ロックされてるってことは逆に言えばそれ以外の手段で銃が手に入るってことだろ」みたいに言い合って、銃が解禁されたときも喜んだ。でも、NPCは?
「……言いたいことが分かってきたかな?」
ジュゲッキが振り返る。
その視点については……確かに、考えたことがなかった。NPCにとって銃は遺物であり異物だ。突然世界に登場し、ものすごい勢いで広まって、しかも人間を殺すのに最適だ。そして、加えて言えば。
「そう、
そんなの、決まってる。
「そりゃ、
「そう。配信者連合の討伐配信で分かってきたんだよ。短期集中的に『恐怖』が作られたとき、
「……何日?」
「十二月十八日」
「……場所は?」
「わからない。でも、多分旧大陸だろうって予想されてる」
「……どんな竜?」
「
……【ライブラリ】全体が?いや違う、ある程度はジュゲッキの独断が入っているだろう。とにかく目の前にいるこいつは……現れる竜を
……なるほど、言いたいことはわかってきた。
「で、なんで私がガンスミスになるの?」
「簡単だよっ」
ジュゲッキはにこりと笑った。
「クグリンちゃんには、
また一つ、銃声が響いた。