『なぜ父はああなったのか。聖句を使うあの男は助かったのに』
考えれば考えるほどムシャクシャし、手元のチョコレートを口に運ぶ。
もう遅い時間だ。寝よう。いや、その前にグリーフシードを使ってしまおう。あれだけの魔女だ。さぞかし多くの穢れを吸い取るだろう。
「……あれ?」
薄暗い中見えるソウルジェムは、戦闘後にも関わらず、一切の濁りすら無かった。
自分は思い知った。
今の武器では火力が足りない。
先日の魔女との戦いを思い浮かべる。
魔法少女というチート持ちと共闘したあれだ。うん、我ながらよく生き残ったと思う。
現在使っているのは、釣りの重りを溶かして作った鉛玉。最近は短剣みたいに使うことが多い鉄筋を削った棒手裏剣。これらを飛ばすスリング。後は予備の丸石だ。
使えるには使える。だが、魔女という化け物相手には不安がありすぎるのだ。
スリングは威力は十分だ。しかし、振り回す関係上、速射はおろか、迅速な目標変更は困難を極める。
棒手裏剣は取り回しが効くものの、打撃力に欠ける。思いっきり打ったところで、精々が使い魔を倒せるかどうか。
誰か、鉄甲作用を教えてくれ!
では、なぜ使っているかと言えば、弓などより圧倒的に隠し持つのが容易だからだ。言ってしまえば、スリングなんて只の紐だし、1番かさ張る棒手裏剣もたかが知れている。
自分は大っぴらに武器を携帯出来ない。税金がどのように使われているかを身を以て体感したくはないのだ。
だが、そうも言えなくなった。
この前の戦闘、佐倉さんが加勢するまでは、魔女にほとんど痛手を与えることが出来なかった。手持ちのほとんどを投擲しても、魔女はピンピンしていた。
自分の基本戦術は、弱らせて、接近して、洗礼詠唱を唱えるというもの。まずは魔女を弱らせなければ成立しない。
どうすれば良いか考えた。
その結果が、目の前にあるものだ。
封をしたパイプに、いろいろな物を詰めて、それを覆うようにボンベを束ねたブツ。
バクダンです。
自分は遂に、重大な犯罪を犯しててしまいました。
自分の社会的生命を犠牲に、命を奪うことなく命を守れるものなら安いものだ!(泣)
ひとまず実証実験。
魔女の結界に入る。障害物こそあるが、だだっ広い結界だ。目を皿にして見渡すと、うっすら魔女が見える。好都合だ。
飛び出している紙切れを引き抜く。取り付けられたLEDが点灯した。爆発まで後10秒。
爆弾にくくり付けられたロープの一端を握り、ブンブンと振り回してから手を離す。
放物線を描きながら飛んでいくのを確認し、即座に結界を離脱。
結界から出たからか、音は聞こえなかった。だが、ちゃんと爆発したらしい。
魔女特有の嫌な気配が消えた。
「…………いやちょっと待て。魔女ってこんな簡単に倒せるものだったのか?今まで散々苦労しながら、直接触れて洗礼詠唱ぶつけていた自分が馬鹿みた_______________________!!!」
作成された爆弾は、ボンベを束ねて威力増強が図られていた。しかし、素人が作った爆弾が、製作者の意図どおりに動作する保証なんてない。
結界が崩れた後に、遅れて爆発するボンベがあったのだ。
『ドンッ!』
重苦しい音、並びに衝撃が肉体を叩く。
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もうあんなことはしない。マジで死んでしまう。
倒れた後、誰かが救急車を呼んだらしい。文字どおり爆音を響かせたのだ。警察ぐらいは飛んでくるだろう。
その警察は先程、病室を出ていった。いわゆる事情聴取とやらだろう。ベットに寝ている人に聴取するとは、よほど焦っているらしい。まあ、爆発事件なんて早々起きないし、仕方ないかもしれない。
爆弾の出処は心配ない。万が一家宅捜索されても、爆弾は町外れの廃墟で組み立てたし、指紋や毛髪には注意した。素手で掴んだロープもニトロセルロースだから燃え尽きただろう。決定的な証拠は出てきまい。
………なんでこんなこと思い付くのだろう。思考が完全に犯罪者ではないか。
眠くないのにベットに居ると憂鬱になる。見滝原市の病院は初めてだし、軽く散歩でもしよう。
何でもこの病院は、地元の病院より最新の機器が揃っているらしい。医者から聞くに、爆発に巻き込まれた影響は未知数。念の為ここで検査入院しろという話だ。
最新の医療機器にも興味があるが、もっと気になるものがある。
身に覚えがある、あの悍ましい気配。
魔女だ。よりによって今か!?
一応、自覚できる怪我といえば、擦り傷や打撲があるぐらいだ。めまいとかは特に感じない。
だが武器がない。爆弾はおろか、愛用のスリングすらない。
靴下を脱ぎ、花壇から石を失敬して中に詰める。即席ブラックジャックもどきだ。
「対人ならともかく、魔女相手は無茶がすぎるな」
仕方ない。ここは本職に任せよう。
この町の魔法少女が来るまで、入口付近にいればいい。一般人が入って来たら追い返す。それだけで被害者は減るだろう。今の自分では、使い魔1体すら厳しい。
てなわけで、突入!
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中は入り組んだ迷宮型らしい。遠距離攻撃を主体とする自分には、相性が悪い結界だ。
まあ、今回は関係ないけど。魔法少女が来るまで持ちこたえればいい。
「そこのあなた、すぐに回れ右して戻りなさい!」
「って、もういた!?」
結界の入口付近で彷徨っている被害者がいればと、突入したはいいものの、被害者はおらず、代わりに縛られた魔法少女さんがいた。
「えっと、魔法少女だよな?何で縛られているんですか?罠にでも引っ掛かったか??」
「___________魔法少女を知っている?こんなこと今まで一度も……いや、まずはこれ外してもらえるかしら!!」
「え、あっ、はい」
魔法少女らしき子にせっつかれる。確かにこの場にいる最大戦力を眠らせて置くわけにもいかない。
てかこの黄色いリボンはなんだ?結び目はないし、歯で噛んでも傷すら付かない。
「急いで!」
「そう急がんでも。奥から何も来てないし」
「まどかが……戦えない人が奥にいるのよ!」
「______________ああもうっ!」
"聞く耳のある者は聞くがよい。
すべて外から内に入り、人を汚しうるものはない。
不品行、盗み、殺人、姦淫、貪欲、邪悪、欺き、好色、妬み、謗り、高慢、愚痴。これらはすべて自らの内より出て、人を汚す。"
「え、なにを……」
"しかし、悔い改める者はだれであろうと、清められる権利を持つ。"
前から気になっていた。この洗礼詠唱は魔女以外にどこまで通用するか。使い魔にはしっかり効いた。だが、魔法には試したことはなかった。
ダメ元だったが、賭けには勝ったらしい。リボンの縫い目が緩んでいくのが手触りでわかる。
"飢えている者は幸いである。あなたは満たされる。
泣いている者は幸いである。あなたは笑うようになる。
人々に憎まれ、ののしられ、汚名を着せられたとき、あなたは幸いである。
あなたは良き隣人を知るであろう。
夕暮れに涙が宿ろうと、朝と共に喜びがくる。
_____今も、そしてとこしえに。"
リボンは、砂とも泥とも言えぬなにかに変質したかと思えば、遂には消えて無くなった。
紫を基調にした衣装の魔法少女は、少し呆けていたが、動けると判るといなや、すぐに姿を消した。
………せめて礼ぐらいは言って欲しかった。
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へえ。大勢の祈り。それの体現か。
エネルギー化は難しいけど、バカにはできないかな?
なにか微妙な出来に思える。
できれば高評価、コメントおねがいします。