ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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獣よ、龍よ! 其の一

 12月15日、朝。

 本日午後6時に王国騒乱の開始が迫る中、私はといえば……フィフティシアにセーブポイントを設定し、ベヒーモスまでやってきていた。

 ベヒーモスをクリアしておくことにしたのだ。

 新大陸に行くことは長年の夢だけど、問題が一つだけある。旧大陸に戻れなくなることだ。ディープスローター氏に会えるなら話は別だけど、基本的に大陸間移動は船で行われる。ゲーム内で七日間航海させるだけでもかなりアレなのに、帰るのにもやっぱり七日かかるというのはどうかしているとしか思えない。実際、このゲームは明らかにどうかしていた。

 まあ、なにはともあれ。……旧大陸に戻れないと言っても、()()となる方法が一つある。それが、ベヒーモスをクリアすると手に入る(とwikiに書いてあった)、BW-ビーコンを使用する方法だ。

 BW-ビーコン。BWが何を意味するかは諸説あり、バハムート・ワープ説やベヒーモス・ウェブ説やブラック・ワタアメ説などが日々しのぎを削っている。品揃えが微妙で評判の「ベヒーモス・オンライン・ショッピング」、考察勢必携と話題の「携帯図書館(ポータビブリオ)」など各種の便利サービスを受けることもできるが、何よりの機能的な目玉は……()()()だ。BW-ビーコンを使えば、いつでもどこでもベヒーモスまでファストトラベルできる。

 と、いうわけで。

 

 

 第六階層。

 

「挑戦しま~す!」

 

 自分の順番が回ってきたことを確認した私は、白衣の天井向けた挙手とともにそう宣言した。早速やっていこう。

 第六階層はインベントリの中にある情報質量が10万マギバイトを超えればクリアの層だ。マギバイトって何?まあいいや。

 今までの私はここでいったん攻略を止めていた。買い物ができるからだ。ベヒーモスに潜る理由はそれまで「神代製装備が欲しい」でしかなく、第六階層の買い物エリアを使えばとりあえずの理由は満たされる。あくまでもそれで十分だっただけで、別に「詰んでいた」とかそういうわけではない。チェストリアも持ってるし、多分10万くらいならなんとかなるでしょ!

 中心部に設置されたザ・SFという感じの台座に歩み寄り、両足を乗せる。なんだかよくわからない光が発生し始める。さあ……どうなるかな!?

 透き通るような「象牙」の声が、私に結果を伝えてくる。

 

『99,932マギバイト。不合格です』

 

 不合格だった。

 ……マジですか?

 私はサッと振り返る。そこには無数のプレイヤーたちが、ついさっきまで私の並んでいた()を作っていて……「さっさと代われ」と言わんばかりの、恨みがましい視線を投げつけてきている。

 ……え、並びなおさないといけない感じなの?

 

「あの、68くらいは負けてもらえませんかね?」

 

 私は天に向けて抗議した。

 

『残念ながら開拓者クグリン、あなたの申請は却下されました』

 

 却下された。

 で、でもォ~。

 列をなす人々の視線がさらに厳しくなる。まあ気持ちはわかる、列に並ぶというのはゲームを遊ぶうえでも最も辛い行為の一つだ。作業は作業でも採掘とかレベル上げとかと違ってあんまり身になっている感じがしないし、そもそもなんでゲームがしたいのに現実でもできる列並びなんてやってるんだという話になってくる。しかし私を睨まれても仕方ない。このゲームの運営が第六階層に台座を一つしか設置しなかったのがそもそもの問題なのだ。

 私はそこまで考えて閃いた。

 

「ニコロ」

 

展開(はい):」

 

「あのなんか変形する武器貸して」

 

貸与(はい):」

 

「戻って」

 

格納(はい):」

 

 で、この武器をチェストリアに入れると。

 

『106,191マギバイト。合格です』

 

「やったあ!」

 

 予想通り、征服人形のインベントリの中にあるアイテムは別扱いだったみたいだ。いや仕様としてややこしすぎるでしょ!

 私は若干の憤りを覚えつつ、階層を進んだ。

 

 

 第七階層。

 内容としてはクイズだ。つまりカンニングできる。クリアした。

 

 

 第八階層。

 後付けで覚えられる「流派」スキルを習得したうえで、既存のスキルを使わずにデコイロボを倒すとクリアになる層だ。私も「象牙」の指示に従い、フラッシュメモリーとやらを使ってスキルを覚え……ようとした。

 しかし。

 適当なフラッシュメモリーを見繕って記憶用装置に赴いたところ、謎の抗争に遭遇した。

 

「お前スキルいくつ覚えた!?」

 

「俺32だわ!」

 

「すっくな!俺は44だぜ!」

 

「ヤベ~!すげーなお前!」

 

「オイオイ―――その程度でイキってるのか?」

 

「なんだテメー!?アンタは何個覚えてんだよ!」

 

「……25」

 

「ギャハハ~!アンタが一番少ねェ~じゃねェか!」

 

「やッちまおうぜコイツ!」

 

「―――流派だ」

 

「なんだと?」

 

2()5()()()()

 

「に、にじゅうごッ!?」

 

「りゅうはァ!?」

 

 いやいつまで続くんですかね?

 まあ、なんとなくいそうだとは思っていた。この階層で覚えられる「流派」の数には上限が存在しない。もしくは、存在しないと誤認するほどに余裕があるところに設定されている。覚えすぎると結構デメリットがデカいみたいだけど、好きなだけデメリットを飲めるのはゲームのいい所の一つだ。そうなれば……残るものは決まってる。習得スキル数による()()()()()()だ。

 よくわからない争いをしている三人組を、順番待ちをするプレイヤーたちが一人また一人と取り囲んでいく。彼らの怒りが爆発するのは……そう遠くなさそうだけど、近いというわけでもないだろう。しばらくは記憶用装置は使えないと見るべきだ。

 ……じゃあもう覚えなくて良くない?

 そういうことになった。

 

 

 というわけでやっていくぞーーっ!

 未だに続いているマウント合戦を尻目に、私は戦闘領域(コロシアム)の戦闘用人形と対峙する。

 この階層で縛られるのはあくまでスキル……と見せかけて、どうやら魔法の詠唱なんかも阻害されるらしい。魔剣なんかの類は普通に使えるようなので、魔法が明確に「発動」されるのがダメということだろう。つまり、詠唱しなければいい。

 

「刃隠心得奥義!」

 

 戦闘用人形が何やら挙動を始める。しかし無駄だ。攻撃するには間に合わないし、回避するには遅すぎる!両手を組み合わせ、魔法のための()を描き出す!

 

「【竜威吹】!死ねええええええええっ!」

 

【竜威吹】は発動者が叫んでいる間持続する。逆に言うと叫んでさえいれば内容はどうでもいいので、死ねでも通るし殺すぞでも通る。くたばれでもいける。何にせよ間違いなく罵声だ。罵声の乗った灼熱の線条が、球体関節のマネキンを飲み込む。ついでに【不知火蕾(シラヌイツボミ)】も追加ーっ!流派とかどうでもいいから先に行かせろーっ!

 人形が―――朽ちていく。

 

「でさァ、やっぱ筆記具回転戦闘術(マルケル・リボルバー)は外せないと思うワケよ」

 

「でも実際どうよ?無難にエクサク・ロバッターツとかでいいんじゃないか」

 

 マウント合戦から流派談議に発展した抗争を横に第八階層をクリア!さあ次で最後だ、とっとと終わらせよう!

 

 

 第九階層。

 ヤバい。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 ()()()()ゲームオーバー画面から復帰した私は、九層も進んでいるのに一貫して無機質なままの床の上で息をついた。理由は簡単、敵が強すぎる。

 第九階層は……言うなれば、ベヒーモスにおけるラスボス戦だ。第三階層のように魑魅魍魎が跋扈しているステージで、一時間以内に()()()()()を倒せばいい。一番強い奴はこのゲームに存在するユニークモンスターの能力をミックスした奴だ。そこまでは攻略wikiに書いてある。

 問題は、定期的に出てくるモンスターが変化することだ。攻略方法を確立させることが難しいうえ、私のように何回も乙らなければ、そもそもどいつが一番強いのか見極められない。

 それでは、見極めた結果は何か。船内用端末で確認してみよう。夜襲のリュカオーンと天覇のジークブルムをミックスしたモンスター、非合砲メア・リース。形状としては()()()()()()()、自身の肉体の一部を分離して発射してきて、着弾した相手の部位を溶かして()()する。発射された肉体はゼリー状になって地面に浸透し……上に載った存在は、魔法やスキルをできなくなる。

 それはすなわちこういうことだ。部位に対して攻撃してくるから、回復アイテムでの手当てができない。時間が進むにつれどんどん逃げ場がなくなっていき、【空蝉】でとりあえず逃げるといったことができない。体が液状だから、破壊属性の効き目が薄い。私の、天敵ということだ。

 しかも。

 私はシステムメニューを操作した。指の動きは完全に手に染みついていて、()()も相まって操作は高速で進む。……王国騒乱中、長距離の死に戻りや転移魔法は制限されるだろうと言われている。当然の話だ。それが可能なら、例えば新王陣営のプレイヤーが開幕と同時にBW-ビーコンでフィフティシアに転移して、そのまま反転してサードレマを背後から殴る……といったことが可能になってしまう。つまり、私は六時までにベヒーモスをクリアして、フィフティシアに帰らなければならない。

 しかし。

 展開したウィンドウが示す時計は、決して動きを止めることなく、常にその数字を変化させ続けている。止まってくれたら―――それどころか、巻き戻ってくれたらどんなにいいだろう。私は考えるが、実現することはない。開拓者は常に前進しなければならず、私には背後からそれを見守るニコロだっている。それらの事実を総括するように、時計が今、分数を1つ増やした。

 現在……12月15日、午後4時48分。

 タイムリミットまで、あと1時間12分だ。




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