ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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ぶっちゃけ単なる強そうな敵なんですけど、ちょうどいいところにいたので章ボスだったことにします!ごめん!


獣よ、龍よ! 其の二

 作戦は立ててある。足りないものがあるとすれば覚悟だ。しかし、もうすぐ新大陸に行けるというところで、できない覚悟なんてあるだろうか?

 

 

 残り59分59秒。

 七回目の挑戦が開始すると同時に、展開したウィンドウは私にそう告げた。周囲に広がる人工感あふれる自然環境を見渡しながら、私は脚を動かし始めた。

 第九層に出現するモンスターは、挑戦者のレベルに応じてその体力を調節されている。初手で殴れば勝てない相手ではないはずだ。だから、ひとまず相手を()()

 

「【空蝉】っ」

 

【空蝉】は熟練度を上げることで印なしで発動できるようになる。それは単に便利というだけの話ではない、印なしということは同時に()()()を組めるということだ。忍術を同時に二つ発動することが可能になる。

 脚部に纏った【潮躱し】のエフェクトを散らしながら、点々と存在する水溜まりを踏みしめ、跳ぶ。それを繰り返す。MPゲージがガンガン減っていくから、こまめに発動を切る必要がある。

 移り変わっていく景色を前に眼球をぐるぐると動かし、視線で疑似森林を切り開く。さあどこだあのクソスライムーっ!

 

「いた!」

 

 いや間違い、やっぱりいなかった。スライムかと思ったら()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「qQQuaaaaAAAAA」

 

 コウモリが湾曲した翼を変形させ、現れた()()からそのまま数発の爆芯を放ってくる。衝撃音、【空蝉】で回避。

 

「邪魔ァ!」

 

 【潮躱し】は水中に足場を生成するスキル、足場の方向はある程度自由が利く。回避先の水溜まりにほとんど壁みたいな足場を生成し、蹴り飛ばして水平方向のベクトルを得る。着弾の嵐の間をすり抜ける、ミサイルが描く煙を悉く躱す!六回も挑戦したんだ、こいつの弱点も大体わかってる!

 

「【鎖縛帷子(さばくかたびら)】」

 

 鎖が、コウモリの体躯の表面を這う。

 端末で調べたところによれば、コウモリの能力の本質は()だという。自分の発する超音波を全身の振動により増幅し、音を経由した魔力操作を行ってミサイルを作り出す。つまり、振動できなくなればどうってことない。

 

「q……QQQ……」

 

「ごめんね、急いでるから」

 

 翼に攻撃して部位破壊、続けざまに【追鼠火花(ツイソノヒバナ)】起動。コウモリ……ではなく、その周辺に生い茂る木々に()()してそのまま去る。とどめは刺さないけど、身動きが取れない状態で炎に包まれたなら数十分後には焼け死ぬはずだ。数十分。そのタイムラグが重要になる。

 

「次ぃーーっ!」

 

 基本的にはメア・リースをダイレクトに探すことになるけど、こういう雑魚も数体は倒しておいた方が良い……そういう作戦だからだ。MPの管理に意識を削ぎつつも、私は再現された森林の中をさらに駆けた。

 

 

 いた。

 

「PYuaaaaaaaa……」

 

 結構な数の雑魚を「数十分後に死ぬ」状態にすることを経て、ようやくメア・リースのもとに到着した。残り時間は20分、少なすぎるようにも見えるけど……大丈夫だ、作戦通りに進んでいる。

 黒き粘液はその巨体をうねらせ、かきまぜ、うごめいて―――ばしゅん、ばしゅんと。早速といわんばかりに、分裂及び発射を行ってくる。見た目はどう見ても禍々しい黒いゼリーのくせして、攻撃を行うときは黄金のエフェクトを纏ってるものだから違和感がすごい。ジークヴルム要素ってことなのかな?

 ……さて、こいつの行動パターンは単純だ。ただ、私と相性が悪い上に()()()()()なだけで。そういうわけで射出された粘液も、ごく単純な放物線を描く。

 

「よっ」

 

 私はサイドステップを踏みながら、ラエルカンから奪った(貰った)例の銃を取り出す。残念ながら弾丸を曲げるやつは彼自身の魔法か何かだったみたいだけど、火力源としては十分だろう。

 

「食らえ!」

 

 引き金を引く。

 ……ベヒーモス九層における本来の醍醐味は「謎解き」だ。これまで挑戦してきた階層で得た情報をもとに、「どうやって攻略すればいいか」という"謎"を解く。しかし現在はwiki(ネタバレ)が浸透していて、みんな「初手で一番強そうなヤツを殴ればいい」ということがわかってしまっている。しかし……運営がそれを想定しないはずがない。1時間の制限はある種の挑戦なのだ。このゲームには搦め手が無数に存在して、ちょっと体力が多いとかその程度のボスなら、工夫すれば数分で倒すことができる。そこに設定されるのが1時間という数字だ。ネタバレがあろうと搦め手があろうと、()()1()()()()()()()()のだ―――と、運営はこの階層を通してそう主張したがっている。私たちに挑戦している。こいつには、正攻法しか効かない。

 そういうわけで放たれた弾丸(正攻法)たちは、魔力弾特有の紫色のパーティクルを発しながら突き進む。メア・リースに着弾、ばちばちと黄金色の電撃が空間を迸る―――六層に売っていた蓄電(チャージ)弾だ。効いてるかな?効いてなさそう。了解。属性攻撃に弱いというわけでもなく、本当に足場に注意しながら殴り続けるしかないらしい。

 

「PuNYiiiIIIII!!」

 

 また分裂と発射だ。どろどろとした粘液が影を落としながら落下していき、その辺にいた小型の雑魚が、粘液を食らって呑み込まれる。なににも当たらなかった粘液が、人工的に再現された土の上に降りかかり、踏んじゃダメゾーンがさらに広がる。これが広がれば広がるほど……長く戦うほど、私は不利になる。前準備(雑魚狩り)に40分もかけたのは、戦闘をなるべく短期のものにするためだ。

 

「……さあて」

 

 呟き、過多技の羽衣(リデクセッター)を装備する。ここで死んでも装備品は保持されたままだから、クソアプデに怯えて適当な店売り品を使うこともない。羽衣の纏う白が、地面を塗り替えつつある黒液とのコントラストを生む。私はチェーンソーを取り出した。……ジュゲッキからもらった造船予算(リザルト)が思ったより余ったので、色々と装備を用意できる。あとはまあ……ジュゲッキが使ってるのを見て、ちょっといいなって思ったのもある。

 

「竜魂解禁、【セパレーション】」

 

 呟く。それは願掛けのようなものだ。どれだけ回転を始めるチェーンソーが破壊属性のエフェクトを帯びようが、スライムに破壊する部位なんてない。だからどちらかといえば―――これは、自分を追い込むためのものだ。ミスったら腕が千切れると、自覚するための。

 ちょうどいいところに粘液が飛んでくる。私はチェーンソーを振るって、飛来するそれを二つに両断する。普通に考えて両断できるはずがない。ベヒーモスのモンスターはそんなにヌルい調整じゃない。挑戦者のレベルに見合ったものが登場する。逆に言うと。

 

「……そろそろかな」

 

 言い終わると同時に、ファンファーレが聞こえる。私にしか聞こえない、脳に直接送り込まれたファンファーレだ。それらが―――いくつも、同時に発生する。展開したウィンドウを突き破る勢いで走り出す。

 

L()E()V()E()L() ()U()P()

 

『60→75→84→91→93→95→98→100→101→104』

 

 ベヒーモスには、挑戦者のレベルに見合ったものが登場する。……逆に言うと、魔魂丸薬(イヴィル・フォース)などでレベルを下げた状態で挑み、挑戦中にレベルを上げれば……何も問題はないことになる!

 

「差し引きマイナス16ね!」

 

 思ったより下げないで済んだね!いや110くらいまではスムーズに上がるしこんなもんかな!

 突進する。レベル60を想定して調整されたモンスターに、レベル104のAGIでだ。そしてレベル104のSTRと、レベル104を3倍にしたDEXでもって……絶え間なく回転し続けるチェーンソーを、思いっきり振りかざす。

 

「おりゃああああっ!」

 

 ベヒーモスなんてとっととクリアしちゃおう!私はこんなところにいる場合じゃないんだーっ!

 粘液が、斬撃を前に飛び散った。




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