ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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船を作ろう!

 夜風が闇を透かす。

 フィフティシア、裏路地。建造物たちに阻まれたその空間には月光すらも手を差し伸べず、静かに佇む二つの影も、周囲の闇とほとんど同化してしまっている。このゲームのプレイヤーに暗視能力がなければ、両者が認識し合うことすらできはしないだろう。

 がさごそと。紙切れが擦れ合う音が小さく響く。それは何とも滑稽な光景だ。この世界はゲームだ。魔法もある。システムメニューにはご丁寧に『メモ』機能が搭載されている。それなのに―――電子が描き出す世界にあってなお、人々は現実と同じような、『紙』という表現媒体を使用し続けているのだ。

 

「……これが、約束の情報です」

 

 囁き。

 聳立した双つの壁はその小さな発話を、さらに小さく減衰させながら両者の間でピン・ボールのように反射させていき―――瞬時のうちに、闇の中へと葬り去ってしまう。それは、保たれし秘密の象徴でもある。

 囁きを発した影が、もう一つの影へと紙切れを渡す。ただ路傍につくられた水溜まり一つだけが、その光景を観測する権利を得ている。

 

「へぇ」

 

 焔。

 そう、焔だ。つい先ほどまで視覚的な静寂を貫き続けていた巨闇が、小さな灯火一つによって切り開かれ、そこにあるものを少しだけ暴いていく。受け渡された()()()の文面も、すぐ付近に光源があっては、その内容を人間が読める範囲まで明確にすることを避けられない。

 相次いで。書面を読み上げる声が、唯一の音声として路地裏を駆ける。

 

「……プレイヤーを砲弾がわりにして敵船へと射出……特定範囲にロープウェイを敷いておく……Uボートごっこ……なるほど、こういう感じか。ありがと」

 

「はい」

 

 その読み上げは確認を兼ねている。この報告書は極秘だ、誰かに知られては優位性(アドバンテージ)が失われる―――だからこそ、自身の記憶というストレージに刻み込んでおいて、そのうえで。

 灯火が、揺れる。その先端は報告書の隅へと近づいて……燃え移る。焔が一気に拡大していき、つい先ほどまで報告書だったものを、炭化した紙の残骸へと転じていく。あっという間に燃え広がった炎はいよいよ紙の上端まで到達し―――その閃光でもって、闇の中に影たちの顔を浮かび上がらせる。

 そのうち一つが、策謀に綻んだ。

 そう、私である。

 

 

 というわけで!

 

「ツチノコ杯の参加者(ライバル)情報を入手したぞ~!」

 

「イエーイ!」

 

「イエーイ!」

 

 私はペンペンとハイタッチした。

 ダイナマイトには情報屋の側面がある。テロリスト。爆弾製造業者。晒しスレ民。そういう属性は本質的に、晒しスレにいながらテロをできるだけの面の皮の厚さ、テロを行えるだけの爆弾を製造できる行動力、本職である爆弾製造の()()()として晒し活動も行える情報網を表している。面の皮の厚さ、行動力、情報網。情報屋にはピッタリの素質だ。

 対価として手渡したニコロとのツーショットがその後どうなったかはまあまあ気になるところだけど、もうすぐ関係なくなる。なぜなら、ツチノコ杯で新大陸に()()()からだ。行くか行かないかではなく、()()()。そういう確信がある。無事にゴールできれば言わずもがなだし、仮に失敗したとしても、ツチノコ杯の終了後に勝者の船が一般向けに解放されるだろう。乗れないわけがないのだ。これはフラグとかじゃない。私の旧大陸での日々は、もうすぐ終わる。

 だから……船を作る行為は、その終わりを()()()()()()()ためのものでしかない。別にやらなくても、そのうち乗れるチャンスが来るはずだ。しかしやる。伸ばせる分の手は伸ばしておきたいからだ。

 というわけで!

 

「作戦会議だー!」

 

「イエーイ!」

 

「イエーイ!」

 

 私はペンペンとハイタッチした。ついでに展開したニコロとも、もう片方の手でハイタッチをする。なんとなくテンションが上がっている自覚があった。

 

「で……どうする?」

 

 ペンペンがホワイトボードを取り出しながら言った。

 

「そうだね~」

 

 私はマーカーのキャップを外しながら応じた。

 

「補佐:意見者は挙手せよ(案のある人は手を挙げて)

 

 ニコロがレーザーポインターをホワイトボードに向けた。

 適当に選んで借りたフィフティシアの倉庫にて、ファンタジーMMO世界観破壊コンボが完成する。

 

「はい!」

 

指名(どうぞ):開拓者ペンペン」

 

「まず、俺たちと他の奴らだと目的が違う、ってのを確認しておきたいぜ」

 

 ……一理ある。

 私はニコロにマーカーを手渡し、手元に残ったキャップを弄びながら思った。

 ツチノコ杯に参加するプレイヤーのほとんどはガチガチの生産職だ。彼らがツチノコ杯に参加する主な理由は「楽しさ」「ロマン」「賞品が欲しい」辺りだ。しかし……私たちは違う。あくまでも旧大陸に取り残された状況を打破するために海に出る。「楽しさ」はあった方が良いけど無くてもいいし、「ロマン」を得る段階はもっと先だ。賞品は、いらない。錬金術師に再就職できれば話は変わってくるけど、未だに逆顔パス(ブラックリスト入り)状態は続きっぱなしだ。

 

「となると」

 

意見者は挙手せよ(案のある人は手を挙げて)

 

「はい!」

 

指名(どうぞ)契約者(マスター)

 

「となると……どうしよう?防御を優先して速度を捨てるとか?」

 

「はい!いや、ライバルの情報を見た感じどいつもこいつも速度優先か攻撃優先だ。少しばかり防御に振る分には良いだろうが、振りすぎると置いてかれる」

 

「はい!……置いてかれても別に良くない?」

 

「はい!でも正直海にいるのがアドバンテージだけとは思えなくね?」

 

 確かに。アドバンテージみたいなモンスターが他にいるとするなら、集団で渡航した方が安全なのは間違いない。

 ニコロのハンドユニットが目にも止まらぬ速度でマーカーを動かす音が、私たちの思索の背後で流れていく。

 ん~……よし。

 

「はい!」

 

指名(どうぞ):」

 

()()でいこう」

 

 私は提案した。

 ツチノコ杯の本質はコンペディションに近い。上位に入った船を「採用」し、そのまま大陸間の輸送に使うコンペディションだ。であれば……もしも、他の船への妨害に特化した船が存在したらどうなるだろう?それが妨害によって上位に入賞したとして、大陸間輸送のための絶対的な性能が足りないはずだ。「採用」には至らず、賞品も貰えないだろう。しかし私たちの場合、賞品を貰う必要はない。

 

「貸して」

 

「御意:」

 

 私はニコロからマーカーを受け取ると、既に文字で埋め尽くされつつあるホワイトボードにどうにか余白を見つけ、図を描き込んでいく。

 まず……標的は、ある程度防御に振っている船だ。防御に振っているというのは攻撃に強いということで、攻撃に強いことが分かっている船に攻撃しようとする奴はそうそういない。そのおこぼれを狙う。ごくごく小型の……潜水艇みたいな船を作る。防御に振ってる船の底まで潜り込んだ後、吸盤なり磁力なり溶接なり、何かしらの手段で()()()()。あとは船が新大陸に到達するのを待てばいい。貼りつかれる側は防御に振っていて、それは船体が重めということでもある。小さな潜水艇なら気付けないだろう―――そもそも、気付いたとしてどうするのか。防御に振っている以上攻撃はそうそうできない。「プレイヤーを砲弾替わり」とか「銛をブッ刺す」とか「爆弾を投げ込む」とか、ライバルたちが検討しているどの攻撃方法も……自分の真下に存在する敵には、無力というほかにない。

 

「……なるほどな」

 

 ペンペンが言う。挙手は無かったが、ニコロはそれを咎めなかった。単に飽きたのか、それとも邪魔するべきではないと考えたのかはわからない。

 彼は続けた。

 

「クグリン。お前は要するにこう言いたいんだろ―――()()()()()()をしよう、って」

 

 そういうことになるね。

 ペンペンは、ニヤリと笑った。私も少し遅れてそれに続いた。

 さあ、船を作っていこう。

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