ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

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銃よ、蝶よ! 其の五

 分析してみよう。

 大赤翅は、水蒸気爆発による凄まじい衝撃波が()()()()になってから、私に熱線を打ち込んだ。なぜそうしたのだろう?私が放たれた熱波にあたふたしている間にジュッと焼いておけば、もっと迅速に殺すことができたはずだ。それなのに……あの嫌になるほどの炎を纏った紅蝶は、衝撃波が晴れるのを()()()()()私を殺した。理由があるとすれば次の二つのうちどちらかだ。

 一つ、思考ルーチンがそうなっている。大赤翅の行動パターンには「装置」的な側面がある……と、wikiに書いてあった。曰く、植物系モンスターの原始的な行動パターンをなぞるようだと。であれば、こういう不合理な選択をしたり、あるいは不合理に見えて実は合理的な選択をすることもあるかもしれない。

 そしてもう一つ、能力的な制約。つまり……例えば、水蒸気爆発を使っている間は、他の攻撃を行うことができないとか。

 直感的には、二つ目な気がしている。

 

 

「というわけでェーーーッ!」

 

 第九挑戦、水蒸気爆発をしている間に駆け抜けてみよう!

 ベヒーモスでレベルを下げたことで6個まで減ったアクセサリースロットを少々調整、チェストリアに1枠、リジェネに3枠……そして、久しぶりの錬成品射出用自走竜砲(アルケミック・ホイールド・モーター)に2枠!錬金術師辞めたせいでそんなに使ってなかったけど、今回に限っては有効のはずだ!

 ウィンドウ展開、自走竜砲のスロットに水を詰め込む。過多技の羽衣(リデクセッター)を裏返し、真上から少し西寄りに傾いた太陽の光に、唯一義の玄衣(レテックスデル)の漆黒を晒す。そして、前を見据える。

 

「いくよ」

 

 そこには、燃え盛る翅に備わった()のような器官で睨み返してくる、一羽の巨大な蝶がいる。

 私は水鉄砲を取り出して撃ち込んだ。着弾まで少しだけ間がある、その間に呟いておく。

 

「刃隠心得奥義、【潮躱し】」

 

 大赤翅が光ったような気がして、それはちゃんと検証していないけど、きっと攻撃モーションだった。悲鳴のように聞こえる、実際のところ全く悲鳴ではない鳴き声が、火口の中にひたすら響く。

 

「Svvvvvvoaaaaaaaaaaaaaarmmmmmmm!!」

 

 光は音よりも速いから、そしてその法則をシャンフロエンジンは再現しているから。三倍になったTECで手早く印を組む私の前で、放たれた衝撃波が猛烈な前進を見せるのもわかった。水蒸気爆発攻撃のダメージ源は二つ。熱によるスリップダメージと莫大なノックバックだ。スリップダメージはごく短時間なら耐えられる。ノックバックは―――

 

戦砕誇示(ウォールフェン)!」

 

 ()()すればいい。

 蒸気とエフェクトの混在が生む噴気が、荒れ狂う海波に似て衝撃をつぎ込んでくる。右腕に纏ったスキルエフェクトと、自分自身に発動した【鎖縛帷子(さばくかたびら)】の束縛効果でもってそれに対抗する。辛うじて耐えられるような凄まじい気熱と激突する!

 

「―――」

 

 このゲームでは、魔法を発動するときは声に出す必要がある。例外の一つが忍術だけど、忍術にしたって印を組む必要がある。でも―――そこにもさらに例外がある。熟練度を上げた【空蝉】なら、何も言わなくても発動できるのだ。

 私の視界が切り替わる。マグマの大地からマグマの大地へ、遠くの大赤翅から少し遠くの大赤翅へ。【鎖縛帷子(さばくかたびら)】によって生成された鎖が解けていく。効果時間が終わった合図だ。()()、ということでもある。

 

「ッ!」

 

【潮躱し】は燃費が異常に悪く、それに見合うだけの効果を持っている。水中での挙動補正、そして()()()()()()で……例えば雨が降っているときとか、あるいは膨張した水が広範にまき散らされているときなんかに使えば、この上ない()()()()()()()()()になる!

 一歩、二歩、もう一歩!やってくる水蒸気それ自体を足場にして、強引極まる姿勢で前進する!四歩、五歩、もう一歩!

 肌に感じる熱が少し和らぐ。それは噴気が晴れ始めることを意味している、そろそろ光線が飛んでくるだろう。しかし関係ない。既に大赤翅の背後まで移動を終えた。あとは最後のスパートをかけるだけだ!

 

「刃隠心得ぇーーっ!」

 

 スリップダメージに焼かれながらも、深紅のダメージエフェクトにまみれた両手で印を組む。【潮躱し】の足場を階段状に生成して駆け上がる。これで高度が十分に稼げた!後は―――!

 

「【鼯衣(むささびのころも)】!」

 

 発動すればいい!

鼯衣(むささびのころも)】は布状のものを広げることで落下速度を軽減する忍術だ。しかし冷静に考えて布状のものを広げるだけで落下速度が何割も落ちるわけがない。現実でやっても墜落死するだけだ。そもそもMPを使っている時点で分かり切ったことではあるけど、この忍術は()()()()()()()()()。落ちにくくなる忍術とは、逆説的に()()()()()()()()()でもある!

 私が取り出した手拭いをばさりと展開すると同時に、()()()が確かに聞こえた。自走竜砲には周囲に存在する敵を自動で攻撃する機能がある。水蒸気爆発はもうすぐ終わり、大赤翅は次の攻撃を放てるようになる。今の自走竜砲は水で満タンだ。水を当てられると大赤翅は水蒸気爆発を発動する。ここから導かれる結論は一つ!

 

()()()()()()!」

 

鼯衣(むささびのころも)】の効果が落下を遅延させる中、私は背後をちらりと見やった。そこには、炎翅に備わった眼球から睥睨の視線を放つ大赤翅がいた。紛れもない敵意をもって、空中に線条を描く透き通るような水流を目前にして、私をただただ()め付けていた。そうだ、私たちはいま向き合っている。見つめ合っている。睨み合っている。だったら、今光り始めた大赤翅に、私は言葉を()()()()()んだ。

 私は再び前を向くため、首の向く先を戻しながら……。

 

「Svoooo……!」

 

衝撃波を放ちつつある巨蝶に、一つ別れの言葉を告げた。

 

「お疲れ様!」

 

 後に来るのものは簡単だ。爆風で、熱波で、轟音で。何にせよとにかく衝撃だった。衝撃波によって肉体を貫かれた私は、そのアバターを()()()()()()。速度十分、方角正常!

 

「このままフィフティシアまで飛ぶぞおおおおおっ!」

 

 流石に無理と分かっていながら、そんな夢想を口から吐いて……私は道なき大空に線条の道を描き、眼下の戦場をただ飛び越えた。

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