ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~   作:Z-LAEGA

72 / 74
銃夜、竜夜! 其の十二

 ブリューナクは竜を屠るけど、使用する人間がいなければ置物でしかない。

 竜は人間を簡単に踏みつぶすけど、ブリューナクの前には簡単に刻まれる。

 人間はブリューナクを自在に震えるけど、フィジカルの面で竜には負ける。

 これらは三すくみの関係にあって、三つの中でどれが最強か、決めることはできそうにない。しかし……どれが最強なのかは決められなくても、()()()()()()()()なら簡単に決められる。単純だ。

 竜と人間が合体して、ブリューナクを使う。

 ただそうするだけで、全ての道理は吹き飛んでしまうのだから。

 

 

 ごうごうという虚ろな音と共に、展開した翼に風が吹きつける感触がある。現実の肉体に翼が生えているはずもないから、『翼に風が吹きつける感触』というのは、人生で初めて体験するものだ。それはなんというか……奇妙で。でも、少なくとも不快ではなかった。

【超転身】。コウガイガーたちに【水滑り】を教えた時に報酬として受け取ったそれは、噛み砕けば……「仲の良いモンスターと合体する」忍術に他ならない。私とユザパが仲良しかについては諸説あるけど、少なくとも装備のロンダリングにはかなり使った。それが内部的にうまいこと判定されたんだろう。

 

「……あそこ、か」

 

 心なしか上昇したように感じられる視力で、飛翔の果てにあるものを見る。そこには一層拡大した()と、依然として倒れない()が、嵐のような攻防を繰り広げている。距離が近づけば近づくほど、これまた嵐のような銃声たちはより大きく聞こえるようになる。そこに横槍を入れようとしているのが私だ。

 

「よっ」

 

 チェストリアから魔魂丸薬(イヴィル・フォース)を取り出す。丸薬の纏う禍々しいオーラがファイアの炎光によって暴かれる前に、一息に口に含んでしまう。なんだか変な感覚が訪れ、視界の色調が反転する。とはいえこれで()()()だから、結果としては「戻った」ことになる。

 ……【超転身】は足し算ではない。モンスターと合体する技ではあるけど、合体相手のモンスターが持つステータスがそのまま術者に加算される、というのはちょっと強すぎる。あくまでモンスターをベースにした形態を作り出す方向性だ。しかし、魔魂丸薬(イヴィル・フォース)は服用者にレベル99相当のバフを与える。これを使えば―――()()()()()()()()なんて建前をかなぐり捨てることができる。つまり、今の私は。

 

()()()()()()()()()()()()()()9()9()……!」

 

 ここで着地!

 ずざざ、と。月光を受けて煌めく土埃に包まれ、色々とゴテゴテしたパーツを生やした私は、二体の巨獣の麓に着陸した。舞い踊る火の粉はより一層増加していて、騒音も先ほどの比ではない。とはいえ……ファイアの特徴は集中攻撃、リュカオーンが立っている限り、この幾千の銃口が私の方を向くことはない。そして、リュカオーンはしぶとい。

 

「【スティール】」

 

 だから炎症に侵されながらも、私は魔法を発動する。

 燃ゆる貌(シィンダー・ヘッド)の効果で追加された、意味があるのかよくわからない青白いエフェクトと共に……ファイアの周囲に存在する銃器たちを、一本一本()()()いく。リュカオーンが壊した時点でそうだろうとは思ったけど、やっぱりこのライフルは()()できるんだ!

 

「【スティール】……【スティール】……【スティール】……!」

 

 叫びをあげるたびに課せられる数秒のリキャストタイムが、煩わしく感じられて仕方ない。何か短縮方法は……そうだ、人臓恒星赤晶(たいようにほえる)がある。いやでも一人で始源装備を二つ以上使うと死ぬんだっけ?……いや。今の私は()()じゃない。正確には一人と一匹だけど、()()()()()使う分には問題ないんじゃないだろうか?私はシステムメニューから装備フィギュアを開いた。少なくとも、アラートは出ていない。

 

「装備っ」

 

 よし何ともない!

 即座に喚起、ただでさえ幾重にも這っていた私を包むエフェクトの波に、さらに真紅のそれが追加される。

 

「【スティール】、【スティール】、【スティール】……!」

 

 全てのライフルを奪い去ろう、なんてことは考えていない。最大MPがどれだけ水増しされていようがいずれ魔力は枯渇するし、少し時間を与えればすぐ三倍になる。だからこの行為は……相手の火力を下げるためじゃなく、私の火力を上げるためにやっている。

 私が一つライフルを奪うたびに、周囲を旋回するゲーミング弾倉のうち一つが、奪ったライフルへと装着されていく。ゲーミング弾倉の数も相当だ、なかなか枯渇しそうにない。……ジュゲッキは、それだけ本気で作戦に臨んでいたのだろう。

 だったら、私もそうするまでだ。

 七色の光が濃度を微細に変えて、宙を舞いながら豪華さの演出を続ける。その輝きの中央で、完成していく()()()()()()()()を伴いながら―――私は、二体の巨獣を見据える。

 

「グルァァァァッ!」

 

 リュカオーンが―――四桁に及ぶ銃を前にして、なおも怯まずに炎へと飛び掛かる。剛健たる牙を剥き出しにして、咆哮と共に攻撃を続ける。

 

「BABABABABABABANNNNN……」

 

 ファイアが―――唯一性の塊のような夜を前にして、なおも怯まずに狼へと射撃する。灼熱と鉄躯を剥き出しにして、銃声と共に攻撃を続ける。

 そろそろだ。そろそろ()()5()()経って、銃が六千五百六十一丁に増加する。ここらで頭打ちという可能性もあるけど、とにかくファイアがさらに強くなり、暴風雨のような弾幕がより一層濃くなることは間違いない。リュカオーンも……倒されるかはわからないけど、場合によっては飽きて帰るくらいはするかもしれない。この作戦は長く使えないということだ。だから。

 

「ここでケリをつける!」

 

 私はセパレーションの能力を発動して自分の下半身を切り落とした。そうした方が【超転身】の燃費が良くなるからだ。それに、私にはすでに翼がある。脚が無ければ道を駆けられない道理なんてない。

 ところどころに鋭利なディティールを持つ翼を上下させる。効果音と共に高度を上昇させ、眼下の眩い光から少しだけ離れる。胴を残したのは翼が生えているからだ。頭を残したのは叫ぶためだ。手を残したのは、印を組むのに使うためだ!

 

「すぅ―――」

 

 蒼、紅、金、黒。混ぜこぜになったエフェクトは混沌を生み出し、私の頭部の周囲で蔓延っている。私が息を吸い込むほどに、それらはぐるぐると旋回するのをやめ、束ねられた糸のように整列していく。

 見下げる先には紅蓮と闇黒。金属音と共に肉体の周囲を舞い踊る無数の銃たちが動き、その数多の砲口を一点に集中させる。それらのほとんどは鹵獲した奴だけど、一部はジュゲッキが落としたり、私がベヒーモスから買ったりした奴だ。何が違うか?()()()()()()、ということになるだろう。

 私は肺に溜め込んだ息が漏れないように注意しながら、両手で印を組み、言った。

 

「刃隠心得、奥義―――【竜威吹】」

 

【竜威吹】は発動者が叫んでいる間持続する。逆に言うと叫んでさえいれば内容はどうでもいいので、死ねでも通るし殺すぞでも通る。でも、そんな罵詈雑言より有意義な使い方もできる。例えば、音声認証の起動に使うとかだ。

 

「【超過(イクシード)】……!」

 

 私は叫ぶ。息を吐き出す。銃の竜を打破するために、銃と竜の輝きを撃ち放つために!銃よ、竜よ!私に力を!

 

「【機構(チャァァァァァジ)】ィッッ!!」

 

 炎を吐き出す!

 そこにはいくらでも色があった。いつかセパレーションが纏っていた紫のプラズマが再現され、大疫青に由来する青白い瘴気が上乗せされ、魔魂丸薬(イヴィル・フォース)が齎す漆黒の覇気が憑依し、大赤翅に由来する鮮紅の息吹が入り込み、ユザーパー・ドラゴンがどこかから奪ってきた何かが包み込む。それらのすべてが視界反転効果を受け、さらにもう一度反転する。最後に―――輝く槍が。夜空を見上げる幾百の弾倉たちが、虹色の光を撒き散らす!

 それはもはや銃声かどうかの問題ではなくて、私の鼓膜はとうに敗れていた。無音の中で視界がホワイトアウトする。咆哮を上げるファイアを含め、あらゆるものが光にぼやかされていて……ただ、ゲームのインターフェースだけが普段通りだ。じりじりと最大値ごと減少していたHPバーが、その時ついに底をついて。

 そして。

 私は、目を閉じた。

 

真なる(The Truth)竜種(Dragon):No.XVIII』

Fire(ファイア)……打破(バスト)!』

『参加人数:二十一人』

『ユザーパー・ドラゴンさんの人臓恒星赤晶(たいようにほえる)竜滅装備(バスターアームド)に変化しました:竜臓恒晶赤星(ほえるたいよう)

『真なる字名が明かされる:█████(ファイア)

『ユザーパー・ドラゴンさんが職業【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】への就職権を獲得しました』

『Loading………』

『ユザーパー・ドラゴンさんが職業【真竜討滅者(ドラゴンバスター)】への就職権を喪失しました』

『ユザーパー・ドラゴンさんが称号【竜殺の実現者】を獲得しました』

『LEVEL UP:ユザーパー・ドラゴン』

『80→104』

 

 ……全部持ってかれてる。




次話で、終わりです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。