ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
作戦は立ててある。足りないものがあるとすれば覚悟だ。しかし、もうすぐ新大陸に行けるというところで、できない覚悟なんてあるだろうか?
◆
残り59分59秒。
七回目の挑戦が開始すると同時に、展開したウィンドウは私にそう告げた。周囲に広がる人工感あふれる自然環境を見渡しながら、私は脚を動かし始めた。
第九層に出現するモンスターは、挑戦者のレベルに応じてその体力を調節されている。初手で殴れば勝てない相手ではないはずだ。だから、ひとまず相手を
「【空蝉】っ」
【空蝉】は熟練度を上げることで印なしで発動できるようになる。それは単に便利というだけの話ではない、印なしということは同時に
脚部に纏った【潮躱し】のエフェクトを散らしながら、点々と存在する水溜まりを踏みしめ、跳ぶ。それを繰り返す。MPゲージがガンガン減っていくから、こまめに発動を切る必要がある。
移り変わっていく景色を前に眼球をぐるぐると動かし、視線で疑似森林を切り開く。さあどこだあのクソスライムーっ!
「いた!」
いや間違い、やっぱりいなかった。スライムかと思ったら
「qQQuaaaaAAAAA」
コウモリが湾曲した翼を変形させ、現れた
「邪魔ァ!」
【潮躱し】は水中に足場を生成するスキル、足場の方向はある程度自由が利く。回避先の水溜まりにほとんど壁みたいな足場を生成し、蹴り飛ばして水平方向のベクトルを得る。着弾の嵐の間をすり抜ける、ミサイルが描く煙を悉く躱す!六回も挑戦したんだ、こいつの弱点も大体わかってる!
「【
鎖が、コウモリの体躯の表面を這う。
端末で調べたところによれば、コウモリの能力の本質は
「q……QQQ……」
「ごめんね、急いでるから」
翼に攻撃して部位破壊、続けざまに【
「次ぃーーっ!」
基本的にはメア・リースをダイレクトに探すことになるけど、こういう雑魚も数体は倒しておいた方が良い……そういう作戦だからだ。MPの管理に意識を削ぎつつも、私は再現された森林の中をさらに駆けた。
◆
いた。
「PYuaaaaaaaa……」
結構な数の雑魚を「数十分後に死ぬ」状態にすることを経て、ようやくメア・リースのもとに到着した。残り時間は20分、少なすぎるようにも見えるけど……大丈夫だ、作戦通りに進んでいる。
黒き粘液はその巨体をうねらせ、かきまぜ、うごめいて―――ばしゅん、ばしゅんと。早速といわんばかりに、分裂及び発射を行ってくる。見た目はどう見ても禍々しい黒いゼリーのくせして、攻撃を行うときは黄金のエフェクトを纏ってるものだから違和感がすごい。ジークヴルム要素ってことなのかな?
……さて、こいつの行動パターンは単純だ。ただ、私と相性が悪い上に
「よっ」
私はサイドステップを踏みながら、ラエルカンから
「食らえ!」
引き金を引く。
……ベヒーモス九層における本来の醍醐味は「謎解き」だ。これまで挑戦してきた階層で得た情報をもとに、「どうやって攻略すればいいか」という"謎"を解く。しかし現在は
そういうわけで放たれた
「PuNYiiiIIIII!!」
また分裂と発射だ。どろどろとした粘液が影を落としながら落下していき、その辺にいた小型の雑魚が、粘液を食らって呑み込まれる。なににも当たらなかった粘液が、人工的に再現された土の上に降りかかり、踏んじゃダメゾーンがさらに広がる。これが広がれば広がるほど……長く戦うほど、私は不利になる。
「……さあて」
呟き、
「竜魂解禁、【セパレーション】」
呟く。それは願掛けのようなものだ。どれだけ回転を始めるチェーンソーが破壊属性のエフェクトを帯びようが、スライムに破壊する部位なんてない。だからどちらかといえば―――これは、自分を追い込むためのものだ。ミスったら腕が千切れると、自覚するための。
ちょうどいいところに粘液が飛んでくる。私はチェーンソーを振るって、飛来するそれを二つに両断する。普通に考えて両断できるはずがない。ベヒーモスのモンスターはそんなにヌルい調整じゃない。挑戦者のレベルに見合ったものが登場する。逆に言うと。
「……そろそろかな」
言い終わると同時に、ファンファーレが聞こえる。私にしか聞こえない、脳に直接送り込まれたファンファーレだ。それらが―――いくつも、同時に発生する。展開したウィンドウを突き破る勢いで走り出す。
『
『60→75→84→91→93→95→98→100→101→104』
ベヒーモスには、挑戦者のレベルに見合ったものが登場する。……逆に言うと、
「差し引きマイナス16ね!」
思ったより下げないで済んだね!いや110くらいまではスムーズに上がるしこんなもんかな!
突進する。レベル60を想定して調整されたモンスターに、レベル104のAGIでだ。そしてレベル104のSTRと、レベル104を3倍にしたDEXでもって……絶え間なく回転し続けるチェーンソーを、思いっきり振りかざす。
「おりゃああああっ!」
ベヒーモスなんてとっととクリアしちゃおう!私はこんなところにいる場合じゃないんだーっ!
粘液が、斬撃を前に飛び散った。
次回かその次で一区切りします