ひとまず、ありがとうございます。
「ハア、ったく、こんなのどうしろって……!」
結界から命からがらで飛び出して、停めている車で息をつく。
今日も今日とて魔女退治。道場で疲れた体にムチを打ち、化け物相手に消耗戦を挑んでます。
舞台は閑静な住宅街。だが嫌なことに、目の前に学校が陣取っている。
通行人に見られるわけにはいかないので、もちろん深夜。仮眠は取っているとはいえ、辛いものは辛い。
しかも、なんか強いし!
「あの学校、イジメとかあるのか?___________鉛(弾)は弾切れ。棒(手裏剣)はあと2本。……丸石で削るしかないか」
河原から拾った石をウエストバッグに詰め込む。鉛弾より威力は劣るが仕方ない。今はとにかく数が欲しいのだ。
今回の魔女は、一見カラフルなウニのようだった。実際は、針の変わりに大量の腕を持っていたわけだが。
奴はいろんな物を投げてくる。文房具、掃除用具、椅子、机などだ。……やっぱり学校絡みじゃん。
一番厄介なのは使い魔まで投げて来ることだ。おかげで嫌でも近接戦闘をする羽目になる。しかも、それに気を取られると魔女の遠距離攻撃の餌食だ。
今の所はスリングでチマチマと攻撃するしかない。近づくものなら、弾幕にやられる。
_______________息は整った。再攻撃に取り掛かろう。
魔女におののいても仕方ない。いつも変わらないじゃないか。弱らせて、近づいて、洗礼詠唱を唱える。ただ少しばかり、時間がかかるだけだ。
日が昇るまでに終わらせよう。朝になれば、通学する生徒が被害にあう。
「てか、朝までに終わるか?」
「ならアタシが手伝ってやるか?おじさん」
………相変わらず彼女は神出鬼没だ。大方、魔女の気配を辿っている最中に偶然、自分を見つけたのだろう。
振り向けば、最近見慣れつつある赤髪が目に入った。槍を抱えており、すぐにでも戦えることが伺える。
「もちろん、タダじゃねえよな?」
「……あまり高いのはよしてくれ。あと、おじさんと呼ぶな。自分はまだ20代前半だ」
魔女の情報を伝える。結界に突入すれば、悠長に説明する暇は無いだろうから。
「では行きますか。深夜徘徊常習犯の佐倉さん?」
「アンタこそ足引っ張るなよ。おじさん?」
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やっぱり魔法少女ってチートだと思う。
やはりと言うべきか、結界に入った途端、魔女は多数の腕を活かして弾幕を張ってきた。
自分は倒れている机を見つけ、即座に身を隠した。腹ばいとなって、可能な限り投影面積を減らす。魔女はお構いなしに弾幕射撃を続ける。さながら第一次世界大戦の塹壕戦だ。
一方佐倉さんは、そんな泥臭いことはしなかった。結界に入った直後、人間離れな高速挙動を披露したのだ。
それは正しく曲芸だった。椅子や机といった大物は避け、箒や本などの小物は槍で逸していく。
佐倉さんが投擲物が溜まった山に隠れた頃には、自分とはかなりの距離が開いていた。
足手まといだな。自分。
そんな佐倉さんに恐れをなしたのか、こちらの弾幕が薄くなった。物は飛んでくるが、使い魔は全く飛んでこない。
ここぞとばかり、机を盾に前進する。もちろん、スリングで石を投げて佐倉さんの援護もする。
見れば槍を変形させた多節棍で、飛んできた使い魔を一掃している。_______よくあんな武器つかえるな?
周りの使い魔を倒し切るのと、自分が合流するのは、ほぼ同時だった。
「おい、足手まといになるなと言ったよな!」
「使い魔2、3体は倒したんだ。ゆるしてくれ」
二人で固まったために、魔女の投擲が勢いを増す。弾幕を薄くするために、自分は机を盾に、投擲物の山から飛び出した。
行き成り出てきた目標に、魔女は弾幕を集中させる。
佐倉さんは、その隙を逃さなかった。
「そらっ!」
猫のように素早く駆け出したかと思えば、槍を薙刀のように使い、魔女の腕をバッサリと切り落とした。
ボロボロと腕が何本も落ちる。
思わず、二人の口角が上がる。
勝ったと思った。後は消化試合だと考えた。
それは正しく油断だったのだろう。
切り落とした魔女の腕が、蛇のように動いたかと思えば、佐倉さんの足に絡み付いた。
体勢が崩れる。即座に槍の石突で障害を払ったが、それは大きすぎる隙だった。なにせ敵は目の前で、多少潰されようが、腕はまだまだ沢山ある。
四肢が掴まれ、胴や首に腕が巻き付く。佐倉さんは大声を出して暴れているが、取り付く腕は増えていく。
自然と体が動いた。ボロボロの机を捨て、ポケットから棒手裏剣を取り出す。
そのまま突撃。手に持った手裏剣を魔女の腕に刺しまくった。刺された腕は引っ込むが、所詮は焼け石に水。更には自分にまで巻き付いてきた。
引き剥がすことは諦め、佐倉さんを守るように覆いかぶさる。右手で佐倉さんの首に巻き付く腕を手裏剣で抉り、左腕で自分の首元を守る。
直接触れるという条件が整った。全身が絞め上げられるが、構わず唱える。
”聞く耳のある者は聞くがよい。”
相変わらず、魔女は腕を緩めない。この魔女は他と比べ、濃く、はっきりと見えた。普段なら明るい部屋で見るスクリーンのように見えにくい魔女も、今日はしっかりと見えた。強さによって、見え方が変わるらしい。
”すべて外から内に入り、人を汚しうるものはない。
不品行、盗み、殺人、姦淫、貪欲、邪悪、欺き、好色、妬み、謗り、高慢、愚痴。これらはすべて自らの内より出て、人を汚す。”
そういえば、自分はなぜあそこまで手を出したのだろう?彼女は強い。早口で唱えれば、詠唱を終えるまでは耐えてくれただろう。なぜ自分は、彼女に被さってまで守ろうとしている?
そもそも、なぜ自分は魔女狩りに取り組んでいる?見て見ぬふりでは駄目だったのか?
”しかし、悔い改める者はだれであろうと、清められる権利を持つ。"
思えば前世からそうだった。通り魔に襲われたあの日、全力で逃げれば逃げ切れたはずなのだ。なのに自分は、わざわざ相手に抵抗の意を示した。あれも、他の人が逃げられるようにするためだった。
どうやら自分は、こういう人間らしい。死にたくないのに、わざわざ危険に飛び込む。完全にマヌケではないか。
”飢えている者は幸いである。あなたは満たされる。
泣いている者は幸いである。あなたは笑うようになる。
人々に憎まれ、ののしられ、汚名を着せられたとき、あなたは幸いである。
あなたは良き隣人を知るであろう。"
いつの間に魔女の力は弱まり、簡単に振り払えるようになっている。見れば、輪郭が崩れかけていた。
自分は顔を上げ、魔女の元となった存在に証する。
"夕暮れに涙が宿ろうと、朝と共に喜びがくる。
__________今も、そしてとこしえに。”
後は見慣れた光景だった。魔女の肉体が崩れ落ち、何処かへ消える。ただ転がっている宝石が、そこに魔女がいたことを示していた。
「____________いい加減離れろ!」
「ブクッ!?」
いいパンチが腹に食い込む。そういえば、抱え込んだときから動いていなかった。
佐倉さんはそそくさとグリーフシードを拾い、背中を向ける。
「って、おーい。奢るの何時が良いとか決めなくていいのか?」
「いや、いい。助けられたし、久しぶりに説教も聞けたしな」
そのまま顔を向けずに立ち去ってしまった。
あれを説教っていったら、本職に叱られてしまうのだが……
まあ、いいか。
ひとまずは、明日に響かぬよう早く帰ろう。
今更ながら、聖句をいじって良かったのだろうか?弄りすぎて、意味が全く違うものになっている箇所がある。
まあ、貶めなければ、娯楽として扱う分にはいいだろう。
出来れば高評価、コメントおねがいします。