「君が回収するグリーフシードと戦闘頻度、ソウルジェムの濁りがどうしても合わなくてね。どういうことなんだい?」
「ああ、協力者がいるんだよ。たしか、左部弥一って名乗っていたな。それで、____________________」
「_______________へえ、そんな人間がいるとは。まあ、グリーフシードの回収がはかどるなら、それも1つの手だろうね」
ベッドに入ればぐっすり眠れる。
そう思っていた時が、私にはありました。
隣のベッドのイビキがうるさいとか、ベッドが妙に硬いとか、そういった理由ではない。そもそも、事件性がどうとかの理由で個室の病室だ。入院費が怖いが、それも眠れない理由ではない。
病院に現れた結界に突撃し、何故かリボンで拘束されていた少女を開放した後のことだ。自分は、結界に迷い込んだ看護師を追い返した。その直後、結界が崩壊。正気を取り戻した看護師は、自分を有無を言わさず病室に連れて行った。少しは話を聞いてほしい。まともに説明する気はないが。
おかげであの後どうなったのか、さっぱりわからない。結界が崩壊したことから、魔女は討伐されたのだろう。だが、あの魔法少女が言っていた一般人のことが気になる。救援は間に合ったのだろうか?
病院のベッドの中で悶々と考える。意味は無いだろうが、考えずには居られない。
気を紛らわすために、病院から借りた小説を読む。電気をつけなくとも、カーテンを開ければいい。街の灯りや月明かりで意外と読める。夜目を鍛えておいて良かった。
この本は、前世でも読んだことのあるお気に入りだ。世界が違うためか、若干キャラクターの性格やセリフが違うが、それでも十分に面白い。まあ、たまに前世で読んだ内容とごちゃまぜになってしまうのが玉に瑕だが。
そういえば、聖書ではそんな違和感を感じなかった。偶然か必然か、別世界でも聖書は聖書らしい。
「……で、あの後どうなったんですか?縛られていた魔法少女さん?」
「起きてたのね、あなた。それと、その覚えられ方は不愉快よ」
「この本はなかなか面白くてね。つい読み込んでしまった」
いつの間にか、紫色の少女が病室に入っていた。見覚えがある。今日会った魔法少女だ。できれば常識的な時間に来てほしかった。もう日付が変わっている。まあ、いいけど。
入ってくる音は聞こえなかった。足音はおろか、ドアの開閉音すらも聞こえなかった。テレポートの類だろうか。相変わらず、魔法少女という存在はチートだ。
「あなたのおかげで、誰も死ななかったわ」
「それは良かった。わざわざ危険を犯して結界に入ったかいがあったよ」
「私が聞きたいことは2つ。あなたは何者?どうやって魔法を消したの?」
「そう焦んな。できる限り教えるから。左部弥一、風見野の住人で_____________」
自分の情報を羅列していく。魔法少女の魔法、そこからくる能力は強力だ。なるべく悪い印象は与えたくない。
もちろん、転生云々は話さない。いくらなんでも胡散臭すぎる。
「洗礼詠唱?」
「ああ。物質的な干渉は無理だが、オカルト的な存在にはよく効く。聖書の内容に基づいて、力づくに浄化するというものだ。なぜか直接触らないと使えないし、理屈もよくわからないが」
「………自分の力なのに、何もわからないの?」
「耳が痛い。だが、わからないものはわからない」
ほんと、なぜ使えるのだろうか?洗礼詠唱は魔術だ。つまりは魔術回路が必要不可欠なはずなのだ。自分は魔術回路を持っていない。もし持っていたとしても、回路を開いた覚えなんてない。これが神の祝福というものなのだろうか?神を装った悪魔でないことを願おう。………覚えてないだけで、いつの間に世界と契約したとかないよな?
「それで、質問は以上ですかな?君が知りたいと思われる情報は話したぞ。もう遅い時間だし、これ以上は明日に響くと思いますが?」
「_____________________」
どうやら、まだ居座るらしい。年齢から察するに中学生だろう。明日は平日だがいいのだろろか?
「__________あなたは、なぜ戦うの?」
「気分良く1日を終えるためだ。出来ることがあるのに何もしないのは後味悪いだろ?それだけの話だ」
確かに疑問に思うだろう。我ながらおかしな話だ。ろくな報酬も無しに命を危険に晒すなんてどうかしている。ただ、魔女をどうにかしたいと思っただけなのに。
まあ、『人知れず戦っている自分かっこいい!』という思いも多分にあるだろう。そうでもなければやっていけない。言わないけど。
「あ〜と、まだ部屋から出ていかないということは、他に用件でもあるんですかな?………というか、さっきから自分ばかり答えているんだが。自分は君の名前すら知らない。少しは手の内を見せてくれませんかね?」
「それは是非僕からもお願いしたいねぇ、暁美ほむら?」
//////////////
「……なんだ、こいつ?」
いつの間に猫……ねこ?とにかく白い小動物が窓際に居座っていた。カーテンを開けるついでに窓も少し開けていたから、そこから侵入したのだろう。
てか、本当になんだこいつ。喋るフォウ君……にしては毛並みが足りない。新たな人類悪?
「僕はキュゥべえ。杏子から聞いていないかい?」
「……ああ、君がキュゥべえか。適正のある女子にしか見えないと聞いていたが」
「見えないと意思疎通に不便だからね。チューニングしたんだ。もっとも、しなくても少しは見えたかもね」
「確かに、魔女が見えてる時点でっ………」
背後から、とんでもない圧力を感じた。
振り返れば、さっきまでのポーカーフェイスが嘘のように、怒りの感情を秘めた顔が見える。キュゥべえの言葉を信じるならば、暁美ほむらだったか。
「…………何の用かしら?」
「おいおい、どうしたんだ?親の仇を見るような顔して」
「似たようなものよ」
「えぇ………」
本当に何があったんだ?少なくとも佐倉さんは、キュゥべえに対してそこまでの悪感情は抱いていなかった。てか、親の仇に似たような存在ってなんだ?親しい誰かをキュゥべえに殺されたのだろうか。
「あ〜と、ひとまず、自分と暁美さんって子、どちらにご用ですかね?」
「暁美ほむらにも興味はあるけど、今回はもっぱら君だよ、左部弥一。とても興味深い話だった」
「つまり最初から聞いていたと。盗み聞きとは趣味悪いな」
「せっかく興味深い話を聞いているのに、途中で殺されたら聞き逃しちゃうからね」
「そこまでか……」
どうやら暁美さんとキュゥべえの仲は非常に悪いらしい。まさか殺し合いに発展しうるものだったとは。いや、この様子だと暁美さんが一方的にキュゥべえを嫌っているのか?
「って、出てきたということは、もう殺されていいということか?自分を大切にしたほうがいいと思うぞ?」
「そいつ、複数の体を持っているの。だから何度も何度も何度も殺しても、また湧いて出てくるのよ」
「やれやれ、僕をゴキブリみたいに言うのやめてくれるかな。せっかく彼も知らない、力の正体を報せようとしてるのになぁ」
「……わかるのか?」
こいつ、さっきの話だけで洗礼詠唱の理屈を?それとも、いつの間に監視を自分につけて、洗礼詠唱の観察でもしたのか?
「実証はしていないけどね。僕の予測では、君が洗礼詠唱と呼んでいる物は、多くの人の願いの集合体だ。人間一人の感情の影響は小さい。だけど、共通の願いが重なれば、それは大きな力になる。わかりやすいのは、『死にたくない』と言うものだね。この願いのおかげで、今日までこの星は魔女によって滅ぼされていないんだ」
…………抑止力か?
「ずいぶんと大層な話になったな。だが、なぜ自分がその力を使えるかという説明がないぞ?」
「極稀に、願いそのものを具現化したような思考をする人間が生まれるんだ。そのような人間は、魔法少女でなくとも、願いのエネルギーを束ねて強い力を手に入れる。過去に奇跡を行ったのが女性だけでないのは、このためだね」
つまり、あれか。自分は神話上の人や、聖書に書かれている預言者みたいなものというわけか。…………自分が?どう考えても違うと思うが。
「ねぇ………………?」
あ、暁美さんのこと忘れてた。
「話は聞いたわ。消えなさい」
どうやら暁美さんは、キュゥべえの存在を感じるだけで怒りが蓄積されるらしい。眉間のしわが深くなっているように思える。
キュゥべえは立ち去るようだ。尻尾を向けて開いている窓の隙間に向かう。
「そうそう、聖書から引用して力を振るうのはやめた方がいいよ。汲み取れる願いが限定的になって、使えるエネルギーがすぐに枯渇してしまう。杏子から聞いた話からして、もう2割ぐらいしか使えないんじゃないかな。効果もだいぶ弱くなっているだろ?」
「は?」
「聞こえなかったかしら。消えなさい」
暁美さんが睨みをきかせる。キュゥべえは振り向くのをやめると、窓から飛び降りていった。
「……で、まだ暁美さんの用件はありますかな?」
「…………………いえ、もうないわ」
邪魔をしたと言うと、暁美さんは姿を消した。やはりテレポートの類だろうか。
さて、キュゥべえの話はためになった。だが、洗礼詠唱の予想は間違っているだろう。自分は、聖人のような精神を絶対持っていない。それに、洗礼詠唱はずっと使い続けているが、効力が弱まっている様子は全くない。
「………………振り出しに戻った」
もう、寝よう。疲れたし。
遅くなりました。
質の低下が否めない。もともと高いとは言えないけど。
数千年の祈りのエネルギーがそんなすぐに枯渇するわけないと思うでしょうが、1ページにも満たない文量の詠唱に宿るエネルギーなんてたかが知れていますし、そもそもキリスト教は文章ではなく、神を礼拝する宗教です。聖書に宿るエネルギーそのものが少ない____________という設定です。Fateの魔術をキュゥべえは想定していません。
できれば評価、批評よろしくおねがいします。