ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「……で、こいつの能力は何個あるの?」
「わかってる範囲で四個だね」
「最悪」
旧大陸には四つの攻略ルートが存在するけど、最終到達地点であるフィフティシアは一つだ。四つのルートはどこかで合流することになり、それがちょうど私たちのいる、フィフティシアの正門から出て少しの地点だ。そこにはついさっきまで何もなかった。ただの分岐路以上の意味は無く、何の変哲もない地面が、何の変哲もない舗装を受けて、何の変哲もない道を、四つのエリアに向けて伸ばしていた。そして、今は違う。
地面を強烈な閃光が照らしている。
『
『
『参加人数:十二人…十三人…』
『竜狩りが開始されました』
私がそれを観察する間にも、アナウンスは粛々と言葉を紡ぐ。
「実際のところ、最悪だね」
ジュゲッキは炎光に照らされながら、私の隣でそう言った。自分の声が震えを帯びていることに、彼女自身は気付いているのだろうか?……いや、きっとどうでもいいことなんだ。
とにかく、まずは説明を受けなきゃ。
「能力その一、
彼女が言ったのとちょうど同時に、さっき聞いた轟音をそのまま小さくしたような……
発射された弾丸は明後日の方向へと飛んでいき、そのあたりに立っていた看板を貫いた。
「見ての通りあてずっぽうで撃ってるみたいだけど……人が密集してる所でやられるとかなり面倒だろうね」
ジュゲッキが続ける。
「能力その二、
彼女はファイアのほうへと少し歩み寄ったかと思えば、グローブを外して右手を掲げてみせる。その肌が、状態異常特有のダメージエフェクトに蝕まれているのが分かる。
「まあ典型的なDoTだね。火傷みたいなものだけど……どうも、ある程度近づいたプレイヤーには確定で発生するみたいだよ」
ジュゲッキは後ずさり、回復ポーションを取り出して口に含んだ。
「能力その三、
彼女がおもむろに取り出したピストルが、月光の下、炎光の横で掲げられる。そのマガジンスロットには……私が作った
「えいっ」
トリガーが引かれ、銃声が二方向から聞こえる。一方向は言わずもがなジュゲッキのピストルで、もう一方向は……ファイアの周囲で浮遊する九丁のライフル
「複数のプレイヤーに撃たれた場合、『一人を殺してからもう一人を殺す』方向で行くっぽいよ」
……。
私は、少し考えた。ファイアの能力は要するに、定期的に遠距離攻撃をランダムな方向に放って、近づくだけでダメージを与えて、攻撃に対しては集中攻撃の繰り返しで反撃するらしい。それって……なんていうか。
「あのさぁジュゲッキ」
「なに?」
「
……前評判ほどの強さは、感じられないような気がする。
定期的に遠距離攻撃が来るとは言っても、見たところ狙いを定めているようには見えない。そもそも浮いているライフルが九丁っていうのは……まあ多い感じはするけど、多すぎるほどじゃない。攻撃といってもたかが知れているだろう。近づくだけでダメージを受けるなら狙撃すればいい。集中攻撃で反撃してくるって言うけど、それならタンクを一人二人用意すれば済む話だ。なんというか……サイズ的にもショボい感じがするし、そこまででもないような。
「弱いよ」
意外にも、ジュゲッキは肯定を返した。
「それじゃあ―――」
「でも」
私は気付いた。彼女の瞳は、私には見えないウィンドウに向けられている。……システムメニューの機能に「見るだけ」のものはそう多くない。時計あたりかな?システムメニューを操作、自分でも時計を確認してみる。えーっと……そろそろ0時15分になるところみたいだ。
「
「え……」
私が言いかけると同時に、時計は六十秒を数え終え、「14」は「15」へと移り変わって。
『状態異常が発生しました:
アナウンスが響いた。
それは、普通に考えておかしかった。炎症の発生条件は「ファイアにある程度近づく」ことだったはずだ。近づく?近づいた覚えはない。ファイア側が接近してきた……わけでもない。銃火の竜を一瞥してみれば、少しばかり移動はしていても、私との距離はそう変わっていない。それじゃあ―――そこで気付く。
「……これ」
「そうなんだよ、クグリンちゃん」
ジュゲッキの声はずいぶん神妙だった。
ファイアは、ただ距離を変えていないだけじゃなかった。それ以外の
「
「たぶん二十七丁になってるはずだから、数えてみるといいよ」
九丁から、二十七丁に変わった?
ジュゲッキはたぶん、「十八丁増えている」ということを言いたいんじゃないんだろう。そうあってほしいけど、違う。彼女は多分……「三倍になっている」って、そう言いたいんだ。
「能力その四、自分に
……それは。
「最悪、だね」
ああ、銃声が聞こえる。三倍になったライフルたちがかき鳴らす、三倍やかましい銃声だ。これがすぐに九倍になり、二十七倍になり、八十一倍になっていくんだろう。火事がどんどん広がるように、あるいは……銃器が急速に普及するように。
「最悪、だよ」
上限はきっとあるはずだけど、そうなったときにはきっと手遅れだ。
ジュゲッキの言いたいことは、完全に分かった。この竜は一刻も早く何とかしなきゃならない。フィフティシアを……私の新大陸行きを守るにはそうするしかない。でも、どうしよう?とにかく……私たち二人と、訳も分からない様子でドタバタやってる通行人だけで止めるのは無理だ。銃がある程度増えても大丈夫な……「
そうだ。
「こいつってさ」
私はジュゲッキに質問することにした。
「
「できるよ」
即答だった。
ジュゲッキは依然として切羽詰まった声色で……しかしどこか楽しそうに、微笑と共に指を一本立ててみせた。
「私たちはその手段を最初から持ってる。……
なるほど。よし。
重ねて質問する。
「インベントリ拡張アクセって持ってる?」
「持ってるよ。チェストリアがあるからもう使ってないけどね」
「それ装備して、中に弾倉を全部入れておいて」
「……クグリンちゃん」
「なに?」
「
「
「
「
それだけ言葉を交わせば十分だった。あとは走り出せばいいだけだった。ジュゲッキが誘導のためにファイアのもとへと駆け出し、私が準備のために先行して古城骸へと走る。
「……20時から26時、だったっけ」
そう、確かにそうだったはずだ。
ふと頭上を見上げてみれば、そこでは満月が私たちを見守っていて……それはあまりに典型的で、もしも狼男が実在するなら、まず間違いなく吠えているであろうそれだった。