ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
トンネルを掘ることになった。
「ようクグリン、トンネル堀り日和だな」
くすんだ色の作業着に身を包み、肩に背負った神代製の掘削ドリルの先端をきらりと光らせ、ご丁寧に『安全+第一』と印字された黄色い
「そのネタアイテムどこで買ったの?」
「……ネタ……?」
あ~~ほらやっぱダメだった。完全に全くネタだと思わずに大真面目に買ってたよコレ。こういうのをつい聞いちゃうの治さないといけないよなあ……。私は自省した。実際、これがなければとっくに新大陸に行けているような気がする。
「えっと、ごめんなんでもない!イカしたドリルだね」
とりあえずごまかしておく。いけるかな?ペンペンは少し固まった後、
「ん?……ああ。ロマンあるだろ?掲示板とかでは神代製ドリルならγ型一択!とか言ってるエアプカス野郎ばっかだけど、実際に触ったヤツならλ型一択なんだよなあ……」
こいつも大概だな……。
まるで無頓着なペンペンがドリルのスイッチを入れ、銀色の螺旋をドリドリさせ始める。彼のメインジョブは戦巧者だから、こういう変わり種の武器にも対応しやすい面があるはずだ。……というか今気づいたけど、いつの間にか頭上のプレイヤーネームが
私はインベントリから錬成爆薬を取り出すと、大きく息を吸って高らかに宣言した。
「トンネルを掘るぞーーっ!」
「おーーっ!」
◆
そもそも、どうしてトンネルを掘ることになったのか?
新大陸に行きたいからだ。
「よし穴空いたぞ!」
ペンペンが楽しげに言った。
彼の手元でぎゅるぎゅると猛回転していたドリルが一時的に停止し、その先端が崖に作り上げた小さな窪みが、周囲のひび割れを伴って暴かれる。
「ナイスゥ!」
私は手元の錬成爆薬瓶を窪みにはめ込み、空いた両手でそのまま印を組む。
……新大陸に行きたいからトンネルを掘る、では余りに論理的接続を欠いているかもしれない。でも、実際のところそれ以上の理由はないのだ。海から行くことも空から行くこともできないなら、地底から行ってみる。流石に船で7日かかる長さに全てトンネルを通そうとは思わないが、それにしてもショートカット地点を作るくらいはできるはずだ。……そんな適当にもほどがある思考こそ、ペンペンがドリルを携え、私が錬成爆薬をしこたま用意した理由なのだから。
「
組み上げた印の手前で、橙色の紅炎を燃やしながら、灼熱の火球がどんどん拡大する。魔法使いの経験がある以上、素直に【ファイアボール】を撃ってもいいんだけど……使い慣れているこちらの方がやっぱり好きだ。ところで火球が放っている熱波が普通に術者にも届いてる。両手が熱い顎が熱い、早く撃たないと……!
「【
後ずさってきたペンペンの横で、完成した火球が一直線に放たれる。それは周囲の空気を揺らめかせながら、吸い込まれるように先ほど設置した爆薬に向かっていく。結果は決まっている。
初めに業火が勢いよく爆ぜて、遅れてどかんと爆音が聞こえた。滝のように発生するエフェクトが、極めて簡単な一つの事実……崖で大爆発が起きた、ということを知らしめてくれる。
「どうだ!?」
晴れつつある爆風を前にペンペンが言う。
「えっと……」
灰色の煙が去った後には、無数に散らばる岩の欠片と、痛々しく抉れた崖の姿があった。
「……大成功だよこれ!」
「マジ!?」
「うん!当初の予定より深く掘れてる!」
イエーイ!ペンペンとハイタッチをする。
「よっしゃこの調子でやっていこうぜ!」
「あ、あの……」
おや?何やらプレイヤーが話しかけてきた。
プレイヤーネームは『火鼠丸』、レッドネームじゃない。腰に帯刀……ジョブは武者かな。装備のグレードから言って、別に金策のため周回してるわけでもない
私は罪悪感を込めていった。
「ごめんごめん!ちょっと最終地点付近の崖にトンネルを掘っているだけだから、気にしないでね!」
「最終地点付近の崖にトンネルを掘っているだけだから気にしないでね!?!?!?」
あれ?
「ん、お前も手伝うか?」
ペンペンが何やら看板を取り出しながら火鼠丸に聞いた。いや何それ?
「お前も手伝うか!?!?!?」
火鼠丸が叫ぶ横で、地面にでんと置かれた看板を覗き込んでみる。
『ご迷惑をお掛けしております』
そう主張する太字の横に、お辞儀をするマッドフロッグのイラストが添えられている。
なるほどね。
火鼠丸はいよいよ混乱した様子で、
「えっと……あの、失礼します!」
走り去った。多分全力疾走だ、武者は戦士系統のジョブだけど、ステータスとしてはむしろAGI偏重になることが多い。
……随分まともで、真面目なプレイヤーだった。きっと、新大陸調査船の定員の大部分はああいう人に埋められているんだろう。……私は、心のどこかが物悲しさを覚えるのを感じた。
彼が残した微風が、何だか儚く思えてならない。
◆
まあそれはそれとしてトンネルは掘らないとね!
作業は順調に進んでいる。
私は地面にしゃがみ、
「発射!」
どかん。
迫撃砲が魔力の火を噴き、発射された錬成爆薬の瓶が弾道を描いて壁にぶち当たる。そして……勢いよく爆発。瓦礫がぱらぱらと落下し、窪みが一層窪む。
「向こう一時間は五分間隔で発射するよ!やっかいな地形とかを整備して!」
「了解!」
ペンペンに指示を出す。
ある程度まで作業が進んだところで導入した錬成品射出用迫撃砲のおかげで、効率は随分良くなった。わざわざ爆薬をセットしなくても割とアバウトに当ててくれるし、ペンペンの出番も迫撃砲で掘れなかった部分の調整に留まり……何より、メンテナンスを除けば
だんだんそれらしくなってきたトンネルの中に、ドリルがギャギャギャと石を削り取る音が反響する。人の言葉は今は無い。基本的には発射音、爆音、指示の声、ドリルの音、発射音……その繰り返しが続いている形だ。
さっきのように外部からプレイヤーが来ることもない。何せマッドフロッグがお辞儀しているからね、マッドフロッグのお辞儀を前に何かしようとする奴なんてそうはいない。だから基本的にプレイヤーたちは大人しく順路を通っていくし、やるとしてもせいぜいお辞儀マッドフロッグのスクショを撮るくらいだ。私も撮った。三枚。
特に不安定要素もなく、作業は粛々と円滑に進んでいく……私が調子に乗り始めた、その時だった。
「……ん?なんかあるぞ」
ドリルを一時停止すると、ペンペンは足元を覗き込んで言った。
「ん~?……化石か何か?」
「かも知れない、ちょっと掘ってみる」
「あと三分で爆破だから急いでね~」
掘削音が再開される。化石かぁ……化石って錬金術に使えるのかな?うまいこと魔力触媒に加工できないのかなあ……。
心のどこかでわくわくしながら、私はペンペンが化石を掘り終えるのを待った。
でも、
「が……っ」
その一言を最後に、ペンペンは紅のポリゴンを散らし、完成しつつあるトンネルの暗闇の中にばたりと倒れた。
「……ん?ペンペン?」
ペンペンは答えない。……答えないどころじゃない、彼のアバターは翡翠色のポリゴンに分解され、そのまま破裂し消えてしまった。真っ二つになった黄色いヘルメットが、『安全』と『第一』の二つに分かれ、地面に落ちてからんと鳴った。
「……え」
それきりだった。
「
な……何?酸欠?酸欠的なアレで死んだ?いやそんなはずは。ヘルメットは真っ二つになってる。かまいたち?さすがにそれ実装してたらライン越えだよ。
じゃあ……
とにかく、これだけはわかる、何かがヤバい。
急いで盾になりそうなものを探す。えっと……仕方ない。マッドフロッグの看板を担ぎ、自分のアバターが隠れるように置く。一体何が……?恐る恐る看板の端から目を覗かせ、て。
『ご迷惑をお』
看板の上部が切り落とされて、その綺麗な切り口を晒しながら宙を舞っているのが見えた。
高速で接近した
咄嗟に振り向いたその先に、私は流れるアナウンスを見た。
『モンスター
『討伐対象:FM'sクリサリス"
『エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます』
……マジで?
目の前に浮かぶ甲虫が、ひどく邪悪に笑った気がした。