ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
地面が急速に迫ってくる。肉体を数多の気流が撫ぜる。
大赤翅の爆風に乗ってしばらく飛んだあと、肉体にかかった上向きのベクトルは重力に負け始めたようで、飛行軌道は段々と下を向くようになり始め……そしていよいよ、もう少しすれば落下という状態まで来た。結構距離稼げた気はするけど……どこに飛んだのかな。まあ、とりあえず。
「ニコロ!」
「
「分かってるじゃーん!」
「起動:増設双駆動型ブースター」
背後に展開したニコロが私を掴み、そのままブースターを展開する。噴射による衝撃、熱、轟音、加速度―――様々なものを身に受けながら、私の体は急転換する。地面の接近が食い止められ、今度は逆に遠ざかり始める。とりあえず落下死ということはなさそうだ。
「降ろして!」
「了解:」
ブースターの出力が弱まっていくのを、吐き出される噴煙の減少から知る。地面は再び迫り始め―――しかし急速ではなく緩やかに、ちょうどパラシュートを用いて行うようにして、私とニコロは足を地面に触れさせた。背後に展開したゴツいブースターをがちゃがちゃと変形収納させながら、ニコロは私を掴む手を離す。
……とりあえず、辺りを見渡してみよう。
まず、着地したのは街ではなくエリアらしい。周囲には起伏のない台地が広がっている。少し妙なのは銃声が聞こえないことだ、爽やかな風と相まって、戦争中とは思えない平和さがある。台地の背後には青空があるのみで、山がそびえ立っているわけでもない。山が周りに存在しないエリアってことかな?
「ニコロ、ここってどこ?」
「参照:位置情報によれば、現在の我々がいるのは気宇蒼大の天聖地―――その、台地部分です」
「天聖地か~」
それなら銃声が聞こえてこないのも納得できる。王国騒乱における街以外の場所はあくまでも
「ありがとね、ニコロ」
私は感謝の言葉を伝えながらほくそ笑んだ。……想像以上だ、せいぜい隣のエリアに落ちる程度かと思ってたけど、ニーネスヒルを飛び越えて天聖地まで来られてしまった。この先のフォルティアンを乗り切れば、あとは戦争エリアを抜けて普通にフィフティシアまで到達できる。
「……よぉし!」
私は伸びをすると、フォルティアン―――そして、その背後に待っているフィフティシアに向けて歩き出した。
◆
普通に三時間かかった……。
合間合間にログアウトしたこともあって、疲労困憊しながら潜り抜けたフォルティアンの正門の先には、既に充満した夜が濃さを増し始めていた。考えられる敗因はいろいろあるけど、第一にはエリアボスの存在を忘れていたこともあるだろう。以前はジークヴルムが休息地にしていたため影が薄いけど、天聖地にも一応エリアボスが出現する。王国騒乱中はほとんどのエリアボスは出現しないけど、よく裁定を読むと消えるのはサードレマ以降から
とぼとぼと幅広の道を歩いて行けば、その左右には何の変哲もない家々が、窓ガラスから生活の灯火を漏らしており……。しかし、その家々が並ぶずっと奥には、明らかに異質な
……さて。
「どうしよう?」
風無き夜に、放った言葉が溶け込んでいく。
なんかこう……15日夜時点では「あと3日以内にファスティアからフィフティシアまで行かないといけない!ヤバいぞ!」みたいな感じだったじゃん?でも改めて考えてみるとさあ、今まだ16日だけど、この時点で既にファスティアの前の街に着いてるって言う。あれ?みたいな。でも実際のところそうなんだよね。このまま夜も続行って言うのもアリな気はするけど、モンスターも強くなるし得策とは言えない。今夜はフォルティアンにとどまった方が良いだろう。……要するに。
「思ったより時間がある……!」
私は呟き、同時に閃いた。そうだ、うまい時間の使い方を思いついた。フォルティアンには闘技場がある。四つもある。私の財布にはジュゲッキから受け取った金がある。この前のブリューナク人体実験の対価は、大量のリザルトと大量のマーニによって支払われた。つまり、何が言いたいかというと。
「トトカルチョだ!」
私は駆け出した。街に存在する闘技場のうち一つ、剣士闘技場が放つ照明の光に向けて―――あるいは。その巨大な構造の内部に待ち受ける、輝かしい
◆
ちょうど開催されていた剣闘大会を観戦することにした。
王国騒乱の開催中ということもあり、闘技場の広さの割に、客席はそこまで埋まっておらず、閑散とした雰囲気が漂っている。それでも大会が中止されるわけではない。というか剣闘大会で優勝するなり上位に入るなりしないと就職できないってちょっとひどくない?開催頻度週1とかじゃん。プレイヤー人口3000万人で?
とりあえず観客席に座り、出席者名簿に目を通しながら賭ける先を考えていく。えーっと……。
「オイオイ―――あの男、少々フツウじゃないようだぜ」
……ちょうど隣に座っている何とも印象に残らない顔のプレイヤーが、何やら意味ありげな独り言を漏らしている。ロールプレイヤーだろうか?賭けに役立つかもしれない、せっかくだし、ちょっと耳を傾けてみよう。
「
これ本当に独り言なの?私は周囲をキョロったけど、特にプレイヤーの仲間がいる様子はない。
「対戦相手は―――な、"雷撃"だとッ!?」
知っているのか!?
「"雷撃"……剣闘大会に出ておきながら
あ、アツいな……。
私は改めて、出席者名簿を見直した。記された名前は結構多いけど、多分普段に比べれば少ない方なのだろう。……現在は王国騒乱の真っ最中、普通のプレイヤーは戦場に出て殺したり殺されたりしているはずだし、そもそもフォルティアンに行くこと自体前王側プレイヤーにはできないはず。その前提があってなお、一週間待てば開催される剣闘大会に出席するからには……ここに名前を連ねているプレイヤーはみな、それだけの
……いいね、盛り上がってきた。
観客席に囲まれて、闘技場の中央に二人の剣士が並び立つ。もうすぐ火蓋は切られ、刺激的な戦いがスタートする。私は会場に満ちる熱気に気付いていた。剣闘大会に顔を出すのが難しいのは、出席者だけでなく観客側も同じだ。本来であれば戦争に行くべきなのに、それでも彼らは剣を見に来ている。覚悟の戦いを、覚悟の視線が見つめるのだ。これで盛り上がらなかったら嘘だろう。
「用意―――」
審判的な役割を持っていると思しきNPCが、向かい合う両者の間に立って手を振り上げる。会場を、期待という名の波が駆け巡っていく。私もそれに参加する。さあ―――いよいよ、剣闘大会が始まる。
なお賭けは大損した。