ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
躍動、躍動、躍動。殺到する黒塊を躱しながら、私はAZZのスコープを覗き、セミオートでの発射を繰り返す。どこかで距離を詰めたいところだけど……はい今!【空蝉】!背後に発生した丸太がハチの巣にされる音を聞きながら装備変更、展開したチェーンソーの唸り声を、そのままメア・リースの体にぶち込む。
「pUNYaEEEIII!」
時間足りるかなこれ?かなり削れてるのは間違いないんだけど。UIの隅に目をやって時間確認、残り1分30秒、王国騒乱開始まではだいたい7分ってところか。よし、
「ラストスパートいくよっ!」
叫びきる前に、私の声質が変化する。
「
今の私は最大HP90、
「とにかくゥーッ!」
リキャストは既に終わっている!
【
私は息を吸った。印を組んだ。レベルダウンによってアクセサリースロットが減ったから、手袋はいったん外してあって……。片方の手の体温が、もう片方の手で感じられる。
さあ、本日二回目の。
「【竜威吹】ぃぃぃぃぃっ!」
蒼炎が旋風に混ざりこむ。辺りに広がる贋作の森が光波に照らされ、明るすぎるほどの緑を纏う。とっとと死ね、とっとと死ね。私はとにかくそう念じ続ける。焔に呑み込まれたメア・リースの姿は見えず……ただ、辺りに散らばった黒片たちが、金色を纏った息吹を照らし出しているだけだ。
とっとと死ね、とっとと死ね。
そして、その通りになった。
◆
『ああ、愛しき我が子達』
作り物の新緑たちをぼやかして、ホログラムとして出現した「象牙」が語る。どうやらイベントシーンらしい。いいから早くBW-ビーコン渡せよ~!オイ!オイ!しかし面と向かってそう言ってやるわけにもいかない。
『身一つで世界に投げ出されながらも……』
ま……まずい、長引きそうな予感だ。時間を確認、あと4分30秒くらいかあ。え、これ大丈夫かな?……とにかく、脳にイベントを処理するだけの容量が残っていない。録画して後で聞くことにしよう。
「ニコロ~」
「展開:何の用?」
「録画して」
「了解:アナライズモードに移行する」
ニコロの双眸が薄蒼の煌めきを帯びるのが横からでもわかる、録画が開始された証拠だ。よーしよしよし……とにかく、BW-ビーコンの取得までにできることをやろう。取得と同時に帰れるように【
『貴方達人類はかつて、万物の中で最も長じた存在として霊長の名を……』
け、結構行きますね。
私はそれとなく時計を展開し、確認した。えーっと……あと2分。大丈夫かこれ?いや、信じよう。きっと大丈夫だ。どうしても無理そうだったら仕方ない、いったん諦めて【
『どうか人の可能性を見せてくださいね』
……おや、ここが会話の切れ目では?ここが会話の切れ目なんじゃないのぉ!?チラッと横目で時計を確認、あと1分!いけるいけるいける……!
『ブーケ・パズル:
はいはいはいはいはい!
『称号【象牙馳せ】を獲得しました』
よしよしよしよしよし!
『第十階層到達報酬として「新正規量産品BWビーコン」を獲得しました』
はい来たァ!私はニコロに触れながら【
『さて、開拓者クグリン。―――そして、アイヴィ=256』
えっ?
【
ちょ、ちょっと待って。時計を見る。あと20秒。いやあの。
『アイヴィ=256の展開に伴い、未通達事項を連絡します』
15秒。ちょ、後にしてほしいんですけど。
『おめでとうございます、貴方はかつてこのベヒーモスを率いた男』
10秒。マズい。マズい。
『アンドリュー・ジッタードールのラボに立ち入る資格を得た』
5秒。これはダメだ。終わりようがない。転移魔法は使えない。じゃあどうする。
4秒。そうだ、【
3秒。死に戻りすればいい。そうだ、死に戻りすればいい!
2秒。私はニコロの首に手を触れてチェストリアへの収納を開始した。エフェクトが舞い散る。
1秒。しかしそんなものに構ってられない。私はセパレーションの能力を発動した。首が、
0秒。胴体から離れて、視界が赤く染まって。
-1秒。ゲームオーバー画面……ちょっと待って。
-2秒。今の、
-3秒。
◆
「はっ!」
私は起き上がった。どうやら路上にリスポーンしたようで、石畳のごつごつとした感触を感じる。そうして……起き上がったのとちょうど同時に、ここはフィフティシアではなく、もっと言えばファスティアでもないと確信した。理由は……簡単だ。
―――ずだだん、だだん。ずがががががががが。
それは……このゲームに瞬く間に広がった、人を殺すための、ほとんど無限に量産できる、兵器だ。いくらPKが横行していようと、王国騒乱中はそいつらも戦争に行く。つまり、中立都市ならこんなことはあり得ない。ここは……紛れもない、戦場なのだ。
「……く、そ」
これは……まずいことになった。私はベッドから起き上がりながらマップを開いた。現在地点、
「どうする……?」
路傍で考える。わからない。今日が12月15日だけど、もう6時間で16日になる。それで、ツチノコ杯の開催が19日。3日しかない。私は……3日のうちに、戦争が起きている中、サードレマからフィフティシアまで移動しなければならない。
まずい、まずい。とにかく焦燥感が溢れてくる。私はひとまず、青空でも眺めて落ち着こうと思った。それで並び立つ建造物を飛び越すように、視線を斜め上へと向けて……気づいた。
「……あれは」
巨城が崩れていく。正体不明の光線に貫かれた、恐らく相当な要人が暮らしているであろう城が。発泡スチロールの細工のように、盛大に破壊され、宙を舞う。
―――まずファイヴァルについてですが……街そのものより、
いつかコウガイガーが発した言葉が、なぜだかくっきりと脳裏に瞬いて。悲鳴が、銃声が、歓声が聞こえて。
そして私は、この世界で戦争が始まったことをようやく理解した。
次回から最終章『銃よ、竜よ! われらが駆けるは戦場の道』が始まります かなり短い予定