ロンギング・フロンティア~居残り組、新大陸に挑まんとす~ 作:Z-LAEGA
「おやクグリン氏、奇遇ですね」
12月19日。フィフティシアを散策していたところ、コウガイガー氏とばったり出会った。その背後には見覚えのあるメンツが並んでいて……多分、それは【
「ども」
私は適当に挨拶を返しつつ。彼女たちの姿を観察する。ぱっと見た限りの相違点は……ちょっと人数が減っているのと、服装が何やら
「じゃあ……成し遂げたんだ」
コウガイガー氏の紫の瞳が、凛々しさを保ちつつ輝きを宿したように見える。
「そうです。【
彼女は深々と頭を下げる。その様は心の底からの感謝を表しているようで……私としても、嬉しくなってしまう。【
きっとこのゲームを遊ぶ誰もが、多かれ少なかれこんな風に予想を覆されているんだろう。「王国騒乱は荒れる」と予想したラエルカンだって、タイムトラベルの予想を私に覆された。未来は誰にもわからない。
「犠牲になった四人のことは残念でなりませんが……それでも私たちは現に、隠し職業である『
コウガイガー氏の表情はといえば、そこにあるのは紛れもない笑顔だ。
「われらが戦場の道を駆け抜けて、このフィフティシアに立っている……それ自体が、彼らの遺志の結実に他なりません」
遺志、か。
その言葉はゲーム内の出来事に使うには少し大げさすぎて、しかし私はそれにツッコミを入れる気になれなかった。このゲームは落とし穴の多いゲームだから、私の成功の影には無数の失敗者がいるだろうし、そもそも私が本当に成功しているのかすら怪しい。あるいは成功なんて存在せず、誰もが少し違った形の失敗をし続けているだけなのかもしれない。私も少し行動が違えば、また別の失敗に陥っていたんだろう。
「なんていうか……ほんとにおめでとう、コウガイガー氏」
「はい。ありがとうございます」
コウガイガー氏は微笑んだ。
……しかし、
「ところでクグリン氏」
声色が変わったのが、わかる。
…………。
答えたくない、という気持ちがあった。コウガイガー氏はこう見えて鋭いというか、やってることはかなりズルなのに、根っこの部分でパストラットと少し似ている。まあ……答えないわけにもいかないだろう。
「な……何かな?」
コウガイガー氏はいきなり神妙になった面持ちで言う。
「
……………………。
そうだ……当然の話ではある。【
「「大いなる巡礼」を達成した後……我々はこれまでの雪辱を晴らしてやろうと考えました。そこでユザーパー・ドラゴンと対戦するため、先ほど無果落耀の古城骸に向かったのです」
「そ……それが、どうかしたのかな?」
「ユザーパー・ドラゴンは……
へ、へぇ~。
……私はその理由を知っている。幾百の銃を浮遊させているのはファイアから鹵獲した奴がそのまま残っているからだし、所々に炎を纏っているのは討滅報酬でデメリットが和らいだ
……という話をコウガイガー氏にしたら、まず間違いなく面倒なことになる。それはわかり切っていたので、私は話題をそらすことにした。
「と……ところでさぁ。今日の空、めちゃくちゃ綺麗だね」
「クグリン氏、
より具体化してる!?
コウガイガー氏が詰め寄ってくる。その顔には作り笑いすら無く、醸し出される雰囲気は恐怖を呼び起こすものだ。紫の視線が私を突き刺す。
「いやいやそんなこと言われても……えっと、ちょっと話しただけで犯人と断定されたら困っちゃうって言うか」
「違うのですよクグリン氏」
なんだと?
「犯人と断定したのではなく、
というと……。
私の思考が、コウガイガー氏が取り出した一枚の写真によって取り消される。それはスクリーンショットを印刷したもののようで、映っているのは翼と尻尾を生やした少女が下半身を失いながらも宙を舞う姿だった。
私じゃん。
私だった。
「そもそも……この質問は最終確認でした。晒しスレに貼られていたこれはどこをどう見てもクグリン氏でしたが……万一のこともあるかと考え、念のために確認していたのです。しかし疑いは晴れない、よってあなたが首謀者といえます」
実質的に活動していたのは二人と一機だというのに、あの時流れたアナウンスは『参加人数:二十一人』と言っていた。それはその辺の通行人が参加者として数えられたということであり、私とジュゲッキを除いた十九人の中に、一人くらいダイナマイトが紛れ込んでいてもおかしくないということでもある。
「……その、なんていうか……」
「詳しく説明いただけますか?クグリン氏」
は、激しく離脱したい……!
私は頭を抱えた。コウガイガー氏はさらに近づき、私の顔に一層濃い影を落としていく。まずい、何か助け船は―――!
その時だ。
ぶぅん、と。ブースターの噴射音が聞こえた。
「来たぁ!」
「ちょ」
さりげなく【空蝉】でコウガイガー氏と距離を取りつつ、噴射音が聞こえた方を見やる。そこには確かに戦術機が浮かんでいて、フィフティシアの路上に巨大な影を落としている!
戦術機に備わったスピーカーが、エフェクトをかけられた声を吐き出す。
「おいクグリン、そろそろ行くぞ!」
その
「勧告:
分かってる。ちょうど行こうと思っていたところだ。
「クグリン氏―――」
「ごめんコウガイガー氏、話はまた今度ね!」
【
「……ん」
空いたニコロの左手が開かれ、私の前に差し出される。
……この手を取った瞬間に、私にとってのこのゲームは完全に変わってしまうんだろう。そういう確信がある。いい加減新大陸に行きたいと、そう思い始めてどれだけ経っただろう?そうして、どれだけ経てば思い終えるのだろう?それはきっと、私が予想していたよりはるかに早く訪れる。この手を取るということは、訪れるタイミングを決定するということだ。上等だ、覚悟はできている。
だから。
「行こうか」
私は左手を伸ばし返して、フィフティシアの青空のもと、揺らめくブースターの噴炎に透かされながら、ニコロの手を掴み取った。
加速度を感じる。ペンペンがホバリングモードを解除したんだろう。そうして戦術機は発進し、私たちを船のもとまで連れていくのだ。このゲームには予想外が多すぎるけど、それくらいの期待は裏切らないでくれるだろう。そうした上で―――私たちを、未知に。幾度となく
潮風が逆方向から戦術機に打ち付けている。それはファスティアに吹く居ても立っても居られなくなるような追い風とはまさしく逆で、しかしどちらも、結局のところ風でしかなかった。その程度で私たちを止められるはずがない。
どんどん加速していく視界の果てに、うっすらと大海原が見えてくる。無数の波が誘う果てには、果ての果てには―――息を呑むような水平線が、じっと私たちを待っているのだ。
さあ、未知を拓こう。開拓をしよう!
これにて完結です!ご愛読ありがとうございました!
明日あたり、割烹で作品全体の後書きを書く予定です!完成したらここに追記します!
追記:書きました https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=287014&uid=296388