ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
◇
FM'sクリサリス"
それは他のエクゾーディナリー・モンスターにはなかなか無い特徴だ。
"戦災孤児"は
孤児は、孤りではない。
◆
いや死ぬでしょ。
私は感想を述べた。
とりあえずまあ、見えているのは
で、こっちを向いて突進しつつある。
いや死ぬでしょ。
私は感想を述べた。
世界が何だか遅れて見えて、ゆっくり突進するカブトムシ……"
いや、ろくな思い出がなさすぎるだろ……。
硬くそそり立った角が、死を象徴してこちらに迫る。ちくしょう……
「え」
どかん。
爆音が響く、戦災孤児の攻撃じゃない。私にダメージが行っていないからだ。じゃあいったい誰が―――いや、そうか。
……
立ち込める煙の向こう側にうっすらとシルエットを描く敵について、明るく塗りつぶされた視界を前に考える。とりあえず見るからにカブトムシ、つまり虫共鎖において……おっと、ボルクネスと対戦した時の記憶が出てきちゃった。違う違う、カブトムシモンスターといえば基本的に硬い、硬くないカブトムシなんて幼虫以外は見たことないくらいだ。
速度については……遅くあってほしいけど、そうもいかなさそうだ。あの羽音は何?って話なんだよね、普通の飛び方をしていないのは明らかだ。攻撃力は言わずもがな。ペンペンと看板は斬撃でやられたけど、カブトムシである以上角がある。刺突もできると考えるべきだ。打撃もタックルすればできそう、遠隔攻撃は……流石に無理かな?いや訂正。爆炎のカーテンを突っ切って
結論としては……VITが高くて、AGIが高くて、STRが高くて、遠距離攻撃ができる敵と戦うことになる。
いや死ぬでしょ。
私は感想を述べた。
橙色が晴れていく。空の色が青へと戻っていく。轟音がそこに吸い込まれていって、代わりに……
「【空せ」
咄嗟に叫んでいた。
「み】っ!」
よし、トンネルの反対側の壁に転移し、私のいた場所に猛スピードで突進し、勢い余って壁に角を刺した戦災孤児を確認。その重い色の装甲は……えっと、無傷みたいですね。
戦災孤児が角を引き抜き、土くれがそこら中から落ちてくる。崩れていくトンネルを気にもせずに、重厚たる甲虫は重くこちらに振り返った。
角が光ってると思ったら、次の瞬間にはビームが出ていた。
「ダメでしょそれはあぁぁっ!」
刹那、私の真横を熱線が貫く。見てから回避したけどやっぱり遅かった、ビームが掠った右手の甲が、赤色の欠片を吐き出していく。ど……どうしよう。はっきり言って無理だ。爆薬は私の手持ちの中で最強の物理的ダメージソースだ、それすら装甲に塞がれるなら……少なくとも、殴っていては倒せない。
じゃあ、毒を盛るとか?いいね、よし盛ろう。
私は即決した。
今にも飛び立とうと翅を変形させつつある戦災孤児に、インベントリから取り出した適当な毒瓶を投げつける。内部で泡立ついかにも毒っぽい緑色の液体が、地面と激突して割れた瓶から飛び出す。さあどうだ、これで効いてくれれば希望はある……!
戦災孤児が着弾から逃れるように飛んだ。そのままこちらに向かってくる。ちょ……
「【空蝉】!」
本日二度目の【空蝉】を撃ち、転移の成功と切り刻まれる丸太が入り混じった効果音を聞く。これと【
またしても私の真横の壁に突き刺さった戦災孤児を、睨む。向こうもちょうどこちらを睨んでいて、偶然にも目が合う形になる。その眼は巨体に似合わず随分と小さく、あまり性能が高いようにも見えなくて、私は同時に閃いた。
「【
やられる前にやる。出現した火球が燃光を散らしながら、分裂して戦災孤児の眼に向かう。効果は期待してない、でも目潰しにはなるだろう。そもそもカブトムシは視力がいいとは言えない、レーザーによる狙撃ができる以上、戦災孤児は現実のそれとは比するべくもない認識能力を持つはずだが……でも、さっき爆炎の向こうから撃ったレーザーは外れた。あれは私を認識できず、当てずっぽで撃ったことになる。
だったら。
「【
暴れ回る戦災孤児の背後に回る。戦災孤児はさっき、私が投げた毒から逃れた。それは逆に言えば毒自体は通用するってことだ。そして、今なら関節が晒されている、毒を盛ることもできるけど……いやダメだ、錬成毒でこいつを殺し切れるとは思えない。それより、もっと
「【
無機質な鎖が有機的に踊り出て、戦災孤児の甲殻に這う。
ごめんね、もう少し身悶えていて欲しい。
私は爆薬と……もう一つ、
……装甲の例外は関節だけではない。もう一つ、もっと脆くて無防備な部位がある。体内だ。何を言っているんだという話だけど、実際のところ体内は無防備で、例えば体の中に爆弾を転移させられれば勝てる。もちろん実際にはそんなことは無理で、このカブトムシが有する体内に通じそうな穴はすべて、閉じられるか装甲に塞がれるかしている。でも。
一つだけ、例外がある。
「……そのビームってさ」
黒い液体を爆薬の瓶に流し込む。両者の境界線でぴりぴりと黒雷が走る。やがて両者は混ざり合い、境界線は消失し、全体的にぴりぴりしている液体が生まれる。
ある程度の伝導性を有する流体状のオブジェクトに混ぜこむことで、外部からの魔力操作を受け付けるようになる。〈黒潮〉と、そう名付けた。
「
【鎖縛帷子】の残り時間が近いが、ここでは冷静であるべきだ。爆薬入りの〈黒潮〉を、戦災孤児の太く長い角に押し込む。異物感を感じたらしい戦災孤児が暴れ回るが、〈黒潮〉は暗闇に溶け込んで、どうやら彼には認識できないらしい。ある程度まで注入が終わったところで、私は魔力を再び込める。
どかん。
戦災孤児が、角の付け根を中心に爆ぜた。
「今だぁーーっ!!」
このカブトが体内で爆破されたところで死ぬとは思えない、でも……頭部の装甲は確実に剥がれる!そこを一点攻撃すれば勝てる!
ちょうどいいところに転がっていたペンペンの
そうして。
『モンスター
『討伐対象:FM'sクリサリス"
『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』
『称号【我戦故我在】を獲得しました』
『不世出の奥義エクゾーディナリー・スキル「
「やったああーーーっ!!」
倒した!エクゾーディナリーモンスターを倒したよ!散らばったドロップアイテムを拾い集めながら喜ぶ。正直、最近はずっとこう……どうせ最終的に死ぬんでしょ?みたいな、そういう感じ出てたけど。今回は違う!今回は違うんだーーっ!やったーーっ!
「……あれ?」
トンネルの出口側に何やら光が見える。
何だろう……もしかして新手の敵?流石に勘弁してほしいんだけど。いやでも今の私なら行けるかもね~!うん!行けるわ!よーしかかってこい!私は調子に乗って光のもとを注視した。
……なーんだ、私が置いた
五分経過したから次の爆薬を発射しようとしてるだけか~!心配して損したよ!
……ヤバくね?
「待」
【空蝉】を咄嗟に起動、とりあえず安全地帯に逃れたほうが良さそうだ。
しかし起動しなかった。なんで?
『アイテム「変わり身丸太」の所持数が要求値に達していません』
なるほどね。
魔力光が本格的に強まって、発射音がして、迫ってくる爆薬が見えた。
トンネルが崩落して生き埋めになった。