ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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獣よ、龍よ! 其の三

 躍動、躍動、躍動。殺到する黒塊を躱しながら、私はAZZのスコープを覗き、セミオートでの発射を繰り返す。どこかで距離を詰めたいところだけど……はい今!【空蝉】!背後に発生した丸太がハチの巣にされる音を聞きながら装備変更、展開したチェーンソーの唸り声を、そのままメア・リースの体にぶち込む。

 

「pUNYaEEEIII!」

 

 時間足りるかなこれ?かなり削れてるのは間違いないんだけど。UIの隅に目をやって時間確認、残り1分30秒、王国騒乱開始まではだいたい7分ってところか。よし、()()()()だね。

 

「ラストスパートいくよっ!」

 

 叫びきる前に、私の声質が変化する。燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)を装備したことによって、なんだか体に悪そうなエフェクトを帯びた結果だ。レベルダウンした時にステータスポイントの振り方を「予約」しておいた。具体的には、DEXとTECとSTRとLUCを減らし、STMとAGIと―――

 

H()P()()()()()()!」

 

 今の私は最大HP90、燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)の10秒ごとに10上限を削る効果にちょうど1分30秒耐える!……まあ、上限が1になってもそれ以上減らなくなるだけなんだけど。

 

「とにかくゥーッ!」

 

 リキャストは既に終わっている!

瞬間転移(アポート)】、メア・リースの後ろに回り込む。いや、後ろという概念は存在しない。こいつは魔力検出器官をソナーのように使って存在を検知していると聞いた。つまり全方位が前なのだ。しかし……この場所は、メア・リースが集中していた()()()だ。地面があまり染められていない、ここなら地に足を付けて魔法を使える。

 私は息を吸った。印を組んだ。レベルダウンによってアクセサリースロットが減ったから、手袋はいったん外してあって……。片方の手の体温が、もう片方の手で感じられる。

 さあ、本日二回目の。

 

「【竜威吹】ぃぃぃぃぃっ!」

 

 蒼炎が旋風に混ざりこむ。辺りに広がる贋作の森が光波に照らされ、明るすぎるほどの緑を纏う。とっとと死ね、とっとと死ね。私はとにかくそう念じ続ける。焔に呑み込まれたメア・リースの姿は見えず……ただ、辺りに散らばった黒片たちが、金色を纏った息吹を照らし出しているだけだ。

 とっとと死ね、とっとと死ね。

 そして、その通りになった。

 

 

『ああ、愛しき我が子達』

 

 作り物の新緑たちをぼやかして、ホログラムとして出現した「象牙」が語る。どうやらイベントシーンらしい。いいから早くBW-ビーコン渡せよ~!オイ!オイ!しかし面と向かってそう言ってやるわけにもいかない。

 

『身一つで世界に投げ出されながらも……』

 

 ま……まずい、長引きそうな予感だ。時間を確認、あと4分30秒くらいかあ。え、これ大丈夫かな?……とにかく、脳にイベントを処理するだけの容量が残っていない。録画して後で聞くことにしよう。

 

「ニコロ~」

 

「展開:何の用?」

 

「録画して」

 

「了解:アナライズモードに移行する」

 

 ニコロの双眸が薄蒼の煌めきを帯びるのが横からでもわかる、録画が開始された証拠だ。よーしよしよし……とにかく、BW-ビーコンの取得までにできることをやろう。取得と同時に帰れるように【座標移動(テレポート)】のスクロールを用意、目の前にウィンドウが現れたらすぐ反応できるよう指を準備しておく。さあ来い……!

 

『貴方達人類はかつて、万物の中で最も長じた存在として霊長の名を……』

 

 け、結構行きますね。

 私はそれとなく時計を展開し、確認した。えーっと……あと2分。大丈夫かこれ?いや、信じよう。きっと大丈夫だ。どうしても無理そうだったら仕方ない、いったん諦めて【座標移動(テレポート)】してしまおう。まあ、旧大陸に戻る手間が少し増えるだけだ。

 

『どうか人の可能性を見せてくださいね』

 

 ……おや、ここが会話の切れ目では?ここが会話の切れ目なんじゃないのぉ!?チラッと横目で時計を確認、あと1分!いけるいけるいける……!

 

『ブーケ・パズル:第十段階(ランクテン)を取得しました』

 

 はいはいはいはいはい!

 

『称号【象牙馳せ】を獲得しました』

 

 よしよしよしよしよし!

 

『第十階層到達報酬として「新正規量産品BWビーコン」を獲得しました』

 

 はい来たァ!私はニコロに触れながら【座標移動(テレポート)】のスクロールを開いた。発動ゥーーーッ!

 

『さて、開拓者クグリン。―――そして、アイヴィ=256』

 

 えっ?

座標移動(テレポート)】が、発動しない。まだイベントが続いている?そんなバカな。wikiにはビーコンを受け取って終わりだと書いてあったはずだ。まさか……征服人形の専用イベント?

 ちょ、ちょっと待って。時計を見る。あと20秒。いやあの。

 

『アイヴィ=256の展開に伴い、未通達事項を連絡します』

 

 15秒。ちょ、後にしてほしいんですけど。

 

『おめでとうございます、貴方はかつてこのベヒーモスを率いた男』

 

 10秒。マズい。マズい。

 

『アンドリュー・ジッタードールのラボに立ち入る資格を得た』

 

 5秒。これはダメだ。終わりようがない。転移魔法は使えない。じゃあどうする。

 4秒。そうだ、【座標移動(テレポート)】はそもそも最後にセーブした地点に移動する魔法。なら。

 3秒。死に戻りすればいい。そうだ、死に戻りすればいい!

 2秒。私はニコロの首に手を触れてチェストリアへの収納を開始した。エフェクトが舞い散る。

 1秒。しかしそんなものに構ってられない。私はセパレーションの能力を発動した。首が、

 0秒。胴体から離れて、視界が赤く染まって。

 -1秒。ゲームオーバー画面……ちょっと待って。

 -2秒。今の、

 -3秒。()()()()()()()()()……?

 

 

「はっ!」

 

 私は起き上がった。どうやら路上にリスポーンしたようで、石畳のごつごつとした感触を感じる。そうして……起き上がったのとちょうど同時に、ここはフィフティシアではなく、もっと言えばファスティアでもないと確信した。理由は……簡単だ。

 ―――ずだだん、だだん。ずがががががががが。

 ()()()()()()()

 それは……このゲームに瞬く間に広がった、人を殺すための、ほとんど無限に量産できる、兵器だ。いくらPKが横行していようと、王国騒乱中はそいつらも戦争に行く。つまり、中立都市ならこんなことはあり得ない。ここは……紛れもない、戦場なのだ。

 

「……く、そ」

 

 これは……まずいことになった。私はベッドから起き上がりながらマップを開いた。現在地点、()()()()()。旧王側陣営に参加した覚えは……いや、死に戻りが間に合わなかったとするとフィフティシアのセーブポイントは無効化されている。となれば()()()になりうるのは……初期スポーン地点。王国騒乱中に限りサードレマとサーティードだ。だったら、近い方が選出されるのは無理からぬことだろう。

 

「どうする……?」

 

 路傍で考える。わからない。今日が12月15日だけど、もう6時間で16日になる。それで、ツチノコ杯の開催が19日。3日しかない。私は……3日のうちに、戦争が起きている中、サードレマからフィフティシアまで移動しなければならない。

 まずい、まずい。とにかく焦燥感が溢れてくる。私はひとまず、青空でも眺めて落ち着こうと思った。それで並び立つ建造物を飛び越すように、視線を斜め上へと向けて……気づいた。

 

「……あれは」

 

 ()()、光条だ。熱を帯びていると思しきそれは、透き通るような青空に紅の線条を描き……頑健なはずの魔力障壁をいとも簡単に突き破って、突き進んで、ああそうだ。そこで気づいた。銃声だけじゃないんだ。この街には()()も鳴り響いている。

 巨城が崩れていく。正体不明の光線に貫かれた、恐らく相当な要人が暮らしているであろう城が。発泡スチロールの細工のように、盛大に破壊され、宙を舞う。

 

―――まずファイヴァルについてですが……街そのものより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。このゲームの運営のことですから、王国騒乱中にアレが起動する可能性がある。

 

 いつかコウガイガーが発した言葉が、なぜだかくっきりと脳裏に瞬いて。悲鳴が、銃声が、歓声が聞こえて。

 そして私は、この世界で戦争が始まったことをようやく理解した。




次回から最終章『銃よ、竜よ! われらが駆けるは戦場の道』が始まります かなり短い予定
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