ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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銃よ、竜よ! われらが駆けるは戦場の道
銃よ、蝶よ! 其の四


 12月16日、朝。

 せめてシクセンベルトくらいまでは行こうとしてあの後色々と試行錯誤をしたけど、流石に戦争中、それも序盤の混乱期では厳しすぎる。そもそも、中立プレイヤーへの風当たりは強い―――どちらの陣営にも味方しないということは、両方の陣営の敵であるということでもある。しかも、PKをしてもペナルティがないと来た。そのせいで……どちらに属するプレイヤーからも、道端に転がっている邪魔な石をどかすとかそれくらいの感覚で殺される。時に爆風に巻き込まれ、時に遺跡の頂上から芋砂され、時にドロップ狙いで背後から刺される。

 ニコロに掴まって飛行ユニットで飛び越える案も考えたけど……危険すぎる。思考ルーチンをとんでもないレベルで作りこんでいるくせに、このゲームはNPCを簡単に殺してしまう。地上からニコロがスナイプされないという保証はない。

 

「……さて」

 

 ずだだだだん。

 ログインと同時に放った呟きを、次々と上がる銃声が掻き消していく。私はそれに構わずベッドから這い出て、カーテンを開けて埃を散らす。少しだけくすんだ窓ガラスが、外の光景を透かし出す。少し霞がかかったような処理を受け、遠くで……()()()()()()()。例えば冬の山の頂上が積もった雪によって白くなったりすることがあるけど、あの雪を燃え滾る猛焔に置き換えるとちょうど今の状態になる。「燃え滾る猛焔、なお尋常じゃなく強力な熱線を発射してくることがあるものとする」とすればより正確だ。

 

「やっぱ……()()()かなあ」

 

 蛇腹に折られたカーテンの端っこを右手で弄びながら、呟く。

 シクセンベルトルートはダメだった、フォスフォシエルートも同じような感じだろう。片方の陣営の本陣都市と直接繋がっている以上、奇襲するものもそれを迎撃するものもいるに決まっている。なんか電撃戦とかも始まってるっぽいし、あそこを通るのはしばらく無理だ。……では、どこから進むのか。

 

「……ファイヴァルルート」

 

 愚かな思い付きだというのはわかっている。他ならぬ燃え滾る猛焔()()()()、焠がる大赤翅。それが巣食う死火口湖を通ることが、ファイヴァルルートには不可欠だ。当然のことながら難易度は極めて高く、ほとんどのプレイヤーは避けようとするはずだ……【威聖開拓(テラホーリー)】の面々がそうしたように。

 しかしそれは逆に言えば、戦争に巻き込まれる可能性が小さいということでもある。

 

「……やるぞ」

 

 呟いた。それは意思の確認だった。ふと窓の外を再確認すれば、蘇生された死火山と、その上に広がる青空を背景に、一羽のハヤブサが翼を広げていた。

 

 

 昨日のうちに討伐隊が結成されて突撃して壊滅したらしく、現在は作戦会議を行っている最中だそうだ。そういうわけで栄古斉衰の死火口湖は無人だ。乾ききった土を踏みしめて、熱を帯びた空気に汗を垂らして。私は、その表面を()()している。

 ……もはやどう考えても『湖』とは言えないし、エリア名を変えた方が良いんじゃないかなあ?

 浮かべた疑問に応える者はいない。公式サイトのお問い合わせフォームに送れば「仕様です」くらいの答えは返ってくるかもしれないけど、それだけだ。このゲームの大気にはきっと、こういうプレイヤーたちが浮かべた微妙な疑問の数々が、山積し、漂っているのだろう。誰にも掬い上げられないままに、ただなんとなく「雰囲気」みたいなものを作って、ふわふわと浮かんでいるはずだ。

 それを意にも介さずに。

 私が土の地帯の終わりと冷え固まったマグマの地帯の始まりを結ぶ境界線を超えたのと、ちょうど同時に。

 

「……いた」

 

 私は前を……そして、背後の青空とのコントラストを生みながら陣取る、巨大にして強大たる炎熱の蝶を見据え、

 

「Vvvvvvooou!!」

 

 焠がる大赤翅は翅を広げ、白熱を纏った無情の灼光を私に撃ち込んだ。

 

「いやちょっ」

 

 えっこれ避けられるかな?しかし無理だった。というか避けられるかな?とか考え始めた段階で既に、もはや認識することすら不可能な速度で、熱の塊は私のアバターを貫いていた。ダメージエフェクトは飛び散らない。ただ()()だけがそこにあった。その感覚の発生源たる腹部は、なんというか、()()していって。

 

「げぺっ」

 

 私は内部から爆砕して死んだ。

 

 

 なるほどヤバいじゃん。

 実際、明らかにヤバかった。

 私はのそっとセーブテントから這い出た。これで七回目、リスポーン上限は十回だから、そろそろ次のテントを張った方が良いかもしれない。テントの影は一回目の時と比べれば長さを結構変えていて、時間の流れを私に突き付けてくる。

 テントは大赤翅の直前、具体的に言うと()()()()()()ギリギリのラインからちょっと退いたあたりに設置してある。とはいえ大赤翅と完全に断絶しているわけではなく、少し視線を動かせば炎熱がその燃え盛る体躯をくゆらせているのがわかるし、響き渡るような鳴き声を発し続けているのも伝わってくる。完全に活性化状態だ。

 

「え、いやどうしよ……?」

 

 この七乙の間にやったことを挙げてみよう。

 

 一乙め、なんか死んだ。

 二乙め、なんか死んだ。

 三乙め、【空蝉】で初手の光線を回避。しかし更に光線が飛んできて死んだ。

 四乙め、【空蝉】と【瞬間転移(アポート)】で岩陰に隠れたところ、一発目の光線は岩に当たって助かったけど、二発目で死んだ。

 五乙め、光線が岩を貫通しなかったことから基本的に「単体攻撃」だと推測、チェストリアでその辺の岩を拾い集めてデコイ替わりに置きまくってみたところ、謎のホーミング全体攻撃技を出してきて死んだ。

 六乙め、攻撃を避けるのは無理と悟る。【朧隠(おぼろなばり)】の擬態で突っ切ることを試みるも普通に看破されて死んだ。

 七乙め、逆に攻撃に転じてみる。多分水属性が効きそうだと考えて水魔法の使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)を取り出したらなんか燃え尽きたので、錬金術師時代に大量貯蓄しておいた水を適当にチェストリアから展開。するとなんか水蒸気爆発が起きて死んだ。

 

 えーっと……ここから言えることとしては。

 

「……かなり厳しい、かな」

 

 そういうことだ。

 焠がる大赤翅は……こちらが取るどんなアクションに対しても「攻撃」で返答するレイドボスだ。防御すれば攻撃する。逃げれば攻撃する。隠れれば攻撃する。攻撃すれば攻撃する。何もしなくても攻撃する。もはや焠がる大赤翅とは攻撃そのものであり、火焔で形作られたその巨体を見れば、『攻撃そのもの』という表現もあながち間違いではなさそうだった。

 ビデオゲームにおけるお約束(セオリー)に従うならば、攻撃には防御が有効だ。問題は、大赤翅が防御に対しても攻撃を選ぶことにある。盾を構えたところで盾ごと溶かされれば意味がないということだ。

 

「理不尽すぎでしょぉ……」

 

 ボヤく。

 とはいえ、ボヤいているだけというわけにもいかない。

 ……攻撃されたらどうすることもできないというなら、自然に考えれば「攻撃させない」手段を考える必要がある。でも……攻撃させない。攻撃させない?そんな方法ほんとにあるかなあ……。

 私は、少し距離を置いた先の頂上で燃え盛っている大赤翅を眺めた。その外見が帯びる"危険"の気配は計り知れず、ニコロを出して何かしようという気にもなれなかった。私はなんとなく大赤翅に歩み寄ると、なんとなく水鉄砲を取り出して照準を合わせ、なんとなく引き金を引いた。ささやかな水流が空中に線条を描き、やっぱり水蒸気爆発が起きる。とはいえ結構距離があるから、発生した灼熱の空気が私の肉体を焼き切ることは無く、蒸発していく回復ポーションをゴリ押しで飲み込むことで何とか耐えられる。それはそれとしてヘイトを買ったらしく、私は爆発が晴れた後に飛んできたビームに貫かれて死んだ。

 

「……ん?」

 

 もう八回目になるテントからの脱出を行いながら、私は首を傾げた。何か、違和感がある。

 

「そうだ」

 

 思いついちゃったかも。

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