ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
『輝く槍』。ジュゲッキはそう言った。
しかし考えてみれば、なんだかおかしい気がする。槍が輝いているだけで伝説が作られることがあるだろうか?このゲーム……いや、槍を作ったNPCたちにとっては
さて……この世界において『輝く槍』は珍しくないのに、ブリューナクは伝説になった。例えば、こういう考えはどうだろう。当時の人々にとって『輝く』とは本質的な情報ではなく、ただブリューナクを言い表すに足る言葉が
しかし、私は違う。神代の技術を「SFによくあるやつ」として理解できている。伝説になったブリューナクも、神代の装備が何かのはずみでバハムートから流出したものだろう。つまり、それを
で、それって具体的に何?
……。
何?
私は行き詰まりつつあった。
『輝く槍』というからには、印象に残るレベルでピカピカ光っていて、しかも槍に見える程度に細長いということだろう。スナイパーライフル?いやスナイパーライフル光らせてどうするんだよっていう。えぇ~~~~……ん~、アレだよ。あの。最終的に光ればいいわけでしょ?そもそも伝説になったのって強さじゃなくて物珍しさが由来の可能性あるし。つまりめっちゃ光っててNPCが知らなさそうなものを作ればいいことになる。それって何?光らせるって要するにこう、アレでしょ。七色に発光させればいい。適当にLEDデカールを貼っとけば何とかなる。で細長いって言うのは……あ、わかった!
「……はっ!」
私は我に返った。
……えぇ?
辺りをきょろきょろと見回す。自分が今まで何をやっていたか思い出すためだ。いや、思い出してはいる。納得する、というのが近いだろう。つまり……ついさっきまで、特に興味もなかったはずの
……ヤバくね?
私は困惑した。
その困惑の裏側には恐怖が潜んでいる可能性もあるんだけど、だとすれば掘り返さない方が良いだろう。……いややっぱ無理。え?ヤバいでしょ。完全に本人の意思と無関係にアバターが行動って言うかむしろ本人の意思を捻じ曲げてましたよね?絶対私の仮説が正しいよね!ではないでしょ。えっこう……ほぼデスゲームじゃん。ゲームを遊ぶ側が操られることってある?あるの?あるんじゃ仕方ないかも。
……ベヒーモスの照明は24時間全く変化しないから、床に落ちた私の影も伸びも縮みもしない状態のままだ。これじゃあ時間が分からない。……恐る恐るシステムメニューを開き、微妙に小洒落たデザインの時計を確認する。えーっと……なるほど、ジュゲッキに腹を掻っ捌かれてから
デスゲームじゃん。
デスゲームだった。
◆
「デスゲームじゃないよ~」
しかしデスゲームではなかったらしい。
ジュゲッキは上機嫌だ。私が手渡したブリューナク……っていうかぶっちゃけゲーミング弾倉だよね。ゲーミング弾倉を両手で弄びつつ、ベヒーモスの冷たい照明に照らされながら言う。
「私も【ライブラリ】の利用規約班の人に聞いてみたんだけど、利用規約第149章281条21項から29項に書いてあるんだって」
「もう一回言って」
「利用規約第149章281条21項から29項に書いてあるんだって」
「そっちじゃない」
「私も【ライブラリ】の利用規約班の人に聞いてみたんだけど」
「利用規約班?」
「利用規約とかプライバシーポリシーとかの変更履歴情報を管理する部署だよ!このゲームのそのあたりの文書は基本的に人工知能が書いてるんだけど、注意深く見ると次期アップデートを予想したりできるんだって!」
ライブラリも一枚岩じゃないんだな~。
私は思考を放棄しつつあった。
「それでクグリンちゃん」
何~?
私の腹を掻っ捌いたうえで4時間にわたりデスゲームに突き落とした女が言う。
「正直言ってマガジンを作ってくるのは想定外だったけど……むしろこっちのが良いよ!ありがと~!」
彼女の手中のマガジンの表面で、膨大な色たちがグラデーションを描き……そう。何かへの憧れを全霊でもって表現するかのごとく、力強く輝いている。
「……良いの?冷静に考えるとただ
「銃弾としては使い物にならないねっ」
ダメでは~?
「でも」
ジュゲッキはそこまで言いかけて、インベントリから銃を取り出した。独特な形状の……なんというか、未来感のある銃だ。ゴテゴテと組み合わさったディティールの間を、碧く輝く
彼女はにっこりと笑った。
「
クリック音。ゲーミング弾倉が未来銃に差し込まれた。ジュゲッキはそのまま、片手で持てるサイズのそれを持ち上げる。銃口の向く方向を見れば、そこにはちょうどベヒーモス謹製の戦闘用人形がいる。威力検証ってことかな?
未来銃の上部にホログラム・インターフェースが展開する。ジュゲッキはそれを覗き込み、戦闘用人形に狙いを定め、引き金を―――
「【
―――引く前に。そう呟いた。
轟音が聞こえる。白熱する銃口が嵐を吹く。ゲーミング弾倉が発する虹光が、発射されつつある必殺技的な何かのエフェクトに歪められる。そうして色たちは霧散していき、紫が、赤が、黄色が―――分解されていく虹色が。まるでノイズが発生しているみたいに、空間の中を散っていく。
熱を感じる。
「
ジュゲッキがそう言い切ったのと、閃光の鳴動が戦闘用人形を飲み込んだのは―――果たして、どちらが先だったか。
◆
「……と、いうわけで」
轟音が晴れた先。反動で受けたらしいダメージをポーションで治癒しながら、ジュゲッキは改めて私に語る。
「ガンスミスは【
どうやらおおむね問題ないらしい。ゲーミング弾倉なのに……?
ジュゲッキは本当にお構いなしのようで、私の描いた設計図を確認している。今から彼女は、このゲーミング弾倉を大量生産する工程に入るんだろう。
……ふつう、ただ
「……銃の竜って、そんなに強いの?」
私は思わずそう聞いて。
「強いか、弱いかじゃないよ。
ジュゲッキは七色の光と共に答えた。
「私は、このゲームを守りたい」
……そっか。
何かを守るということは、何かに縛られるということでもある。王国騒乱にしたってそうだ。どちらかの陣営につくことを決めた瞬間、リスポーン地点を特定の場所に縛られる。しかし……守ることは自由の喪失ではないはずだ。縛られればできないことがあるように、縛られなければできないこともきっと存在する。ジュゲッキはマッドサイエンティストで、マッドサイエンティストである限り、このゲームに縛られてもいる。
私もだいたい同じだろう。それなら、言うことは一つだ。
「……頑張ってね」
「うんっ」
ジュゲッキの手中に納まった小さな虹が、何の意味もないうねりを描いていた。