ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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啓示を得よう!

 いやブリューナクって何?

 近々真なる竜種が出るというのは、まあ、わかった。セパレーション戦からしばらく経って、あのコンテンツの存在も結構なプレイヤーが認知するようになってきた。誰かが討伐配信をしたのがデカい。知名度に付随して考察もいろいろ試されてるんだけど、実際のところこのゲームのプレイヤーはほとんど全員真なる竜種エアプだ。そのためエアプが憶測をし、エアプがそれに突っ込み、エアプがそれを見てwikiの「チラシの裏」欄とかに書き込み、エアプがそれを咎める……というなかなかに虚無的な構図が出来上がっている。考察自体の内容も千差万別で、やれ真なる竜種は偽なる竜種(The Fiction Dragon)、即ちシャンフロ以外のゲームや漫画に出てくる存在に対立して生まれたものであるとか、やれ真なる竜種は元はといえば真なる恐竜種(The Truth Rex)の『恐』の文字が竜と融合した存在であるとか、やれTrue(トゥルー)ではなくTruth(トゥルース)な真の理由!?真実(トゥルー)複数あった!とか。バカにしてんのっていう。

 とにかく……エアプたちの考察の末、エアプにしても「まあこれくらいは流石に合ってるだろ」くらいのゾーンが発生した。

 エアプだからといって甘く見てはいけない。例えば現実における恐竜にも既プはいないわけで、言い方によっては全員がエアプといえるだろう。全員がエアプといえるのに、きちんと研究が進んでいるのだ。例えば牙があるね!とか、鳴き声はこんなだね!とか、強そうだね!とか、それくらいの合意は形成できるわけだ。

 それで、その合意とは。簡単だ、真なる竜種は()()()()()()()()()()()()。その対象に銃が選ばれるのは、まあ不思議ではない。銃をモチーフにした真なる竜種が強いというのもわかる。だって銃だしね。

 でも……そこまで辛うじて呑み込めていた話に、急に「ブリューナク」の文字列が登場した。これがかなりわからない。

 

「いやブリューナクって何?」

 

 というわけで、素直に質問することにした。

 何かを隠していることを隠さずに不穏な笑みを浮かべつつ、ジュゲッキが答える。

 

「三行で言うと……伝説とされる『輝く槍』、内部に存在する特殊な魔力を媒介して広がる、そして……()()()()()()、って感じかな」

 

 ダメだ、いまいち要領を得ない。要領を得ないものの器にされるというのは……不安だ。もうちょっと詳しく聞いてみよう。

 

「ええと……私にそれを作らせたいってこと?」

 

()()()()()()って言うのが近いね」

 

 ……意味深な言葉しか返ってこない。どれだけの情報が隠されているんだろう?私は怖気づいた。

 

「……()なんだよね?ガンスミスになれって話だったと思うんだけど」

 

「そこは独自解釈(ヘッドカノン)ってやつだよ。輝槍伝説(ブリューナク)はあんまり詳細に残ってないし、実は長いライフルを槍と見間違えた可能性もあるからね」

 

 あるかなぁ……。

 

「【名匠】より上のジョブがまともに判明してない以上、ブリューナクが求めるだけの『創り手』になるにはライセンスを使うしかないんだよ。大丈夫……計算通りにいけば、設計図を描くだけでも『仮説』として認められるはずだから」

 

 だから言葉の意味が分からないんだって。

 まずい……まずいぞ。私は後悔しつつあった。自分から協力を頼んだ以上後には退けず、この後待ち受ける人体実験に耐えるしかない。しかし、その実験で具体的に何が起こるのかがまったくわからない。せめてどういう方法で死ぬのかくらいは教えてほしい。撲殺?轢殺?薬殺?自殺?撲轢薬自殺?分からない、何もかもが分からない。恐怖と疑問とそのほかもろもろが混ぜこぜになって、私の額に汗粒を形作る。っていうかいくらリアルだからってゲーム内で汗かかせる必要ってなくない?どうでもいいツッコミが脳裏を横切る。それは多分現実逃避だった。

 

「大丈夫?水飲む?」

 

 ジュゲッキが水筒を手渡してきた。

 

「あ、うん……」

 

 なんとなく疑うべきな気もしたけど、もはや疑念が次から次へと生まれすぎて考える余裕がなかったので、私はそれに口を付けた。嚥下していく冷たい液体が喉を潤す。

 

『末期ノ慰メを摂取しました』

 

 いやいやいやいやいやいや。

 

「いやいやいやいやいやいや」

 

「どうしたの?クグリンちゃん」

 

「マジで言ってんのか?」

 

 私に一服盛ってみせたジュゲッキは、いかにもすっとぼけた表情で笑っている。怖いって!クソ、末期ノ慰メって……大疫青関連のアイテムだっけ?状態異常確認、STRが1になってVITが1になって魔法の威力が上がる。抵抗できなく(STRが1に)なってすぐにでも殺せるように(VITが1に)なる、と。よし、多分AGIが残っているうちに逃げたほうがいい。

 

「【空蝉】っ」

 

 一度忍者をやめたことで習熟度ボーナスみたいなものが入っているようで、【空蝉】を印なしで発動できるようになるまでそこまでの時間はかからなかった。掛け声とともに発動された忍術がエフェクトで私を包む。視界が変化、いつもより転移距離が長い。多分魔法威力上昇の影響だろう。よし、ここで振り向いて【瞬間転移(アポート)】を撃てば……!

 

「……あれ?」

 

 足場がない。いや違う、なくなった。

 土埃が視界の下の方に見える。その発生源を視認するために下を見たころには、既に自分が()()()()()ことを理解できている。私を吸い込んでいく落とし穴は、大地が口を開いたかのようにも見えた。

 

「ぎゃー!?」

 

 土のにおいが充満する中、落とし穴の底に尻餅をつく。ちくしょーーーッ!キレ気味に頭上を見上げる。ジュゲッキが漏れこんだ光の間で、ニヤニヤと笑いながらこちらを覗き込んでいる。

 私の抗議が狭い空間を反響する。

 

「トラップは卑怯でしょ!」

 

「約束を破棄して逃げる方が卑怯じゃない?」

 

「確かに……」

 

 論破された。

 

「ニコロちゃん、ロープを下ろしてあげて」

 

「了解:」

 

 穴の外で会話が交わされたかと思えば、ちらちらと日光を遮るニコロの衣装らしきものが見え、するすると太いロープが穴の中に入ってくる。

 ……仕方ない、逃げるのは多分無駄だろう。詐欺に引っかかったようなものと思うしかない。

 私はロープにつかまって大人しくサルベージされることにした。

 

「……この落とし穴ってわざわざ掘ったの?」

 

 せめてもの抵抗として雑談を持ち掛けてみる。

 

「ドリルを拡大改尺(マグニフィセント)すると採掘性能がめちゃくちゃ上がるんだよね~」

 

拡大改尺(マグニフィセント)?」

 

「あ、クグリンちゃんは知らないか。最近見つかったエクゾーディナリースキルだよ!」

 

 そうなんだ~。

 

「それじゃあ始めようか!」

 

 ジュゲッキはチェーンソーを取り出した。

 

「……逃げちゃダメですかね?」

 

「ダメだよ!竜魂解禁、【セパレーション】!」

 

 チェーンソーが破壊属性特有のエフェクトを帯び始める。もうダメだぁ……。猛烈な速度で駆動する鎖鋸を携えたジュゲッキは歩いてくる。いっそ走ってくれればいいのに、と思った。

 

「……結局、そのチェーンソーで何をどうするわけ?」

 

「クグリンちゃんの腹を掻っ捌いて偶像を埋め込むんだよ!」

 

 聞かなきゃよかったぁ……。

 腹を掻っ捌かれる未来が確定してしまったので、もはやこの先の対話は足掻きですらない。それでも口を開く。せめて少しでも()()を解明したい。

 

「……偶像っていうのは?」

 

 チェーンソーの駆動音がうるさい。しかもだんだん近づいて、大きくなっていくんだから最悪だ。

 

「知らない?ネスティング・ゴーレム。聖女ちゃんフィギュアを落としたやつだよ」

 

 ああ、偶像(フィギュア)ってことね。

 ……今から腹の中にフィギュア埋め込まれるってこと?猶更やだなあ。

 

「あのゴーレムは……土に残留している()()()()()をもとに偶像を作る。どういうことかわかる?土さえあれば、偶像を経由して()()()()()()()ことができる」

 

 その言葉と共に。駆動するチェーンソーをそのままにして。ジュゲッキは左手を差し出して、その上に一つのアイテムを実体化させた。それは……剣のような形状をしていて、しかし剣ではなかった。槍というわけでもなかった。ただの、土くれの塊だった。

 

「これが、()()()()()()()()()だよ」

 

 いやアラドヴァルって何?

 私がその疑問を素直にぶつけるより先に、ジュゲッキが振り上げたチェーンソーは、私の腹部を思いっきり裂いて。溢れんばかりの返り血(ダメージエフェクト)を浴びながら、彼女は……有言実行した。

 

「大疫青はマナに対する抵抗力を弱める」

 

 ジュゲッキがそう呟く中で、私は……意識が朦朧とするような感覚に陥って。しかし、それはおかしかった。いくら没入感が高くても、これはゲームだから。まして私は死ぬのに慣れているから。この程度で朦朧とするはずがなかった。

 

「検知:契約者(マスター)の意識状態が急速に変動」

 

 ニコロが、ものすごく不安な報告をして。

 

「数時間で戻るはずだから安心してね~」

 

 ジュゲッキが、いっそう不安になる言葉をよこして。

 (デスポーン)の瞬間と同時に、私の脳裏を一つの閃きが走った。

 

 輝く槍って、もしかして。

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